Act.9-217 臨時班の再始動と三大闇ギルド同盟の崩壊(2) scene.5
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「ここまで侵入者が辿り着いたってことは他の九冥公が全滅したってことだよな? おいおい、マジかよ!? たった五人でここまで攻め込んでくる奴らと俺一人で戦えって言うのかよ!!」
「ごちゃごちゃ言ってないでとっとと戦おうぜ!!」
「うわぁ、何このシスターさん、凶暴過ぎるだろッ! まあ、九冥公の一人としてここまで攻め込まれて黙っている訳にはいかねぇよな。……いいぜ、五人纏めて相手してやる! 大樹ノ法・大樹の人!」
タイガは魔法を発動して顔が刻まれた大樹の化け物へと変貌を遂げる。
屋外ならば大地に根を張って養分を吸収できるんだけど、ここは戦艦の中だから根を張ることはできない。その代わりに木製の戦艦の床と同化したみたいだねぇ。
そして、そのどさくさに紛れてタイガ本人は同化した床を経由して下の階層へと逃走したらしい。……別に逃げの選択肢が悪いとは言わないよ。
あれは、勝利のための一時撤退――つまり、プルートにボク達の襲撃を報告し、援軍を連れて戻ってくるための逃げの一手。それも、ボク達に撤退したと気づかれないように交戦する意志を見せ、戦闘形態に変貌するという手の込みっぷり……まあ、「大樹の人」を使わなければ木との同化もできないんだけど。
もし、これが本当に初見の相手だったら絶対に騙されてダミーと交戦することになっていたと思うよ。まあ、どのみちこのダミーも敵であることには違いないんだから結局倒すことになるんだけどねぇ。
「タイガは下層に逃走してプルートを呼びに行ったみたいだねぇ。戻ってくるまで少し時間があるだろうし、それまでにパパッとあの木の木偶人形を倒しちゃおうか?」
「あの程度の相手に勝てないんじゃタイガは倒せねぇだろうしな! タイムアタック、上等じゃねぇか! 灼熱火拳!!」
どうやらシスタールクスは『スターチス・レコード』の魔法も習得していたらしい。……まあ、魔法の国と『スターチス・レコード』の魔法はどちらも同じ「魔力」を利用する近しいものだから習得も容易だったんじゃないかな? 使っているところを見たことなかったから闘気や八技と違って未取得の状態なんじゃないかと思っていたんだけどねぇ。
炎を纏わせた拳を構え、ラッシュを繰り出すシスタールクス。
灼熱の炎で少しずつ焼かれていく木偶人形だけど、一方的に蹂躙される側に回っている訳ではなく、無数の木の枝を槍のように変化させて反撃の機会を窺っている。
木材といえば燃えやすい材料というイメージがあるけど、実は炭化により層を作ることで内部への延焼を防ぐという性質があり、この炭化層によって木の内部にまで熱が伝わりにくくなると同時に燃焼に必要な酸素が内部まで供給されず、燃焼の進行を抑えることができる。
これが炭化する間も無く焼き尽くせるほどの高火力ならともかく、シスタールクスの手に宿っている炎はそこまで高温ではないからまだまだ木偶人形の耐久力でも耐え切れるという計算なんだろうねぇ。
恐らく、木偶人形の枝を経由して突き刺した相手からエネルギーを吸収して対象を干涸びさせる技「大樹ノ法・大樹の吸力」を無数の枝の槍経由で発動してシスタールクスを一気に撃破してしまうつもりなんじゃないかな? そのためにシスタールクスに自分殴ることに集中させ、枝を確実に突き刺せるタイミングを狙っている。
……まあ、その作戦ならかつてのシスタールクスは倒せるかもしれない。
でも、事前にタイガの手の内も全て説明され、吸収攻撃に対する直接的な対抗手段も会得しているシスタールクスは流石にその作戦じゃ落とせないよ。
「やっぱ、予想以上に硬いみたいだな! なら、これならどうだ! 武流爆撃ッ!」
表面をいつまで殴っていても内部まで炎を届けることができない。これでは木偶人形の討伐に時間が掛かってしまう。
そこで、木偶人形の内部に武装闘気を送り込んで内部破壊を引き起こし、生じた無数の亀裂に火を放つことで内部から焼き尽くす作戦に切り替えたみたいだ。当然、燃える範囲が一気に拡大すればいくら炭化による防御と言っても限界が生じてくる。
このままではまずいと一斉に木の枝の槍をシスタールクスへと放つも、白い修道服や白磁のような白肌、美しい銀髪が全て漆黒に染まるほどの武装闘気を纏って硬化させたシスタールクスの防御を突破することはできない。
「灼熱炎竜拳!」
これでトドメと言わんばかりに拳から内部に圧倒的な熱量の竜型の炎を送り込み、一気に木偶人形を内部から焼き尽くす。
無数の竜の首が木偶人形に生じた亀裂の各所から飛び出し、それに合わせて木偶人形が大炎上――そのまま燃え盛る炎に飲まれて木偶人形は巨大な炭の塊と化した。
「おいおい、まさかこんなに早く大樹のゴーレムを倒したのかよ……ギルマス呼びに行って正解だったぜ」
『なるほど奴らが侵入者か。なかなか猛者揃いのようだな』
木偶人形が撃破された直後にタイガが連れて戻ってきたのは「冥王の心臓」のギルドマスターのプルート=タルタロス。
『冥王』の異名を持つ彼の正体は邪悪な心と魔元素が合わさることで生まれた魔物の王と呼ぶべき存在。
あらゆる魔法を使えるとされているが、その正体は魔法の元となる魔元素の操作――この力を使って魔元素を書き換えることが可能であり、瞬時に術式の形を読み取ることによる相手の魔法の瞬間コピー、相手の魔法を構成する魔元素の構造をバラバラにしてしまうことによる無効化を扱える。
つまり、魔元素を使う魔法使いにとっては天敵となりうる存在なんだよねぇ。当然、魔元素を使う魔法以外の攻撃手段が乏しい作中ではかなり苦戦を強いられる敵だったんだけど(作中では一度に改変できる魔法が一つまでという弱点を突いて複数人同時攻撃で何とか撃破に成功するというなかなかの強敵っぷりだった。
まあ、三大闇ギルド同盟の一角の頂点だからねぇ)、この世界では魔元素を使った魔法を使える人間はほとんどいないから無効化の方はほとんど意味をなさない能力と化しているんだけどねぇ。
ただ、コピーした魔法については全て使用できる状態だから攻撃手段は一つの属性に系統した九冥公と比較しても幅広い。
その上、プルートにはマーラ=ニヒリティの『無に帰す鬼哭の咆哮』のような切り札の魔法がある。「天罰ノ光」――あらゆる防御を貫通して万物を消滅させる破滅の光を頭上から降り注がせるという消滅属性魔法。……まあ、この魔法も光という性質上《八百万遍く照らす神軍》の《太陽神》で対処できるから、結局、警戒するべきなのはプルートが会得した無数の魔法だけなんだけどねぇ。
『素戔嗚尊式天鎧! 天照式魔陣百爆!』
圧倒的な防御力を誇る魔元素の鎧を纏う魔法を発動して身を守りつつ、対象の周囲に無数の魔法陣を展開して巨大な爆発を生じさせる大魔法をボクに向けて発動してきたか。
どちらも伝説級の魔法使いヒノワ=ミカヅチの大魔法……そういえば、どちらもプルートが好んで使う魔法だったねぇ。
「術式霧散」
「ファンタズマゴリア-ガイストラッシュ-! ファンタズマゴリア-マリオネットインフェルノ-!!」
ボクが「天照式魔陣百爆」を「術式霧散」で全て無効化したのと同じタイミングでプリムヴェールが小さな幽霊を大量に生成してプルートに嗾け、一気に燃え上がらせた。
『――我に魔法は効かぬ! ――ッ!? 魔法を無効化できないだと!!」
「やはり小さな炎では鎧を破れないか。ファンタズマゴリア-ガイストプロージョン-!」
炎では鎧を突破できないと判断してプリムヴェールは合図として幽霊を破裂させ、その衝撃波で相手を攻撃する。
しかし、それでも「素戔嗚尊式天鎧」は破ることができず、僅かに生じた傷もプルートの魔元素操作によって修復され、再生されてしまう。
「ならば、これならどうだ? ダブルディスターバー!!」
特殊な波長の月の魔力で気の流れやエネルギーなどを掻き乱して暴発させながら、強化を完全に無効化する「ダブルティスターバー」や特殊な波長の月の魔力で気の流れやエネルギーなどを掻き乱して暴発させながら、魔力以外の能力上昇を消し去る「フォースディスターバー」なら「素戔嗚尊式天鎧」を突破することは可能だ。
ここで安易に魔法だからと「マジックディスターバー」を使ってもプルートの魔法は無効化できない。
「マジックディスターバー」は魔力に干渉するものであって、それ以外のエネルギーには例え魔法の材料となる物質であっても効果を及ぼさないからねぇ。
「素戔嗚尊式天鎧」が解除されたことで無防備を晒したプルートに【天使之王】で天使化し、圧倒的速度で飛行しながら双剣に膨大な霸気を纏わせるアクアと、圧倒的な闇の魔力を覇王の霸気と共に収束し、剣を構えるカノープスが二人同時に攻撃を仕掛ける。
『天罰ノ光!!』
カノープスにもアクアにも魔法の無力化が通用しなかった――この時点でプルートは勝ち目がないと判断したのだろう。
プルートは奥の手の「天罰ノ光」を遂に発動し、頭上から二人に向けて消滅の光を降り注がせる。
当然、《八百万遍く照らす神軍》の《太陽神》で消滅の光の軌道を捻じ曲げて二人への命中を阻止――奥の手を謎の干渉で潰されて動揺するプルートにアクアとカノープスが容赦なく攻撃を仕掛けた。
「闇魔法/闇纏暗殺剣・次元切断」
アクアの双剣から繰り出される圓式の斬撃を浴びて瀕死の重傷を負ったところでカノープスの次元諸共敵を切り裂く闇の斬撃がプルートに命中する。
真っ二つに両断されたプルートは「再生魔法」を行使する間も無くそのまま息を引き取った。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




