Act.9-218 臨時班の再始動と三大闇ギルド同盟の崩壊(2) scene.6
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
プルートも討伐され、残るはタイガただ一人。
正直ボクも驚いている……まさか最後にタイガが残るなんてねぇ。『冥王の心臓』戦のラストを飾るのはギルドマスターのプルートだと思っていたんだけど。
「おいおい、まさかギルマスまで……絶体絶命過ぎるだろ!! これは逃げるしかねぇか! 大樹ノ法・大樹の人!」
ボク達と戦う気満々だったタイガもこれは厳しいと判断したのだろう。
顔が刻まれた大樹の化け物へと変貌を遂げ、同化した床から脱出する先程と同じ作戦を実行しそうだったけど、流石にこのまま逃す訳には行かないからねぇ。
「闇纏魔剣・大次元切断!」
闇の魔力を剣に纏わせ、そのまま戦艦を輪切りにするイメージで右側から円を描くように剣を振るい、次元ごと戦艦を両断する。
戦艦は綺麗にパッカリと割れ、前と後ろに地響きと轟音を立てて倒れた。
「アクア、プリムヴェールさん、お父様、シスタールクスさん、戦艦から離れてください!」
「分かりました、お嬢様!」
「了解した!」
「分かったよ」
「――ッ! 折角の勝負に水を差すんじゃねぇよ!」
「別に勝負に水を差すつもりはないよ。だけど、あのままだとタイガに逃げられていた可能性があるからねぇ。逃げ道を防ぐためにバトルフィールドを火山帯に変えさせてもらったんだ。ほら、シスタールクスさんも退いて。じゃないと戦艦と一緒に焼くよ?」
「ああ、こういう時に容赦しねぇ性格だってことは付き合い短くても分かるぜ。退けばいいんだろ? 退けば!! タイガ、一旦勝負はお預けだ。戦艦が焼失したらまた暴れようぜ!!」
『お前ら本当に滅茶苦茶だよな!!』
タイガが「冗談じゃねぇ!」という表情で床との融合を解除して火口の中に辛うじて残っていた溶岩のない岩場に降り立ったのを確認し、ボクは「龍宿魔法」を発動する。
「火竜帝の咆哮!!」
両掌から灼熱のブレスを放って戦艦だったものを全て焼き尽くす。
タイガが呆然とした表情で見つめる中、タイガに唯一残された撤退の手段が跡形もなく焼け落ちた。
『あんな炎食らったら俺一撃で死ぬじゃねぇか!! ってか、俺達の船、なんかよく分からないうちに燃やし尽くされたんだけど!!』
「お嬢様、あの戦艦は確保せずに良かったのですか?」
「……まあ、同じものは持っていないけど別に再現しようと思えばできなくないし、他にも別に移動手段はあるからねぇ。無理にあの戦艦に拘る必要はないと思ったからこう言った手段を取ったんだよ。……正直、戦艦の焼失よりもタイガに逃げられる可能性が残されている方が痛手だからねぇ」
「確かに、船との同化を利用してコックピットまで移動し、飛んで逃げられたら少々厄介だ。まあ、空へ飛んでも当然私達も乗っているのだからバトルフィールドが逃げ場のない火口から逃げ場のない上空に変わるだけではあるんだけどね。……まあ、上空よりもこちらの方がタイガにとっては厄介な環境であるという点を踏まえれば、そちらの方がシスタールクスさんの勝利の可能性は高まりはするが」
溶岩や火という植物が生きにくい環境が揃っている火口と、地面からは切り離され、一見すると逃げ場がないものの不時着を起こして逃走すればまだ助かる見込みが残されている上空――まあ、そりゃ少しでも可能性は潰したいねぇという思惑もあるにはあるんだけど、それと同じだけシスタールクスに有利な状況を作っておきたいという思惑もある。
「武流爆撃」で内部に亀裂を走らせれば勝機があるとはいえ、相手は意思のないゴーレムではなく木属性魔法のエキスパート……シスタールクスのサブウェポンである火属性魔法だけで勝てるかと言われると微妙な相手だからねぇ。「防火林」――火を防ぐ力を持つ特殊な木を生やす技も持っているし。
「それと、ルクスさんにはこれを渡しておくよ」
【万物創造】で作ったカイザーナックルに「属性再染魔法」を付与した属性変換用の簡易的な宝石を取り付けただけの簡素な代物だけど、まあ、これがあるのとないのとでは随分と状況が変わってくるからねぇ。
ここまでタイガに不利な状況を用意して(まあ、ここに潜んでいた『冥王の心臓』が元凶ではあるんだけど)、その上この武器を渡してしまうとシスタールクスが圧倒的有利な状況になってしまうけど、シスタールクスの望み通り一対一の形を維持するし、これくらいは許してもらいたいな。
「なんだこれは? 手に馴染む武器だな!!」
「まあ、しっかりと使えるものはまた後日用意させてもらうよ。とりあえず、簡素なものではあるけどそれは属性変換の機能が施されたカイザーナックルだ。剣とか何かしらの武器の形だと素手で戦うシスタールクスさんとの相性は悪そうだし、指輪型にするならいっそカイザーナックルの方が良いかと思ってねぇ」
「ほう、まあよく分からないがこの武器に魔力を流せば良いってことか……おおっ!?」
『おい、そいつは『神の焔』!? まさか、オーロの奴が!?』
「いや、彼はボク達に託すつもりだったらしいけどちょっと火力が高過ぎる攻撃をしちゃってもらう前に殺しちゃってねぇ。これはバトル中に奪ったものだよ。属性を付加することで魔力を持つことが前提にはなるけど、理論上誰もが『神の焔』を扱うことができるようになる。あっ、魔力とは魔元素に似たこの世界の魔法を発動するためのエネルギーだよ。ネタバラシをするとプルートが無敵の魔法使いとしての実力を発揮できなかったのは、そもそも魔元素を使った魔法では無かったからなんだよねぇ。彼の万能魔法の正体は魔元素の操作を利用した相手の魔法の瞬間コピーと魔法の無効化だからねぇ」
『へぇ、ギルマスの魔法ってそういうカラクリだったんだな。……って、そんなことより『神の焔』が暴力シスターのものになったってことは、おいおいまさか俺に『神の焔』の使い手と戦えっていうのか!? 冗談きついぜ!!』
「よし、使い方は分かってきた。いくぜ! 神焔火拳!!」
魔法自体は「灼熱火拳」の『神の焔』……でも、纏う焔が普通の火か『神の焔』かという一点だけで状況は一変してしまう。
タイガは「防火林」、防水林」、防風林」、防土林」と四属性全てに対応する防御技を持っていて隙がない…….んだけど、『神の焔』にはこの中の火属性対抗技の「防火林」すら焼き尽くしてしまう力がある。
まあ、それは「火竜帝の咆哮」でも可能なことではあるんだけどねぇ。
『大樹ノ法・防火林! からのぉ! 防火林・大樹ノ法・大樹の吸力!!』
「その技は効かないぜ! 俊走空蹴・神焔火盾!」
俊身と空歩を組み合わせて超高速で大気を蹴って加速、そして「神焔火拳」の炎を盾のように変化させてシスタールクスの目の前に展開――全身に武装闘気を纏うことで側面や後方からの大樹の枝からの攻撃を警戒しつつ、前方から押し寄せる大樹を焼き尽くして突破していく。
確かに『神の焔』が強いというのもあるけど、本来ならそれでも苦戦は必至の相手だ。これだけ優位に戦いを進められているのはここが火山の火口だからだろうねぇ。実際、必死でタイガが樹木を伸ばした側から溶岩の熱と炎で少しずつ弱っていっている。
寧ろ、これだけ植物の育成に向かない場所で戦えているタイガが凄いんだろうねぇ。闇ギルド『冥王の心臓』のナンバーツーは伊達じゃないってことだ。
「これで決めるぜ!! 武流爆撃・神焔炎竜拳!」
そして、遂にシスタールクスはタイガの目前に到達――至近距離から「武流爆撃」を放ち、生じた亀裂に竜型の『神の焔』を送り込み、オーロを一瞬にして金色の焔で焼き尽くした。
◆
「なるほど、火山活動が抑えられていたのは『冥王の心臓』に所属する九冥公の一人ヴィクター・アレハンドロが作った魔導機兵が火山活動を抑制していたからだったのですね。そして、火口を『冥王の心臓』のアジトにしていたと。……調査団を派遣しても帰ってこなかったのは、『冥王の心臓』に殺されていたからなのですね。……死んでしまった調査団の皆様は帰って来ませんが、謎が解けて良かったです。これで、遺族にもしっかりと事情を説明することができます。アネモネ閣下、臨時班の皆様、この度は本当にありがとうございました」
タイガを討伐しては『冥王の心臓』を壊滅させた後、ボク達は噴火を抑制していた魔導機兵を確認し、そのままヴェデオラス伯爵邸に転移してローストスに『冥王の心臓』の壊滅報告と共にヴェデオラ大火山の現状について説明した。
ローストスはこの件について住民達にしっかりと説明し、調査団として派遣された者達の遺族には改めて謝罪をするつもりなのだそうだ。伯爵として取るべき当然の対応とはいえ、それができない貴族は残念ながら多い。
今回の件は伯爵側に過失があるとはいえない事件だった。不審な火山に調査団を派遣するのは当然だし、『冥王の心臓』に侵入されていたことの責任を追及されるのは少しローストスが可哀想だ。ヴェデオラス伯爵領は広いからねぇ、その全てにしっかりと目を配れっていう方が無理がある。寧ろ、ローストスはしっかりとやれている方だと思うよ。
魔導機兵には少し手を加えてボク達でも操作できるように改造した。その操作盤はローストスと別れるタイミングでローストスに手渡している。
長年ヴェデオラ大火山の噴火に悩まされたヴェデオラス伯爵領もこれで少しは安心できるようになるんじゃないかな? まあ、完全に噴火しないようにすることはできないし、魔導機兵で噴火を抑えるといっても 流石な限度がある。
今後は定期的に小規模な噴火を引き起こして火山の安定を図っていく必要があるんだけどねぇ。……まあ、そういった話はまた今度時間を作ってゆっくりとローストス、そしてヴェデオラス伯爵領の人々と共に計画を立てていこう。勿論、ボクもできる範囲ではあるけど助力は惜しまないつもりだよ。
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