Act.9-208 臨時班の再始動と三大闇ギルド同盟の崩壊 scene.1
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
いつも通り王女宮の仕事を終えてから、ボクの管理している屋敷の一つへ移動する。
この後、臨時班の任務に行くことになっているけど、その前に一つやらないといけない用事が入っていたからねぇ。
ああ、例の武闘大会で目星をつけた者達の勧誘じゃないよ? そっちは既にあの武闘大会の時点で勧誘済み。
ザックスは渋りまくっていたけど、メアレイズとダルフに圧を掛けるように連絡を入れたから逃げきれないんじゃないかな? ……あれほど優秀な人間を遊ばせておく余裕は多種族同盟にはないからねぇ。
アトラマとベンヤミンは意外と簡単に合意をもらえた。
クレスセンシアは条件付きの勝負で負けたから拒否権は無かったんだけど、同じパーティのメンバーを時空騎士にすることを条件に出してきた。まあ、『紅の華』は有名な冒険者パーティだから時空騎士になってもらいたいとは思うけど、一応実力は確認しておきたいからねぇ。他のメンバーに時空騎士の適性検査を行うことを条件として出す形でクレスセンシアには時空騎士になってもらうことになった。……まあ、負けたんだからボクがクレスセンシアが出した新たな条件を拒否しても問題は無かったんだけどねぇ。でも、それでクレスセンシアを引き抜く形でパーティを崩壊させてしまうのはなんだか申し訳ないし、チャンスは平等に与えられるべきだと思ったんだよ。
……と、話が脱線し過ぎた。この屋敷に来た目的は「六魔修羅道」傘下のパーティ「餓狼鬼士団」のメンバーに処置を施すためだよ。
まあ、結局ところはいつも通り諜報部隊フルール・ド・アンブラルの諜報員にするんだけどねぇ。でも、今回は今までとは別の方法を試そうと思っている。
「おはようございます。最後の夜は楽しんで頂けたでしょうか?」
「さ、最後の夜だと!? アネモネ! 命を助けてくれるって言ったじゃねぇか!?」
「あら? 私は命だけは、と言いましたわ。それ以外に関してはどうなろうと構わないと確かに申し上げたつもりですが……あら、伝わっていなかったのですねぇ?」
「――ッ! 悪魔めッ!!」
「あらあら、悪魔にも良い娘はいるのですよ? まあ、それはさておき……本当に無傷で助けてもらえると本当に思っていたのですか? そちらは私を殺すつもりで来ていたのに? 殺そうとする以上は殺される覚悟をしてくるものではありませんか? 殴っていいのは、殴られる覚悟がある人間だけです。反撃される覚悟がないなら戦場に立つべきではない。……さて、これまで私はその人が経験した以上の人生をぶつけることで精神を粉々にし、生じた隙を突いてある種の洗脳を施すという方法を取ってきました。『夢幻開闢』を使用して飴と鞭でゆっくりと洗脳する手法も、被害者の過去や疑似的な過去を追体験させる方法も根本的には同じです」
「――ッ! なんてことを平然と言ってやがるんだよ!? この女、なんて邪悪なんだ!?」
「ご安心を、皆様生まれ変わったことを心から喜んでくださっている方ばかりですわ。まあ、私はアイゼン、貴方の言う通り邪悪ですよ。自覚はありますわ。……そんな邪悪を女だからとばかりにして軽んじ、私の本性を正しく認識できなかった……その結果がこの現状ということだと私は思います。残念でしたねぇ」
「――ッ!? クソっ! クソっ!! クソっ!!」
「さて、今回は少々手法を変えてみたいと思います。先程述べた方法はある種の洗脳によって心を変えるというものです。当然ながら過去の記憶を持ち合わせ、その過去の自分と決別してもう一つの自分へと生まれ変わっているため、以前の自分と洗脳後の自分は地続きになっていることになります。しかし、今回はその地続きになっているものを取っ払い、正真正銘生まれ変わって頂きたいと思うのです」
「おっ、おい! それはつまり死と変わらないってことじゃねぇか!?」
「えぇ、その通りですわ。洗脳の場合は過去の自分は消えません。その過去の自分とは決別し新しい価値観を持って生きることになりますが、今回施す処置が終わった後は完全な別人に生まれ変わることになるでしょう。……肉体的には死を迎える訳ではありません。しかし、貴方達が貴方達である痕跡は一切合切削除させて頂きます。この処置を終えた後の貴方達を貴方達であると捉えるのはかなり難しいでしょうねぇ。この辺りは自己という問題とも関わってきます。……まあ、無駄になることを承知の上で説明していくと、今回は自我と記憶に魔法技術で干渉します。自我……つまり、自分を自分たらしめる意識的なものは確固たるものとして存在しているように思えますが、実際には絶えず過去に接続し、記憶を参照することで維持されていることになります。まあ、その記憶を完全に消したとしても意識的なものは残るため、完全にその人らしさを消すことはできないのですけどねぇ。即ち、自我とは人格と記憶によって構築されているものになります」
まあ、実際にはそれだけで説明できない部分もあるんだけどねぇ。魂と転生の問題がその一つ……だから、神界では記憶は脳に記録されると同時に魂にも集積されると考えられている。
より正確には阿頼耶識という名の魂の中心となる種子と魂そのものの中に。……この魂に保持された記憶はほとんどの場合に消えてしまうのだけど、魂の強度が高くなっていれば消えることなく転生して前世の記憶を持った転生者が生まれることになる。まあ、でもこの阿頼耶識に蓄積された記憶は簡単に参照できない代わりに魂が破壊されることさえなければ消えることもないんだけどねぇ。
「では、実際にやっていきましょう。まずは……ゼッケ=ノヤールさん、貴方からにしましょう」
「おい、近づくなッ! やめろ! やめてくれ!!」
必死に暴れ、捥くゼッケの口に『分身再生成の水薬』を飲ませる。予め作っておいたデータを貼り付けてゼッケを美女に変えた。
「おい、何がどうなって……声が!?」
「ゼッケだよな……ゼッケが美女に……」
こんな状況でも「あのいい女を抱きたい」なんて欲望を抱いているアイゼン、サッフォス、ファルジェス、ダイスン、ヴェンドル……いや、そいつ美女になったけど中身はゼッケだよ? 同じパーティの魔法師だよ? つくづくエロ猿だねぇ……まあ、ブライトネス王国の冒険者ギルドでやったことを考えればこういう反応をするのは当然か。……結局、欲望のままに行動していただけだからねぇ。
「さて、そろそろゼッケさんとはお別れの時間です。名残惜しくは……別にありませんねぇ。さようなら」
「やめろ! やめてくれ! ち、近寄るなァァァ…………」
被検体達には詳しく説明する気が更々無いけど、ゼッケに使ったのは「記憶消去魔法」を基に再構成した賢國フォン・デ・シアコルの魔法の派生、「飴玉取出・記憶」と「飴玉取出・人格」の二つ。それぞれ、その名の通りだけど人格と記憶を飴玉として取り出すことができる。
「飴玉取出」系には他に「飴玉取出・感情」があって、これは感情を取り出すことができる。
この「飴玉取出」系の派生には意図した記憶や感情、擬似人格を飴玉の形で作り出す「飴玉生成」と「飴玉生成」や「飴玉取出」で作り出した飴玉を含め、あらゆる飴玉を複製する「飴玉複製」の魔法があって、対象になるものと魔法の種類の二項目で区分していくと全部で九種類の魔法が存在する。
断末魔は不自然なところで途切れ、ゼッケだった美女はそのまま意識を失った。そのゼッケを魔法のベールで包み込んでメイド服に着替えさせ、口の中に擬似記憶の飴玉を放り込む。
ゼッケの記憶と自我の飴玉を握り潰して粉々にしながら数分待つと、ゼッケが意識を取り戻した。
「わ……私は……私は……」
「おい、ゼッケ! 大丈夫か!!」
「ゼッケ? ゼッケとは、どなたですか? わ……私は……くっ、頭が、割れそうに、痛い……私は……私は」
今頃ゼッケだった彼女の中では急速に失われた自我に変わる新たな自我が急速に構築されている最中だろう。……さて、ゆっくりと紅茶でも飲みながら待ちますか?
アイゼン達から射殺すような視線を向けられる中で水魔法と火魔法でお湯を作り出し、紅茶を飲んでいると、どうやら構築が終わったらしい。ゼッケの譫言が止まった。
「貴女の名前を聞かせてもらってもいいかしら?」
「私はルバーブ=ブリュフィンドスですわ。アネモネ様に拾って頂き、諜報員として育てて頂きました」
「ゼッケ! お前は『餓狼鬼士団』の魔法師ゼッケ=ノヤールだろ!?」
「アネモネ様、この方達はどなたなのでしょうか?」
絶望の表情に染まるアイゼン達と、それを不思議そうに眺めるゼッケだった美女――ルバーブ。
「この方達は『餓狼鬼士団』というパーティの方々ですわ。冒険者ギルドを占領して乱暴狼藉に加えて女性冒険者に手を出そうとするという最悪の愚行を犯し、私が一度懲らしめたのですが……その時のことを逆恨みしてあろうことか『六魔修羅道』の傘下に入り、復讐しようとしたのです」
「まあ!?」
「この方達にはどのような処置を施した方がいいとルバーブさんは思っているのかしら?」
「そうですわね。そのまま殺してしまうよりも人格と記憶を魔法で消し去って女の子として再誕させるのが良いと思いますわ。きっと最低なクズでも素敵な女の子に生まれ変わることができるでしょう」
「ぜ、ゼッケ! 目を覚ませ!!」
「どんな可愛らしい女の子になってくれるか、私とても楽しみですわ!」
アイゼン達の顔が絶望に染まる中、ボクは一人一人順番にアイゼンの仲間達を諜報員の女の子へと変えていく。
サッフォス=マトフォールは、ステビア=アーガロットに。
ファルジェス=デルドファは、コンフリー=リィドスに。
ダイスン=スフェラは、サントリナ=ナテンサグに。
ヴェンドル=ポートマスは、バジリコ=コットパットに。
「やめろ! もうやめてくれ!!」
「アイゼンさん、さようなら」
そして、最後にアイゼンにも同様の処置を施して終了。
フェンネル=ルナイトという新たな諜報員が生まれた代わりにアイゼン=ジーンナムという存在は完全に消えて無くなり、「六魔修羅道」傘下のパーティ「餓狼鬼士団」はこの瞬間、完全にユーニファイドから姿を消した。……まあ、全て自業自得なんだけどねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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