Act.9-175 次代の魔王と、大迷宮攻略。 scene.6
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
魔王城での戦闘後、ボク、アスカリッド、エリーザベト、エイレィーンというメンバーで【イストワーリ真大迷宮】……つまり、【カイの深淵迷宮】に向かった。
あの戦闘でボコボコにされたのがかなり応えているようで、エイレィーンの表情は固い。……今後、オルゴーゥン魔族王国が多種族同盟に加盟したらほぼ確実に時空騎士になるだろうし、背中を預ける相手として一定の信頼は築いておきたいんだけどなぁ。
「……満足か? 人間」
「人間じゃなくて、ローザって名前があるんだけどねぇ。でも、ローザだともう一人いるしなぁ、じゃあ、圓でいいよ。で、満足が何を指しているかは分からないけど、さっきの戦いに関しては正直不満足かな? ……言い訳に聞こえるかもしれないけど、ボクは一度もアスカリッドさんに多種族同盟入りを勧めてはいないし、エリーザベトさんと恋仲になるように工作をしたこともない。ついでに言えば、アスカリッドさんの失踪にも一切関わっていないよ。報告を受けて会いに行った時点で既にエリーザベトさんに保護されていた訳だからねぇ。オルゴーゥン魔族王国を出て外の世界を見てみたいと思ったのはアスカリッドさん自身だし、遭難したところを救われ、エリーザベトさんと一時山小屋で同棲していたのも彼女の選んだ選択の結果だ。次期魔王の自覚を持って学び、自分の目で人間と亜人種族の世界を見た結果としてアスカリッドさんは魔族と人間、亜人族の和解を望むようになった。魔族は実力主義社会、強い者に多大な発言権が与えられる。それなら、魔王に勝利して実力を示したアスカリッドさんの願いを否定することは君達の論理だと無理なんじゃないかな? それこそ、アスカリッドさんに勝って自分の願いを認めさせる以外にはねぇ。……人間がやったことを忘れろとは言わないよ。でも、それなら、君達魔族は人間や亜人種族に対して何をやった? 同じじゃないか? 過去を振り返らなければ同じ間違いをするかもしれない。別に振り返ることが悪いとは言わないよ。でも、その憎しみをいつまで引き摺るのかな? 人間と魔族、どちらかが滅ぶまで? それを望むなら今この場で魔族を滅ぼしてやってもいいよ。だってそういうことでしょう? 君が言っていることは。リスクを背負わず一方的に人間を虐殺できると思っているの? そんな訳ないでしょう? ボクは別に魔族に興味はない。別に多種族同盟に入って欲しいとも思わない。嫌なら入らなければいい。その代わり、何かあっても容赦なく見捨てて切り捨てるというただそれだけ。勿論、アスカリッドさんのことはそれでも全力で守らせてもらうよ。彼女もボクの大切な人の一人だからねぇ。……でも、正直、魔族に対してボクに個人的な恨みもなければ興味もないんだ。無関心というのが表現としては正しいだろうねぇ。ボクはアスカリッドさんとエリーザベトさんの両思いを心から祝福したいと思っているし、彼女が率いるオルゴーゥン魔族王国が多種族同盟に加盟するのであれば快く受け入れたい。それが全てだよ。……まあ、その場合は背中を預けることになるんだからもっと強くなってもらいたいけどねぇ。ってか、あれだけハンデ与えたから勝っても良かったんじゃないかな?」
「無理じゃからな! あんなものお主を相手にハンデになる筈がないじゃろう。……エイレィーン、お主には心配をかけた。しかし、あの家出を我は一度も間違った選択だとは思っておらぬ。変わらなければならない時代になったのじゃ。互いを憎めば溝が深まり多くの血が流れる。そして、それは人間にとっても魔族にとっても黙認できぬものじゃ。違うだろうか? すぐには認められないと思うが、いつかは認め、祝福して欲しい。我とエリーザベトのことを」
幼少の頃からアスカリッドの護衛役をしていたというエイレィーン。長く一緒にいてアスカリッドのことを総て知っている筈が、実は総てを知っている訳じゃなくて。
彼女の願いが人間の世界に生きたい、外の世界を見てみたいというものであったことも多分知らなかったんじゃないかな?
アスカリッドとしては受け入れてもらいたいんだろうけど、それにはまだまだ時間が掛かりそうだねぇ。
「……しかし、時空騎士が同盟爵位を持たない者に敗北して称号が奪われた前例がないとはいえ、このままだと少しまずいかもしれないねぇ」
「えぇ、ないのですか〜? てっきり脱落している人もいると思っていたのですがぁ〜」
「今のところ前例はないよ。時空騎士の内部でかなり争いが激しくてランキングがコロコロ入れ替わるけど、時空騎士全体のレベルが高まっているから時空騎士と挑戦者達の実力差が開いてしまっていてねぇ。まあ、いいことなんだけど。中でも同盟王位、同盟大公、同盟公爵――上位層だと本当に毎日何かしらの入れ替わりが複数箇所で起こっている。ただ、クソ陛下共からモチベーションが上がる何かが欲しいと要望が入っていてねぇ。今は何かモチベーションに繋がる大会のようなものを検討している最中だよ。上位八人がその年の頂点を決める大会なんて面白そうじゃない?」
「……オルゴーゥン魔族王国が加盟してもあの層の厚さじゃ、上位八人に上り詰められる者が一人いれば良い方じゃが。……ただ、とても面白そうな祭りじゃ。では、優勝者には多種族同盟最強の圓殿に挑戦できる権利が与えられるというのはどうじゃ? 公式戦で圓殿と戦える機会は限られているじゃろ?」
「一度持ち帰って検討させてもらうよ」
まあ、確かにラインヴェルド達なら喜びそうな内容だねぇ。……でも、アスカリッドの言う通り時空騎士でもないからボクと公式戦のできる状況ってほとんどないんだよねぇ。……もしかして、レアキャラみたいな扱いだったりするのかな? ボクって。
◆
最初はギクシャクした空気だったけど、何度か魔物相手に共闘したらボクが別に悪い人間じゃないということをエイレィーンも分かってくれたらしい(まあ、いい人間でもないんだけど)。
最終的にはアスカリッドの護衛としてブライトネス王国に滞在し、自らの目で人間を見て判断することにしたようだ。ボクもその方がいいと思うよ。
アスカリッドを救ってくれた恩人であるエリーザベトに対しても一応ではあるものの主君を救ってくれたことへのお礼を言葉にして伝え、二人の恋愛を祝福する姿勢を見せてくれた。……まあ、エリーザベトのぽわぽわとした得体の知れない感じが苦手なようで、エイレィーンはエリーザベトに対して苦手意識を持つようにはなったようだけど。
でも、そういうのって相手を個人個人として見るのではなく人間という大きな括りで一纏めにして、偏見の眼鏡を掛けて見ていたら絶対に持たない感情だと思うし、良い兆候だとボクは思っているよ。
エイレィーンは出会った頃のプリムヴェールに似ている。真面目で少し融通が利かなくて……でも、一緒に旅をする中でボクとプリムヴェールは打ち解けることができた。そういう関係にエイレィーンともなれればいいんだけどねぇ。
迷宮の攻略方法は【練金成術】系スキルで穴を開けては自由落下し、更に落下したまま【練金成術】を続けるというお決まりのパターン。アスカリッドとエリーザベトはあまり驚いていなかったけど、エイレィーンはかなり驚いていたねぇ。まあ、常識を覆すような攻略方法だから驚くのも無理はないか。でも、馬鹿正直に迷宮を攻略するより遥かに効率がいいからねぇ。
特にこういう最下層が四桁になるような深い迷宮は。
討伐数が多い方が得られる財宝の量も多いということで、魔物は迷宮統括者を除いて基本的に全滅させる方針で進んでいる。
流石に四人で全ての階層を……ってなると時間がかかるからカトリジャーヌとリステルカ、プリンセス・エクレールに来てもらって上層から下層に向かって魔物の殲滅をしてもらうことにした。
なので、ボク達は創り出した穴の周囲の黙示できる範囲の魔物の討伐だけをして進んでいる。まあ、それでもボス部屋は必ず通るから迷宮の要所の敵は全て撃破しているんだけど。
「魔王太極・闇光開闢」
「聖熾天翼翔光刃ですわぁ〜!!」
魔物の討伐にアスカリッドは聖属性と闇属性の魔力を螺旋状になるように融合して斬撃を繰り出すオリジナルの魔聖剣技を、エリーザベトは自身を中心に無数の光の刃を無数に展開させて放つ彼女のオリジナル魔法をそれぞれ使っている。
どちらも消費魔力が比較的少なく、連発も可能だからという理由での技選択なのだろう。しかし、アスカリッドがまさか聖属性と闇属性の融合技を編み出していたとはねぇ。
「雷光霹爆槍! 獄焔の爆裂!」
エイレィーンは先程の模擬戦とは異なり魔法をメインに戦っている。淫魔は種族特性として平均的に魔力がかなり高いんだけど、エイレィーンは魔王軍幹部に選ばれるだけあってその中でも抜きん出た力を持っているらしい。
使っている魔法はどれも上級魔法と呼ぶべきものなんだろうけど、流石に魔物を一撃で討伐という訳にはいかないんだろうねぇ。
アスカリッドとエリーザベトが事実上魔物を全て引き受けてくれているので、ボクは迷宮統括者まだ出番無し。次の階層へと続く穴を掘っていく――。
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