Act.9-213 臨時班の再始動と三大闇ギルド同盟の崩壊(2) scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
ディラン、マグノーリエ、レナード、興梠とは屋敷で別れ(ディランとマグノーリエはそれぞれアクアとプリムヴェールが戻ってくるまで屋敷に待機することになり、レナードは暴れ足りなかったらしくバトル・アイランドへ。興梠は諜報員の任務に戻った)、カノープス、アクア、プリムヴェール、シスタールクスと共にフォルトナ=フィートランド連合王国の辺境へと向かった。
『冥王の心臓』のアジトがあるのはヴェデオラ大火山の火口の中らしい。
毎年噴火している活火山で、ヴェデオラ大火山を要するヴェデオラス伯爵家の領土は他の貴族と比較してかなり広いものの、火山周辺にはほとんど住むことができず、噴火の度に火山弾や火山灰や熔岩流に悩まされていたという。まともに暮らせる領土は噴火の影響の少ないごく僅かな場所に限られ、地熱の利用や温泉産業などで商売に繋げることも難しかったようだ。
…….そう、過去形なんだよねぇ。ここ数年は噴火の数も減少傾向で、最近はめっきり噴火しなくなったらしい。
そこで、つい先日火山が休眠期に入ったのかを確認するために調査団を派遣したところ、連絡が取れなくなってしまった。流石にローストス=ヴェデオラス伯爵も「これはおかしい」と思い、フォルトナ=フィートランド王国の王国政府の力を借りようと出発しようとする寸前だったみたいだ。
「アネモネ閣下とアクア様に来て頂けて本当に助かりました。……調査団にはヴェデオラス伯爵領の領軍の中でも腕利きを選定していましたから連絡が取れなくなって正直かなり拙い状況だと思っていたのですよ。一領主の力ではどうにもならない状況に陥っているかもしれませんし、王国政府か多種族同盟の協力をどうにか取り付けたいと思っていたところでした」
「まあ、確かにボク達が掴んだ情報を踏まえると王国政府賀多種族同盟が動くべき状況ですねぇ」
「ということは、アネモネ閣下は今回の異変について何かご存知ということですか?」
「……まあ、断定はできないけど関与している組織に関しては間違いないと思うよ。ローストス伯爵は『冥王の心臓』という闇ギルドをご存知かな?」
「えぇ、まあ、噂くらいは。最近結成されたという四大闇ギルドの一角ですよね? ……まさか、その『冥王の心臓』が!?」
「まず、火口をアジトにしているのは間違い無いと思うよ。恐らくあのメンツだと『冥王の心臓』の最高幹部、九冥公の一人であるヴィクター・アレハンドロの魔導機兵だと思う。噴火をコントロールすることができる何かしらの魔導機兵を使って潜伏できる環境を形成して潜伏していたところ、派遣された調査団に発見されて口封じ……ってところじゃないかな?」
「しかし、仮に噴火しないとしても火口内部で人間が暮らすことができるでしょうか?」
「『冥王の心臓』は恐らく魔導戦艦ナグルファルに匹敵する戦艦を保有していると思う。ヴィクターの技術力なら材料さえ揃えば完成させることができる筈だからねぇ。見知らぬ世界に飛ばされたなら移動手段は最優先で準備する筈。……まあ、これに関してはボクの持っている情報から組み上げた単なる推理だから間違っている可能性もあるんだけどねぇ。それを確かめるためにもまずは実地調査をしてくるよ」
ローストスは今回の件に関して領主として支援を惜しまないと言ってくれたけど、丁重にお断りした。
宿泊して長期戦するつもりはないし、武装や食糧などの物資に関しても必要ないからねぇ。
カノープス、アクア、プリムヴェール、シスタールクスと共に空歩と神速闘気を併用して目的地の火口の上空に十五分程度で到着、そこから一気に下降して火口に突入した。
「竜巻暴域!」
「術式霧散」
ボク達の突入と同時に発動した大規模破壊を引き起こす大竜巻を発生させる戦略級魔法『竜巻暴域』を無意味なエネルギーの羅列へと分解して無効化する。
攻撃を仕掛けてきたのは「冥王の心臓」の最高幹部、九冥公の一人で『死神』の異名を持つ男――ゲイルストリームか。
「ローザ、彼をもらってもいいかな?」
「どうぞ、お父様」
「では、遠慮なく仕留めさせてもらうよ」
神速闘気の濃度を高めたカノープスは武装闘気と覇王の霸気を異様に厚みのある黄色く鋭い爪に纏わせた。漆黒に染まった爪は小さな黒い稲妻を放ち、コートの袖から覗く手首から手全体にかけて、筋肉の筋がビキリと立って脈打っている。
「裂空の大鎌!」
暴風を収束した鎌『裂空の大鎌』を構えて勢いよくカノープスに迫るゲイルストリームだけど、彼の大振りの鎌の一撃は悉く躱され、鋭い爪による一閃で切り裂かれた首が宙を舞った。
残った首無しの死体はゲイルストリームの首と共にマグマ溜まりに落下して二つの小さな火柱を発生させる。
「九冥公、早くも一人撃破だな。……しかし、闇ギルドを束ねる者達と聞いていたが、存外そこまで厄介な敵ではないのだな」
「まあ、警戒するべき相手ならもっとしっかりとメンバー選定をするよ。ただ、早めに潰しておくべき相手ではあるからねぇ。……油断禁物だよ、プリムヴェールさん。……って、わざわざ言わなくても油断しないか」
そのまま火口に停泊していた「冥王の心臓」のアジトと思われる魔導戦艦に突入しようと目論んだけど、そう簡単にはいかないらしい。
『あれれェ〜? ついさっき「六魔修羅道」のアジトを襲撃していたよねェ〜? なんでもうここまで来ているのかなァ〜?』
現れたのは七体のエセイリア=ドーマジックルと、「冥王の心臓」の最高幹部、九冥公の一人でスキンヘッドの重力魔法の使い手グラビタシオン。
『でも、あのエルフの女の子はいないねェ。……ねぇ、同族が殺されてどんな気分?』
「ダークマター・フォージ」
エセイリアはプリムヴェールを煽って冷静さを削ごうと思ったみたいだけど、プリムヴェールはエセイリアの言葉を無視して次々と圧縮した暗黒物質を剣先から飛ばしてエセイリアを撃破していく。
「マグノーリエ様がお前如きの力で死ぬ訳がないに決まっているだろう? 何を寝ぼけたことを言っている」
抜き払った『ムーンライト・フェアリーズ・エペ・ラピエル』を鞘に戻さず、今度は魔導戦艦の翼に向かって「ダークマター・フォージ」を連発し、魔導戦艦の飛行能力を奪った。
これで「冥王の心臓」側に撤退の選択肢は無くなった。……まあ、これだけやられて撤退なんて選択肢を選べるほどプライドがないとは思えないけどねぇ。
「――ッ! 貴様ら全員マグマの中に叩き落としてやるッ!! 加重超重力!!」
「その程度でやられるかよ!! 【天使之王】――天使化!! 【劇毒之王】――劇毒八岐蛇!」
アクアは呆気なくグラビタシオンが展開した超重力域を突破し、天使の翼を羽搏かせてグラビタシオンに肉薄、そして至近距離から無機物すら汚染し侵食する真紅の毒竜を放った。
真紅の毒竜に飲み込まれたグラビタシオンは一瞬にしてグラビタシオンの身体を溶かしてしまう。グラビタシオンの身体を溶かした真紅の毒はそのままマグマ溜まりに落下してマグマの中に溶けていった。
グラビタシオンの超重力が何故アクア……というかボク達全員に効かなかったのか、理由は二つある。
一つ目はボク達全員を落下させようと魔法の対象を分散させたから。これにより、一人に対する魔法の効き目が大きく減ることになった。
そして、二つ目がボクとアクアが同時に発動した魂魄の霸気《削弱》と魂魄の霸気《弱体化》を同時に浴びたこと。それにより、ただでさえ弱体化していた「加重超重力」が更に弱体化し、ほとんど効果のない魔法になっていたって訳。
まあ、仮にフルパワーでも闘気と空歩を上手く使えば重力圏から突破することも可能だったんだけどねぇ。
「さて、そろそろ打ち止めかな? 魔導戦艦の中に潜入しようか?」
エセイリアが仕掛けてくる気配もないし、他の九冥公も出てくる気配がない。残るメンバーは魔導戦艦の内部で仕掛けてくるつもりなのかな? と思いながらアクア達と共に戦艦の内部に(船体に「イービルストーム」を放って穴を開けて)潜入しようと裏武装闘気の剣を創り出して構えた絶妙なタイミングで船首から内部へと続く扉が開き、無数の黄金の焔がボク達に向けて放たれた。
『随分と派手に暴れてくれているみたいだなぁ? 何者だ?』
青み掛かった銀色の短髪に片眼には十字の傷。金色の鎧を纏った黄金の焔の操り手。
「『冥王の心臓』の最高幹部、九冥公の一人オーロ=ブルチャーレだねぇ」
「不死鳥の尾羽」のギルドメンバーである火属性魔法の使い手ジャッロ=ブルチャーレの父親であるオーロ=ブルチャーレは、実は既に命を落とした屍人である。
「幻界魔狼」の最高幹部、呪華七皇の一人に数えられるカズワリオが生み出した世界を破壊する生態兵器である『呪皇』の一体――死霊術師のワイゼルが生み出した生きた人間に最も近い屍人の最高傑作で、『大魔闘時代最後の騒乱〜闇を照らす不死鳥の光〜』においてはジャッロと死闘を繰り広げた。
二人の屈折した親子の関係、そして最後の和解の場面とオーロの消滅は『大魔闘時代最後の騒乱〜闇を照らす不死鳥の光〜』の屈指の名場面なんだよねぇ。……まあ、その名場面の再現はジャッロの召喚が確認されていない現状では不可能なんだけど。
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