Act.9-174 次代の魔王と、大迷宮攻略。 scene.5
<一人称視点・リーリエ>
「かなり消耗しているようじゃな。……いや、違うか。求道神と覇王神の領域に達した霸気を絶えず放出してなお、この程度の消耗で済んでいるというべきか。もし、我がこれほどの霸気を発散すれば我自身も耐え切れずに気を失ってしまうだろう。だが、勝負は勝負だ! 我もエリーザベトも全力で圓、お主を倒すために戦わせてもらう」
「神聖魔法は《太陽神》で操作されてしまうから霊力と闘気を使って戦わせてもらうわぁ〜」
黒百合聖女神聖法神聖教会の宗教関係者は魔法が封じられた場合に備えて別系統の浄化の力――つまり、霊力の扱い方を体得している。そのレベルは鬼斬達と比較しても大差がないほど……といいつつ、全員が全員その域に達している訳じゃないけどねぇ。あくまで上位陣は……ということになる。
それでも、流石に桃郷清之丞、渡辺御剣、千羽雪風には数段及ばないというレベルではあるんだけどねぇ。……というか、魔法を使える上に霊力の扱いが千羽雪風に匹敵しつつあるプリムヴェールがおかしいのか。こういう技術は一つ極めるだけでも至難の業なんだけどねぇ。本当に奥が深いよ。
アスカリッドも霊力の扱いは習得済み。聖人に至る修行と同時期に会得したらしく、この勤勉な魔王様は努力を重ね、新しい基準の聖騎士(光属性系統の魔法を使えることに加え、一定レベルの霊力の扱いができることが条件になっているらしい。ちなみに聖人に至り、聖属性魔法や神聖魔法を獲得した者は聖騎士より一段上の聖浄騎士と呼ばれる立ち位置になる。……まあ、アスカリッドの場合は聖騎士ではなく聖浄騎士の方の条件もクリアしているということになるねぇ)の基準を越える程度の霊力の扱いはできるものの、まだまだ練度の方はあまり高くない。
「別に光への干渉を抜きにしてくれって言ってくれればいいのに。流石に要望を聞かないつもりはないよ」
「それでは困る。……ここまでハンデをもらっているのじゃ、これ以上のハンデをもらえば惨めになる」
「右に同じですわぁ〜」
「まあ、二人がそれでいいならいいけど……全力の二人に相手をしてもらうのもそれはそれで楽しいそうだと思っていたんだけどねぇ。――それじゃあ、時間もないし容赦なく仕掛けさせてもらうよ。魔王陛下、魔王妃様!」
挨拶代わりの「イービルストーム」が躱されるのは想定通り。
空歩を使ってから闇の魔力の奔流を飛び越えて回避した二人は共に剣に霊力を纏わせて刺突を仕掛けてくる。
「「霊剣龍咬!!」」
既存の鬼斬の技で近いのは「千羽鬼殺流・歳星」かな? 刺突と同時に霊力に龍の形を与えて攻撃の範囲を伸ばし、更に噛み付かせる龍の軌道を逐次修正することで攻撃の軌道を読め難くする。なかなか考えられた技だねぇ。
鬼斬の中では霊力を龍の形状に変化させて操って攻撃する戦法を使う前例はいる。具体的には鬼斬の名門の一家である咆竜家が継承する大量の霊力を消費して巨大な龍を創り出して暴れさせる咆竜鬼殺流の奥義――「昇龍咆哮」だけど、剣技と竜型の霊力を融合して攻撃技を編み出したという前例は実は存在しない。
攻撃の軌道が単純じゃないから非常に読みにくいけど、捌ききれないレベルじゃない。
武装闘気と覇王の霸気を乗せた双剣――『漆黒魔剣ブラッドリリー』と『白光聖剣ベラドンナリリー』でアスカリッドとエリーザベトの「霊剣龍咬」を迎え撃つ。
剣と霊力が交差する寸前、膨大な霸気が衝突し、空間そのものが三分化されたと錯覚するように歪み、歪みの圧力で無数の亀裂が走った。
破壊力はオルレオスとの斬り結びを凌駕するほどまで高まっている。……相手が二人ということもあるんだけど、二人とも霸気の使い手――二人自身の霸気も合わさっていることで破壊力が段違いに増しているんだろうねぇ。
「まさか!? 二人で同時に攻撃しているのに霸気の量も質も敵わないというのか!?」
「霊力が、粉砕されるわぁ〜!!」
瞬間的に覇王の霸気を爆発させ、二人の剣が纏っていた霊力を吹き飛ばす。
……しかし、これだけの攻撃を放っても霊力を吹き飛ばすのが限界か。やっぱり強いねぇ、楽しくなってくるよ。
「闇撃包囲網」
アスカリッドの魔王技以外の魔法、そういえば初めて見るなぁ。
無数の小さな闇の魔法陣を空中に展開し、全ての魔法陣から不規則的に闇属性攻撃を放つ……ってところかな? 追加の魔力供給が可能でアスカリッドが魔力切れを起こさない限りは半永久的に攻撃ができる。
見気と紙躱を駆使すれば回避できるレベルとはいえ、軌道を避けて動けばボクの動きは大きく制限されることになる。流石にそんなハンデを背負って勝てる相手じゃないし、先に「闇撃包囲網」を潰した方が良さそうだねぇ。
「影片蝙蝠」
魔法陣は繊細な作りになっている。一部でも欠損が発生すれば闇属性の砲撃を止めることができる筈だ。……いや、実際のところは試さないと分からないのだけど。
自身の影を無数の小さな黒い蝙蝠へと変化させ、魔法陣を破壊すると同時にアスカリッドとエリーザベトにも何体か放つ。……掠ってくれれば睡眠の状態異常を発生させることができるんだけど、やっぱり掠り傷も与えさせてはくれないか。
……でも、完全に通じないって訳じゃなさそうだねぇ。少し捻って使えばまだ通用する可能性はある。
「影蝙蝠の吸血姫」
「影片蝙蝠」を収束させ、リーリエの影を創り出す。元々は「影片蝙蝠」を完成させたタイミングで対となる魔法だから完成していたんだけど、なかなか使うタイミングが無かったんだよねぇ。
二人から距離を取ってからエリーザベトに狙いを定めて影のリーリエに攻撃を命じ、ボクの方はアスカリッドに狙いを絞る。
「くっ、我とエリーザベトを分断して我から先に撃破しようという魂胆か?」
「さあ? 心の中でも読んでみればいいんじゃないかな?」
「いや、違う! エリーザベト! 狙いはお主じゃ!」
「もう遅いよ。影片蝙蝠」
エリーザベトと影のリーリエは剣を交えていた。言い換えれば、エリーザベトは剣の間合いに入っていたということになる。
自分の身を守ろうと霊力と霸気を纏った剣で受けるしか無かったんだろうけど、本来この場でエリーザベトが取るべき行動は影のリーリエから距離を取ることだった。
ここまで近づいていたら流石に見気と紙躱を駆使しても躱し切れない。無数の影の蝙蝠がエリーザベトに襲い掛かる。それでも何十体レベルで回避してくるのは流石としか言いようがないけど、いくつかの影の蝙蝠がエリーザベトに命中した。
「くっ……眠いわぁ〜。それでも、まだ、眠る訳には〜いかないのぉ〜。魂霊崩壊」
「置き土産の魂霊崩壊か。……でも、単体の魂霊崩壊なら回避も容易――」
「させる訳が無かろう! エリーザベトが繋いでくれた勝利の可能性を我は絶対に無駄にせん! 暗黒包囲壁」
強度を極限まで高めた闇の魔力でボクを包み、回避を封じるつもりか。確かに「魂霊崩壊」が当たればボクも流石に耐え切れない。
「障壁干渉! 百合好きとしてはアスカリッドさんとエリーザベトさんの愛の結晶を、連携を壊すのは忍びないんだけど、正々堂々と戦うのが礼儀だとボクも思うからねぇ。容赦なくトドメを刺させてもらうよ! 破滅光芒!」
相手の素の防御以外の強化や障壁の効果を0.001%に低下させる無属性バリア潰し魔法で「暗黒包囲壁」を弱体化させ、圓式の斬撃を放って斬り裂いて突破――完全に眠りに落ちたエリーザベトに向かって火・氷・雷の三属性の魔力を強引に重ね合わせることで生み出した虚数エネルギーにより対象を最小の単位までレベルまで分解消滅させる分解魔法を放って撃破する。
「……相変わらずやることがエゲツないのじゃ。――次の攻撃に全てを賭けるッ! 魔王技・闇之氾濫」
「セイクリッド・ウラノメトリアッ!」
『漆黒魔剣ブラッドリリー』と『白光聖剣ベラドンナリリー』を鞘に戻し、カトリジャーヌがレベル120で習得する光属性魔法を発動――天空の星々の力を宿した神剣を召喚して光の斬撃を放つ。
レイドダンジョンの最奥でカトリジャーヌの存在を知った後、もしかしてと思って試してみたら勇者の習得する魔法に関しては普通に使うことができたんだよねぇ。まあ、その時に試したのは「セイクリッド・グランシャリオ」で「セイクリッド・ウラノメトリア」を試すのは今日が初めてなんだけど。ぶっつけ本番という奴だねぇ。
光と闇の奔流が拮抗したのはほんの一瞬だった。すぐに神剣の光がアスカリッドの放った闇の奔流を上回ってアスカリッド諸共塗り潰していく。
アスカリッドの消滅を確認した後、ボクは「L.ドメイン version.4.96 市街地F」も魔王城の謁見の間を繋ぐ唯一の通路を辿って魔王城の謁見の間に戻った。
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