Act.9-226 冒険者ギルドにて、指名依頼と新システムの提案 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
ジギタリス、アニエス、リュビアと共にクレセントムーン聖皇国へと転移し、三人を空き屋敷に案内(最初は一人一家の予定だったんだけど、ちょっと広過ぎるし使用人を雇うと大変ということで一つの屋敷でシェアハウスをすることになった)、その後、ジギタリス達とご近所さんに挨拶回りをしてジギタリス達の暮らす屋敷に戻ってきたタイミングでイルワからメールがあった。
内容は「可能であれば早急に面会したい」というもの……そんなに急ぐようなものでもないと思うけどねぇ。
ジギタリス達と挨拶回りをしている間に纏めておいたヴァレスコール侯爵領に関する調査報告のメールをクラウディアに送り、ブライトネス王国に滞在しているダルフの元を訪れて護衛をしていたザックスと話をつけてからブライトネス王国の王都に転移し、冒険者ギルドに向かった。
王都の冒険者ギルドはいつにも増して慌ただしく、大量の金貨の入った袋を運び続ける受付嬢(一部の冒険者も手伝っているみたいで、協力していたヴァケラーはボクの顔を見た瞬間に渋面になった)、そして、カウンターの一つでは三枚の依頼書を眺めながら溜息を吐くイルワの姿が……。
「アネモネ閣下、まだ一月二日ですよ! まだお正月です! 冒険者も新年気分なのですよ! それなのに、このタイミングで三つの闇ギルドを壊滅させるなんて……いや、冒険者ギルドとしては厄介な敵が消えて万々歳なんですが……」
「こういう仕事は早いうちに片付けるに越したことはないですからねぇ。……別に無報酬で構いませんよ? 元々依頼を受けてこなした訳でもありませんし」
「そういう訳にはいきませんよ! 冒険者ギルドが指名手配をしているんですから! そのために予算を組んで報酬も用意していますし」
「その袋の中身がその報酬だと……その感じだとお断りしても押し付けられそうですし、今回の臨時班で協力してくださった皆様の時空騎士の給与に上乗せしてお支払致しましょうか。皆様お疲れ様です、後は全てお引き受け致しますわ」
受付嬢達やお手伝いの冒険者達の持っていた袋を全て『統合アイテムストレージ』に転送……しかし、随分と高い報酬が設定されていたんだねぇ。まあ、そりゃ『大魔闘時代最後の騒乱〜闇を照らす不死鳥の光〜』の世界でも恐れられていた非合法ギルドだし、その実力も折り紙付き……当然の金額か。
「それで、本日はどういったご用件ですか? メールでは三つの闇ギルドを滅ぼしたことと何やら私に用件があるということしかお聞きしていませんので……勿論、どのような話でも大丈夫ですよ。覚悟はしています」
「……覚悟って、そんなに私って恐ろしいですか?」
「……アネモネ閣下以上に恐ろしい方を私は知りませんよ」
イルワの言葉に冒険者達と受付嬢が一斉に頷く……あの、ボクって何だと思われているの? 流石に傷つくよ。
「いくつか要件がありますが、丁度要件のあった方々がいらっしゃるようなので先にこちらの要件を片付けてしまいましょう。まずは『紅の華』の皆様、クレスセンシア様からの推薦を受け、時空騎士の適性検査を行うことになっておりました。その日程ですが、私は一月五日に実施できれば色々と都合が良いのですがどうでしょうか?」
「ロウェナ、ヴィルジニー、アーデルトラウト、ルドヴィカ、どうかしら?」
「私は特にその日に予定は入っていないわね」
「僕はいつでも構わないよ」
「……依頼は確か受けていなかったわよね? だったら問題ないわ」
「一月五日で大丈夫です」
「ご了承頂きありがとうございます。では、当日の朝八時にブライトネス王国王都の冒険者ギルドにお集まりください。一応、予定では十二時頃の終了を予定していますが、皆様の希望があれば延長もあり得ます。当日は皆様にとっても良い刺激になるイベントがありますので。……そうでした、肝心なことを忘れていました。今回の適性検査は私からロウェナさん、ヴィルジニーさん、アーデルトラウトさん、ルドヴィカさんへの指名依頼となります。依頼書はこちらにありますので、後ほどギルドのカウンターで手続きを済ませてくださいませ」
「……一ついいかしら? その日は四人だけでということなのよね? 私も四人の試験を見届けたいのだけど」
「構いませんが……そんな時間はないと思いますけどね。さて、二つ目の用事ですが、『烈風の旅人』のアトラマ様、魔物使いのベンヤミン様、そしてクレスセンシア様――三名への指名依頼です。こちらは既に時空騎士に内定している皆様の基礎訓練となります。こちらも都合が悪い場合は別の日にちに変更も可能ですが、できれば全部一気に片付けてしまいたいので一月五日に行いたいと思っています。ロウェナ様達も試験に合格し次第こちらの訓練に合流して頂きますので、そのつもりでよろしくお願いします」
アトラマ、ベンヤミン、クレスセンシア――三人からの日付変更の希望も特になし、どうやら一月五日に全て片付けられそうだねぇ。
「なるほど、一気に新人時空騎士の強化を行おうという魂胆ですか。となると、他にも何人か参加者がいるのですね?」
「流石はヴァケラーさん、その通りです。先程ザックス=ヴォルトォール様に時空騎士になって頂けるようにお願いし、良い返事を頂くことができましたのでザックス様は一月五日に参加なされます。他にも七名参加される方がいらっしゃいますね」
「……ザックスさん、やっぱりアネモネ閣下に脅されて逃げられなかったんですね」
ヴァケラー、酷い言いようじゃないか? ……まあ、ちょっとプレッシャーを掛けたけどちゃんと本人の意思で頷いてもらったんだよ。
「残るは……まあ、この感じだと三大闇ギルドから引き抜いた方々なんでしょうね」
「半分は正解です」
「半分か……残りは見当がつかないな」
「流石は安定のアネモネ閣下」って顔をしているヴァケラーとイルワと「闇ギルドを壊滅させたんじゃなくて引き抜きを行っていたの? それって依頼達成って言えるのか微妙だよな」という顔をしている冒険者達の温度差が凄い。
「……その引き抜いた者達は確実にアネモネ閣下に無害化されている。今後、無法者として犯罪を起こすことはないだろう。いずれにしても三つの闇ギルドのギルドマスター全員の死亡は確認している。依頼達成の事実は動かない。……しかし、気になるのは残る四人だな。今回の面会の理由はその流れだとその四人に関わることなのだろう?」
「流石はイルワさんですね。その通りです」
「話は中で聞こう。……しかし、私一人では重要な決定はできないぞ」
「ということで、事前にヴァーナム様にも連絡して時間を空けておいてもらっています。今回の問題は早急に解決策を用意しなければならないものですので」
「分かった。気遣いができる筈のアネモネ閣下がわざわざこの一月二日にギルドを訪れて面会の準備を整えさせるだけの理由がその問題にはあるのだろう。……少しだけ待ってはもらえないか? 胃薬を用意したい」
……いや、できるだけ早く面会とは言ったけど、今日の今日で面会をして欲しいなんて無茶はボク、言った覚えがないんだけどなぁ。
◆
「なるほど、三つの闇ギルドと同じ世界から来た『不死鳥の尾羽』ですか。……システムは冒険者ギルドにかなり似ていますね。それを小規模で行うか、大組織として行うかの違いですが。冒険者ギルドが独占しているこの市場への参入が実際に行われれば圓様が危惧しているように競合が起こってしまいますね。彼らに冒険者になって頂くのはいかがでしょうか?」
「それは真っ先に切り捨てるべき選択肢だよ。彼らにとって魔法師ギルド『不死鳥の尾羽』は大切な居場所なんだ。それをこの世界で再興したいという夢を潰すというのはちょっとあんまりだと思ってねぇ。……いずれにしても、このまま彼らの望む形で『不死鳥の尾羽』が活動をすれば面倒ごとに発展しかねない。そして、それは冒険者ギルド、『不死鳥の尾羽』、双方にとっても決して望むものではない筈だ。……まあ、そこでいっそ冒険者ギルドのシステムを大幅に変えてしまおうって思った訳だよ。じゃあ、具体的にどのようにこの問題をどう解決するかっていうとヴァーナムさんはメールに添付しておいた電子資料を、イルワさんはさっき渡した資料に書いてあるからざっと目を通してねぇ」
用意した紅茶を飲みつつ、ヴァーナムとイルワが資料を読み終わるのを待つ。
『……クランシステムですか』
「そう。元の語源は氏族を表す『Clan』から来ているんだけど、オンラインゲーム界隈では一定の目的を持つ者の集団の事を指す言葉として使われている。まあ、ギルドなどと似たような意味で使われる言葉だねぇ。まず、冒険者ギルドを解体し、クラン評議会と冒険者ギルドの二つを組織として置く。冒険者ギルドに関しては既存の職務をこれまで通り全うしてもらうとして、新たに一つ増えるのはクラン結成に関わる業務だ。一定レベル……まあ、これは冒険者ギルドを中心に決めていってもらいたいから指標は用意していないけど、そのレベルに達したパーティにクラン結成の権利を与える。クランへの特典としてクラン評議会が一部費用を出すことで比較的安く購入可能なクランハウスの購入権と、クランハウスでの事務仕事や施設管理を引き受ける事務員や使用人の斡旋、直接依頼を受ける権利……この三つだねぇ。まず、冒険者のほとんどが持ち家を持たない場合が多い。宿で寝泊まりっていうパターンが多く、夢のマイホームに憧れを持つ者も多い印象を受けていた。クランハウスはクラン単位とはいえ手に入れられるというのは割と魅力的な話なんじゃないかと思う。もう一つの直接依頼を受ける権利……これは、冒険者ギルドを通さずに依頼を受ける権利だ。依頼料の設定もクラン側で行えるし、冒険者ギルドを通した場合に発生する事務手数料なども発生しない。……ただ、これだと冒険者ギルドも困ることになるだろうから、毎年定額の料金をクラン評議会に納めてもらう。そう、この定額っていうのが重要で知名度を上げて人気を得れば冒険者ギルドで依頼を受けるよりも多くの儲けを得られる可能性が出てくるんだ。つまり、上手くマーケティングができれば冒険者ギルドに所属するより儲けられるかの可能性が存在するってことだねぇ。まあ、その辺りはそのクランの腕次第なんだけど。あんまり無茶なことをやって反感を買えば仕事は減る。自由と言いつつ、その辺りの塩梅は難しいんだけどやってみると意外とその辺りが楽しくなるんじゃないかな? 勿論、今まで通り冒険者ギルドの依頼も受けられる形にする。ただ、これも電子化を行って依頼を受けるだけなら冒険者ギルドに行かなくてもいいという形にしてもいいかもしれないねぇ。……えっと、後話していないのはクラン評議会の議会についてか。所属しているクランのクランマスターに参加してもらい、生じている問題について話し合う組織として議会を設置するのがいいんじゃないかと思う。もし、規約に違反するようなクランが出てきたら、クラン評議会の保有する武力で叩き潰すみたいな抑止システムを作るのもいいかもしれない。とりあえず、草案はこんなところかな? 何か質問ある?」
「……よくこんなことをすぐに思いつきますね。なるほど、クランという扱いにすれば確かに『不死鳥の尾羽』も問題なく活動を続けられますね。それに、クランにもリスクがありますから冒険者という存在が完全に消えることもありません。キルドの仕事も無くなりませんし、一方で一旗上げたいという野心に溢れた冒険者達の願いも叶えられます。それに、持ち家を持ちたいという願いは冒険者の多くが持っているものです。それを叶えられる可能性が出てきたというのは大きい。最初はどうなることかと思いますが、素晴らしい提案をしてくださりありがとうございます。……しかし、クランハウスと使用人の斡旋。これが課題ですね」
「クランハウスの件はビオラが協賛して解決します。使用人の方は……使用人ギルドのことはご存知ですよね?」
『えぇ、最近できた組織ですね。従来の使用人は直接家ごとに雇い入れ、教育を行ってきましたが新興貴族の増加に伴い、使用人需要が高まった。そこで、何らかの事情で解雇された使用人が登録し、再雇用の斡旋が受けられる組織が生まれたと。そこから発展して年齢などを理由に引退した使用人による新人使用人や使用人志望者に教育を施すなどの業務を始め、高い練度の使用人を多数輩出する名門の組織として噂が広まってきたのはごく最近。私の耳にも届いています』
「その運営母体はビオラ商会合同会社だよ。新興貴族をターゲットにした領地経営コンサルタント業の人材派遣業から発展し、一つ業務に特化したのが使用人ギルドということになる。ここから使用人兼事務員を派遣すれば人材の問題も解決だ」
「派遣された使用人兼事務員への給与の出所、割引の値など考えることはありますが、今回の草案自体が流石は圓様が作ったもの、かなりしっかりと出来上がっていますから後は細かいところを擦り合わせていくだけですね。冒険者ギルド、クラン、そしてビオラ商会がWIN-WIN-WINな関係になれるシステムを必ず作りましょう!」
次は冒険者ギルド側でこの話を進めてもらう。その後、ボク達ビオラ商会合同会社や使用人ギルドなどが集まって最終会議という形かな? でも、この時点で手応えはかなりあるし、比較的早く制度化できると思う。
……とりあえず、モレッティ達に今回の件について連絡して、ビオラ商会合同会社と使用人ギルド間で意見の擦り合わせを行える様に場を整えてもらおう。……やることがいっぱいだけど、その分ワクワクしてきたねぇ!!
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




