Act.3-6 国王陛下御前の模擬戦-ローザvs漆黒騎士の転生者- scene.2
<一人称視点・リーリエ>
「お嬢様の正体を知った時に、私は希望を抱きました。お嬢様もまた、私と同じ悩みを持っていると考えたからです。ですが、お嬢様は異世界に召喚され、殺されるという未来を変えようとはなさらないと知りました。……私はお嬢様のように過去の世界で、アクアとして第二の人生を送り、かつての仲間達が殺されることが分かっているのに見て見ぬ振りをする……そう簡単に割り切って生きることはできないのです。ですが、もし仮に私が漆黒騎士団を救ってしまったら……」
「それは過去を変えて歴史を変えてしまったら未来は変わってしまい、自分は消えてしまうのではないかという……まあ、親殺しのパラドックスに似た話だねぇ。……いくつかパターンが考えられる。まずはアクア消滅説。【漆黒騎士】が殺される記憶を持っている君が【漆黒騎士】を助けてしまったら君は存在しないことになるからねぇ。二つ目が記憶修正説。結局寿命でオニキス殿はいずれ死ぬんだから、その後転生したのがアクアということに世界が改変される。最後がパラレルワールド分岐説。……まあ、世間で言われているのがあくまで三つであって、実際は三つ目の分岐説が正しいんだけど。じゃなかったら過去転生なんていくらでも過去を改変できるシステムが存在する訳がないからねぇ。……だから、自分が消滅してしまうのが怖いからなんて理由で躊躇しているなら、躊躇わずに助けるべきだよ。折角チャンスを得たんだからねぇ」
ボクにもアクアと同じように、百合薗圓を死の運命から救うことができる。……まあ、ボクの場合はタイムパラドクスよりも更に強制力の高い超共感覚の優位性が働いているから、ボクが行動することも加味されているんだろうけど。
ボクが行動しないのは、未来の自分を救うことで今の、過去転生をした自分が消えてしまうからとか、そういう葛藤が理由ではない。
ボクが全く百合薗圓を救う必要性を感じないから、あの運命にボクが満足しているからだ。それに、わざわざ連中の前に出て行ってあげる義理はないし、ホワリエル達も「自分達で見つける」って宣言していたからねぇ。ボクは第二の人生を平凡平和に(最早無理な気がしているけど)、生きるのが目的だし、もう少し自由気儘に生きる時間を堪能したいな……別に前世は自由気儘に生きていなかった訳じゃないけど。
結局、転生前の自分を助けるか、助けないかはそれぞれが決めることだ。……それに、もし消えてしまうとしても、それでも助けたいって思ったら助けるっていうものでしょう? ヒトの感情なんて、理屈で抑えられるものじゃないんだから。
「まあ、いずれ自分で選ばないといけない時が来るだろうから、それまでになんとなく覚悟を固めておけばいいんじゃないかな? ボクはその時にアクアの覚悟に賛同するつもりだし、応援するつもりでいる。ラピスラズリ公爵家の使用人だって、カノープスお父様だってきっと力になってくれる筈だ。前世で君が一人じゃなかったように、今世にも仲間はいるんだからねぇ」
「……ありがとうございます、お嬢様。皆様も……私は幸せです」
……さて、気を取り直して本気で戦おうとしようか。
「アクアさん、これを使うといい」
統合アイテムストレージから一振りの剣を取り出す。
「これは……剣ですか?」
いつもアクアが使っているものよりも少し大きめの剣。『オーバーハンドレッドレイド:ナイツ・オブ・キャメロット』でドロップする幻想級装備『カレトヴルッフ』……ボクの持つ『漆黒魔剣ブラッドリリー』や『白光聖剣ベラドンナリリー』と同等の装備と言えるねぇ。まあ、後者の二つの方は直接強化を施しているから完全に同格と言えばしないけど。
「僕の愛剣と同レベルの名剣だよ。鍛えていない素のままだから、強化を施した『漆黒魔剣ブラッドリリー』よりは劣るけど、断言するけどこのブライトネス王国にこれ以上の業物はないと思う。……いや、職人を馬鹿にしている訳じゃなくて、MMORPG『Eternal Fairytale On-line』に存在するシステムの設定だから、そこを乗り越えるとなると……どうなんだろう? 異世界化したから幻想級の装備っていうのも作れるようになったのかな? ゲームシステムを利用しての武器作成だと、製作級止まりだったけど」
MMORPG『Eternal Fairytale On-line』にはアイテムに格付けが存在していた。
一番下は、店に売っているような装備品などが該当する通常品。
次に、ゲーム内システムを利用して素材を利用して作成した装備品などが該当する製作級。雛形はあるものの、ある程度自由な装備を作り出せる代わりに性能がかなり落ちるけど、独創性を出すことができるから結構多くのプレイヤーがこのクラスのアイテムを好んで使っていたねぇ。
次に、モンスター討伐やダンジョン内の宝箱、クエストの報酬として手に入れることができる秘宝級。
ここから上のランクの装備となると入手には大規模戦闘への参加が絶対条件になる。
大規模戦闘にもいくつかの種類が存在するけど、その基準となるのは八人で組むことが可能なパーティ。これを基準として二つのパーティを合わせた十六人からなるものをハーフレイド、三十二人からなるものをフルレイド、六十四人からなるものをレギオーレイド、そして、百二十八人からなるものをオーバーハンドレッドレイドと呼ぶ。
ハーフレイドコンテンツで稀にドロップできるのが遺物級、フルレイドコンテンツで稀にドロップできるのが古代級、レギオーレイドコンテンツで稀にドロップできるのが伝説級、そしてオーバーハンドレッドレイドコンテンツで稀にドロップできるのが幻想級。……期間限定の課金ガチャで手に入るものという例外もあるんだけど。
珍しく高ランクのアイテムにサーバにおける存在個数の制限が掛けられていないから、レイドでドロップした同じ装備を持っている人っていうのも結構な数いると思うんだよねぇ。
同じオーバーハンドレッドレイドでも『オーバーハンドレッドレイド:銀ノ鍵と門』と『オーバーハンドレッドレイド:ナイツ・オブ・キャメロット』では難易度に天と地ほどの差があるし……まあ、導入されたタイミングといいますか……仕方ないよねぇ。
だから、同じ幻想級でも本当に希少なものと、そうでないものの二つに分かれる。『オーバーハンドレッドレイド:銀ノ鍵と門』のヨグ=ソトホートから稀にドロップする『銀の鍵剣-आकाश तलवार-』(アーカーシャの剣の意)はボクだけが保有するサーバーに三本しかないものだからねぇ。……全ての幻想級を集めるために何度『オーバーハンドレッドレイド:銀ノ鍵と門』をやり直したことか。……あれ、相当キツかったからねぇ。まあ、ギミックは『オーバーハンドレッドレイド:中華騒乱』と『オーバーハンドレッドレイド:日本騒乱』からなる連立レイドの方が圧倒的に面倒なんだけど。……何であんなの作ったんだろう? ボク達。ボクと高槻さんも後で頭抱えたからなあ。
でもこれはあくまで武器の基礎値の話。武器の強化によって付与できる強化値が存在して、これとの合算で実は強化していくことで製作級でも無強化の幻想級に匹敵する装備を作り出すことができる。……強化した幻想級には、流石に勝てないけど。
実は設定のレベルだと他にもランクが実装される予定だったんだよねぇ。
製作レベルが高い状態という条件付きだけど、製作段階で稀に生じる(幸運値やアイテム作成の回数によって上昇する隠しステータスの作成熟練度など複数の要素が絡む)他よりもランクの高い装備――特上級と希少級。
そして、全ての装備に共通して、愛用している時間の長さによって変化する神話級と神話級がある一定の条件を満たした時に至るという創世級。
神話級になった時点で例え元となったものが、通常品や製作級でも、幻想級を凌駕する性能を得る。……勿論、幻想級の比じゃないほどの圧倒的な時間をかけないといけないけど。
でも、これはあくまで今後導入しようかな、と考えていたシステムであって……まあ、導入されているだろうけど。
このシステムが導入された場合のランク付けは通常品→製作級→ 特上級→希少級→ 秘宝級→ 遺物級→古代級→伝説級→幻想級→ 神話級→創世級ということになるねぇ……幻想級以上は未確認だけど。
「これほどの武器を、本当にもらってもいいのですか?」
「まあ、『カレトヴルッフ』は幻想級だけど統合アイテムストレージに五十二振りあるからねぇ。遠慮なく持っていくといいよ。……そうだねぇ、十二本くらいでいいかな? ああ、遠慮する必要はないよ。後でラインヴェルド様にも幻想級を何か献上するし、お父様や戦闘使用人にも渡すから。……さて、ボクも本気で勝ちに行くから、アクアさんも全力で掛かってきてねぇ」
『漆黒魔剣ブラッドリリー』を右手に構え、左手を空けていく最も手数の多いスタイルで、ボクは『カレトヴルッフ』を右に、左手にいつも使っている剣を構えたアクアと対峙した。
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