Act.9-172 次代の魔王と、大迷宮攻略。 scene.3
<一人称視点・リーリエ>
オルレオス撃破の衝撃は大きかったらしく、周囲に広げた見気から聞こえてくる声はどれも動揺の感情に染まっている。……いや、アスカリッドとエリーザベトは別の意味で動揺しているみたいだけどねぇ。さっきの空間のひび割れ、実はボクも初めて見て、より濃厚な霸気同士の衝突はあんな感じになるんだって内心驚いていたんだけどねぇ。
アスカリッドとエリーザベト……はメインディッシュにしたいから後回しにして、まずは誰から戦おうかな? ……よし、決めた。
狙いを定めたランギルドはボクの現在位置から最も近い高層ビルの中に潜んでいる。
そのまま潜んでいる高層ビルの五十二階まで光の速度で登って行ってもいいんだけど。
「魔法の手術室! 切断」
『漆黒魔剣ブラッドリリー』を鞘に戻し、『統合アイテムストレージ』から一振りの刀を取り出す。
ボクがユーニファイドに召喚されたシャマシュ教国の王城の工房で試しに打ってみた刀――『鬼哭啾啾』をベースに改良した『医刻刀・鬼哭啾啾』と呼ぶべき刀で、黒刀化も無事完了している。
この刀の特徴は武器に『天恵の実』を食べさせる技術で食べさせた『天恵の実』にある。
『人化の天恵(モデル:外科の魔女)』……これ存在しなかった『人化の天恵』に区分されるもので、文字通り食べれば人に成ることができる。この刀も武器、獣武器、獣……正確に言えば、武器、人武器、人の三形態を持ち、人の姿は元になったクレールの姿に近い外見になる。
この技術は人間の遺伝子を解析し、『天恵の実』を作り出すというある種の禁忌に触れたものなんだけど、この技術で得られた最大の利益はこれまで再現不可能だった魔法少女の固有魔法を再現できるようになったことにある。
『医刻刀・鬼哭啾啾』を使えばクレールの固有魔法が使えるようになる。その力で外科魔法の前提条件となる手術室を展開し、直接刃が届いていなくても刀を振るった軌道の延長線上に存在する全ての物体を纏めて切断することが可能な「切断」でビルの五十二階と五十三階の境目に斬撃を走らせてその部分でビルを両端した。
五十三階以降は勢いよく滑り落ちて、隣の高層ビルの四十階付近に衝突……もし、これが本物の市街地だったから大惨事になっていただろうねぇ。
「隠れてもダメか……魔王様も一撃で負けてしまったし、勝てる見込みは全然ないんだけど。このまま一方的にやられるのも嫌だからね。劇毒爆砲弾」
蒼銀の長髪と金色の瞳を持つ可憐な美少女にも幼げな美少年にも見える中性的な顔立ちの容姿から一転、髪が紫色に染まり、手から紫色の粘液が連続で解き放たれる。
「ブラックホール・フラグメント」
小さなブラックホールの断片を複数同時に出現させる「フェイク魔法」に分類される闇魔法で劇毒の砲撃を全て消滅させ「ダークマター・パーマネント」を放った上で「ダークマター・フェイク」を連続で放ち、ランギルドを撃破する。
最初の「ダークマター・パーマネント」はボクの手の内を知らないから回避できなかったけど、それ以降の「ダークマター・フェイク」の方は比較的回避できていたねぇ。ちょっと舐めていたことを反省したよ……まあ、「ダークマター・パーマネント」の追加効果のダメージカードの設置で回避不能な「ダークマター・バーチカル」と「ダークマター・ホリゾンタル」が発動したから結局初手の「劇毒爆砲弾」を放って以降は一度も攻撃に転じられないまま撃破されたんだけどねぇ。
◆
オルレオスとランギルドを立て続けに撃破し、残るはアスカリッド、エリーザベト、ヴァイツァール、エイレィーン、六花、ハイゲイン、レイチェル、エドヴァルトの八人。そのうち、アスカリッドとエリーザベト、エイレィーン、六花、レイチェルの三人が合流し、未だ単独行動をしているのはヴァイツァール、ハイゲイン、エドヴァルトの三人か。
あの大立ち回りを見せても一切動じずにこちらに迫ってくる敵影が一人――ヴァイツァール。
いや、ヴァイツァールを囮にしてメインは高層ビルの屋上から杖を構えてボクを狙っているハイゲインの方か?
「合流している気配は無かったけど共闘の準備を整えているみたいだねぇ。……風魔法を利用した通信手段でも使ったのかな? 狙撃役のハイゲインさんの方がメインってところだろうねぇ」
「そこまで手の内がバレているのか? ああ、確かにお前は強いかも知れない。だが、魔王軍随一の剣士である俺に剣で勝てると本気で思っているのか?」
ヴァイツァールが右手に抱えていた兜を被った頭を放り投げる。上空から戦場を見渡す鳥瞰視野を手に入れ、得意の剣で周囲の敵を切り捨てる戦法かな? 上空から見下ろしているから死角は頭の背後のみ……これなら不意打ちも防げる。
……それ、見気で良くない? 頭を放り投げて無防備を晒すなんて愚行をせずとも死角くらいはカバーしなければ多種族同盟の上位勢には勝てないんだけどなぁ。まあ、闘気を使う方法を知らない人の方が大多数を占める魔族にそれを言うのは酷か。
肝心の斬撃は、まあ、速い方かな? という程度。見気の未来視を使えば余裕で対応できるし、無くても問題なく捌き切れる。
「くっ! ならば、死纏! 我が剣に掠った者は即死する!」
「擦ればねぇ! もうお遊びは終わりにしようか? 圓式比翼」
『医刻刀・鬼哭啾啾』を『統合アイテムストレージ』に戻して『漆黒魔剣ブラッドリリー』と『白光聖剣ベラドンナリリー』を鞘から抜き払って双刀から圓式基礎剣術の斬撃を叩き込む。
ヴァイツァールの眼には辛うじて空気を擦過した瞬間に生じる白い輝きが映ったくらいじゃないかな? 残像すら捉えきれない究極の斬撃に驚愕しながらヴァイツァールは消滅した。……これ、まだ基礎だから光の速度まで加速とか、血動加速による高速攻撃とか強化段階があるんだけどねぇ。
『天涯より降り注ぐ業火!』
ヴァイツァールを失ってもハイゲインに引く気は皆無か。上空に巨大な炎の塊を創り出し、勢いよく落下させる火属性戦術級魔法というところから。……随分と範囲の広い魔法だねぇ。
「術式霧散」
まあ、戦術級魔法でも分解してしまえば封殺できるんだけどねぇ。これでハイゲインを絶望の淵に叩き落とし、生まれた心の隙を突いて攻撃を仕掛けようと目論んでいたんだけど、どうやらすぐに気持ち切り替えて別の魔法を発動するつもりらしい。
『神々の雷迎』
今度は上空から雷撃を連続で降らせる戦術級魔法か。……スケールが大きいねぇ、どの魔法も。ただ、雷撃の降り注ぐ位置までは制御できないから見気の未来視を使えば回避できるんだけど。
さて、これ以上引き伸ばすとボクの霸気がすっからかんになって気絶ルートだし、そろそろハイゲインにトドメを刺そうかな?
「武装解除」
持っている武器は吹き飛ばされ、あらゆる能力強化は無力化されて、無力化された強化分のダメージが衝撃となって跳ね返ってくるというなかなか厄介な無属性魔法。『這い寄る混沌の蛇』らしい積み上げたものを破壊する魔法ではあるんだけど、使いやすい魔法であるのも確かなんだよねぇ。
消費魔力もそこまで多くはなく連発できる。そして、相手に施された強化を全て無効化できるという強化の無効化と、相手のバフ分のダメージを与えるという追加効果を有する。
ディスターバー系の魔法も有能な強化無効化攻撃ではあるんだけど、強化を暴発させてダメージを与えているという構造であって、強化そのものを敵へのダメージにそのまま変換させることはできない。
まあ、ディスターバー系にはディスターバー系で利点はあるんだけどねぇ。「武装解除」は知っていれば攻撃範囲の敵の前方に入らないという手も打つことができるし。今の多種族同盟の上位勢で不意打ち以外で「武装解除」をまともに食らう人はいないんじゃないかな?
今回は初見なのでハイゲインは回避できずに消滅。そりゃ、魂魄の霸気《神軍》で求道神・覇王神クラスの霸気を纏った状態でいるんだから、その強化が跳ね返れば例え魔王軍幹部クラスであろうとも一溜まりもないよねぇ。
光速移動を使ってエイレィーン、六花、レイチェルがいる区画まで移動する。
美女が三人、絵になる光景だよねぇ……エイレィーンが殺気立ってボクのことを睨め付けているのが些か残念ではあるんだけど。
「魔王陛下だけでなく、ランギルドさん、ヴァイツァールさん、ハイゲインさんを立て続けに撃破――確かに圧倒的な強さをお持ちのようですわね。しかし、流石に魔王軍幹部を三人同時に相手するのは厳しいのではないかしら?」
「どうでしょうねぇ。……戦ってみるまでは結果は分からないものだよ」
「そうですわね。エイレィーン様、六花様、仕掛けますわよ! 蜘蛛ノ巣斬」
先制攻撃を仕掛けてきたのはレイチェル。魔蜘蛛の女王の力で作り出した糸で蜘蛛の巣を創り出し、その蜘蛛の巣を勢いよく射出する技を放ってきた。この糸、粘性を持っている糸ではなく鋼鉄並みの強度を持つ糸のようだから型抜きをするように命中した部分に斬撃を貫通させて敵を斬り裂くことができるみたいだねぇ。
今までにないタイプの糸の使い方だなぁ……まあ、強度は鋼鉄程度だから霸気纏わせて双剣で切り裂けば終わりなんだけど。
「雪女の力、お見せするわッ! 凍える世界」
「龍宿魔法! 竜暴食」
六花が放った一瞬にして敵を氷漬けにしてしまうほどの極寒の冷気をスティーリアの力をその身に宿す「龍宿魔法」を発動し、「竜暴食」で喰らい尽くす。
六花の種族は雪女――攻撃手段は氷系統だけだろうから(他の属性の魔法も一応使えるとは思うけど、雪女だと氷属性の攻撃を種族特性で強化されるから、氷属性を極めて他の属性はおざなりになっちゃうんじゃないかな?)、これで封じられた筈だ。
「まさか、その力は……伝説の古代竜の」
「そういや、魔族にとっても古代竜の力は伝説級なんだっけ? うーん、相性有利な〝火竜帝〟の力で葬ってもいいんだけど、あえて〝白氷竜〟の力で葬ってあげよう。……とその前に、竜舞」
「……一体だけではなく、まさか二体の古代竜の力をその身に宿しているというのですか!?」
六花が驚愕している間に黒い稲妻のようなスパーク状のオーラを発生させる。竜族専用の自己強化技の一つでこの技を使用することで攻撃力、魔法攻撃力、敏捷を一段階上昇させることができる。
要するにバフ積み技なんだけど、発動にデメリットはないから連続で積むこともできるんだよねぇ……この技単体だと三段階までしか詰めないということになる。まあ、単純に攻撃力、魔法攻撃力、敏捷が元の数値の四倍にまで膨れ上がるんだから相当強力なバフ技ではあるんだけどねぇ。
ちなみに、古代竜は素の攻撃力が高いからあまり積み技は使わない。勝てないと判断した場合に一段階くらい上昇させることはあるんだけど、積み技のように使うことはしないみたいだねぇ。……実際に限界値が三段階上昇だって発覚したのもボクが調査した結果だし。
「白氷竜の咆哮」
一積み状態からの古代竜のブレス。雪女は氷耐性が高いんだけどそれでも耐え切れずに一撃で消滅した。……やっぱり古代竜の力は凄いねぇ。
「さて、六花さんが消えて残りはエイレィーンさんとレイチェルさんの二人。時間もそこまである訳じゃないし、ここからもう少しだけギアを上げていくよ」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




