Act.3-5 国王陛下御前の模擬戦-ローザvs漆黒騎士の転生者- scene.1
<一人称視点・リーリエ>
「それでは参りますよ、お嬢様」
そう言うなり、ジーノは地を蹴って加速――猛スピードでボクに向かって迫った。
手に武器は無い……素手で僕を潰す気ってことかな?
「烈火魔弾」
どうやら違うみたいだねぇ。左手から放った「烈火魔弾」に狙いを向けさせて、本命は右の拳っていう二段構えか。
……それに、背後に回って二刀流を構えて突撃してくる、型なんて存在しない喧嘩殺法の延長線みたいな剣技を得意とするアクアもいるから三段構え……そのどれかでボクを落とせたら御の字とでも思っているのかな?
「常夜流忍暗殺剣術・毒入太刀。渡辺流奥義・颶風鬼砕」
右の剣に鋭い風の刃をイメージした霊力を宿し、勢いよく抜刀して横薙ぎすると同時に爆発させてジーノの放った「烈火魔弾」を吹き飛ばす。
左の剣に筋肉の収縮を連続でおこなうことによって、 その際に発する衝撃波を乗せてアクアに放つ。
……勘の鋭いアクアにはボクの剣が毒入りだってことを見抜かれたみたいだねぇ。斬撃を中断して、ボクの剣と撃ち合うのを回避したか。
ジーノの方は武装闘気をクッション材にして、右手の拳に炎を纏わせたか……でも、「武装黒拳」で止められるほどボクの斬撃は軽くないんだよ?
「圓流耀刄」
別名「圓式基礎剣術」と呼ばれる全ての剣術の基礎となり、全ての剣術のレベルを二段階ほど引き上げる奥義に身体の使い方を切り替える。
瞬間――ジーノが全身に斬撃を浴びた。
「…………これはどういうことでしょうか?」
「どうもこうもないよねぇ。ボクが切り裂いたのは大気――つまり、真空の断層を作り出したってことになるんだけど。ボクの斬撃があまりにも鋭過ぎて速過ぎるから、斬られた筈の大気は斬られたことに気づかない。だけど、確かに真空の断層は存在する訳だから、そこに突っ込めば当然ダメージは受けるよねぇ」
「千羽鬼殺流・熒惑」に近いけど、一切の技術無しにただ極めただけの斬撃を振るうだけでできるんだから、これってとんでもないよねぇ。
左の剣でアクアの斬撃を往なしながら、右の剣で「圓流耀刄」を利用して真空の断層を刻み続ける。
フェイントで仕掛ける「常夜流忍暗殺剣術・毒入太刀」や「常夜流忍暗殺剣術・朧月夜」、「静寂流十九芸 剣術三ノ型 渾衝流」も全て絶妙に回避されるし、やっぱりアクアは片手間で戦える相手じゃないねぇ。
「静寂流十九芸 剣術三ノ型 渾衝流」
ジーノの燃える拳に速度を大幅に緩めつつ渾身の斬撃を打ち込んで神経を麻痺させる。これで暫く右手は真面に使えないだろうねぇ。
ちなみに、この技。「五十嵐流刀術一ノ型 流衝」と完全に同一のものなんだよねぇ。違うのは型番号と名前だけだから巴には「五十嵐流刀術一ノ型 流衝」の間違いじゃないのって言われそうだよねぇ。……まあ、より正確な形で技を継承しているのは静寂流の方だから、個人的には静寂流の方が正統だって思っているけど。
「武装黒脚。宿纏烈火」
右手が使えないなら両足をってことか。いいねぇ、そう来なくっちゃ! こんなところで終わる訳がないよねぇ!!
「常夜流火遁忍術・煉焔纏武。武装闘気-硬質化-。千羽鬼殺流・玉兎」
競うように自然エネルギーを炎に変換して武器に纏わせる。
共に武装闘気を纏わせるという点は同じ。違うのは自然エネルギー由来の炎を纏わせているか、魔法由来の炎を纏わせているか、そして、霊力を体の一点に集中して極限の防御力を得る「千羽鬼殺流・玉兎」を自身の身体ではなく剣に宿らせて防御力を上乗せしているかしていないかという二点。
硬さと硬さ、剣と右脚のぶつかり合い。その戦いを制したのは――。
「……やはり、お嬢様相手に武装闘気で勝利を収めようというのがそもそもの間違いでしたね」
ボクの振り下ろしを受けたジーノの右足が両断され、鮮血を迸らせた。
同じ闘気使いでも練度によって必ず優劣が生じる。いくら才能があっても約一年修行したジーノと元々三種類の闘気を体得していたボクではまだまだ実力に大きな溝があるってことだねぇ。
それに、今回は保険として「千羽鬼殺流・玉兎」を上乗せしておいた。元々、こっちの武器が幻想級の『漆黒魔剣ブラッドリリー』なんだから、寧ろこの圧倒的不利な状況で幻想級装備を破壊するほどの威力を見せたらびっくりだよ。……どこの超人??
ジーノに神水を飲ませてから、再度アクアと対峙する。
『白光聖剣ベラドンナリリー』を鞘に納め、『漆黒魔剣ブラッドリリー』のみを構えるのは手数よりも正確さ、それにより複数の戦術を使える状況を求めたから。
ちなみに、一刀流が得意、二刀流が得意などということはなく、ボクは状況に応じて使い分けるスタイルを好んでいる。だから一刀流になったから本気になったって訳じゃないんだよねぇ。まあ、ジーノに割いていた分の集中力もアクアに注ぐことになるんだから、本気になったっていう表現はある意味適切かもしれないけど。
「……てっきりお嬢様は二刀流使いだと思っていたんだけど……やっぱり、私ではお嬢様の相手は務まらないってことなのね」
「それは違うよ? ボクはアクアさんこそが使用人の中では最も強いと思っている……まあ、執事長との力量の差はあまりないし、どっちが強いっていう話でもないと思うけど。……だから、ボクが二刀流から一刀流に変えたのは剣士としてではなく、ありとあらゆる手段を使ってアクアさんと戦うっていう意思表示だったんだけど……もしかして、剣士として戦った方が良かったかな?」
「いえ、光栄な話ではありますが……何故私なのですか? 私は歳も若くラピスラズリ公爵家の使用人の中では最も練度が低いと思います。お嬢様の相手は務まらないと思いますが」
アクア、周りをよく見た方がいいよ? カノープスとジーノ達が揃って\\ナイナイ//って首を横に振っているから。
「……アクアさん、謙遜もし過ぎれば嫌味になるのでございますよ。アクアさんは間違いなく戦闘使用人随一の剣の達人です」
「……でも、私はスラム街の出身で、たまたま自衛手段に剣を握っただけで……」
「それは前世の話だよねぇ? オニキス=コールサック様……いや、【漆黒騎士】閣下と呼んだ方がいいかな?」
アクアの表情が固まったのをボクは見逃さなかった……ああ、やっぱり。でも、隠すならとことんポーカーフェイスを貫いた方が良かったのに。
「……ご存知だったのですね」
「まあ、ねぇ。最初から不思議だったんだよ……何故か設定した記憶のない戦闘使用人。君みたいな美少女が一モブキャラな訳がないからねぇ。……それに、その剣術にも見覚えがあった……いや、直接見たことはないから、設定を文章として知っていたってことが正しいかもしれないねぇ。……今から十年前、フォルトナ王国が内乱で荒れていた頃に異例の速さで頭角を現して国王から新設された漆黒騎士団の騎士団長を任された人物で、世界で共通して不吉とされる濁った赤の瞳を持つ。貧民街の生まれで、生まれた時から身を守るために剣を使っており、変則的で型破りな剣技は貧民街での生活の中で独自の技術が洗練されたから。ストレスが溜まると顳顬を丹念に揉み解す癖がある。基本的にはぼんやりとしているが、意外と苛烈なところもあり、無意識にドSを発揮することも多々ある。自分のことを常識人だと思っているが、どう考えても常識人ではない。そして、ボクと同じく恐怖という感覚が麻痺している……こんなところかな?」
覚えている設定をとりあえず誦じて見たけど……。
「違います! 確かに私の前世の名前はオニキスで、漆黒騎士団の騎士団長を務めていました。世界で共通して不吉とされる濁った赤の瞳を持ち、貧民街の生まれで、身を守るために剣を使ってきましたし、変則的で型破りな剣技はそもそも型というものを学ぶ機会がなかった故の自己流です。ですが、顳顬を丹念に揉み解す癖はありませんし、無意識にドSを発揮することもありません! 常識人だと思っているが、どう考えても常識人ではない……ではなくて、本当に常識人なんです!!」
おいおい、他のみんなが「そこかよ!」って心の中で突っ込んでそうな顔をしているぞ。ラインヴェルドに至っては腹を抱えて笑い転げているし……これぞまさに、抱腹絶倒。
というか、「常識人だ」って言っている人に限って実は非常識だってことって結構あるよねぇ。……普通人の法則の亜種??
「……なるほど、今実際に生きているオニキス殿の転生者、か。確かに剣技に似たところがあると思っていたし、癖も似通っているところがあるとは確かに思っていたが……だから、ローザが過去転生をしたと聞いた時もそこまで驚いていなかったのか。普通なら信じられなくても、実際に体験しているのなら信じるしかないか」
「……申し訳ございません、カノープス様に隠し立てしてしまい」
「別に過去を明かせと命令していた訳ではないし、人間誰しも秘密の一つや二つ持っている。……それで、オニキス殿……いや、アクアはどうしたいのか? 元の仲間の元に帰りたいのか?」
「そもそも、君は死ぬ運命にある筈だよねぇ。フォルトナ王国の第一王子ルーネス=フォルトナの派閥と、第二王子サレム=フォルトナの派閥の王位を巡る戦いに巻き込まれて。……君達や国王オルパタータダ=フォルトナ様を殺害したのは、第二王子サレムの取り巻き達……今の君はその事実を知っているから運命を変えることはできると思うけど」
乙女ゲーム『スターチス・レコード』の攻略対象の一人にアインス=フォルトナという人物がいる。
実は……というか、まんまだけど、ブライトネス王国の隣国であるフォルトナ王国の第三王子で、正室から生まれた第一王子ルーネス、側室から生まれた第二王子サレムと兄弟関係にあり、第二王子とは別の側室を母に持つがアインスの母は若くして流行病で命を落としてしまう。
第一王子の母であるイリスによって我が子のように育てられ、ルーネスとも仲が良い。しかし、その一方でサレムの派閥との関係は険悪。第三王子である自分を神輿にする者達が出ることを危惧してルーネスのために国を出る決意をし、親戚筋のスフォルツァード侯爵家を頼ってブライトネス王国に避難してきたって設定なんだよねぇ。
その背景にいるのが、ルーネスとサレムということになるんだけど、異世界化に伴い可視化された人間関係の中にはもっと多くの登場人物がいる。
ラインヴェルドやカノープスの友人で、ブライトネス王国の隣国であるフォルトナ王国の王であるオルパタータダ=フォルトナのようなほとんどの設定がボツになったキャラや、オルパタータダが好んで重用したという最早本編に登場すらしない漆黒騎士団もその一つ。
サレムの策略でオルパタータダは毒殺され、オルパタータダに重用されていた漆黒騎士団も邪魔だからと罠に嵌められて殺される。
残酷な話だけど、そうならなければサレムが主人公と出会いを経て成長し、王になると決意したアインスによって討ち取られるというエンディングには向かえない。……今更だけど乙女ゲームって、主人公達の幸せのために相当なものを生贄に捧げているよねぇ。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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