Act.9-241 旧ノスフェラトゥ王国の吸血鬼至上主義の吸血鬼達 scene.3
<一人称視点・リーリエ>
「やぁ、目が覚めたようだねぇ」
手と足を拡流石製の枷で拘束されたヴァルターは咄嗟に血液を操って血の剣を創り出そうとしたようだけど、血液を操作する吸血鬼に内在する特殊な力が拡流石によって霧散した。
まあ、仮に剣を作れても拡流石製の枷は壊せないけどねぇ。
「あれだけ大口叩いて負けた感想は?」
「我ら高貴な吸血鬼にこのような仕打ちをしたことをいずれ後悔することになるぞ!!」
「うーん、じゃあ酷い目に遭う前にセルーシャさん以外の吸血鬼を皆殺しにしちゃおっか?」
裏武装闘気の剣を創り出してヴァルターの首に当てると、ヴァルターは急に青褪めて命乞い? を始めた。
「貴様、同族である吸血鬼を皆殺しにするというのか!?」
「ん? 皆殺し? セルーシャさんは殺さないから皆殺しじゃないけどねぇ。それと、ボクが同族かっていうと結構怪しいものなんたよ。一応、この最もしっくりくる姿は吸血姫ということになるけど、全く別の出自の種なんだ。それと、ボクは神祖の吸血姫だからねぇ。君達の姫様――イレィティア・ギシュトール・ウィパスリティア・ノスフェラトゥよりも吸血鬼の格としては上だよ」
途端、平伏するヴァルターの頭をヒールで踏みつける。……ああ、本当に腹立つことしかしないよねぇ!!
「君達のそういうところが神経を逆撫でるんだよ!! 正当な血筋だから! 始祖だから、真祖だから、神祖だから!! 君達はそういう格だけしか、表面だけしか見ちゃいない! ヴァルター・カガルフォルド・ゼペッシュ、君はノスフェラトゥ王国の近衛騎士団騎士団長だろ! 本来ならば真っ先にイレィティアサンを守るために命を張るべき存在だ。それがなんでおめおめと生きている! その場で死ぬべきだったとまでは言わないよ。だけど、セルーシャさんが最後までイレィティアさんを守ろうという意志を捨てなかったのに対し、君達は敵前から逃げた。君達はねぇ、高貴な種族だという立場を振り翳したいだけなんだ。自分からシャマシュに挑もうなんて思わない。だから、ボクという野良の吸血鬼とシャマシュをぶつけるという愚かな選択肢を選んだ。国が崩壊寸前なのにくだらない矜持のために吸血鬼を滅びの道に進ませようとした。君達が売国奴と蔑んだセルーシャさんだけだよ、吸血鬼の行く末を心の底から案じていたのは」
まあ、ここまで言ってもこいつは理解しないだろうけどねぇ。
ヴァルターを蹴り飛ばして壁まで吹き飛ばしてから、もっと建設的な話を進めていくことにした。
「アスカリッドさん、セルーシャさん。残念だけど彼ら吸血鬼がオルゴーゥン魔族王国の傘下に留まることは不可能なんじゃないかな? この阿呆共は残念ながら吸血鬼は神の如き種族、特別な存在であるという実にくだらない幻想を捨てられないようだからねぇ。……旧ノスフェラトゥ王国はオルゴーゥン魔族王国の庇護から外れるべきだ」
「――ッ! リーリエ様、それは我らに死ねというのですか!?」
「誰がリーリエ様だよ。そういう調子の良いところが虫唾が走るんだよ。本当はシャマシュに挑んで一同玉砕してこい! って言いたいところだけど、イレィティアさんが戻ってくる居場所が無くなるのはあってはならない事態だからねぇ」
「ということは、イレィティア様の奪還にご協力してくれるということなのですね!?」
「ボクもシャマシュには借りがある。アイツには奪われたものが沢山あるからねぇ。だけど、今すぐって訳にはいかない。物事には段取りってものがある」
「タイムパラドックスによる世界線分岐への懸念じゃな?」
「……せかいせん? 分岐?」
「まあ、こっちの話だよ。その辺りは後で話すから。……さて、これはあくまで提案で最終決定は魔王のアスカリッドさんとノスフェラトゥ王国の女王代理であるセルーシャさんが相談するべきことだけど、ペドレリーア大陸に行く途中で良さげな島を見つけてねぇ。ここを改良すれば小国一つくらいなら作れそうなんだ。その地をセルーシャさん達に与えて新国家をその場で築いてもらおうって考えている。セルーシャさんには女王代理としてとりあえずイレィティアさんが戻ってくるまでは国を治めてもらう。勿論、君達がその治世にケチを付けることも含め、勝手な行動をした場合は今度こそセルーシャさん以外の吸血鬼を皆殺しにする。分かったねぇ?」
とりあえず、邪魔なヴァルターには礼拝堂に移動してもらい、その後アスカリッドとセルーシャの交渉が行われた。
「我は吸血鬼族が魔王軍の麾下から外れることを不利益だとは思っておらぬ。そもそも連中は非協力的で先代魔王の父上を相当手を焼いておった。オルゴーゥン魔族王国の内部にノスフェラトゥ王国を再建するというのであれば不満も出るだろうが、土地は圓殿が出してくれるというのであれば不満も出ないだろう」
「本当に魔族の皆様とリーリエ様、教会の皆様にはご迷惑おかけしました。私もこれ以上ご迷惑を掛ける訳にはいかないと思っていたところですし、魔王軍の傘下から抜けてイレィティア様が戻ってくるまで国を守らせて頂こうと思います」
「とりあえず、話は纏ったみたいだねぇ。ってことで、近いうちに国の受け皿になる島の制作に着手するよ。ああ、それと新国家の多種族同盟入りについてはどうする?」
「一応、庇護下には入っておきたいと思いますが、私は女王代理ですからイレィティア様が戻ってきた時に改めて多種族同盟に留まるか離脱するかの選択権を与えて頂くことは可能でしょうか?」
「そういうと思ったよ。じゃあ、その旨を多種族同盟の内部で共有しておく。とりあえずは所属ってことだねぇ」
「はい、これからよろしくお願いします」
その後、アスカリッド達はイレィティアと共に今回纏まった吸血鬼族の魔王軍離脱にして正式な手続きを行うためにオルゴーゥン魔族王国に戻った。
ヴァルター達吸血鬼は国が完成するまで天上の黒百合聖女神聖法神聖教会の総本山で保護することになる。ちなみに、彼らが牙を剥けば問答無用で光系統魔法を使って応戦する許可を出しているので彼らが暴れることはもうないだろう。
そして、ボクは王女宮……には戻らす、ソフィスとジョナサンと共に目星をつけておいた無人島に向かった。
ジョナサンは不完全燃焼でボクに勝負を挑んできたけど、ソフィスがボクの手を煩わせる訳にはいかないとジョナサンの相手を引き受け、それでもジョナサンが納得しなかったので【万物創造】と地形を変えてしまうほどの大規模魔法(古代竜の力)で島の改造を進めながらソフィスと交代でジョナサンの相手を務めた。
……うん、ジョナサンが付いてきた時点で何となくこうなるんじゃないかと思っていたよ。
◆
<三人称全知視点>
父オートリアスが男爵位を叙爵され、晴れて男爵令嬢となったマリエッタだが、その生活は楽しいことばかりでは無かった。
立派な男爵令嬢になるための礼儀作法などの勉強の日々が続く。その詰め込み学習の生活は前世では学ぶことが好きだったマリエッタにとっても息苦しいものであり、数日に一回は気分転換も兼ねて冒険者ギルドに顔を出していた。
その日もマリエッタはブライトネス王国の王都の冒険者ギルドを訪れていたのだが、どうも様子がおかしい。
冒険者達は依頼をこなす様子もなく思い思いにギルドの酒場の椅子に座って飲食をしながら異世界にはあまりにも不似合いなスクリーンを眺めている。
受付嬢達はいつも通り仕事をしている……が、冒険者達と同じようにチラチラとスクリーンにも視線を向けており、ギルドにいるメンバーの大半がそのスクリーンに映し出された何かに注目しているようだった。
「こんにちは」
「マリエッタさん、久しぶりだね」
「ヴァケラーさん、今日はどうしたのですか?」
マリエッタは初めて王都の冒険者ギルドを訪れて以来ヴァケラー達王都を拠点とする冒険者達と交流を持っている。
ヴァケラー達の方は最重要観察対象であるマリエッタに全く心を許してはいないが、それを悟らせないような対応をしており、表面上は友好な関係を築いている。
「ああ、そういやマリエッタさんはこの所ギルドに来ていなかったっけ? 男爵令嬢の勉強で忙しいから当然か。マリエッタさんは時空騎士って知っているかな?」
「はい、アルベルト様が所属している軍隊? ですよね?」
「うーん、軍隊という表現が正しいかどうかは微妙だけど多種族同盟と呼ばれる国際組織の有する戦力みたいなものでは確かにあるね。所属する者には例外なく時空魔法を使うためのデバイスが与えられる。所属する人は全員戦闘のエキスパートというべき存在で、時空騎士になることで使用が解禁される時空魔法がなくとも圧倒的な力を有する者が多い。まあ、俺もその一人ではあるんだけどね。その時空騎士の内部でも明確な実力の差が存在する。上位の者同士が戦えば、それはもう戦争と呼ぶ以外に表現のしようがない規模となる。今日から四日間、休みを挟みつつ行われるのは時空騎士の中でも選ばれし八人の上位者達による戦争―― 君臨する八人の戦争だ。今期の時空騎士の一位から八位までを決める時空騎士にとっては夢の舞台だよ。どうやら、アネモネ閣下が冒険者ギルドに大会の映像の各ギルドで放送するように依頼したようで、ここと同じように各地の冒険者ギルドでも大会の映像がリアルタイムで放送されている。アネモネ閣下はこの大会の映像を見て時空騎士に興味を持ち、時空騎士に挑む者が増えることを願っているようだけど……ちょっと逆効果になりそうな予感がしてならないな」
「もしかして、アルベルト様も参加されるのですか?」
「ヴァルムト宮中伯子息か……彼が今どの爵位にいるかは分からないけど、まあ確実に今回の大会には出場しないと思うよ」
「近衛のホープと呼ばれるアルベルト様が何故出場できないのかしら? あのアルベルト様はブライトネス王国の中でもかなりの強さの筈だし、世界的に見ても相当な猛者の筈なのだけど」などとマリエッタが考えている間にヴァケラーは自分の座っていた席を明け渡し、足りなくなった椅子を取りにギルドの中へと入っていった。
マリエッタが座ったのはアトラマ率いる『烈風の旅人』とクレスセンシア率いる『紅の華』――ブライトネス王国王都の冒険者ギルドを牽引する二つのクランの丁度間だった。
百合っ気のあるクレスセンシアは美少女が近くに座ったことに歓喜し、情報通のヴァケラーの解説を楽しみにしていたアトラマ達は少しがっかりした表情を見せる。
ヴァケラーが戻ってきたタイミングで大会の開始を告げる喇叭の音が鳴り響く。
そして、幕を開けた君臨する八人の戦争の四日間はマリエッタの持つゲームの知識を悉く打ち砕くことになる。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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