Act.9-239 旧ノスフェラトゥ王国の吸血鬼至上主義の吸血鬼達 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
『クラブ・アスセーナ』のプレオープン二日目と『クラブ・アスセーナ』のプレオープン三日目もそれぞれ大盛況のまま幕を閉じた。
二日目はルクシアとフレイを招き、あまりの美味しさに感動したというフレイが涙を流していたのが印象的だったねぇ。
三日目はノクト、ニーフェ、アルマ、レイン、クレマンス、エルメンヒルデ、エーデリア、ファレル、ペチュニア、ペチカ、アーヴァゼス、ジュードマン、メルトラン、ディマリア、ジェイコブ、ジミニー、アルバート、シュトルメルトとなかなか大所帯で、ノクト、ニーフェ、アルマ、レイン、クレマンス、エルメンヒルデ、エーデリア、ファレル、ペチュニアの使用人グループと、ペチカ、アーヴァゼス、ジュードマン、メルトラン、ディマリア、ジェイコブ、ジミニー、アルバート、シュトルメルトの料理人+αの二つのグループに分けることになった。
オフということで立場を超えて談笑しながら料理に舌鼓を打つノクト達と侃侃諤諤の議論を重ねながら食事を取るペチカ達の温度差が凄まじかったねぇ。
ちなみに、今回、ファレル外宮筆頭侍女を招待するにあたりボクの前世に関することやこの世界の真実に関して情報を開示している。色々なことが腑に落ちた一方、やっぱり驚きの方が強かったようで終始驚きっぱなしだったねぇ。
園遊会周辺で大きく溝ができてしまったファレルとの関係も今回の食事会で埋めることができた。……借りはしっかり園遊会前の侍女会議で返すことができたし、今後は同僚として良い関係を作っていきたいねぇ。
◆
『クラブ・アスセーナ』のプレオープン最終日から四日が経った。
臨時班の再始動は四月からで、君臨する八人の戦争が行われるのは三月後半、二十一日から。
八大タイトル戦は、四月からトーナメントを行う予定の剣座戦がいよいよ始まり、剣鬼戦、勇剣戦、剣将戦、叡剣戦、黎剣戦、剣帝戦、剣聖戦と順に行われていくことになるけど、八大タイトル戦に関する仕事は全てバトル・アイランド運営組織の下部組織に位置付けられる八大タイトル戦実行委員会を組織して丸投げしているからタイトル戦開始前の忙しい時期にも特にボクのやることはない。
つまり、一月、二月、三月の二週目までと暇な時期が続くんだよねぇ。
この時期は王宮でも行事ごとはなく、通常業務期間が続く。しばらく忙しかったし、ここで三月最終週の君臨する八人の戦争と四月からの臨時班再始動に向けた充電期間にしようと思っていたんだけど……。
「ローザ様、アスカリッド様がお見えです。お通ししても良いでしょうか?」
「ソフィスさん、ご報告ありがとうございます。どうぞ中に通してください」
王女宮にボク目当ての来客が来る場合は高確率で何かしらのトラブルが発生した時だ。
アスカリッドが訪ねてくる場合についてはほぼ百パーセントと言っても過言じゃないかな?
今日は婚約者のエリーザベトの姿はなく、アスカリッドのみの来客だった。
ソファーに座るように促してから紅茶を淹れ、来客用にストックしてあるケーキの一つを冷蔵庫から取り出して紅茶と共にテーブルにサーブする。
「突然訪ねてきてすまなかった。もてなし感謝する。……我も今朝知ったのだが、厄介ごとに繋がりかねないと判断して早急に伝えねばと思ったのじゃ。オルゴーゥン魔族王国にいる魔王軍本隊から上がってきた情報だが、かつてオルゴーゥン魔族王国と敵対関係にあった吸血鬼の王国の勢力が不審な動きをしているらしい」
「確かノスフェラトゥ王国だったねぇ。……えっと、正体不明の襲撃者によって姫を奪われ、国が半壊し、生き残った吸血鬼達の多くはオルゴーゥン魔族王国に鞍替えし、他の魔族との友好関係を結ぶに至ったんだっけ?」
「奴らは吸血鬼を魔族の中でも特別な存在、選民意識を持っている。ノスフェラトゥ王国が事実上滅亡し、オルゴーゥン魔族王国の傘下に加わった今もその意識は根本的には変わっておらぬ」
アスカリッドによれば、先祖返りで始祖を上回る真祖の力を有していたノスフェラトゥ王国の王女イレィティア・ギシュトール・ウィパスリティア・ノスフェラトゥを狙ったシャマシュが引き起こしたホワイトディザスター事件でイレィティアを守るべくシャマシュに立ち向かったワールスター・ガルヴォルト・ウィパスリティア・ノスフェラトゥ国王とエキュール・ワルフィフィトト・ウィパスリティア・ノスフェラトゥ王妃は死亡し、ノスフェラトゥ王家は滅亡した。
ノスフェラトゥ王家の滅亡で国のトップを失い、吸血鬼達は烏合の衆と成り果てるのかと思いきや、こういった事態に備えてノスフェラトゥ王家から分岐する形で興された影の王家と呼ばれるヴァンピール大公家(対外的にはヴァンピール伯爵家だったそうだけど)が速やかに行動を起こし、襲撃当時はイレィティアの王女付き侍女兼暗部総帥だったセルーシャ・ジフォード・アルトミア、本名セルーシャ・ネフェルティ・アトレ・ヴァンピールが王家の役割を引き継いだ。
このセルーシャがヴァンピール大公家の当主に就任するまでの間にヴァンピール大公家の内部で何が起こったかは流石のアスカリッドも知らないようだけど、ヴァンピール大公家内で主導権争いが行われたのは間違いない。
しかし、セルーシャが権力を握ってからは一気に状況が変わった。
吸血鬼という種族は吸血鬼至上主義で血統至上主義者……つまり、選民意識を持っているのがデフォルトである。彼らの中には吸血鬼族を「神の種族」と呼ぶ者達も多いらしい。
しかし、セルーシャはその中でも珍しく選民意識をほとんど持っていなかった。
現実主義者だったセルーシャは吸血鬼は「孤高の種族、他の種族の力を借りるなど言語道断」という考えを貫ければノスフェラトゥ王国は滅ぶと判断し、吸血鬼以外の種族……つまり魔族の力を借りるべきだと判断した。
まあ、戦争を経て疲弊したノスフェラトゥ王国単体の国力では、かつてのノスフェラトゥ王国の再建は不可能と判断したのは正しい。アスカリッド経由で得た情報によれば、ホワイトディザスター事件はノスフェラトゥ王国の各地で甚大な被害を出した。王族だけが全滅した……っていうのもまあ、甚大な被害と言えば甚大ではあるんだけど、復興もままならないほどの被害をノスフェラトゥ王国は被ってしまったそう。
セルーシャが動かざるを得なかったのも、そういった現実を直視せず、謎の自信で誰の力を借りずとも吸血鬼の国は復興すると頑なに信じる者達が大勢いたからなんじゃないかな?
セルーシャは当時の魔王オルレオス・ゼルフェイ・オルゴーゥンに謁見し、いくつかの条件を呑んでもらうことを条件にノスフェラトゥ王国のオルゴーゥン魔族王国の傘下入りを提案、その提案をオルレオスが呑んだことによりノスフェラトゥ王国は長い歴史の幕を遂に閉じることとなった。
その条件とは、吸血鬼の保護、旧ノスフェラトゥ王国の復興の協力、そしてシャマシュ討伐への協力。
吸血鬼達にとっては屈辱的なノスフェラトゥ王国のオルゴーゥン魔族王国の傘下入りを発案し、売国奴と陰で叩かれている(表立って叩けないのはセルーシャがノスフェラトゥ王家の血を引く正当な後継者だからだねぇ。血統至上主義故に吸血鬼達はセルーシャに謀反を起こして首を挿げ替えることもできない。セルーシャが吸血鬼達のほとんどから恨まれながらも暗殺事件の一つも起きていないのは、この血統至上主義のおかげっていうなかなか皮肉な理由があるんだ)セルーシャだけど、彼女もまたホワイトディザスター事件において苦痛と屈辱を味わった一人だった。
イレィティアの専属侍女として側に居たセルーシャとイレィティアの関係はとても良好だったという。セルーシャは頑なに侍女の立場を貫こうとしていたようだけど、イレィティアはセルーシャのことを姉のように慕っていたそうだ。
あの事件が起きた日もセルーシャはイレィティアの側に居た。
シャマシュの毒牙に掛かるイレィティア、イレィティアを救うべく命を賭したワールスターとエキュール。
セルーシャはその姿を見ていることしかできなかった。王家が滅び、ノスフェラトゥ王家が滅亡すればヴァンピール大公家が王家を継ぐことになる。そのような状況でセルーシャが命を落として良い訳がない。
セルーシャは暗部の長でありながら、イレィティアの専属侍女でありながらイレィティアのために戦うことすら許されなかった。その時の後悔が彼女を突き動かしているんだろう。
イレィティアはいつか必ず取り戻す。そして、彼女と共に国に戻ってきた時にイレィティアの居場所であるノスフェラトゥ王国が滅んではならない。セルーシャはそのためだけに孤軍奮闘している……それに吸血鬼達は気づいていないみたいだねぇ。
「情報源はセルーシャじゃ。血統至上主義の奴等ではセルーシャの暗殺などということはできぬし、他のヴァンピール大公家の人間を担ぎ上げようにも彼らは全員セルーシャにボコボコにされた身じゃ。国のトップを動かすことは不可能……ならば、他の方法でノスフェラトゥ魔族王国を再興するしかない。一番簡単なのはイレィティア王女の奪還じゃな。正当後継者であるイレィティアが戻ればセルーシャも失脚せざるを得ない。後はオルゴーゥン魔族王国の武力による制圧、自治権を認めさせて国を取り戻すか乗っ取りを起こすか、いずれかは分からぬがそんなことをすれば魔族全体を敵に回す。やるとしても戦力が足りぬじゃろう。彼らは恐らく戦力を求めている筈じゃ」
「そこで目をつけたのがリーリエってことだねぇ。ついさっき連絡があったよ? 『同じ吸血鬼であるなら軍門に降るのは至極当然!』ってクレセントムーン聖皇国に殴り込みがあったって白夜からメールが」
「……手遅れじゃったか。しかも……クレセントムーン聖皇国」
一気に血の気が引いて真っ青になったアスカリッドにボクも同情するよ。
今回の件は吸血鬼だけに留まらずオルゴーゥン魔族王国本国にまで飛び火する可能性もある。しかも、今回は相手が悪過ぎる。リーリエを神聖視する旧天上の薔薇聖女神教団派閥を有する天上の黒百合聖女神聖法神聖教会に、慈悲のない凄惨な殺しにも抵抗のない白夜……まあ、一応ボクの判断を仰いできた状況だったから死者は出ていないと思うけど、厄介な状況になっているのには違いないだろうねぇ。……はぁ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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