Act.9-193 武闘大会、開幕! 暴風雨のバトルロイヤル。 scene.8
<三人称全知視点>
玻璃と紫水がカリエンテと戦闘を開始してからほんの僅か時が経ったタイミングでレナード、トーマス、ルイーズの三人は戦場の付近にやってきていたが、玻璃と紫水の増援に入ることも、カリエンテの増援に入ることもせずに戦いの成り行きを見守っていた。
三人は確実に勝利した側と戦うことになる。その戦いのためにできるだけ多くの情報を集積しておきたいという考えだったのだが、レナード達が得たのはトーマスのルイーズが得意とする火と雷の属性がどちらもカリエンテに通用しないという三人にとっては最悪にも等しい情報だった。
「ルイーズさんって火と雷以外も使えたよな?」
「水、氷、風、土、光、闇……一通り使えるわ。でも火と雷ほどの適性はないから魔法面で戦力になるとは思わないほうが良いと思うわ」
「では、私は水属性を中心に戦うことにしよう。……通用するかどうかはまた別問題だがな」
『うむ、作戦は決まったようだな! では、勝負開始だ!』
先制攻撃を仕掛けたのはカリエンテ……ではなくレナードだった。スピード特化型のレナードが神速闘気を纏い、「アクセラレーション・スパーク」、「アクセラレーション・ソニック」、「アクセラレーション・フラッシュ」、「アクセラレーション・ライトニング」――ダメージを負う代わりに速度を上昇させる魔法を立て続けに発動し、更に俊身を駆使してカリエンテに迫る。
『雷炎竜帝の鉤爪!』
カリエンテは鉤爪に赫雷と焔を灯し、鉤爪による攻撃を放つがレナードは武装闘気と求道の霸気を纏って赫雷と焔のダメージを半減させると、その鉤爪の先端を踏み台にして大きく跳躍――『滅焉銃』を左手で構えつつ、『滅焉剣』を抜き払った。
「終焉の覇王光条! 終焉の覇王光斬!!」
覇王の霸気を纏わせた「終焉の光条」と「終焉の光斬」を同時に放ち、一気に勝負を決めにいくレナードだが、カリエンテも「雷炎竜帝の鉤爪」を躱されることを想定して口に溜めていた渾身のブレスを放つ。
『雷炎竜帝の咆哮!!』
カリエンテはこの攻撃でレナードを仕留められると考えていたが、ブレスと光条の衝突と同時に発生した煙が晴れた後、レナードの姿はカリエンテの背後にあった。
見気で捕捉したカリエンテが驚きながら後方を振り返りつつ「雷炎竜帝の鉤爪」を放つが、レナードはカリエンテの振り返りざまの攻撃をカリエンテの見気でも捉えきれないほどの速度で回避し、再び「終焉の覇王光条」を放つ。
『どうなっている!? まさか、魂魄の霸気か!?』
「その通り。俺の魂魄の霸気《累積走速》の効果で俺の速度は止まらない限り加速し続ける! 武装闘気と求道の霸気を纏っているから早過ぎる速度で自壊することもない。早く俺を止めないと大変なことになるぞ! まあ、俺だけに構っていていいような状況でも無さそうだがな」
「水天喰蛇」
「覇王の巨兵」
小さなブレスをクッション代わりにしてレナードの「終焉の覇王光条」の射線から回避したカリエンテを狙い、トーマスが水属性魔法を発動、激流を多頭竜のように造形して攻撃を仕掛ける。
更にルイーズも魂魄の霸気を使って巨大な霸気製の巨人を作り出した。
ルイーズの魂魄の霸気《泥王創造》には霸気を消費して頭に思い浮かべたゴーレムを作り出すという効果がある。通常は霸気を別の物質に変化させるのだが、ルイーズは霸気を変化させることなく霸気を素材にゴーレムを創り出したのである。
黒い稲妻を纏う白い巨人は熱を常時発することで周囲の雨を蒸発させ、弱点である水の降る戦場でも十全な力を発揮できるようになったカリエンテにとっても苦戦必死の敵だ。霸気の黒い稲妻は雷の古代竜の力でも喰らうことができない――つまり、カリエンテには力押しという正攻法以外に白い巨人を倒す術がないのである。
『――ッ! このまま速度を上げられたら面倒だ! 雷竜王の雷域!!』
レナード、トーマス、ルイーズ――三人から攻撃を仕掛けられるという絶望的な状況でもカリエンテは冷静に状況を分析していた。
まずは大量の霸気を込めて雷撃を広範囲に展開、広範囲一斉攻撃で至近距離から再び「終焉の覇王光条」と「終焉の覇王光斬」を放とうとしていたレナードを仕留める。
レナードも求道の霸気で身を守っていたが、カリエンテはレナードを上回る霸気でレナードの防御を強引に突破、膨大な雷撃を浴びせて撃破に追い込んだのである。
『熔岩竜帝の噴拳!』
白い巨人の拳を高速飛行で躱しつつ、マグマに変化させた腕を巨大化させ、カリエンテは多頭竜型の激流に向かって灼熱のストレートを放った。
凄まじい熱量で激流を一瞬にして蒸発させると、一旦「熔岩竜帝の噴拳」を解除した上で再び「熔岩竜帝の噴拳」を発動――今度は噴火と同時に火山雷の原理で赫雷を発生させ、赫雷を纏った巨大な熔岩の拳をトーマスに向かって放つ。
咄嗟に武装闘気と求道の霸気、覇王の霸気を纏って防御に転じることでカリエンテの攻撃を僅かの時間耐えることに成功するも、生じた一瞬の拮抗を活かすことができずにトーマスは灼熱の熔岩に溶かされて消滅した。
……と、トーマス以外の人間ならばここでやられていただろうが、トーマスには魂魄の霸気《阿頼耶識》がある。
トーマスは熔岩に飲み込まれ、焼き尽くされてからカリエンテが「熔岩竜帝の噴拳」を解除するのを待って死と同時に霊の核である「阿頼耶識」の種子を用いて自身を完全な形で再生する《阿頼耶識》を発動し、ルイーズと白い巨人に注意を向けるカリエンテに水魔法で攻撃しようとするが……。
『我が情報収集を怠ると思ったか? 主人様を一度は追い詰めた魂魄の霸気、その効果も弱点も把握しておる。……使用後十分間は闘気を使えなくなるのだろう? 相手を油断させ、奇襲を仕掛けるのにはもってこいだが、一度種が割れれば対応も容易い。霸気があって僅かに拮抗できた攻撃、二度目は霸気無しで耐え切れるか試してみるがいい!! 熔岩竜帝の噴拳!!』
「水天喰蛇ッ!!」
トーマスは多頭竜化せず、一つの首に全ての水の魔力を収束――トーマスが保有する全ての魔力を搾り出す勢いでカリエンテの巨大化した熔岩の腕に向けて膨大な水を解き放つ。
カリエンテの巨大化した熔岩の腕と激流が衝突し、熔岩の熱で蛇型の激流が一気に水蒸気と化して生じた白煙の中でカリエンテの熔岩の拳はトーマスに命中、ポリゴン化する暇も与えずに一瞬でトーマスの身体を焼き尽くす。どうやら、トーマスの全力を持ってしてもカリエンテの炎を鎮火するほどの膨大な水を生じさせることはできなかったようだ。
『我が拳を喰らうがいい! 雷炎竜帝の鐵拳』
「私の霸気を全て込めた一撃でカリエンテ、貴女を粉砕してみせるわ!」
両手に灼熱の焔と赫雷を纏わせ、武装闘気と覇王の霸気でコーティングした状態で白い巨人に向かってコンビネーションパンチを浴びせるカリエンテと対抗するように連続パンチをカリエンテに浴びせる白い巨人。
天が割れるほどの熾烈な殴り合いを繰り広げたカリエンテと白い巨人だったが、傷だらけになりながらもカリエンテが白い巨人を粉砕して勝利した。
その後、白い巨人の生成で霸気が完全に尽き、カリエンテに対抗する手段を完全に失って戦意を喪失したルイーズに「火竜帝の咆哮」を放ち、ルイーズを撃破したカリエンテはギルデロイとの戦いに勝利したアルベルトに視線を向けた。
『決着がついたようだな。――早速で悪いが次は我と戦ってもらうとしよう!!』
◆
『モード焔龍人!』
人化して赤き翼と尻尾、竜の角を生やし龍人の姿へと変化したカリエンテは聖属性の魔力と武装闘気、覇王の霸気を剣に纏わせて肉薄しようとするアルベルトから大きく距離を取り、マグマに変化させた両腕を巨大化させ、上空へ向けて噴出した。
『熔岩竜帝の熔岩流星群!!』
大きな火山弾と化した熔岩はアルベルトの周囲に雨霰と降り注ぐ。
俊身と神速闘気を纏ったアルベルトは見気を駆使して火山弾を回避し、カリエンテに迫る。
『うむ、これを躱すか。そうこなくてはな!! 大地錬成・熔岩地帯! 大噴禍!!』
「……まさか、大地を錬成して熔岩地帯を創り出すとは……古代竜、恐ろしい存在ですね」
膨大な竜の魔力で大地を錬成して熔岩地帯を作り上げ、熔岩地帯から噴火を引き起こす。
アルベルトは空歩を使えるので熔岩の上でも移動できるが、熔岩から発せられる灼熱は闘気を纏っていてもアルベルトの体力を徐々に奪っていく。
それに、不規則に発生する噴火も厄介だ。霸気こそ込められていないものの膨大な魔力が練り込まれているため、まともに直撃すれば例え闘気と霸気を纏っていても負傷は免れないだろう。
『やはり未来視に至っている見気は厄介だな。……しかし、いつまでも逃げるように距離を取っていてはアルベルト殿も本領を発揮できぬな。――では、そろそろお主の得意な近接戦闘で相手になろう。だが、その前に傷を癒しておいた方が良いな。熔焔癒術』
ルイーズ戦で負った傷を灼熱の熔岩によって傷を治癒する回復魔法で癒すと、カリエンテは熔岩を収束した剣を創り出して構えた。
『火竜帝の熔焔剣! 行くぞ! アルベルト=ヴァルムトッ!!』
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