Act.9-247 開幕! ULTIMATE EIGHT!! 第二回戦第一試合 scene.1
<三人称全知視点>
まさに神話の一頁と呼ぶべき激闘を四つ見た冒険者達のほとんどは「あれが伝説の冒険者や英雄達の住む世界!? 怖過ぎる!!」と怯えている。
「伝説の『流離者達の茶会』に所属していたブライトネスとフォルトナの国王陛下が敗北……そんなことってあるのね」
クレスセンシア達若い世代の冒険者にとっても『流離者達の茶会』の存在は伝説である。
王でありながら護衛の騎士達以上の力を持つ国王達――彼らの一回戦での敗退はクレスセンシア達を大いに驚かせるものとなった。
「まあ、それだけ大会のレベルが高いってことなんでしょうね。出場できるだけで名誉な大会ですから、そこに参加するのは化け物や厄災と呼ぶべき存在ばかり。『王の資質』を持つことも、その力を極限まで引き出せることも当たり前。人間、エルフ、ドワーフ、獣人族、海棲族、魔族、魔物……そういった区別は誤差にしかならない世界です。……あそこに混ざったら俺は確実に一瞬でボコボコですね。まあ、いずれはあの領域まで上り詰めたいですけど」
「力不足を理解しつつも、いずれはあの世界にまで上り詰めたい」――まさかそのように思う日が来ることになるとは、とヴァケラーは感想を口にしながら自分の感情の変化に驚いていた。
あの日、アネモネが――圓が冒険者ギルドを訪ねて来なかったらきっと一生持つことがなかったであろう「夢」。
無論、同じ時空騎士に選ばれたところで彼らの棲む世界と自分のいる世界には大きな隔たりがある。だが、いずれはあの神々の世界に挑めるようになりたいとそう願えるくらいには、憧れだけで終わってしまわないくらいには、ヴァケラーが強くなっていることをヴァケラーはその日強く実感した。
そんなヴァケラーを同じチームメイトであり、同時にライバルである冒険者チーム『三つ首の狗狼』の面々は共感を持った双眸で見つめ、まだ時空騎士になったばかりのアトラマ達やクレスセンシア達は少しだけ眩しそうに見た。
「スティーリアさんと白夜さんの戦いは本当にギリギリだったわね。『神罰の光乱』という切り札が効果的に働いたから白夜さんに軍配が傾いたようだけど、あの戦いの映像を見たらスティーリアさんは確実に確認するだろうし、あの魔法の正体にも遠くないうちに気づくんじゃないかしら?」
「レミュアさん、『神罰の光乱』の正体ってのは一体何なんだ?」
あの戦いの映像を見て自分達が気づいていない事実に気づいた様子のレミュアにディルグレンが解説を求める。
「他のみんなも気づいていないようね。確かに私が気付けたのも偶然だったわ。まあ、アネモネ閣下なら余裕で見抜いて完璧に対処をしてしまうでしょうけど。……あの戦いで白夜さんは光源を生成し、光源から放たれた光に干渉することで死角からの攻撃を行った、みんなはそういう認識よね?」
「儂にはそう見えたが……レミュア殿には違うように見えたのか?」
「えぇ、私にはあの時光源から放たれた光条は一つとしてスティーリアさんに命中していないように見えたわ。恐らく、あの光源はブラフ……本当は自分が発動した光魔法や自然に存在する光――太陽光や室内の灯り……例えば蝋燭の火の灯りなどでもいいのかもしれないわね――あらゆる光に干渉が可能なんじゃないかしら?」
「つまり、光源が無くても僅かでも光が存在すればあの魔法は発動可能ってことか。……しかし、何故そんな複雑なことを」
「ディルグレンさん、君臨する八人の戦争は一戦で完結する戦いじゃありません。次の試合以降の戦いを念頭に置いて行動している人がほとんどの筈です。……しかし、スティーリアさんも惜しかったですね。『超越する絶対零度』を使えば芯まで氷漬けにして白夜さんの動きを止められた可能性もあったのに」
「今回は『殺戮者の一太刀』で仕留めることを優先したからこういう結果になったのだろうけど、打つ手によっては戦況は全く変わったと思うわ。……圧倒的な勝利を収めたのは第三試合だけで、他の試合は展開によっては勝敗が変わっていた可能性もあった。そのディラン大臣閣下も少々手の内を明かし過ぎていたみたいだし……この後の展開がさっぱり読めないわ」
ヴァケラー達が互いに意見を述べ合い、戦いの余韻に浸っている中、マリエッタは一人頭を抱えていた。
『スターチス・レコード』には存在しなかった魔法以外の異能の数々、あの世界で魔法で引き起こすことが可能だった事象を超えた埒外の魔法。そして――。
「……『ダークマター』、何故あの魔法を?」
「どうした? マリエッタさん?」
不思議そうな顔でヴァケラーに尋ねられ、マリエッタの心臓が跳ね上がった。
「『ダークマター』は悪役令嬢ローザの魔法、それを何故あのエルフの少女と氷魔法使いの謎の美女が扱えるのか?」、そう聞きたいのは山々だった。しかし、もしそのようなことを聞けば「何故、ローザが使える魔法のことを貴女が知っているのか?」と疑問を持たれる可能性が高い。
――この世界がゲームを基にした世界であることを前世の記憶を持ってヒロインに転生した私は知っている。
――乙女ゲーム『スターチス・レコード』をプレイしていた私は闇属性魔法を使えるローザ=ラピスラズリ公爵令嬢がいずれ最悪の敵として立ちはだかることを知っている。
そんなことを言えば頭がおかしい女だと思われることになるだろう。そのような愚行をしても得られるものはほとんどない。
「『ダークマター』ねぇ……あの魔法をオリジナルで使える人は俺も二人しか知らないよ。だけど、あの魔法の派生……所謂『フェイク魔法』と呼ばれるものを使える人は案外多い。まあ、確かに強い魔法だよね」
「……その二人って?」
「一人はアネモネ閣下――黒百合聖女神聖法神聖教会の主神とされているリーリエさんに、エルフの大魔導師マリーゴールドさん、兎人族の拳士のネメシアさん、龍人の音楽家のラナンキュラスさん――五つの顔を持つ多種族同盟の中で最強の女性。そして、もう一人がローザ=ラピスラズリ公爵令嬢。それ以外の人は何故かオリジナルの『ダークマター』は使えないそうだ。その理由をもしかしてマリエッタさんは知っているのかな? いや、そんな訳ないか」
ローザだけでなくアネモネという女性まで「ダークマター」を使えると知ってますます疑問が増えていく。
ヴァケラーはアネモネとローザが同一人物だとこの段階でバレてしまうという最悪の事態だけはとりあえず回避できたことを察し、マリエッタに気づかれないようにそっと胸を撫で下ろした。
◆
君臨する八人の戦争二日目。この日も全部で四試合が行われる。
一戦目は準決勝第一試合、一回戦第一試合の勝者であるアクアと一回戦第二試合の勝者であるプリムヴェールの対決だ。
「最初に対決したのは獣王決定戦だったか? まさか、ラインヴェルド陛下を下してここまで上がってくるとは思わなかった」
「あの時は負けてしまったが、私もあれから更に強くなった。今回は勝ちを譲ってもらう!」
「俺は決勝でディランと漆黒騎士団の隊長と副隊長の転生者同士で今期の頂点を争うつもりでいる。悪いけどプリムヴェールさんの快進撃もここで終わりだ。――勝たせてもらうッ!」
白夜が圧倒的な力を有しているのはアクアも承知している筈だ。
それに、ディランが一回戦第三試合でこれまでの戦いで使わなかった新技と思われるものをいくつか披露している姿も目にしている。
それでもディランの勝利を微塵も疑わないアクアの態度に疑問を持ちつつも、まずはアクアを打ち取らなければ先へは進めないと『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』を構える。
「【天使之王】――天使化!!」
「アカウントチェンジ――翠妖精!」
プリムヴェールはここまでの戦いで全く使って来なかった翠妖精の力を解禁して妖精の羽を生やした姿へと変化する。
【天使之王】によって天使の翼を得たアクアに真っ向から空中戦を挑むつもりのようだ。
「天軍降臨――七武の天使!」
「ムーンフォースピラー! ムーンライト・スティング!!」
片手剣、盾と槍、弓、両手斧、戦鎚、鞭、杖を持った七体の天使を生み出し、それぞれの武器に触れて武装闘気を纏わせたアクアは片手剣、盾と槍、両手斧、戦鎚、鞭を持った天使達をプリムヴェールに嗾ける。
一方、プリムヴェールは弓を構えてプリムヴェールを狙っていた天使を月光の柱を顕現し、対象にダメージを与える大魔法で粉砕し、細剣に武装闘気と覇王の霸気、月属性の魔力を纏わせると斬撃を繰り出してきた片手剣の天使の攻撃を紙躱と見気の組み合わせで躱しつつ反撃の突きを心臓の位置に放って撃破し、続いて怒涛の突きを放ってきた槍使いの天使を槍を躱しつつすれ違い様に同時に五箇所に攻撃をされているように錯覚するほど高速で三日月状に五連突きを放つ「クレセント・インペール」を放って粉砕、両手斧と戦鎚を同時に振り下ろしてきた二体の天使を月の魔力を圧縮し、武器先などから螺旋状の奔流として解き放つ「ルナティック・バーストストリーム」を放って両手斧と戦鎚が当たる前に二体の天使を撃破し、最後に仕掛けてきた鞭を持った天使の複雑な鞭捌きを全て見切って躱しつつ同時に三箇所に攻撃をされているように錯覚するほど高速で唐竹、逆風、突きの三連撃を放つ「ルナティック・キャリバー」を放って撃破する。
「守護天使! 慈愛の献身!!」
残る天使が一体となったタイミングでアクアが発動したのは、「元のVITを30,000になるまで上昇させ、更にそのVITの合計値を三倍する」という効果を持つ【守護天使】と「最初にHPを半分支払うことで光の領域内の仲間に対するダメージを全て肩代わりすると同時に毎ターンHPを小回復する」という効果を持つ【慈愛の献身】だった。
しかし、このスキルを発動するならタイミングがあまりにも遅過ぎる。
既にアクア側は片手剣、盾と槍、弓、両手斧、戦鎚、鞭を失い、残る天使は光魔法攻撃と光魔法による回復が行える杖の天使のみ。確かにこの天使の力も強力ではあるが、七体もいた天使が一体になってからスキルを使っても得られる恩恵はあまりにも少ない。
「……つまり何か別の狙いがあるのか?」
プリムヴェールが睨んだ通り、アクアが一見ミスプレイにも思える一手を打ったのには理由があった。
アクアは【守護天使】と【慈愛の献身】に自身の魂魄の霸気《昇華》を掛けていた。それによって二つのスキルの効果が強化され、【守護天使】は「元のVITを90,000になるまで上昇させ、更にそのVITの合計値を九倍する」という意味不明な強度を使用者に与えるスキルに、そして【慈愛の献身】は「最初にHPを一残して全て支払うことで光の領域内の仲間に対するダメージを全て無効化すると同時に光の領域内にいる自分以外の味方のHPを毎ターン小回復する」という更にハイリスクハイリターンなスキルに変貌を遂げたのである。
スキルを魂魄の霸気で強化することができるのだろうか? という小さな疑問からスタートした実験だったが、【守護天使】の更なる純粋な強化と【慈愛の献身】の自分が死なない限り永続する不死性の獲得は予想以上の収穫となった。
とはいえ、強化版の【慈愛の献身】には大き過ぎる欠陥もある。
消費したHPの回復方法がスキルの内部から消滅した点(杖の天使の回復や他の天使系スキルに頼れば回復自体は一応可能である)、そして、一撃でも攻撃を浴びれば死んでしまう状況に身を置くことになる点――いくら『生命の輝石』がある限り復活できるとはいえ、自らを瀕死状態に追い込んでしまうとなれば例え味方に永続する不死性を付与できるとしてもリスクとリターンが釣り合わない。
ここで強化版スキルを封印するという手もあったが、アクアはこの窮地に身を置く状況すらも利用することができるのではないかと考え、圓に相談した。そこで圓から提案されたのがHPの残量に合わせて威力が変化するスキル【起死回生】である。
最大値であれば威力は僅かにしか上昇しないが、HPが半分の段階で威力が二倍、四分の一の段階で威力が四倍とスキルを使った状態での攻撃の威力が上昇する。
この【起死回生】がぶっ壊れとされる理由はその最大威力が千二十四倍という異常値に設定されていることである。半分以上はほんの僅かの上昇(数値によって変動)、半分で二倍、四分の一で四倍、八分の一で八倍、十六分の一で十六倍と強化されていくが、残りHPが一の場合ダメージ計算が特殊でこの千二十四倍という意味不明な数値となる。
HPを一だけ残した場合、毒などのダメージで死亡する可能性もあるが、その危険性と天秤に掛けてもロマン砲としての魅力が【起死回生】にはある。【起死回生】が比較的簡単に会得できるスキルであったこともあって、『World Sphere on-line』の世界では一時期この【起死回生】と一度だけHPを一だけ残して耐える【踏ん張る】を組み合わせた「踏み起死」と呼ばれるコンボが流行ったこともあった。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




