Act.9-200 恋色に染まる新年祭(2) scene.5
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
デートコースは三人とも『氷炎の大山脈〜Photoros Dragon Legend〜』スタート。
そして、パレードを特等席で見られることがウリのレストラン『レストラン・ド・ワーフ』を四席分予約しているので、個別デートは『氷炎の大山脈〜Photoros Dragon Legend〜』を出てからレストランを予約したパレードの五分前までということになる。
その間に回れるのは移動距離・並ぶ距離を勘案して二つか三つ……まあ、それぞれ不公平がないように二つずつくらいにしようかと思う。リピート希望が出たら方針を変えるけどねぇ。
『ここは、フォトロズに聳え立つ氷の最高峰。この山には氷の大いなる竜が住んでいるという伝説がある。我々、調査隊はこの伝説のある最高峰の地下に存在するという巨大な地下迷宮の調査に赴いた。ドワーフ族によって開拓された坑道により形作られた迷宮の中には、神秘の輝きを放つ大いなるルビー、ピジョン・ブラッドが眠っているという。我々の目的は、このピジョン・ブラッドを発見し、本国に持ち帰ることである。しかし、巨大な地下迷宮には未だ調査が進んでいないところも多く、危険も多い。調査隊諸君には、気を引き締めて調査をしてもらいたい』
以前収録したボクの声に目を輝かせる三人を微笑ましく見ているうちに、琉璃が声を収録した乗車付近のアナウンスが聞こえるスタート地点に到着、そこからルーネスとサレムを先頭に、ボクとアインスを後方に丁度四人のトロッコに乗り込み、トロッコが発進する。
ちなみに、四つトロッコが連なっている中での最前列――臨場感が一際感じられるいい場所に配置されて良かったねぇ。
「これも全部圓先生が作ったの?」
「まあねぇ。声の収録は琉璃とカリエンテとスティーリアにお願いしたけど、それ以外はボクの施工だよ」
「……しかし、それにしては少し拍子抜けな気もしますね。先生ならもっと強烈な仕掛けを幾重にも用意しているのではないかと思っていたのですが……」
「サレム、君は圓先生のことを何だと思っているのかな?」
勿論、この会話は走るトロッコの中でのもの。……やっぱり、ゆっくりと下降しつつ屑石が煌めく星空の下のような幻想的な世界から菌類や胞子植物、食虫植物のような独自の植物のような生物が支配する別世界へと変化していく様を楽しむ前半部の時点では刺激が足りないのかケロッとしているよねぇ。まあ、アスカリッドもこの辺りで「しかし、拍子抜けじゃな。……ゆっくりと下に進んでいるようじゃが、急降下も急上昇も急旋回もなく、正直、『ホワイト・ローラーコースター』の方がスリルはあったぞ?」なんて平気そうな顔でフラグを立てていたからこの辺りで三人が音を上げるなんてあり得ないんだけど。
……というか、サレム。それって何気にフラグになってない? アスカリッドみたいにここからの後半戦で気を失ったりしないよねぇ?
そして、いよいよ怒涛の後半戦へと続くエリアに差し掛かる。具足蟲と地底の青小鬼の棲む地底世界をトロッコは更に地下はと進んでいき、そして――。
最下層を支配する岩石のような殻に覆われた魔物――岩鎧の魔王の出現と同時に唸り声を上げた瞬間、爆音が鳴り響き、フラッシュと共に炎が吹き出し、そこから一気にトロッコは急上昇アンド急旋回、そして急降下の連続――。
「これは、気持ちいいですね!!」
「癖になりそうです! これを待っていたんです!!」
「楽しいよ!!」
まあ、アスカリッドみたいに気を失ったりはしないか。
三人とも楽しそうで何よりだよ。
「ま、圓先生! 火が!!」
「アインスさん、火も含めてギミックは完璧に計算されているからねぇ。怪我をすることはないから魔法での迎撃はやめようねぇ。機材が破損すると修正に労力を使うから」
「そうだよね、先生が作ったものなんだから安全だよね!」
アインス、ボクに対する信頼感がちょっと尋常じゃないんじゃないかな? まあ、何度もトロッコに乗っている人達にはダメージが生じないように設定しているし、仮に火や氷を浴びても即座に回復魔法が発動するようにトロッコに仕掛けが施されていたりするんだけどねぇ。
この回復魔法の仕掛けはディグラン達と試乗した時には無かったんだけど、その後のブラッシュアップの際に事前説明でした注意事項を無視して手を出したりした人に対する救済措置として用意されることになった。……あれから結局ズルズルと協力することになって、ボクが案を出したもの、実際に作ったもの、そういったアトラクションがいくつかあるんだよねぇ。
「さて、もうすぐゴールだねぇ。と、その前に最大の見せ場だよ」
「……圓先生、流石に古代竜を模した二つの像のブレスは」
「大丈夫大丈夫。というか、怪我人が出ているならアトラクションそのものが閉鎖されているからねぇ」
ルーネスとサレムが少しだけ不安そうにする中(アインスは完全にボクのことを信じ切っちゃったみたい。それはそれで心配しかないんだけど)、トロッコはいよいよ最終エリアに到着し――。
『我がブレスの前で滅びよ!! 火竜帝の咆哮』
『私のブレスで消し去って差し上げますわ! 白氷竜の咆哮』
スティーリアが猛烈な冷気と化した殺気を迸らせる中、二つのブレスは丁度目の前で直撃し――白い水蒸気を発生させた。
トロッコはその中に突っ込み――そのまま最後の急降下。
そのままトロッコは高速で降りて行き、傾斜が緩まると、そのままゆっくりと進んで最初の発車地点に戻ってきた。
「なるほど、先ほどのブレスの衝突には最後の急降下を隠すという意味もあったのですね。ブレスに注意を引きつけて、衝突の恐怖で無防備になったところに落下ですから、確かに普通の落下よりもスリルがありました」
「そのスリルがありましたって感想をあんまり表情変えずに言うからあんまり怖かったって気持ちが伝わってこないよ、サレムさん」
「まあ、怖かったよりもずっとワクワクしていましたし、楽しかったですから。圓先生と、ルーネスお兄様と、アインスと、みんなでこうしてアトラクションに乗れて本当に良かったです!」
「サレムさん、まだまだ本番はこれからだよ。さて、ここからは自由行動。三人とはそれぞれ個別にデートをする。デートコースは事前に決めてはいるけど、希望があれば早めに言ってねぇ。コース変更を加えるから」
まずはルーネスとのデートをして、ルーネスとのデートが終わった後に三千世界の烏を殺してサレム、アインスとのデートとそれぞれ個別デートをしていくことになる。
その前に『氷炎の大山脈〜Photoros Dragon Legend〜』のお代わりの希望者がいないかルーネス達に聞いてみたんだけど、今回は初回ということで色々なアトラクションを見てみたいそうなので、二周目は今のところ無しというのとになった。……まあ、時間が余れば乗ることになるかもしれないけどねぇ。それか、次回以降のデートかな? まだ予定とか全然決まっていないんだけどねぇ。
◆
ルーネスとのデートでメインに据えていたのは『ビックバンド・スコール』という音楽ステージだった。
公演終了がレストラン予約の十五分前なので、『ビックバンド・スコール』を見ることを考えると乗れるアトラクションは移動時間と並ぶ時間も計算に加えると恐らく一つか二つ……絶叫系などの人気アトラクションだと一つが限界だと思う。
当初はド=ワンド大洞窟王国が『ホワイト・ローラーコースター』と並んで渾身の作品と評する『ダークナイト・ハイジェット』(ボク達が視察に行った時点では存在しなかったもので、その後のブラッシュアウトの際に考案された闇の中をひたすら走る室内ジェットコースター型のアトラクション)に行こうかと思っていたんだけど、そこに向かう途中にルーネスが興味を持った別のアトラクションに急遽予定を変更していくことになった。
『ストレンジ・カースエレベーター』――これもド=ワンド大洞窟王国……より正確に言えばド=ワンド大洞窟王国に新設された科学技術班の高度な技術によって製作された、ボクがふと零した「フリーフォール型のアトラクションってそういえばないよねぇ」という言葉をヒントに魔改造に魔改造が重ねられたとんでもアトラクションで、当然ながらブラッシュアウトの際に考案された。
「縦横無尽に移動する呪われたエレベーターに乗るフリーフォール型? のアトラクション」と、説明の中に「?」をつけたくなるような内容で、エレベーターは前後だけではなく横にも移動、本当に縦横無尽に動き回る。
そんな浮遊感と疾走感が味わえ、ある意味でド=ワンド大洞窟王国でも最強クラスのスリルを味わえるこのアトラクションは、その中身が科学の結晶であるのに対し、その世界観はというと呪われたホテルというかなりオカルトじみたものになっている。
とある古代遺跡……王墓から発掘された石像の呪いにより所持者が何人も死亡してきたという曰く付きの石像を手に入れたドワーフの商人であるオーツウェン氏の保有するホテルがアトラクションの舞台となっており、コースにはオーツウェン氏が発掘したという設定の無数の(呪われていそうな)コレクションが設置されている。
過去の映像(という設定のドラマ)も随所で映写機で流され(この映像がまたモノクロでいい味を出しているんだよねぇ。この施設は本当に凝った作りになっていると思うよ)、オーツウェン氏と呪われた石像の物語を紐解きながら歩いていくと、いよいよゲスト達……つまり、訪れた客達はエレベーターホールに到着することになる。
これだけ世界観をしっかり表現して恐怖を煽り……からの、あれだからねぇ。一度デート前のコースの選定のために一通り乗ったんだけど、あの時は(ついつい楽しくて)テンションがおかしなことになっていたっけ。
正直、これほどのフリーフォール? 系のアトラクションをボクは経験したことがない。きっと、大倭秋津洲のフリーフォール愛好家も満足できる仕上がりになっているんじゃないかな?
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