Act.9-201 恋色に染まる新年祭(2) scene.6
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「なかなか凝った世界観ですね。これも先生が?」
「残念ながらこれはボクの考えたものじゃないよ。フリーフォール系のアトラクションというものが存在することは教えたんだけど、そこからは全てド=ワンド大洞窟王国に新設された科学技術班とテーマパーク「アンダーグ・ランド」を運営する株式会社ドワンドランドの制作チームが協力して作り上げていった。……ボクもここに下見に来た時は感動したよ。世界観の作り込みが凄いからねぇ。まあ、それだけではないんだけど」
株式会社ドワンドランドの制作チームはドワーフ族以外からも人員を集めて結成された少数精鋭のテーマパーク制作グループの頭脳と言えるチームである。
仕事はコンセプトの設定と、施設の図面を描くこと、後は小道具製作の指示を出すこと、などなど。テーマパークのアトラクション制作の陣頭指揮を取るブレーン的な存在で、テーマパーク「アンダーグ・ランド」のアトラクションのほとんどはこの制作グループが指揮をとって作られたものということになる。
このチームの面々がなかなか癖の強い人ばかりで、圧倒的な知識量を誇る退官した元魔法学園の教員、古代遺跡のロマンに取り憑かれたエルフ、オーバーテクノロジーに挑むドワーフの若き天才技師、世界各地の物語を収集していることで知られるユミル自由同盟で最も著名な小説家、天才肌の芸術家として知られる人魚族という、本当によくこんな連中を集められたな、という面々で、それぞれの得意分野を活かしてそれぞれのアトラクションの制作の陣頭指揮をとっているそう。
まあ、直接顔を合わせたことはないんだけどねぇ。ディグランからつい先日詳しい話を聞いただけだし、ボクがアトラクションの制作に携わっている間にも交流は生まれなかったし。
「では、この呪われたホテルという設定も……」
「……なんかその手の怪談話をアトラクション制作のミーティングでディグラン陛下達にしたような記憶はあるけど、まあ、恐らくオリジナルだねぇ。あっ、そういえばボクも小豆蔲からのお土産で阿弗利加のとある部族に伝わる呪いの偶像なんてものをもらったこともあったっけ? ルーネスさん、どう? 欲しい?」
「流石に先生からのプレゼントでも欲しくはないですね」
「まあ、なんでも小豆蔲さん曰く部族間の紛争を止めた際に貰った品らしくて、持ち主の六百六十六回の不幸を与えた後、一回の素晴らしい幸運を授けてもらえるというものらしい。一応累積するみたいだけど、この偶像の力は強大でその部族が保有する前に所持していた部族は呪いとしか思えない天変地異などで滅んだらしい。その正体は、大昔に召喚されたセーイ・セーイ・セーイっていうある種の精霊? 悪魔? まあ、そういった類のものでねぇ。小豆蔲さんの手に渡ったところで、小豆蔲さんが中に入っていたセーイ・セーイ・セーイを倒しちゃって今はただの偶像でしかないらしい。今までも特に実害は発生していないよ?」
「……では、先生を中心に絶えずトラブルが発生していることに、その偶像は関係ないのですね」
「ルーネスさん、ボクをトラブルメーカー扱いって酷くない!? まあ、でも割と巻き込まれ体質の自覚はあるよ。ただ、これは過去の因縁というか、縁というか、こういうものの方が近い気がする。……ちなみに、セーイ・セーイ・セーイは不運を物ともしない、または不運を不運と思わない人物を好むと言われていたらしい。まあ、特定の人間にとっては凄い幸運のアイテムになりそうだよねぇ。もう外見しかないんだけどさぁ」
ボクって割とこういう曰く付きの品物を持っていたりする。大抵は牙を剥く前に処理をしてしまうから中身空っぽなんだけどねぇ。
「さて、そんな話をしている間にエレベーターに到着か」
「先生、エレベーターがいくつかありますね。何か違いはあるのですか?」
「実はエレベーターごとに動き方が違っているらしくてねぇ。エレベーター前のキャストさんに希望を伝えれば、あんまり混んでいない時間だとエレベーターを指定できるみたいだよ。エレベーターは六つあって、難易度は六段階……まあ、でも最初だしとりあえず指定せずに行けばいいんじゃないかな?」
「そうですね。……そもそも基準がないですし」
キャストに案内されたエレベーターはC、ちなみに段階は六段階中の四段階に位置する。
他の六人のゲストと共にエレベーターに乗り込み、三点式シートベルトをつける。
乗り込んでシートベルトを嵌め、キャストが確認を終えて降りると同時にエレベーターが作動、一気に上へと登っていく。
そして、最上階――オーツウェン氏の執務室に到達した時――。
『呪いは本物だった。……幾度となく死の瞬間を、あの恐怖を繰り返す。誰か……誰か、私は救って……』
『ぐひゃひゃひゃひゃ、ようこそ諸君! 恐怖の誘惑に取り憑かれた怖いもの知らず達よ! さあ、この世とお別れをする覚悟を決めるがいい! 永劫の恐怖を味わえッ!!』
緑色に輝いた偶像の瞳から悪魔のような姿のホログラムが映し出され、緑の炎が手から放たれると同時にエレベーターは最上階から急速に落下、その後僅かに上昇すると今度は右に左にと高速で移動し、急速に上昇、止まってから二分後落下、落下、少し上昇、落下、上昇、少し落下、上昇、左と右に揺れ動き、上昇と少しの下降を繰り返しながら最後の落下ポイントまで辿り着き、そこから一気に落下する。
ちなみに最高難易度だと壊れた観覧車の如く右回転、左回転なんてことまで始めるから本当に意味不明なんだよねぇ。……フリーフォール系アトラクションって一体。
なんでも、エレベーターを動かす区画が立方体を無数に繋げたものなっているらしく、組み替えも可能らしい。やろうと思えば、もっと意味不明な難易度のものも(比較的簡単に)作れるんだとか……凄まじい技術力だよねぇ。
割とダメージを食らっているゲストが多い中、ルーネスはケロッとした表情でシートベルトを外して立ち上がった。
「楽しかったですね」
「レベル四とはいえ、そこそこキツイ筈なんだけどなぁ」
「この落下と同時に味わえるあの浮遊感、背中のゾクゾク、本当にたまらないですね。本当はもう一回乗りたいところですが……そろそろ時間なのですよね?」
「そんなに気に入ったならもう一回って言いたいところだけど、『ビックバンド・スコール』の時間を考えるとそろそろ動き出さないといけないねぇ。……ちょっと予想より時間が掛かってしまったし」
「長蛇の列でしたからね」
『氷炎の大山脈〜Photoros Dragon Legend〜』よりも長い待ち時間だったけど、後々聞いたところこの時間帯から混み始めて『氷炎の大山脈〜Photoros Dragon Legend〜』でも六十分以上の待ち時間になってしまっていたらしい。
ニューイヤーのスペシャルパレードを目当てに新年の挨拶を早々に済ませて家族や親戚とテーマパーク「アンダーグ・ランド」にやってきたというゲストも多かったらしく、『氷炎の大山脈〜Photoros Dragon Legend〜』を降りた少し後くらいからゲストの入場が急速に増えていたそうだ。
チケットは一日だから朝から来るのが正しいんだろうけど、そういう訳にもいかないっていう人が多いのがニューイヤー……だから、こんな変則的な客の増加という状況になったんだろうねぇ。
まあ、でも残っているのは予約済みの『ビックバンド・スコール』だけ。この時は深い事情は知らないものの混んできたことだけは察知していたボクだけど、ルーネスとのデートに関しては何か変更するようなこともなく、サレムとアインスとのデートで注意すればいいや、とだけ思っていた。
◆
『ビックバンド・スコール』――その名の通りスウィング・ジャズを中心とした音楽のレヴューショーであり、音楽をテーマとした区画の中心にあるミュージックシアターで、一日に三度の公演が行われている。
楽曲はボブ・シールとジョージ・デヴィッド・ワイス作曲のルイ・アームストロングの楽曲「What a Wonderful World」、エドワード・ケネディ・"デューク"・エリントンの代表曲「It Don't Mean a Thing (If It Ain't Got That Swing) 」、バート・ハワード作詞作曲のジャズのスタンダード・ナンバー楽曲の「In Other Words」、ジミー・マクヒュー作曲のジャズのスタンダード・ナンバーである「On the Sunny Side of the Street」、そしてボクの十八番でもあるルイ・プリマ作曲のジャズのスタンダード・ナンバー「Sing, Sing, Sing (With a Swing)」という構成になっていて、アンコールでは五つのジャズ系の曲からランダムに演奏が行われる。
この『ビックバンド・スコール』はボクも監修として参加させてもらった企画の一つで、テーマパークのアトラクションの一つとは思えないほど高い完成度を誇る。まあ、これはボクのおかげとかそういうんじゃなくて、素晴らしい人材を集めたド=ワンド大洞窟王国の上層部や、より完成度の高いものに仕上げていこうとする向上心の高いキャスト達が凄いんだけどねぇ。
さて、ボク達ハイレベルなジャズ演奏が続き、熱狂に包まれたミュージックシアターでジャズを堪能していた筈なんだけど……そう、筈だったんだけど、なんか雲行きが怪しくなってきた。
「「「「「アンコール! アンコール!!」」」」」
恒例のアンコール……うん、ここまではいいんだよ。
その「アンコール」コールが終わった瞬間にボクの座席にスポットライトが当たり、なんか紹介が始まって……いやいや、ボクってただのゲストだよ? ルーネスとデートをしに来ただけなんだよ? なんで当たり前みたいにステージに上がれみたいな雰囲気になっているのかな?
キャストを睨め付けても効果なし。だったら意趣返しと、ルーネスに声を掛けてステージに上がった。
まさか、フォルトナ=フィートランド連合王国の王太子(演奏力未知数)までステージに連れてくるとは思わなかったのか、『ビックバンド・スコール』の支配人の顔が引き攣っている。
「ご紹介に預かりましたアネモネですわ。本日はプライベートで遊びに来たのですが、まさかステージに呼ばれるとは思っておりませんでした。とはいえ、流石にこの熱狂と期待に応えないという訳にも参りません。曲はアンコールのレパートリーにはありませんが、『Jazz Storm 〜Sing! Swing! and Beat!〜』を、私がトランペットを、ルーネス殿下には……そうですねぇ、サックスをお願いしてもいいでしょうか?」
『統合アイテムストレージ』からサックスを取り出してルーネスに手渡す。ボクの思い出が詰まった大切な楽器の一つ……それを貸すということはそれだけルーネスのことを信頼しているってことなんだけど、この気持ち、伝わってくれるかな?
「さあ、『ビックバンド・スコール』のキャストの皆様、この怒涛の演奏についてきてくださいねぇ!! 参りますッ!!」
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