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百合好き悪役令嬢の異世界激闘記 〜前世で作った乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢が前世の因縁と今世の仲間達に振り回されながら世界の命運を懸けた戦いに巻き込まれるって一体どういうことなんだろうねぇ?〜  作者: 逢魔時 夕
Chapter 9. ブライトネス王立学園教授ローザ=ラピスラズリの過酷な日常と加速する世界情勢の章〜魔法の国事変、ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸を蝕む蛇、乙女ゲームの終焉〜

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Act.9-238 第四王子ヴァンと婚約者スカーレットのデート〜完全予約制クラブ『クラブ・アスセーナ』のプレオープン〜 scene.2

<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>


 ヴァンとスカーレットを席に案内し、メニューを手渡す。

 まあ、メニューといってもコース以外の選択肢はなく、追加の料理を注文するか否か、飲み物をどうするかの二点をメニュー表を見ながら検討するだけなんだけど。


 大人であればほとんどがワインを中心とした酒類を選択(やっぱりコース料理の内容的にワインが断トツでビールや日本酒、カクテル系などが頼まれる可能性はかなり低いとは考えている)、コーヒー類はコース内容に含まれているから後注文されるとしたら紅茶くらいかな? とは思うけど、子供の場合はお酒が飲めないからねぇ。

 その対処と酒類を飲めない大人のためにジュース、炭酸飲料、お茶類などの飲み物も一通りは用意している。


「ワインに近い飲み物と考えると葡萄ジュースがオススメですが、何を合わせるかは完全に好みですからねぇ。ちなみに、ボクはあんまり食事中にジュース系は飲みたくないタイプなので、ボクが食べる側であれば緑茶、焙じ茶、玄米茶、ジャスミンティー、紅茶などのお茶類を注文します」


「……ここに書いてある飲み物は何でも用意できるということなのか?」


「書いてないもののできる限りご用意させて頂きたいと思っています。メニューに書いてあるものはあくまで一部ですからねぇ。追加の料理についても同様です。ちなみに、どれだけご注文頂いても追加の料金は一切頂かない方針を取っています。正規の方法で『クラブ・アスセーナ』を訪れるためには高いハードルを越える必要がありますから、ボクも満足頂けるように最高のおもてなしをさせて頂きたいと思っています」


「……なんだか申し訳ない気持ちになってしまいますわね。本来なら並々ならぬ努力をしてようやくこの席につくことができるのに、何も努力せずに最高のコース料理を食べてしまって本当に良いのかしら?」


「スカーレット様もヴァン殿下も努力をなさっていることは承知していますし、なかなかデートができないお二人へのボクからの細やかなプレゼントだと思ってください」


 二人とも遠慮しなくていいんじゃないかな? って思ったけど、ヴァンとスカーレットは追加注文をせず、飲み物はヴァンが葡萄ジュースを、スカーレットが紅茶をそれぞれ注文した。


「それでは、コース料理を順番に配膳させて頂きますねぇ」


 メニューを片付けて厨房に戻る。さあ、『クラブ・アスセーナ』のプレオープンの始まりだ。



<三人称全知視点>


 ローザがまずヴァンとスカーレットの待つ机に配膳したのは食前酒の代わりの葡萄ジュースと紅茶、湯気の立つ見慣れないコップとこちらも見たことのない料理が小さな皿に三つ装われた品だった。


「ローザ様、これは前菜(オードブル)ではありませんよね? 一体何なのかしら?」


突き出し(アミューズ・ブーシュ)と呼ばれるメニューには載せられていない品だな。『Rinnaroze』のコース料理を食べた次兄上がメニューには載っていないパルミジャーノ・レッジャーノを使ったパンナコッタを最初に召し上がったと仰っていた」


前菜(オードブル)とは、フルコースでスープの前に出される最初の料理を意味します。直訳すると『番外の作品』となりますねぇ。国によって扱いが微妙に異なりますが、初期の仏蘭西連邦においてはお通しや突き出しなどと呼ばれるもの……つまり、突き出し(アミューズ・ブーシュ)に近いものとして、米加合衆連邦共和国においては客の到着から食事の準備までが長時間に時間繋ぎとして出される品として扱われていました。総合するとスープ以降のコース料理までの繋ぎとしての役割を持つ品ですが、時が経つにつれてそれが形骸化してコースの一部となりました。突き出し(アミューズ・ブーシュ)はその後に生まれた概念で、メニューには載っていない単品の前菜(オードブル)と捉えて頂けると良いかもしれません。他に違いがあるとすれば、店によってはいくつかの前菜(オードブル)から食べたい品を選ぶことができますが、突き出し(アミューズ・ブーシュ)は完全にシェフの善意ですから品が選べないという点でしょうか? ちなみに、これは突き出し(アミューズ・ブーシュ)ではなく小品(アヴァン・アミューズ)と呼ばれるものですねぇ。突き出し(アミューズ・ブーシュ)の前に出されるもう一品で、小品(アヴァン・アミューズ)突き出し(アミューズ・ブーシュ)の二品を出している場合もあります。突き出し(アミューズ・ブーシュ)は後ほどお持ち致しますので、まずはこちらをご堪能くださいませ。料理名は『三種の小寿司』、ボクの前世の出身国を代表する料理でお寿司と呼ばれるものになります」


「あまり馴染みのない料理だな。……父上が王都に一軒だけそういった料理を出す店があるといっていた。生の魚を酢の飯と合わせた少し変わった料理だったか?」


「……お魚を生で食べるのですか」


「この世界だと生食はあまり馴染みのない食べ方で抵抗があると思いましたので、いずれの品も江戸前風という方法でご用意致しました。左から鯖の炙り、芝海老のオボロを含んだ出汁味の厚焼き卵、小鰭の酢締めとなります。芝海老のオボロを含んだ出汁味の厚焼き卵は、ボクの愛する人、常夜月紫さんの好物の一つです。このお店はいずれ再会する月紫さんに最高の料理を食べてもらうために練習を重ねる場としてオープンしましたから、月紫さんの好物も取り入れた内容となっています」


「愛する人に美味しいものを食べて頂きたい、その気持ち私も良く分かりますわ」


「それでは、ボクは次の料理の配膳のために戻りますねぇ」


 ヴァンとスカーレットはまず小鰭の酢締めに手や箸で食べるのはやはり抵抗があるだろうとローザが置いていったフォークを伸ばした。

 炙った鯖よりも酢締めの方に抵抗を感じていたスカーレットだが、一つの品に込められた繊細な仕事と口の中で弾ける爆発的な旨味に圧倒され、言葉を失った。


 そこから鯖の炙りと厚焼き卵にフォークが伸びるまで僅かな時間も掛からなかった。


「お、美味しいですわ! こんなにも美味しい料理、今まで食べたことがありませんわ!!」


「アストラプスィテ大公領で食べた品も流石と言わざるを得ないものだったが、まさかこれほどとは……これでなお発展途上だというのか!?」


「ヴァン殿下、スカーレット様、驚くのはまだまだ早いですよ。突き出し(アミューズ・ブーシュ)の『蟹と魚介のリエット』をお持ち致しました、どうぞお召し上がりくださいませ」



 小品(アヴァン・アミューズ)の「三種の小寿司」、突き出し(アミューズ・ブーシュ)の「蟹と魚介のリエット」、食前酒(アペリティフ)に始まり、前菜(オードブル)の「玉ねぎのムース」、「トマトとバジルのブルスケッタ」、「旬の野菜と茸の低温蒸し」、スープの「林檎とチーズのなんちゃってヴィシソワーズ風スープ」、魚料理(ポワソン)の「舌平目のムニエル〜フライドポテトを添えて〜」、口直し(ソルベ)の「オレンジとハニーレモンのシャーベット」、肉料理(アントレ)の「フランボワーズと赤ワインソースの鹿肉ステーキ」、生野菜(サラダ)として「生野菜とシーフードのサラダ」、チーズとして「七種のチーズ」、冷たい甘いお菓子(アントルメ)の「三種の小さな大倭風ショートケーキ」と温かい甘いお菓子(アントルメ)の「ホットバナナプディング」、フルーツとして「季節のフルーツの盛り合わせ」、そして締めにコーヒーと小菓子(カフェ・ブティフール)としてフランボワーズ、チョコレート、アールグレイの三種のフレーバーのマカロンと一連のコース料理が運ばれてくる。


 そのあらゆる品がヴァンとスカーレットを大いに驚かせ、二人の会話を弾ませた。

 同じ皿を共に食べ、感想を共有する。その時間は二人にとって掛けがえのないものになったのだろう。ヴァンとスカーレットにとって、この日のデートは忘れられない一日になった筈だ。


 冷製スープであるヴィシソワーズをベースにしながらあえて温かいスープとして提供された「林檎とチーズのなんちゃってヴィシソワーズ風スープ」などヴァン達を驚かせた品はいくつもあったが、その中でも別格だったのは肉料理(アントレ)の「フランボワーズと赤ワインソースの鹿肉ステーキ」である。


 鹿肉を好物とする月紫に捧げる百合薗圓のスペシャリテの一つであり、これだけのコースの中心に相応しいメインの品――最大火力のジビエ料理。

 完璧な処理を施し、柔らかく匂いが穏やかという特性を引き出した鹿肉とフランボワーズと赤ワインを使った濃厚ソースが互いに互いを引き立て合う至極の一品はヴァンとスカーレットを大いに唸らせた。


「……今回だけしか食べられないのが本当に残念でなりませんわ」


 最後のフランボワーズのマカロンを食べ終えたスカーレットが残念そうに空いた皿に視線を落とす。

 王女宮の侍女であるスカーレットが圓の手料理を食べる機会は意外に多い。といっても、ケーキやチョコレートをほんの僅かに食べられるという程度だが、他の者達に比べれば機会が多いと言っても差し支えないレベルだろう。


 しかし、圓の――ローザの全力のコース料理となればまた別である。


「……あまり戦いは得意ではないのだが、これほどのコース料理が食べられる可能性があるのならバトル・アイランドに通うのも良いかもしれないな」


「あまり無理はなさらない方が良いと思いますが。……お二人とも楽しんで頂けたようで何よりです。そうですねぇ……ラインヴェルド陛下あたりに頑張って頂ければ王族とその婚約者全員をご招待して、ということもできるかもしれません。ただ、一部の方は魔法学園の一件が片付いてからとなりますので……まあ、その時になったらボクの方からご招待しますよ。回数を分ける形にはなりますが、お疲れ様会もしたいですからねぇ」


「では、その時を楽しみに……いや、それでも一度きりか。やはり、叔父上に剣を教えてもらえるように頼むとしよう。今度は俺自身の力でスカーレットにこのコース料理を食べさせてあげたいからな」


「ヴァン様……」


「本当に二人とも仲が良いねぇ。ヴァン殿下、スカーレット様、今後も仲良く愛を深めていってくださいねぇ」


「勿論そのつもりだ」


 その後ヴァンとスカーレットをそれぞれ王子宮と使用人寮に送り届け、『クラブ・アスセーナ』のプレオープン初日はこうして恙無く幕を閉じたのだった。

 お読みくださり、ありがとうございます。

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 それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。


※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。

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