Act.9-229 バトル・アイランドにて〜時空騎士適性試験と新人強化基本訓練〜 scene.2
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「さて、ロウェナ様、ヴィルジニー様、アーデルトラウト様、ルドヴィカ様への適性試験は私が試験官を担当します。試験の内容は簡単に言えば四対一の実戦です。とはいえ、流石に四人掛かりで私を倒せとは言いません。まあ、私を倒せたら文句無しの合格ですが、今回の適性試験に勝敗はほとんどないと思ってください。私が見るのは今後の成長性――つまり、伸び代があるかどうかです。強くなれる可能性を皆様が持っているかどうかをこの戦いで判定します。まあ、そう難しく考えずにいつも通り戦えばいいだけの話です」
「……少し安心したわ。クレスセンシアさんですら敗北した相手に四人で勝つなんて到底不可能だと心配していたのよ」
「まあ、でもいずれは本当の猛者達相手にも勝てるようにはなって頂きたいですけどねぇ。とりあえず、同じ冒険者のヴァケラーさん辺りを目標にしてみてはどうでしょうか? あの方は冒険者ギルドの中ではヴァーナム本部長に次ぎ、聖人の領域に至ったレミュアさんに並ぶ猛者ですからねぇ。お三方とも霸気を扱えますが、特にヴァケラーさんの霸気の扱いは巧みです。公式戦での対決は時空騎士になった時点でも隔絶した差がありますのですぐにはできませんが、非公式戦であれば応じてくれると思いますよ」
「冒険者チームの中で最も高いと言われる『三つ首の狗狼』か。リーダーもレミュアさん達に声を掛けていたけどあっさり振られていたっけ。そういえば、彼女達も時空騎士だったか。道理で強い訳だ」
「時空騎士になれば格段に強くなれるという訳ではありませんよ。レミュアさんは元から強かったですし、その上でしっかりと研鑽を積まれています。……まあ、ただ井の中の蛙ではいられなくなるでしょうねぇ。多種族同盟を守護する猛者達と同じ土俵に上がる訳ですから。……おっと、話が長くなりましたねぇ。いつまで立ち話していても時間が勿体無いですし、どうぞ遠慮なくお好きなタイミングで攻撃してください」
「そう? では遠慮なくいかせてもらうわ! 水魔法陣展開――大滝の激降雨!」
ロウェナはボクの頭上に巨大な水属性の魔法陣を展開――そこから大量の水を滝の如く降らせてくる。
凄まじい水量ではあるものの水滴の一粒一粒を水の刃に変えるといった複雑な魔法操作は一切なく、ただ物量で攻める魔法みたいだねぇ。……とはいえ、それでも充分凄まじい魔法だ。この魔法一つで相当な魔力を保有していることが分かる。
魔法そのものを打ち消したり、別の魔法で相殺したりということもできたけど別にそこまでしなくても余裕で突破可能だから俊身を使って魔法陣の範囲から離脱――剣を鞘から抜かず、武装闘気を拳に纏わせて狙いを定めたロウェナに迫る。
「させないよ! 盗力の太刀」
ここで素早く対応したのはヴィルジニーだった。素早くロウェナとボクの間に入って時間を稼ぐ。その隙にロウェナは後方に下がって態勢を立て直した。
「剣が相手に触れる度に相手の能力値を減少させ、その能力値を自らに加える無属性魔法。……ヴィルジニー様が盗剣士と呼ばれる所以ですわねぇ」
「へぇ、僕の剣の正体を見抜いているのか。……僕の魔法に気づいたのはリーダーだけだったんだけどな。とはいえ、僕はこの魔法の恩恵に甘えてきた訳ではない。剣士としての研鑽を積んできた」
「えぇ、それは打ち合っていれば分かりますよ。……しかし、その程度では剣を抜くまでもありませんねぇ」
「……悔しいけどその通りだよ。剣士として対等に戦って欲しいと言えるだけの強さが僕にはない。……ははっ、こんなに斬撃を放っているのに全て拳で受け流されてしまうとはね」
「では、そろそろ幕引きにしましょう。まずは一人ですねぇ」
左ストレートを剣の刀身に浴びせてヴィルジニーの剣の刃を粉砕し、続いて武装闘気を纏った右拳に僅かな覇王の霸気を込めて右ストレートを腹部へと放つ。
勢いで壁まで吹き飛ばされたヴィルジニーは壁に打ち付けられると同時に無数のポリゴンと化して消滅した。……壁に打ち付けられた時の衝撃が決定打になったのは間違いないけど、拳が命中した時点で拳が命中したヴィルジニーの腹部が消し飛んでいたし、仮にルドヴィカが回復魔法を使っていても助からなかっただろうねぇ。
「あのヴィルジニーさんがこうもあっさりと……多少武術の心得があるといっても接近は禁物ですね」
僧侶でありながら武闘の心得もある破壊僧のルドヴィカの実力は聖杖や籠手を嵌めた状態で魔物を一撃で粉砕できるほどらしい。
光属性魔法を得意とするルドヴィカは光属性の強化魔法で自己強化を行うことが可能で、ただでさえ凄まじい破壊力を誇る拳が更に強化されるという。
ソロに不向きな僧侶でありながら長らくソロで冒険者活動をしていたその実力は伊達ではないとは思うけど、ボクとヴィルジニーの戦いを見て接近戦を挑んでも勝ち目がないと判断し、しばらくは味方の補助に徹するつもりらしい。
「強化・魔法攻撃上昇!」
魔法攻撃力を上昇させる光属性強化魔法をルドヴィカはロウェナとアーデルトラウトに掛けた。どうやら二人の大魔法で一気にボクを討伐してしまうつもりらしい。
「水魔法陣展開――大滝の激降雨!」
「蒼天の雷公!」
アーデルトラウトは広範囲攻撃魔法を得意とする。
指定した範囲に無数の雷撃を落とす雷属性戦術魔法「蒼天の雷公」もその一つで、大量の魔物達を青い雷撃で立ち所に殲滅したこともあると聞いている。討伐部位が討伐の証明になる冒険者という仕事と広範囲の敵を纏めて殲滅するアーデルトラウトの魔法は実はあんまり相性が良くないんだけど、多数の敵を相手にする殲滅戦においては『紅の華』随一の働きをする。……まあ、アーデルトラウトは広範囲攻撃魔法を得意とするというだけで範囲を絞った攻撃魔法が使えない訳でもないみたいだけどねぇ。
降り注ぐ大量の水流はさっきよりも水量が増している。どうやらその水の中に「蒼天の雷公」て生じた大量の雷撃を流し込んでボクを感電死させるのが狙いらしい。
普通の勝負じゃ相手を殺しちゃうほどの攻撃だから使えないけど、全力で暴れても死ぬことはないから躊躇いなくこういう魔法も使えるんだねぇ。……うんうん、模擬戦だからと手を抜いたり、殺さないように加減したり、そういうのって好きじゃないんだよねぇ。戦うからには全力でぶつかりたい! ……まあ、四人の実力を測るために相当手を抜いているボクが何を言うんだって話ではあるんだけど。
……ボクだってさぁ、ラインヴェルド達じゃないけどたまには本気で暴れたいよ。
「蒼天の雷公」の方は範囲を絞って内部の雷撃密度を高め、逆に「大滝の激降雨」の方は攻撃範囲を広げてより雷を吸収できるようにする。……なかなか理に適った作戦だ。
まあ、それじゃあボクは落とせないんだけどねぇ。
武装闘気を硬化せず纏い、神速闘気を纏った状態で加速――雷撃が迸る激流の中を突破し、『銀星ツインシルヴァー』を鞘から抜き払う。
八技の「刃躰」の技術を応用して飛ぶ斬撃を連続で放ち、ロウェナとアーデルトラウトを相次いで撃破する。圓式基礎剣術も遠距離魔法攻撃も必要ない、武装闘気で守っていない後衛魔法使いを撃破するならこの程度で充分だねぇ。
「魔法的な力も魔法による身体強化も感じませんでしたわ……まさか、身体能力のみで斬撃を飛ばすことができるなんて」
「これからルドヴィカ様達にもこの飛ぶ斬撃は他の七つの技と共に習得して頂くことになります。さて、残りはルドヴィカ様だけになりましたわ。持てる力全てをぶつけてきてください」
「流星の如き拳! この一撃に全てを賭けますわ!」
「強化・物理攻撃上昇」を拳に発動し、更に膨大な光属性の魔力を拳に収束して放つルドヴィカの持つ攻撃手段の中で最大火力の一撃。
接近技である以上、近づかれる前に遠距離から広範囲魔法攻撃を叩き込めば簡単に撃破できるものの、それじゃあ面白くない。勿論、正面から打ち破ってこそだよねぇ。
右の拳に膨大な覇王の霸気を乗せ、ルドヴィカが地を蹴って加速すると同時にボクも地を蹴って加速――ルドヴィカが放った渾身の右ストレートに真っ向から漆黒の稲妻を纏った拳をぶつけた。
「覇王鉄拳!」
ルドヴィカの拳はボクの拳が当たった瞬間に消し飛ぶ。
右腕の半分ほどが消し飛び、無数のポリゴンが傷口から溢れる中、ボクは膨大な覇王の霸気を載せた左ストレートをルドヴィカの腹部に放ち、命中と同時に一気に霸気を解放した。
膨大な霸気のエネルギーと生じた黒稲妻に耐え切れず、ルドヴィカは無数のポリゴンと化して消滅する。
四人の撃破を確認したところで、ボクは「訓練終了」のボタンを押して「トレーニングルームA」から脱出した。
◆
さて、四人の適性試験の結果だけど勿論合格だ。
まあ、これだけ戦えたんだから当然だよねぇ。
適性試験を終えたボク達はその後、シャルティローサ達と合流し、各種闘気の扱い方と八技の扱い方を教えた。
全員が習得するまでにかなりの時間を要したけど、バトル・クエストのクエスト内部では時間の流れを調整することができるから琉璃との施設長選定戦に遅れる心配はない。
基礎訓練を進めつつ、琉璃との施設長選定戦の宣伝もしておく。
多種族同盟上位陣の実力を間近で見られる又とない機会だからねぇ。ちなみに、施設長選定戦はバトル・アイランドの中では珍しく観戦が可能な公式戦になっていて別室にはなるけど現地での観覧や映像での試合内容の確認が許可されている。
バトル・アイランドが運営している会員制の動画サイトでもライブ配信されるから、時空騎士達のほとんどは現地での観戦、映像での当日観戦、映像での後日観戦のいずれかの方法で琉璃とボクの戦いは観戦するんじゃないかな? 特に琉璃との戦いを間近に控えるラインヴェルドはここでしっかりと情報収集をして来たる琉璃との戦いに備えてくると思う。
「さて、一通り技術を皆様習得し終えたことですし、最後に少しだけ実践形式で会得した技術を試して終わりましょうか? アトラマ様、ベンヤミン様、ザックス様、クレスセンシア様、ロウェナ様、ヴィルジニー様、アーデルトラウト様、ルドヴィカ様、ジギタリス様、アニエス様、リュビア様、フリオ様、ゼルドマン様、シャルル様、ジャッロ様……それから、シャルティローサさんも久しぶりにどうですか?」
「……シャルティローサさんもいるってのに全然勝てる気がしねぇ!!」
ザックスが叫んでいたけど拒否権はないよ。
十六対一という圧倒的にボクが不利な状況でもアトラマ達の表情は暗い。……とりあえず、ここで「新技術も獲得したし、強くなった。これならアネモネにも勝てるんじゃないか!?」って勘違いしている人がいないのは良いことだねぇ。
『銀星ツインシルヴァー』を鞘から抜き払い、武装闘気を纏わせる。
さあ、どれだけ強くなったか見せてもらおうじゃないか!!
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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