Act.9-234 【同盟大公】防衛戦〜ラインヴェルドvs琉璃〜 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
戦闘終了後、ボクは琉璃と共にバトル・シャトーの最下層にある会議室に向かった。
この会議室があるのは地下の区画の中でもバトル・アイランドの運営側のみが入ることができる場所……つまり、ここに通された時点で施設長になる資格ありと判断されたことになる。……まあ、ここで拒否の選択肢を選ぶのもありなんだけどねぇ。
「さて、琉璃。君は施設長になる資格ありと試験で判定された」
『……敗北しても試験に合格したことになるのですか?』
「あの試験は勝利が条件じゃないからねぇ。施設長全員から金シンボルを獲得している時点で実力は示されているんだけど、念のために施設長選定戦を行ってそこで実戦力を見させてもらい最終判断をさせてもらっている。詳しい採点方法は非公開だけど、ボクに勝利できればまあ確実に合格として、戦いの流れ……どれだけ攻撃を防げたとか、どれだけ長期戦ができたかとか、有効打を与えられたかとか、まあ、そんな辺りかな? 琉璃の場合は『万象無ニ還ス靈劔』を躱すことができたことと、最初の覇王の霸気の衝突で拮抗させることができたこと、この二つは確実に評価されていると思ってくれていいと思うよ」
『ありがとうございます、ご主人様』
「さて、施設長になる資格を琉璃は得た訳だけど、実際に施設長になるかどうかを決めるのは琉璃だ。ちなみに、施設長になった場合、報酬はARCかポイントの選択式で一ヶ月で400,000、ただし施設長である以上、いつ挑戦者が来るか分からないからいつでも戦えるようにしてもらいたい。かなり不安定な仕事ではあるものの、別に一日中施設内に詰めておく必要もないし、時空魔法を使えば好きなタイミングで仕事を受けられるから数日分の仕事を纏めて受けるというのも現実的な話ではある。実際やっている人もいるしねぇ。……で、どうする?」
『魅力的なお話ですね。僕でよければ施設長の仕事をさせてもらいたいと思います』
「勿論だよ。じゃあ、施設のコンセプトとか細かいところを詰めて行こうか?」
その後、琉璃と施設の内容を相談しながら決めていき、最終的にバトル・スプラッシュという施設の構想が固まった。
洞窟内を水の流れる川を小舟で進みながら洞窟内部に設けられたバトルフィールドを巡るという内容で、従来のバトル・アイランドの施設とは異なり周回の概念が存在しない。
いつのタイミングで止めるかは挑戦者の自由で毎回連勝記録を記録して次に挑戦する際には記録されている地点から再挑戦となる。負けた場合に連勝記録がゼロに戻るのは他の施設と同じ。
バトルフィールドは全て水属性が有利になる環境で、施設長の琉璃にとっては最も戦いやすい条件が整えられている。
一応、一周すると十部屋あって琉璃との対戦は七十戦目と二百十戦目に必ず行われることになる。つまり、他の施設で言うところの七周目と二十一周目でバトルすることが可能ということになるねぇ。
工事は全てボクが請け負い、職員などもバトル・アイランドの方で準備を整える。施設の方はすぐに完成すると思うけど、人事異動に時間が掛かることを考えると一ヶ月くらい必要なんじゃないかな? それまでは、施設長が四施設五人体制になりそうだねぇ。
バトル・スプラッシュはかなり歯応えのある内容になりそうだし(他の施設にも言えることだけど)、この一ヶ月の間に全ての施設を攻略するのが施設長になる近道かもしれないねぇ。
◆
昨年、王宮の東屋でヴァンとスカーレットに提案したバトル・アイランドの完全予約制のクラブ『クラブ・アスセーナ』のプレオープンの日付がエルメンヒルデとの日程調整を経て遂に決定した。
期間は三日間で、一月の八日、九日、十日を予定している。一日目がヴァンとスカーレット、二日目がルクシアとフレイ、そして三日目がノクト、ニーフェ、アルマ、レイン、クレマンス、エルメンヒルデ、エーデリア、ファレル、ペチュニア、ペチカ、アーヴァゼス、ジュードマン、メルトラン、ディマリア、ジェイコブ、ジミニー、アルバート、シュトルメルトという顔触れになる。
元々ルクシア達に提案していたのが九日、ペチカ達と相談していたのが十日だったから上手く八日にヴァンの予定を入れてもらえることができたことで三日連続という分かりやすい日程に調整できたのは有り難かった。
出す料理は三日とも同じものと決めている。勿論、『クラブ・アスセーナ』で出す予定のボクのスペシャリテであるコース料理だ。
他にもサイドメニューはいくつか用意してあるものの、メインはコース料理一つに絞っている。……まあ、ボクが一人で切り盛りする小さな店だし、それで許してもらいたいねぇ。
その記念すべきプレオープンの第一夜の前日にはもう一つ大きなイベントがある。
一月七日のラインヴェルドと琉璃の決闘だ。
既に決戦の地であるバトル・シャトーには大勢の観客達が詰めかけている。
時空騎士の決闘はかなりの頻度で開催されるから次の決闘に備えて見たい戦いを後から予習感覚でアーカイブス視聴することは多いものの、こうしてリアルタイムでの観戦を希望する者が多く集まることはほとんどない。……一応、公式戦扱いだから当日にバトル・シャトーを訪れれば基本的には誰でも観戦することができるようになってはいるんだけど。
今回はラインヴェルドという圧倒的な知名度を誇るブライトネス王国の国王陛下と施設長への内定が決まった精霊王を凌駕する力を持つ精霊の琉璃の戦いという高い話題性、新年の幕開けと同時に追加された君臨する八人の戦争に参加する可能性が高い時空騎士の上位層の実力を確認しておきたいという思惑など様々なものが交錯した故の状況なんだろう。
「本日はようこそお越しくださいました。ビアンカ王太后殿下、バルトロメオ王弟殿下、ヴェモンハルト殿下、ルクシア殿下、ヴァン殿下、プリムラ姫殿下、レイン様」
その中にはブライトネス王国のロイヤルファミリーの姿もある。
プリムラがこの手のイベントごとに参加することはなかなかないことだけど、琉璃がラインヴェルドに直接挑戦状を叩きつける姿をプリムラは見ていたからねぇ。どうやらバルトロメオに頼んで時空魔法でこの時間軸に連れてきてもらったらしい。……ちゃんと今日のお勤めもしっかりと果たされていたんだよ! 誰かさん達と違ってねぇ。
ちなみに、ヴェモンハルトの婚約者であるスザンナは魔法省の部下達と共に別のグループでバトル・シャトーに来ているらしい。
もう一人のヴェモンハルトの婚約者のレインが付いてきているけど、彼女の性格的に関心を持っていてもブライトネス王国のロイヤルファミリーとは一緒に行動しない筈だし、恐らく侍女として行動を共にしているのだろう。……本当に侍女の鑑だよねぇ、レイン先輩って。
「息子の晴れ舞台ですもの、母親としては来ない訳にはいかないわ」
「まあ、そのクソ兄上は負けて大いに恥を晒すことになるんだろうけどなぁ。俺はボコボコにされた兄上に『ざまぁ』って言いたくてここまで来た」
「……本当に父上とそっくりな性格の悪さですね。プリムラが悲しそうな顔をしています、自重してください」
「……兄上、貴方こそ自重してください」
真面目な顔をしてバルトロメオを注意するヴェモンハルトにルクシアがジト目を向ける。……ヴェモンハルトの本性を知るルクシアからすればバルトロメオ以上にプリムラの教育に悪いのはヴェモンハルトだよねぇ。
さりげなくヴェモンハルトからプリムラを庇うヴァンとジト目を向けるルクシア、そしてゴミを見るような冷たい視線を送るレイン……本当に散々な状況だねぇ。
「それで、アネモス大統領閣下はどう予想しているのかしら? やっぱり、琉璃様が勝つと?」
「王太后様、正直なところどちらが勝つかは私にも分かりません」
「あら、珍しいわね。見え過ぎる目を持つ貴女が見通せないなんて」
「私も万能ではありませんわ。……プリムラ姫殿下には大変申し訳なく思いますが、琉璃がラインヴェルド陛下に決闘の挑戦状を叩きつけたタイミングでは琉璃の方が圧倒的に優勢だったと思います。お二人とも霸気は同等、となれば優劣を決定するのは情報です。琉璃はデータを基に作戦を立てていく典型的な予習タイプですから、恐らくラインヴェルド陛下と戦いの記録を総浚いして勝てると判断して勝負を挑まれたのでしょう。一方、ラインヴェルド陛下の方に琉璃に関する情報はほとんど無かったと言っていいでしょう。しかし、それが施設長選定戦が行われたことで覆ってしまった。あの公式戦、琉璃は切り札をほとんど使ってしまっています。その戦いをラインヴェルド陛下も見ていらっしゃいました。その戦いの記録を熱心に研究し、恐らく琉璃を倒すためのプランを練ってきている筈です」
「……それくらい普段から国王としての仕事もしてくれればいいのだけど」
「まあ、あの兄上だしなぁ。……ってことは戦ってみるまで分からないと」
「私の超共感覚でもラインヴェルド陛下の勝率は五割です。……まあ、結果が分かっているような戦いではつまらないですし、これくらいの方がいいのではありませんか?」
先が見通せないからこそ現実は面白いんだと思う。
全て分かっているならそもそも戦う必要がないからねぇ。
「ビアンカ王太后殿下、バルトロメオ王弟殿下、ヴェモンハルト殿下、ルクシア殿下、ヴァン殿下、プリムラ姫殿下、レイン様、他のお客様も受付から観戦室に向かっているご様子ですし、そろそろ観戦できる部屋へご案内させて頂きたいと思います。本日の給仕は私が請け負いますので、レイン様も本日はゆっくり観戦を楽しんでくださいませ」
「あらあら、バトル・アイランドの総支配人で統括施設長でもあるアネモネ閣下に給仕をして頂けるなんて贅沢なお話しね」
「……通常ならば観戦者への給仕等はないのですが、ここまで大事になってしまったの流石にでおもてなしをしなければならない状況になってしまいまして。本日は他の観戦希望者にも給仕の担当者がつく形になっております。皆様を担当する給仕役がたまたま私だったというだけで、サービスの内容は他の方々と変わりません。ご不便をおかけしますが、何卒ご容赦頂きたく」
「……まあ、確かにいつもは部屋に通されて飲み物等を注文してって感じだしなぁ。それだけでも十分ありがたいと思うが、これがデフォルトにならないかちょっと心配だぜ。バトル・アイランドもほとんど慈善事業みたいだし、アネモスの懐が心配になってくるぜ」
「今日だけ特別だとアナウンスするように言い含めてありますから問題ありませんわ。……さて、それでは参りましょうか?」
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