Act.9-216 臨時班の再始動と三大闇ギルド同盟の崩壊(2) scene.4
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
シスタールクスがギシュールに怒涛のラッシュを仕掛けている頃、プリムヴェールは残ったミロワールに攻撃を仕掛けていた。
「蒼光の一条」
ミロワールは得意とする光魔法で青いレーザーをプリムヴェールの背後の鏡に向けて放つ。
鏡に光属性魔法を乱反射させることによってレーザーの分散や攻撃角度の調節が可能となるため、直線的で読みやすい筈の攻撃が極めて読みづらい軌道で敵に襲い掛かる複数の攻撃へと変貌を遂げる……という、ミロワールお得意の戦術なんだけど、タネを知っていれば対処も容易いんだよねぇ。
プリムヴェールは『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』に武装闘気と覇王の霸気を纏わせた後、俊身と神速闘気を組み合わせて戦場となる鏡の部屋を駆け巡り、次々と鏡を打ち砕いていった。
流石に一度目の攻撃の段階で壊せた鏡の数は限られていたものの、その残された鏡と光条の角度から反射角を見極めて全ての光条を回避することに成功。そして、二発目の光条が放たれる前に全ての鏡を打ち砕くとそのまま一気に勝負を決めようとミロワールに迫る。
「鏡獅子! 鏡地獄!」
鏡を砕かれて一気に劣勢になったミロワールもまだ諦めてはいないみたいだ。
「鏡造形魔法」を駆使して二体の純白の獅子を作り出し、肉薄するプリムヴェールと自身を包み込むように四方を取り囲む鏡の壁と鏡の天井を加えて五つの鏡を作り出す。そこに床を構成する鏡を加えて六面……つまり、プリムヴェールは狭いエリアで全方位を鏡に取り囲まれた形になる。
「鏡獅子」によって現れた純白の獅子には鏡の中に潜み、相手の虚像を攻撃することで敵本体にダメージを与えることができるという能力がある。
鏡の内部では現実世界で直接鏡を破壊される以外に反撃をされる心配もないためほとんど一方的な攻撃も可能になる。初見殺し的な要素を持っていて魔法で鏡獅子に攻撃されない角度や速度で鏡獅子の潜んだ鏡を狙い撃ちしなければならないと攻略方法もなかなか厄介なんだよねぇ。その攻略方法に気づくことができずに脱落していったプレイヤーも多かったみたいだよ。
「――ッ!? なんだと!! 速過ぎる!!」
「鏡地獄」に囚われた上で「鏡獅子」を使われた場合、鏡に映らない位置から攻撃を仕掛けるという手段が封じられる。
本当は相手のみを「鏡地獄」の中に封じて、「鏡獅子」を使って鏡の内部から攻撃というのが理想なんだろうけど、自分が攻撃される可能性が高まるとはいえ、自分と敵一人を「鏡地獄」に封じるという手も存外悪い手じゃない。「鏡獅子」は他の鏡造形魔法と同じく本人が死んでも解除されない類の魔法だから、ミロワール本人を餌に攻撃を引きつけ、その隙に鏡獅子に鏡の内部に飛び込ませて虚像を攻撃させることもできる。いや、相打ち狙いにはならないかもしれないねぇ……この範囲だと鏡獅子が鏡に飛び込む方が敵の剣の鋒がミロワールに到達するより早いかもしれない。そう考えていてもおかしくはない。
ミロワールの選択は結論から言うと失敗だった。限られた情報からそう判断できるのは、使用した魔法が「鏡獅子」だったから。これがもし、本気でプリムヴェールと相打ちになる気満々で自分が巻き込まれることを恐れずに「蒼光の一条」を使っていたらまた違ったと思うけど、この土壇場でミロワールは少しでも自分が生存できる可能性に賭けてしまった。
「ムーンライト・スティング!」
六つの鏡のうち、恐らく「鏡獅子」が飛び込んだと思われる二つの鏡が砕け散り、続いて残る三面の鏡と床の鏡が砕け散った。
鏡の牢獄から現れたのは細剣の鋒に武装闘気と覇王の霸気、月属性の魔力を纏わせ、神速闘気を纏って加速したプリムヴェールと、「鏡事後」を一瞬にして鏡獅子諸共打ち砕かれて驚愕するミロワール。
まあ、至近距離に鏡を展開して取り囲むってことはプリムヴェールのすぐ手の届く範囲に鏡を展開するってことだからねぇ。そりゃ、鏡獅子が虚像に攻撃する前に全ての鏡を打ち砕くことも容易だろうよ。
ミロワールの敗因はあれだけ見せつけられたのにプリムヴェールの剣捌きの素早さを甘く見積り過ぎたことと、死なば諸共の覚悟が無かったこと。
「これでチェックメイトだ! ムーンライト・ラピッド・ファン・デ・ヴー!!」
素早く月属性の魔力を宿した刀身で円を描いて中心を突く形で刺突を放ち、巨大化した刀身でミロワールの胸を貫く。
胸だけに留まらずプリムヴェールの刺突はミロワールの上半身のほとんどを吹き飛ばした。
これでギシュールとミロワールも脱落だねぇ。
残りはヴィクターと九冥公最強と言われるタイガ、そしてギルドマスターのプルートの三人か。さて、次の部屋ではヴィクターかタイガか、どちらが待っているのかな? えっ、見気を使えば分かるんじゃないかって? ……それはちょっと野暮じゃないかな?
◆
ギシュールとミロワールの居た部屋にあった扉の先にあった階段を降りて戦艦の第二層に移動する。
階段を降りてすぐの部屋で待ち受けていたのはヴィクターだった。……まあ、順番的にはここでヴィクターが出てくるのが妥当だよねぇ。
「……顔触れは変わっているが、貴様らじゃな! 儂の可愛い可愛い子供達を殺したのは」
「可愛い可愛いっていうなら自分の手の届く範囲で可愛がっておけば良かったんじゃないかな? ……攻撃していいのは攻撃される覚悟がある人だけだ。その覚悟がないなら闇ギルドに身を置くべきじゃない……ボクの意見に反論があるなら聞こうじゃないか、ヴィクター・アレハンドロ!」
「――ッ! さあ、出てきなさい! 私の可愛い子供達! あの女を血祭りに上げるのです!!」
ヴィクターの保有する魔法のトランクから現れたのは十体のエセイリア=ドーマジックル。……いや、そんなに子供が大切っていうならエセイリアを戦わせるんじゃなくて自分だけでボク達と戦えばいいんじゃないかな?
「どういう作戦かな? ローザ」
「お父様、アクア、プリムヴェールさん、シスタールクスさん、ボクで一人二殺は確保。まあ、ヴィクターは早い者勝ちでいいんじゃないかな?」
「聖拳! 一番乗りだぜ!!」
早速シスタールクスがヴィクターを狙って走り出し、二体のエセイリアに行手を阻まれた。……まあ、エセイリアはヴィクターを全力で守りにいくと思うからエセイリアを突破しない限りはヴィクターに攻撃を仕掛けることはできないと思うよ。
『ウィッチーズ・メタルレイン!! ドォーリィ・ブリッツシャワァー!』
『ドォーリィ・ショットォ! タァーン・バム・ブリッツ!』
エセイリア達は二人ずつでボク達を分断して一人を相手するつもりらしい。まあ、ボクの言った一人二殺の方針がエセイリア達にとっても都合が良かったってことだろう。……誰に戦力を割けばいいか分からない状況では均等に戦力を割くのが無難だからねぇ。
『六魔修羅道』戦に続き、『冥王の心臓』の初戦でも敗北したエセイリアは流石にもう後がないということで本気らしく、技も同時に二つ以上使って攻めてくるも、アクアもカノープスもプリムヴェールもシスタールクスも見気と紙躱を駆使して余裕をもって躱しつつ、双剣で、爪で、細剣で、拳で――それぞれの武器で二体のエセイリアを粉砕し、ほぼ同時にヴィクターに攻撃を仕掛ける。
『『ドォーリィ・エクスプロージョン!』』
「最初から自爆特攻って……それやったらそこのお父さん泣いちゃうんじゃないかな?」
一方、ボクの前に立ちはだかった二体のエセイリアは最初からまともに戦う気は無かったようで、すぐさまボクに近づいて二人同時に自爆した。
まあ、自爆特攻を仕掛けたところで無意味なんだけどねぇ。ボクは武装闘気を纏った状態で地を蹴って加速――エセイリアの自爆で生まれた爆炎を突っ切る。
「崩魂霊聖剣」
神聖魔法「魂霊崩壊」を剣に込め、誰よりも最初にヴィクターに肉薄、そのまま刺突を胸元に浴びせてヴィクターを消滅させた。
ヴィクターは不死者だから光属性系統と火属性魔法が弱点。プリムヴェールとシスタールクスが得意とする相手ではあるんだけど、まあ、早い者勝ちっていう約束だからねぇ。
シスタールクスが不完全燃焼でつまらなさそうな顔をしている……流石にバトルジャンキーなルクスには物足りないか。……よし。
「じゃあ、次はシスタールクスさんメインで行こうか?」
「タイガ=ヴァルドゥングだったな。植物魔法により自らを植物へと変貌させた植物人間……あたしと少々相性が悪過ぎるんじゃないか?」
「あれれ? 戦闘狂のバーサクヒーラーさんが随分と弱気だねぇ。相性有利の相手を一方的にボコることしかできない弱々さんなのかな?」
「……随分と言ってくれるじゃないか!! あたしが得意な相手しかできない小心者だって!? そこまで言うならやってやろうじゃないか!!」
まあ、シスタールクスにとっては相性不利な相手だからねぇ。もし、苦戦してあまりにも戦闘が長引きそうなら誰かが援護に回ればいいか。
個人的にはこういう不利な相手と戦って何らかの突破方法を見つけて成長してもらいたいんだけどねぇ……えっ、別にこの不利対面を設定するためにシスタールクスの出番を減らした訳じゃないよ? ……ないんだよ?
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