Act.9-192 武闘大会、開幕! 暴風雨のバトルロイヤル。 scene.7
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
死霊騎士が撃破され、ベンヤミンの魔物はスライムと鷲獅子の二体のみ。
「仕掛けますよ! スラリン、グリファ! 緋槍焔魔」
鷲獅子に騎乗したベンヤミンが炎の槍を上空から連続して放ち、地上からはスライムが攻撃を仕掛けてくる。
「スラリンは暴食の粘性体の変異種――暴食の純魔粘性王です。スライムは全般的に防御力が高いですが、その中でも極めて高い物理耐性を持ちます。アネモネさん、貴女がいくら強くても剣士であるならばスラリンには勝てません!」
「さあ、それはどうでしょうか? 圓式比翼!」
武装闘気と覇王の霸気を纏わせた剣で巨大化したスライム――暴食の純魔粘性王を切り捨てる。
暴食の純魔粘性王が高い防御力を持つならばそれ以上の斬撃を叩き込めばいいだけのこと。
しかし、スライムが高い物理耐性を持つ……か。魅惑の大魔布顛女王みたいな魔法で討伐が推奨される魔物もいるから、傾向としてはということなんだろうけど。スライム全般が高い物理耐性を持つって訳じゃないけど、暴食の純魔粘性王はかなり硬い部類みたいだねぇ。
「そんな、スラリンが……一撃で」
まあ、硬かったけど覇王の霸気を纏った圓式の斬撃を耐え切れるほどの耐久力は無かったので一発ダウン。
「このまま空まで空歩で上って攻撃を仕掛けてもいいですが、折角なのでここから撃ち落とさせてもらいましょう。《八百万遍く照らす神軍》派生《太陽神》! 光の剣によるジャガーノート・ソード!」
一振りの光の剣を作り出し、特技『ジャガーノート・ソード』を使って剣を射出する。
光の剣は一瞬にして鷲獅子を貫いた……のだけど、鷲獅子が主人を守るためにギリギリのタイミングで位置をズラしたことで、ベンヤミンは頬に僅かな切り傷を負うだけで済んだ。
まあ、でもこれで鷲獅子は消滅した。ベンヤミンは飛行手段を失った地上に落下する。落下の軌道と落下位置は読めるから、後はそこに二発目の光の剣を『ジャガーノート・ソード』を使って打ち込めばいい。
「まだ負けてません! 緋槍焔星群!」
「ジャガーノート・ソード!」
見気で降り注ぐ無数の火の槍の落下位置を読み取り、命中しない位置に移動して光の剣を生成――二発目の『ジャガーノート・ソード』を発動する。
光の剣は高速でベンヤミンに向かって飛んでいき、胸を貫通して上空で四散――胸元に風穴を開けられたベンヤミンの傷口から無数のポリゴンが溢れ出し、瞬く間に無数のポリゴンと化して消滅した。
◆
<三人称全知視点>
雨空の下、アルベルトとギルデロイが剣を交え始めてから三十分ほど経過した。
闘気や霸気、魔力すらも使用せず純粋な剣技のみ、更に圓式も使用しないとなれば(ギルデロイが「それは『剣聖』の剣技ではないから使わないでもらいたい」と予め使用を禁じてきたため)、長期戦は必至。『剣聖』の剣技という一点ではアルベルトとギルデロイの実力は大差ないのである。
それでも実力は完全に拮抗することなく、ややアルベルト優位のまま戦いは続いている。
ギルデロイも自身が劣勢に立たされていることは承知しており、少しずつ彼の表情から余裕が消えていっていた。
『うむ、熱戦を繰り広げているようだな』
そんな二人の戦いは上空から降りてきた真紅の竜――古代竜の一体であるカリエンテ=カロル・ヴルカーノの登場により一時中断される。
「……カリエンテ殿」
「貴様、我らの戦いの邪魔をするつもりか!」
『我にそのつもりはない。……お主らの関係性については主人様より聞いている。闘気や霸気を使わず、会得した圓式も魔法も使用せず純粋な剣技のみという制限を付けてまで……それほどの譲歩を得た上での戦いを勝負と呼んで良いかは疑問が残るが、両者納得した上での戦いならば我もとやかく言うつもりはない。だが、折角主人様が闘気を磨けと、八技を習得せよと、霸気を覚醒させよと、強くなる努力をせよとアドバイスをしてくださったのだ。その言葉に耳を傾けぬのであれば今後お主が変わることができぬと思うぞ。まあ、時空騎士は結果が全て、何も貢献できぬ人材ならその座を奪われるだけだ。……話を戻すが、我はお主らの戦いの邪魔をするつもりはない。お主らのうち生き残った一方は狩らせてもらうがな! この付近で猛者の気配を感じ取った。我はそ奴らと戦いに来たに過ぎん』
「……猛者ですか?」
『この程度の気配、感じ取れぬ筈がない。……さては、お主、見気までも封印しておるな。……玻璃と紫水、それにトーマスとレナードとルイーズじゃ! 今生き残っている面々の中で主人様とアルベルト殿を除けば、そ奴らしか猛者は残っておらぬ。反対側の猛者は全て主人様に狩られたからな!』
ちなみに出場者の大半はカリエンテに狩られ、残る面々も玻璃と紫水の鬼神コンビとトーマス、レナード、ルイーズのチーム、シューベルトによって討伐されており、戦場に残っているのはアネモネ、シューベルト、カリエンテ、アルベルト、ギルデロイ、玻璃、紫水、トーマス、レナード、ルイーズという状況になっている。
『ようやく来たようじゃな、玻璃、紫水!』
『やはり気づかれましたか』
『カリエンテ殿、同盟を組みませんか? アネモネ閣下相手に単独で挑むのは厳しい……私達が手を組めば勝機は増します』
アネモネという強大な敵に挑むならば仲間は多い方がいい。紫水はカリエンテとの同盟が成立すれば勝利の可能性が多少は高まると考えての勧誘だったのだが……。
『気持ちは分からないでもないが、我にそのつもりはない。……我にとってユミル自由同盟での敗北は黒歴史ではない。我はあの戦いでネメシア殿に負けたからこそ、多くの友に――戦友や仲間に巡り合うことができたのだ。しかし、このまま負けたままでは終わりたくない、必ず自分の力だけで再び主人様と対峙し、勝利を掴み取りたいのだ。同盟の話は有難いが、他を当たることをお勧めする。……無事に我に勝利できたらの話ではあるがな』
『――ッ! 武黒剣纏! 断頭紫斬!』
紫水は裏武装闘気で剣を巨大化させた状態で紫電を纏わせてギロチンのように振り下ろす。
『火竜帝の鉤爪』
対するカリエンテは武装闘気と焔を纏わせた鉤爪で紫水の斬撃を受け止めると、そのまま猛烈な勢いで吹き飛ばし――。
『火竜帝の咆哮』
空歩の技術を駆使して吹き飛ばされた状態から立て直そうとしていた紫水に向けて溶岩流のブレスを放つ。
紫水は武装闘気、金剛闘気、鋼身、更には魔力による防御までも駆使してブレスを耐え切った。
満身創痍ながらもカリエンテの攻撃を耐え切った紫水は体勢を立て直して再度攻撃を仕掛けようとするが……。
『我がブレスを耐え切るとは、実に見事! だが、我の攻撃はこれで終わってはおらぬ! 雷炎竜帝の咆哮!!』
紫水の表情が絶望に染まる。紫水の負ったダメージではもう一撃「火竜帝の咆哮」を浴びれば消し飛ばされてしまう。
そのような絶望的な状況でカリエンテが放ったのは先程カリエンテが放ったよりも遥かに魔力が込められた、赫雷を纏わせた溶岩流だった。
紫水はカリエンテの二度目のブレスを耐え切ることができずにそのまま蒸発、アルベルトとギルデロイも思わず手を止めて視線を向けてしまうほどの破壊をもたらしたカリエンテと対峙する玻璃が冷や汗を流しながら返答をもらえないことを承知でカリエンテに疑問を呈する。
『先程のブレス、明らかに雷属性の膨大な魔力が混ざっていました。しかし、カリエンテ殿は火の古代竜だったと記憶しています。これは一体どういうことでしょうか?』
『我は雷の古代竜の力を主人様より頂いたのだ。火の古代竜としてもレベルアップし、今の我は焔竜帝であり、火山竜であり、そして雷炎竜である!』
玻璃の予想は想定していなかったカリエンテの(馬鹿正直な)返答によって肯定される。
それは玻璃にとっては絶望にも等しい言葉だった。
『共に主人様より力を与えられた身、今は我はお主と我に隔絶した差があったとしてもいずれはお主らが好敵手となると考えておる。まずは聖人に至り、霸気を得よ。我らのステージまでお主らが上って来る日を楽しみに待っておるぞ! 雷炎竜帝の急降下突!!』
『乱刃突』
全身の鱗に赫雷と炎を纏って遥か上空まで飛翔し、そのまま敵目掛けて急降下して突撃する「雷炎竜帝の急降下突」を仕掛けるカリエンテに対し、玻璃は目、喉、心臓、腎臓、水月、金的、両肩、両膝などを狙い連続で鋭い突きを放つ『乱刃突』で迎え撃つ……が、カリエンテの纏う霸気の防御を破ることができずに直撃で突撃攻撃を浴び、無数のポリゴンと化して消滅した。
『やはり惜しいな。霸気を使えたらもっと張り合いが出て来るだろうに……。さて、随分と待たせてしまったな。アルベルト殿とギルデロイ殿の戦いはもうしばらく長引きそうだ。我々も彼らの戦いの決着がつくまでの間、戦いを楽しもうではないか? ――レナード殿、トーマス殿、ルイーズ殿』
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