Act.9-197 恋色に染まる新年祭(2) scene.2
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
スティーリアとの待ち合わせ場所はビオラ直営の氷菓専門店「Frozen」。
最近になってオープンしたお店で、すぐに予約が取れない人気店となってしまったんだけど、何とか予約を入れ(ビオラの会長権限を使ったんじゃなくて、ちゃんと正攻法で予約を取ったんだよ)、デートの出発地点にすることができた。
店内は暖房で少しだけ暖かくなっている。寒いのが好きなスティーリアは少し苦手かもしれないけど、これも全て美味しい氷菓を一年中食べられるようにという店側の配慮だから仕方がない。……スティーリアなら寒い時に寒いものを食べられるだろうけど、他の人じゃ難しいからねぇ。
「……ところで、店長のカンナさんがなんで同席しているのかな?」
何故か予約した特別室に当たり前のように同席しているカンナ=ゲネラリスにジト目を向ける。
ブライトネス王国の王都出身のカンナは『Rinnaroze』で食べたかき氷に感動し、その後究極の氷と材料になる果物を求めて多種族同盟国内を旅し、ユミル自由同盟の領内で氷に相応しい湧水を、緑霊の森で氷菓子に相応しい果物をそれぞれ発見し、満を辞してビオラの支援を受けて氷菓専門店「Frozen」をオープンしたというなかなか凝り性な女性だ。美味しいものに対する妥協は一切なく、材料の購入のための交渉もたった一人で請け負い、氷菓専門店「Frozen」を裏方として支えている。基本的には新たな材料、より良い材料の探求の旅に出ているか、厨房でかき氷を中心とする氷菓の製作を行っている人なんだけど……ほとんど接客対応はしないって聞いていたんだけどねぇ。しかも、氷菓子を運んだ後も居座っているし。
「世界一の味覚を持つ圓様に、氷を極めたスティーリア様。そんなお二方の感想を聞ける機会などなかなかありませんわ! 遅くなりましたが、是非私をこの場に同席させてください! お願いします」
「……本当に向上心に溢れた方だねぇ。……スティーリアさん、いいかな?」
『仕方ありませんわね。……本当は圓様と二人きりの時間を満喫したかったところですが』
「そ、それは本当に申し訳ございません。……で、ですが、より素晴らしい氷菓を作るためにはお二人の感想が……」
相変わらずの恐れ知らずというか、氷菓のためなら手段を選ばないというか、なおも食い下がるカンナに根負けし、結局、ボクとスティーリアはカンナの前で氷菓を食べることになった。
ボクが選んだのは抹茶とミルクのソフトクリームを乗せた抹茶のかき氷。お茶の葉も厳選し、フォルトナ=フィートランド連合王国と緑霊の森のお茶の葉をミックスした特性のものを使っているという。
一方、スティーリアが選んだのは桃のパフェ。桃のシャーベットに桃のジュレ、桃のアイスクリームに桃のコンポートととにかく桃尽くしだけど、しっかりと味わいを変えていて、相乗効果でより一層桃を感じられる仕上がりになっているという口コミを聞いている。
どうやら使う桃も複数の産地からそれぞれ適したものを選び取って作っているらしく、カンナの拘りが随所に見られる。……この妥協知らずの氷菓狂い(三食氷菓子を食べているそうだから、氷菓狂いって呼んでも問題はないと思う。ちゃんとしっかり栄養のある食事を取るべきだと思うんだけどねぇ。早死にするよ)に、正直、氷菓というジャンルでは絶対に勝てないと思っている。
『美味しいですわ!』
「本当に美味しいねぇ。やっぱり氷菓じゃカンナさんに勝てないよ」
ボクとスティーリアの感想を聞き、パァっと顔を綻ばせるカンナ。流石は氷菓に命を賭けているカンナ、氷菓を褒められた時の感動も筆舌に尽くしがたいものなんだろうねぇ。
氷菓を食べ終えたところで支払いを済ませてスティーリアと店を出る。
店を出る直前、カンナから「もし可能でしたら、今後、新作の氷菓を作った際に試食をして頂くことはできないでしょうか?」と期待の篭った視線を向けられ、困惑した表情になったスティーリアと相談してから二つ返事で引き受けた。
……まあ、カンナの舌が正しいと思ったものはボク達が判断する間も無く美味しいものだと思うんだけどねぇ。
正直、これほどの名店の氷菓の新作の試食となれば希望する者も多いんじゃないかと思う。流石にただで食べさせてもらうのは申し訳ないし、試食に伺う際には何かしらの手土産を持ってきた方がいいかもしれないねぇ。
◆
氷菓専門店「Frozen」を後にして、続いてスティーリアと共に向かったのは聖都にようやく完成したスケートリンク。
今日はボクが貸切にしているので客はいないけど、新年祭の時期じゃなければ貸切にするのも困難なくらい人気を博している。なかなか経験できるものじゃないからねぇ、アイススケートって。
「Shall We Dance?」
『ええ、喜んで♡』
音楽は録音、観客は無し、少しだけ寂しい雰囲気ではあるけど、氷上で二人だけの世界を作るボク達には関係ない。
互いに見気で相手の考えを読み合い、リフト、ツイストリフト、スロージャンプ、ソロジャンプ、ソロスピン、ペアスピン、デススパイラル、ステップシークエンスとそれぞれ決めていく。競技をしている訳ではないから互いに自由気儘に、思うがままに……といいつつ、四回転半とか、五回転とかガンガン跳んでたりするんだけどねぇ。
何よりも重要なことはスティーリアに楽しんでもらうこと。そのためにボクは全力でサポートする。
氷の上を生き生きとした表情で舞い、顔を綻ばせるスティーリアを見ているとボクまで笑顔になってくる。
二時間ほど楽しんだ後、ボクとスティーリアは観客席に移動した。スティーリアにも内緒で設置しておいたカメラから映像を「E.DEVISE」に転送し、編集を進めながらボクはスティーリアを伴ってスケートリンクを出た。
辺りはすっかり暗くなり、漆黒に染まっている。
街灯に照らされた道をスティーリアと共に歩き、目当ての場所に到着した頃、その漆黒の闇を切り裂くように、静寂を切り裂く轟音と共に夜空に一つの巨大な華が生まれた。
夜空を彩る巨大な打ち上げ花火が消えたのを皮切りに次々と夜空に花火が打ち上げられ、競うように黒い背景に巨大な花を咲かせていく。
『美しい花火ですわね』
「新年のお祝いで打ち上げ花火をしようかという話になってねぇ。デートコースを考える時に是非スティーリアさんと一緒に見たいと思ってねぇ。……さて、そろそろかな?」
雪の結晶を彷彿とさせる純白の花火が打ち上げられ、夜空を白い輝きが彩った。
「これがスティーリアさんへの一つ目のプレゼント。昔、花火師の元で修行をさせてもらったことがあってねぇ。その時の知識と魔法の技術を組み合わせて作った花火を今回打ち上げさせてもらったんだよ。スティーリアさんに是非見てもらいたいと思ってねぇ」
『私のために……本当に、嬉しいですわ。ありがとうございます、圓様』
「喜ぶのはまだ早いよ。二つ目、さっきのアイスダンスの映像を編集してスティーリアさんのスマホに送らせてもらった。今日のことを映像で振り返ってもらえたら嬉しいなぁ。そして、最後にこれをスティーリアさんにプレゼントしたいと思う」
ミスリルを主成分に複数の金属を融合して作った特殊合金を使った、スティーリアをイメージした雪の結晶型のネックレス。
ただの装飾品にはならないように、使用者の氷の魔力を増幅する特殊な術式を付与してある。
『本当に、こんなに沢山もらっていいのでしょうか? 私は、何も返すことができていないというのに……』
「ボクはそう思わないけどねぇ。間違いなくスティーリアさんはボクの心の支えになってくれているよ。……その恩返しを少しでも今日できていたらいいんだけどなぁ」
迷い迷って組み立てたデートの内容だったけど、本当にこれが正解だったかは分からない。
ただ、何年も経った後、そういえばあの時のデートは楽しかったってふと思い出してもらえるくらいの思い出としてスティーリアの心の中に刻まれてくれたら嬉しいなぁ。
花火が終わる頃までボクとスティーリアはしばらく屋台を巡って楽しんでから、ラピスラズリ邸にスティーリアを送り届け、スティーリアとのデートは終了となった。当初の予定では花火のところまでだったんだけど、スティーリアから『もし、よろしければ一緒に屋台を回りませんか?』と誘いを受け、少しだけ延長戦をすることになったんだよねぇ。
予定外ではあったけど、結論としては屋台巡りをして良かったと思う。スティーリアも喜んでくれたからねぇ。
そういえば、こうして二人きりで屋台を巡ることって無かった。楽しんでもらえたみたいだし、スティーリアとの次のデートにもこの経験を活かしたいねぇ。
さて、次はソフィスだねぇ。待ち合わせ場所は、ボクの保有する屋敷の一つ。……早い段階で到着している可能性もあるし、先に行って準備することもあるから三千世界の烏を殺して、少し早めの時間に転移しようかな?
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




