Act.9-178 激動の一年の終わりと新年祭 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
王女宮で迎える大晦日。統括侍女ノクトの指示によって派遣された使用人十五人のうち十人が諜報部隊フルール・ド・アンブラル所属の諜報員で、残りは王宮で仕える敏腕の執事一人と侍女達というメンバーと共に職務を進めていく。
この体制があまりにも普段と違ってプリムラは慣れるまで少し窮屈そうだった。確かに、いつもいる顔ぶれがいなくて、見たことのない使用人達が大半だったらストレスを感じるのも致し方ないよねぇ。
彼女達の勤務は夕刻までで夜と早朝の勤務はボク、ソフィス、シェルロッタ、オルゲルト、メルトランの五人が担当することになる。増援の料理人達も夕刻に夕餉を作り終わったら大晦日の仕事はそれでおしまいということになる。
まあ、色々と思惑があってねぇ。
平和な王女宮のゆったりとした時間を味わいながら職務をしていたのだけど、どうやら今年最後の日も平穏な一日にはならないようで……。
昼休憩のタイミングで(ボクって割と凝り性な部類の人間だとは思うけど、昼食は片手でつまみながら仕事もできるサンドイッチのような軽食を好んでいる。あわよくば美味しい料理をご相伴になんて思って昼食の時間にやってきたラインヴェルドはガッカリしていたねぇ。まあ、結局、昼に食べようと思っていたサンドイッチは全部食べられ、仕方なく作ったナポリタンはやってきたアクアとディランに食べられ、っていう散々な目に遭ったんだけど)やってきたのはアルベルトだった。
「お食事中でしたか? 出直した方がいいですよね?」
「いや、別に良いよ。アルベルトさん、昼食はまだなのかな?」
「えぇ、ローザ様にお伝えした後に食堂に行こうと思っていまして」
「でしたら、折角なので食べていってください。何か作りましょう」
「そこまでして頂かなくても」
「そこまでして頂かなくても」とアルベルトが言ったタイミングでもう既に冷蔵庫を開けて中身を吟味していたので、アルベルトも諦めて席についた。
こういう時は手料理を食べたいって素直に言えば良いのにねぇ。
用意したカルボナーラを食べてもらいつつ(昼から結構ヘビーじゃねぇか! って思うかもしれないけど、騎士はかなり重労働だからねぇ。これくらいペロリと食べられると思うよ。出した時にも拒絶の表情はしていなかったし)、アルベルトに要件を聞いた。
「実は生誕祭のパーティー前に英雄父娘に挨拶だけしに行くことになりまして」
「えっと、一々ボクに報告しなくて良いんだよ? 恋人じゃないんだし」
「ゲホゴホッ!! たっ、確かにそうですが……そうですが……私はまだ恋人になる権利を持っていると思います」
「持ってますねぇ、まあ、一応。最低ラインは超えましたし……ラインヴェルド陛下の采配のおかげという面が強いようにも思えるけど。まあ、聞きたい答えも君の口から聞いたしねぇ」
「私はマリエッタと恋人になるつもりは微塵もありません。……しかし、このままでは最悪の状況になりかねないと思うのです」
「アルベルトさんとマリエッタが恋人に、そして夫婦にですか? 別段最悪の状況でもありませんけどねぇ。ボクは満面の笑みで祝福しつつ、ブーケトスをキャッチしますよ! 月紫さんと結ばれたいからねぇ!」
「……お願いします、当日ついて来て頂けないでしょうか?」
「嫌だ……と言いたいところだけど、一応候補であるのも確かだしねぇ。嫌な予感しかしないけど、まあ、ここで牽制に協力するのが礼儀……と言われても仕方ないからねぇ。分かったよ」
「ありがとうございます」
「……じゃあ、デートの構成を考え直したほうがいいかな? まあ、当日の行動パターンに関しては当日までに練っておくよ」
しかし、嫌な予感しかしないねぇ。……マリエッタとの挨拶、また一波乱ありそうだなぁ。新年早々騒動はやめて欲しいものだよ。
◆
王女宮で迎える年末。城内は夜という時刻と、帰省時期によって人が少なくなっていることも相俟ってしーんと静まり返っている。
聖夜祭で盛り上がる王都とは対照的だねぇ。
新年祭は数日間続く。基本的には初日に盛り上がって、段々と静まっていくイメージだ。完璧な区切りはないけど、七日で収束する。まあ、正月よりは長いねぇ。
「ローザ様、準備ができたそうですぞ」
「オルゲルトさん。ありがとうございます、今行きますね」
サプライズに向けた秘密の会合。来年以降はサプライズではなく恒例行事にしていきたいとは思っているけど、今後も秘密の会合にはなると思う。
侍女やメイド、他の使用人――彼らが帰省している中でも一番人数の少ない、ボク、ソフィス、シェルロッタ、オルゲルト、メルトランの五人だけが王女宮に残る時間。
この時間を最も有効に使える最高の方法をボクが提案してオルゲルト達(他の面々の説得は簡単だったから主にオルゲルトを、ということになるんだけど)を説得、ようやく口説き落とすことに成功したのは一昨日のことだった。
切っ掛けはプリムラがふと零した「みんなと同じテーブルを囲んで食事をしたいのになぁ」という言葉。王女と使用人――その身分の溝は深く、決して実現されないし、本来はされてはならないこと。……ラインヴェルド達は普通にボク達とテーブルを囲んでいたし、ラピスラズリ公爵家でも使用人も公爵一家も関係なく食事を取っていたりするけど、あれは例外中の例外なんだよねぇ。
メルトランが料理を作り、シェルロッタが助手として手伝う。オルゲルトが張り切ってお茶を用意し、デザートはボクが。そして、ソフィスには最後の仕上げとしてスペシャルゲストを呼びに行ってもらっている。
既に交渉は済んでいる。畏れ多いと断るところを何度も何度も頭を下げ、ようやく了承の言葉をもらえた時にはとても達成感があった。彼女の説得はオルゲルトと並んで難易度が高かったねぇ。
「姫さま、本日の夕餉なのですが、ご許可を頂きたいことがございまして」
「母様、どういう許可なのかしら?」
「……畏れ多いことではございますが、共に食卓を囲む許可を頂きたいのでございます。……以前、プリムラ様は『みんなと同じテーブルを囲んで食事をしたいのになぁ』と仰いました。……本来、王族と使用人が同じテーブルを囲むなどあり得ません。しかし、今は王女宮にも人がほとんどおりませんし、大晦日という特別な時間でもあります。日常を少し離れるつもりで、こういった形の食事も良いのではないかと思いまして。……どうでしょうか?」
「……私、無理だと思っていたわ。本当は母様と、みんなと同じテーブルを囲んで楽しく食事がしたいと思っていた。でも、プリムラは王女だからそれが許されないと思っていたわ。……今日だけはいいのね? 今日だけは、みんなと一緒に食べてもいいのね?」
「えぇ。姫さまがお望みであれば毎年開催致しましょう」
プリムラの許可が得られたタイミングでプリムラを会場となる部屋へと案内する。
長机と椅子が七つ置かれているだけのシンプルな部屋。……飾り付けまでは流石に難しかったからねぇ。
サラダにメインディッシュに、本来ならコース料理が供されるテーブルに所狭しと並ぶ料理の数々を取り合い分け合う。こういった食事もたまにはいいとボクは思うんだ。
ラピスラズリ邸での日常の食事だけど、そういった「日常」がプリムラにとっては何よりも手の届かないものなのかもしれない。
「ローザ、おかしいわ。椅子が一つ多いと思うのだけど」
「おかしくはおりませんよ。プリムラ様、実は本日スペシャルゲストをお迎えしております。このテーブルに是非ついて頂きたいとかねてから思っていた方です。その方は無事説得し、今はソフィスに迎えに行ってもらっています」
「……スペシャルゲスト? 一体どなたかしら?」
「姫さま」
プリムラはその声を聞いて少しだけ驚き、そして目にいっぱい涙を浮かべて抱きついた。
「ソフィスさん、お疲れ様でした。お越し頂きありがとうございます、ペチュニア様」
「お久しぶりです、姫さま。私もお会いしたいと思っていました。ローザ様、このような素晴らしい場にご招待くださり、ありがとうございます」
「プリムラ様、是非ペチュニア様にも参加して頂きたいと思っているのですが」
「えぇ、勿論よ。お帰りなさい、ペチュニア」
プリムラの隣にはシェルロッタとペチュニアが座り、ボクとソフィスが隣同士、オルゲルトとメルトランが隣同士に座る。こうして座るとまるで一つの家族のように見えるから不思議だねぇ。
「本日のメインディッシュはおれ特製! ローストビーフとタンシチューだ! シェルロッタさんが手伝ってくれたんだぜ!」
「わあ! ありがとう! メルトラン、シェルロッタ叔父様も」
「それではこちらもとっておきの茶葉を用意致しましたので」
「緑霊の森産のフィナー・ティピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコーですか。流石はオルゲルト執事長、素晴らしいセレクトです」
「そういうローザ様はどうなんだよ」
「ローザのケーキは?」
「勿論、スペシャリテ級のものをご用意致しました。レアチーズのタルトとショートケーキの二品です」
シンプルな二品故になかなか奥深い。……まあ、ボクが納得できる品が完成したいのは他の料理やお菓子についても言えることではあるんだけどねぇ。
ちなみに、スペシャリテなのは両方とも月紫さんの好物で相当練習を重ねたからだったりする。まあ、数作った料理の方が美味しいものになるのは当然だよねぇ。
「ローザのケーキ、とても美味しいのよね! ありがとう!」
「本当に料理でもお菓子作りでもローザ様には敵わないなァ。でも、いつか俺もローザ様に驚いてもらえるような美味しい料理を作れるようになりたいぜ」
「メルトラン、志が低いですよ。相手はただの素人ですからねぇ?」
「いやいや、どう考えてもローザ様って王宮料理長クラスの腕前だと思うンだが! 貴族令嬢が趣味で料理をしている範疇じゃ、絶対ないよな!」
まあ、貴族令嬢の趣味の範疇では確かにないけど、プロの料理人かって言われると微妙なんだけどねぇ。
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