Act.9-171 次代の魔王と、大迷宮攻略。 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
王女宮筆頭侍女の仕事を終えてから三千世界の烏を殺して約束の時間に移動した後、アスカリッドの持つナイフを転移先に指定して《蒼穹の門》を発動すると、転移した先の場所は魔王城の玉座の間だった。
玉座に座るのは魔王オルレオス。その右隣にはアスカリッドとエリーザベトの姿がある。
そして、玉座の間の階段を降りた先にある広間には魔王軍幹部と思われる猛者達が勢揃いしていた。
「首無しの騎士のヴァイツァール=ダヴェッルに、淫魔の騎士エイレィーン=サキュメア、雪女の雪城=アヴァランチ=六花、不死の大魔術師のハイゲイン=ゼルフェルストに、魔妖粘性体と劇毒粘性体の種族を持つスライム族の王ランギルド=フォルジァール、魔蜘蛛の女王のレイチェル=アラーネア、竜人族族長のエドヴァルト=オークァス……魔王軍幹部が揃い踏みか。なかなか壮観な光景だねぇ。……まあ、大半に敵意を向けられてピリピリした空気になっているのだけは残念だけど」
「青薔薇のローザの姿で来たのじゃな」
「そりゃ、十歳の公爵令嬢の姿で来たら舐められるだろうしねぇ。……エドヴァルトさん、そんなに怯えなくても大丈夫だよ? 取って食ったりしないからねぇ。というか、孤高の種族が人間如きに怯えちゃダメでしょう?」
「人間如きって何の冗談だよ。……俺は止めたんだぜ、やめとけって。だが、そこの親莫迦な先代魔王陛下は『魔王軍幹部を含め総出で挑めば今度こそ勝てる!』なんて寝惚けたことを言い出すし、長年魔王様の専属騎士として仕えてきた真面目淫魔女騎士のエイレィーンは『圓とやらが純粋な姫様を誘拐し、挙句洗脳してあの聖騎士と恋仲にさせたに違いない! 絶対許さん!』ってブチギレているし、他の魔王軍幹部も大なり小なり人間に対して敵意持っているから人間代表の圓様をボコボコにする気満々になっているし、穏健派の魔王軍幹部も実力を見定めたいなんて身の程知らずな考えから戦いを挑むことを止めないし、断っても参戦させられること決まっちまうし、俺もう帰りたい」
凄い本音だねぇ、エドヴァルト。全方位に喧嘩売っているけど大丈夫……じゃないよねぇ? それ。
「という訳なのじゃ。コヤツらは実力を認めさせるまで納得はせぬ。リベンジに燃えているそこの莫迦父上と共にボコボコにして身の程を分からせてやってはくれぬか?」
アスカリッドは完全にボクの方の味方だねぇ。あの様子だと多種族同盟への加盟を強烈に反対されているのだろう。アスカリッドが実力を示したとしても、オルゴーゥン魔族王国の中枢の掌握は困難を極めるってことか。
……というか、アスカリッドが強くてもそれは多種族同盟の強さの証明にはならない。加盟をするのであれば過去の蟠りを水に流せるほどの強さを示す必要があるってことか。
魔族にとって、強さは大きな意味を持つ指標となっている。多種族同盟に加盟する以上、圧倒的な強さによる庇護という利益を得られなければならない。……その資格があるかを試す意味合いもあるんだと思う。
「分かったよ。それじゃあ、ついでアスカリッドさんとエリーザベトさんも参戦しようか?」
「ま、待つのじゃ! わ、我らもか! 我らにも圓殿と戦えということか?」
「ついでだし、纏めて鍛え直してやるよ。……実はストレスが溜まっているんだ。この忙しい師走の時期に降ってくるトラブルの数々。知っているかな? 師走は忙しいんだよ。ニコラオス聖祭に、聖夜祭に、新年祭。教会関係者(女神)としても、王女宮筆頭侍女としてもやらないといけない仕事が沢山あるんだ。それなのに、予定外にマリエッタは絡んできて面倒ごとに巻き込んでくるし……半ば義務的に好きでもない人とデートをしているタイミングで天然アピールしてくるのはいいとして、ラピスラズリ公爵家を完全に軽んじて名指しで謝罪の場に呼び出したり、気持ち悪い手紙を読まさせられたり、もう本当に最悪な気分だよ。……後は何故か使者として派遣されたポラリスには『ちゃんと休まんか!』って説教されるし。挙句、どこぞの阿呆魔王はこのクソ忙しい時期に教会に襲撃仕掛けてくるし……ねぇ、本当に巫山戯んなよ、って思わない?」
「あっ、これヤバいのじゃ! アクア殿然り、フォルトナの総隊長殿然り、怒りで我を忘れた圓殿は誰にも止められぬ。……しまった、こういうことならラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下を呼んでくるべきじゃった」
「誰がシューベルトやティアミリスと同類だってぇ?」
「うわぁ、目が真っ黒に染まって渦成して怖いわぁ〜」
「というか、魔王様! 火に油を注がないでください!」
「ああ、あのクソ陛下共は呼ぶなよ? 折角真面目に仕事してくれているんだからねぇ」
「わ、分かったのじゃ! (逆らったら殺される! 逆らったら殺される! 逆らったら殺される逆らったら殺されるのじゃ!!)」
嫌だなぁ、ちゃんとまだ理性保っているって。殺しはしないよ。大切な百合の花を手折る訳がないじゃないか。
◆
「E.DEVISE」起動して『異世界ユーニファイドサーバー』に接続した後、「L.ドメイン version.4.96 市街地F」を展開し、通路を開く。
バトルフィールドは無数の高層ビルが建つ都市を彷彿とさせる場所。勿論、高層ビルを含めた建物の中に無関係の民間人は一切いない。……まあ、やろうと思えば民間人を再現することはできるんだけど。
「ふむ、かなり障害物の多いフィールドじゃな」
「戦闘開始はもう少し待ってねぇ。今から三分後に戦闘開始地点に転送されてから開始になるから。ルールは単純明快、ボクはボク以外の全員撃破、アスカリッドさん達はボクを討伐すれば勝ちとなる。高層ビルの内部も精巧に作られているから中にあるものを利用して戦うも、複雑なビルの内部を利用して室内戦を仕掛けるのも良し。逆に、室外を使った戦闘でも使い方によっては高層ビルは障害物として使えると思うよ。制限時間はないんだけど、一つだけ条件を追加させてもらう。ボクは戦闘開始と同時に魂魄の霸気《神軍》を使わせてもらう。味方を強制的に求道神や覇王神の領域まで高める魂魄の霸気だ。……その分消耗は激しいんだけどねぇ」
「正気か! あまりにもハンデが重過ぎるのではないか!」
「これはボクの修行も兼ねている。最悪、意識を失う可能性もあるけど、だったら意識があるうちに殲滅すればいいだけのことでしょう? それに、今のアスカリッドさんとエリーザベトさんの霸気じゃボクには届かない。大丈夫、その代わりボクも本気を出すから」
「全く大丈夫じゃないのじゃが」
「ああ、別に逃げ回ってもいいよ。ボクの霸気が尽きるのを待ってボコすのも戦略だ。……まあ、ボクの見気から逃げられる自信があるならねぇ」
「アスカリッドさん、どうしますか〜?」
「……極力光系統は使わずにいく。それと、転送されたら我らは速やかに合流するぞ」
「分かりました〜」
「それじゃあ、健闘を祈っているよ」
アスカリッド達は光に包まれてフィールドのいずれかの地点へと転送……された筈なんだけど、約一名運がいいのか悪いのか転送先がボクの目の前だった人がいるみたいだねぇ。
「……転送先はランダムの筈だけど、面白いこともあるものだ」
「どこへ飛ばされようとも関係ない。ここなら死なないのだろう? ならば、死力を尽くして戦うまで。リベンジを果たさせてもらうぞ! リーリエ!」
「アカウントチェンジ・リーリエ! あの時は手を抜いていたけど、今回は時間制限があるんでねぇ、とっとと仕掛けさせてもらうよ。光の速度で蹴られた経験はあるかな? 《八百万遍く照らす神軍》――《太陽神》・《光蹴砲》」
光の速度で蹴りを放つ……のではなく、正確には足から光を収束したレーザーを放つ技なんだけどねぇ。
ちなみに、光速移動を利用して本当に蹴りを光の速度で放つこともできる。
「流石は魔王、僅かに体勢をズラして被害を左上だけに留めることに成功したみたいだねぇ」
「今の攻撃……全く見えなかった。被害を最小限に留めることに成功した? いや、違う! 我には被害を減らすことしかできなかった! だが、今の我はかつてないほどの力を手にしている! この力なら、お前を葬れる! そうだろう? 魔王技・闇魔開闢」
「その力は所詮は借り物、いずれはそれくらいの霸気を己がものにできる格になってもらいたいけどねぇ」
闇を纏わせたオルレオスの剣とボクの『漆黒魔剣ブラッドリリー』が激突する。
一瞬の斬り結び――しかし、その一度の衝突は互いに込められた霸気が強大な故に甚大な被害を及ぼす。
これまで幾度か天が割れるほどの衝撃が迸ったことがあった。だけど、最早その程度のレベルではない。
霸気の衝突によって空間そのものが二分化されたと錯覚するように歪み、歪みの圧力で無数の亀裂が走った。……時空間に歪みが生じて時空の裂け目と呼ぶべきものが生じている。その亀裂は「時空崩壊」によって生じた自然には二度と修復できない時空の歪みに似た性質を持っているようだから、生じる破壊の規模は押して知るべきだねぇ。
「ならば、魔王技・冥府之焔」
「斬撃が通らないと分かったら魔法に切り替える、なかなかいい考えだけど魔法を使えるのは君だけじゃないからねぇ。術式霧散! からのぉ、膨大な霸気纏いて降り注げ! 虚空ヨリ降リ注グ真ナル神意ノ劒!」
刃渡り百メートルを優に超える虚空属性の巨大な剣を顕現する侍系四次元職の征夷侍大将軍の奥義に『怠惰』の権能《神の見えざる手》経由で膨大な覇気を乗せて降り注がせる。
《太陽神》の力で落下速度が光の速度まで加速されたり百メートルを優に超えるを躱す方法はオルレオスにはない。無数のポリゴンと化して消滅する間も無く戦場から消滅し、オルレオスはオルゴーゥン魔族王国側の最初の脱落者となった。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




