Act.9-221 臨時班の再始動と三大闇ギルド同盟の崩壊(3) scene.3
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
『幻界魔狼』のアジトへの入り口がある山小屋に到着。
一見、何の変哲もない山小屋だけど、床に光の速度で蹴りを入れるとあら不思議、地下へと続く階段が露わになった。
『……これって正規ルートがどこかにあったんじゃないかしら? 何でいきなり光の速度で蹴りを入れて山小屋の床を消し飛ばしているのよ!?』
「アメジスタさんの言う通り、恐らくそこの本棚に何かしらの仕掛けがされていたんだろうねぇ。特定の本を押せば開く……と見せかけて、多分特定の棚を丸ごと押すと地下への入り口が開くっていう仕掛けだったんじゃないかな? まあ、分かっていてもそれに付き合ってあげる義理って別段ある訳じゃないし」
『……全て仕掛けが分かった上でその遊び心諸共粉砕していくんだから本当にタチが悪いわよね、圓さんって。……本当に性格が悪いわ』
「ってか、こういうロマンって男性の方が好きそうな傾向があるような気がするけど、アメジスタさんもそういうの好きなタイプだったんだねぇ。まあ、そういうタイプじゃなきゃ、わざわざゲートウェイを世界中に作って不思議のダンジョンを大量発生させたりしないか? ……まあ、仕掛けについて分かっていたから仕掛け通りに床を動かしてもいいんだけどねぇ、それじゃあ宣戦布告にならないじゃないか」
『……本当に好戦的な性格よね。理解できないわ、その全方位に喧嘩を売っていくスタイル』
「……その全方位に喧嘩を売っていくスタイルのボクに喧嘩を売ろうとしていたよねぇ? アメジスタさんって?」
『あの頃の私は莫迦だったと思って……って、私って別に圓さんと敵対しようとしていた訳じゃなくて、ミーミルに捕まって逆らえなくなっていただけよね? 私、そういえば別に圓さんと直接敵対しようだなんて一度も思っていなかったわ!!』
「……ちっ、気づいたか」
戦闘狂の自覚はあるよ……ラインヴェルド達には流石に劣るけど、ボクにそう言う点がないと言い切れないのは確か。
それも、敵対するなら徹底的にっていうスタイルだからねぇ。残酷性はラインヴェルド達よりも強いんじゃないかな? 流石に【血塗れ公爵】には劣る……と言いたいところだけど。
「さて、これで後戻りはできなくなったねぇ。……下には丁度八人の敵影、五、一、一、一……かな? ……しかし、随分と巨大な施設だねぇ。この辺りの施設の中でもかなり広い部類じゃないかな? 一体ここで何の研究をしていたんだろうねぇ」
「何故過去形なのだ? ここは、『幻界魔狼』のアジトなのだろう?」
「シャルルさん達は当然知らないと思うけど、『幻界魔狼』は廃棄された研究施設を目敏く見つけて後からアジトにしたんだと思うよ。ここは、『這い寄る混沌の蛇』っていう、まあ、闇ギルド並みかそれ以上にヤバい連中の拠点の一つだったみたいだ。少し前に、この国の中枢まで入り込んでいた『這い寄る混沌の蛇』の関係者を捕らえたんだけど、その大臣にまで至っていたモルチョフ=ヴァレスコール侯爵こそ、このヴァレスコール侯爵領の領主だったんだ。恐らく、真っ当な領主の振りをして、裏で多くの非合法な研究をしていたんだろうねぇ」
まあ、それも夢の跡……モルチョフが投獄された時点で廃棄されてほとんどの資料や被験体が持ち去られ、残っているのは被験体が入っていたと思われる培養槽だったものの成れの果てと、廃棄された魔法陣、置き去りにされた物言わぬ骸。
「……凄惨だな。埋葬もせずに置き去りとは」
「『這い寄る混沌の蛇』に倫理なんて期待する方が間違っているのはボク以上にトーマス先生の方が理解しているでしょう? しかし、意外だねぇ。ここをアジトにするんだったら少しは片付ければいいのに」
壊れた培養槽が並ぶエリアを突き進む。五つの敵影があったエリアまで後少しだねぇ。
「圓さん、『這い寄る混沌の蛇』はここで何を研究していたのかしら?」
「うーん、汀さんの質問に断言できる材料は乏しいけど……まあ、恐らく一つの研究のためだけに作られた研究施設ではないんじゃないかな? ただ、ここに関与していた可能性のある『這い寄る混沌の蛇』のメンツから推測すると、恐らくクローンの生成とそのクローンを利用した『生命の輝石』の生成だと思うよ」
世界改変前の時点で主犯だったオシディスはフランシスコ・アル・ラーズィー・プレラーティの派閥だった。世界改変によりオシディスは『這い寄る混沌の蛇』との関係が断たれているけど、何かしらの辻褄合わせが行われて実際のものとは別のラングリス王国で活動していた『這い寄る混沌の蛇』とフランシスコを繋げる何かが新たに生まれた筈だ。
まあ、その辺りのことに関してはボクも詳細は掴めていないんだけどねぇ。モルチョフも黙秘したままあの世に行ったし……どちらにしろ、近々他の『這い寄る混沌の蛇』の連中共々今生に帰ってくるみたいだから、そこでボコボコにして吐かせればいいか。
『……また物騒なことを考えていそうな顔をしているわね』
表情も誤魔化していたし、裏の見気でちゃんと心を隠していたのに、なんでアメジスタにバレたんだろう? ボクってもしかして分かりやすい??
◆
狭い通路を進み、辿り着いた広間で待ち受けていたのはペイン=アブソリュート、セーラ=マリオネッター、ワースティタース、オルキアス・アンガーオルカ、ボマー・ボンバー――五体の『幻界魔狼』の最高幹部、呪華七皇だった。
消去法で残る区画にいる三体は『幻界魔狼』のギルドマスターで『魔狼王』の異名を持つティンダロス=フローズヴィトニル、呪華七皇のティエルファングとワイゼルの二人か。
「さて、セーラはボクがもらうとして――」
『本当に欲望を隠そうとしないわね……』
「残る采配だけど――」
『……耳の痛い話は無視ってことね』
「確か、『不死鳥の尾羽』の面々で交戦経験があるのはフリオさんとシャルルさんの二人がボマー・ボンバー、だったよねぇ?」
ボマー・ボンバーは獅子の獣人型の『呪皇』の一体で、触ったものを爆弾に変える、自身に触れたものを爆弾に変える、手の甲から敵を追尾する圧倒的な強度を誇る自動追尾型の爆弾を放つといった能力を有する。
ちなみに、残る四人はペイン=アブソリュートが飛行能力を有する鳥人で感覚や肉体を強化する力を持ち、自身の戦闘能力を強化しつつ、相手に与えたダメージを感覚強化によって増大させるという戦法を好むサディスト、セーラ=マリオネッターがあらゆる存在を強制的に操る『命令操作』の使い手である和装の悪魔風の美女、ワースティタースが自身の身体を砂へと変える力と一瞬にして水分を奪って乾涸びさせてしまうほどの圧倒的な渇きの力と砂を自在に操作する能力を持つ砂の魔人、オルキアス・アンガーオルカが常人ならば浮いているだけでも死に至るほどの特殊な猛毒の性質を有する漆黒の水を操る能力と、相手の魔法障壁に干渉する「防壁干渉」の呪歌を有する獰猛なシャチを彷彿とさせる魚人。
この中でワースティタースと汀の相性は最悪でまず汀ではワースティタースには勝てないからこの対面は除外……あらゆるものを乾涸びさせてしまうほどの圧倒的な渇きの力には流石に闘気があっても太刀打ちできないからねぇ。
『不死鳥の尾羽』の四人は『幻界魔狼』編序盤の強さだから『幻界魔狼』に太刀打ちする力はあると思うけど、正直、これだけ戦力が揃っているんだから極力無茶は避けたい。
『「不死鳥の尾羽」だァ? ああァ、なんか聞いたことがあるような気がするなァ』
「……『六魔修羅道』が壊滅した時点で『不死鳥の尾羽』のことは一応射程に入った筈だし、ボマー・ボンバーが格別阿呆で忘れている可能性は除外するとして――『ああァ? 格別阿呆って莫迦にしてやがるのかァ?』恐らく、連中は『六魔修羅道』が壊滅する前に時代からこの世界に来たんじゃないかな?」
「……なるほど、だからボマーが私達のこと知らないのか?」
『興味深い話ですわね……なるほど、どうやら私達の置かれている現状についてご存じな様子。「命令操作」で操って全て話してもらいましょうか?』
「とりあえず、采配はペイン=アブソリュートをシャルルさん。サポートには汀さんについてもらおうか? オルキアス・アンガーオルカはヴァレンシュタインさんとゼルドマンさんの雷属性コンビに。ボマー・ボンバーはフリオさん。サポートは……うん、アメジスタさんにお願いしようか? 最後にワースティタースはジャッロさん。サポートはトーマス先生にお願いします。……ということで、セーラさん。少しだけボクが遊んであげるよ」
『――ッ! 何故、命令操作か効かないのです!?』
これで満遍なく振り分けることができたかな? 汀、アメジスタ、トーマスの三人にはサポートに回ってもらう形になるけど、三人とも戦闘狂タイプじゃないし、あんまりがっかりしている感じじゃなさそうだねぇ。これがラインヴェルド達なら抗議待った無しだけど。
一応、三人にも活躍できる舞台は用意したいけど……ワイゼルとの戦いはジャッロの悲願だろうし……ティエルファングだけだと物足りないしなぁ。……いっそ、ティンダロス戦を三人に任せようかな?
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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