Act.9-169 王女宮とラピスラズリ公爵邸のニコラオス聖祭。 scene.3
<三人称全知視点>
王宮の端にある使用人区画の寮、ニコラオス聖祭の夜にも暗がりの中で小さなランプを囲んで談笑に耽っている女の子が四人。
大きな行事ごともあり忙しくなる十二月、メイナ達にとってはこの談笑の場がストレス発散の材料となっていた。
日々の愚痴を零し合い、また明日からも頑張ろうと活力を出す。
同室のカルネ、アラベル、セレストはそれぞれ所属先での仕事で溜まった愚痴を零していたが、そんな中、メイナだけはほとんど職場の愚痴を零すことはない。ヴィオリューテに対する愚痴を零すことは多少なりあるが、最も増えるであろう上司に対する愚痴がメイナの口から零れることは皆無だった。寧ろ、上司であるローザを気遣う発言が増えており、本気で上司を心配するメイナの姿を微笑ましく見守る三人の友人達という構図になっている。
そんな四人の時間は唐突に終わりを告げた。訪問客の到着を告げるノック音、その音を聞き、五月蠅くしてしまったから見回りをしている当直の侍女に怒られるのではないかと警戒するメイナ達。
恐る恐るドアを開けると、そこには王女宮筆頭侍女のローザの姿があった。
「ごめんなさい、また邪魔をしてしまったわね。折角の談笑の時間だったのに」
「ローザ様、こんな夜更けにどうされたのですか?」
「メイナから頼まれていたガレット・デ・ロワを届けに上がらせてもらったの」
「ありがとうございます! ローザ様、今から少しだけお時間を頂けますか? 紅茶をお淹れしますので、私達と一緒に……細やかなお茶会にはなってしまいますが」
「申し訳ないのだけど、まだまだ届けないといけない先がいくつかあるのよね。とりあえず、ご注文頂いた王女宮組のほとんどと王族の皆様方にはお渡ししたから、後はスカーレットさんに一つ届けて、それからソフィスさんと一緒にアクアマリン伯爵家まで届けることになっているの。お断りしようと思ったのだけど、そのタイミングでお茶会の約束をしてしまっていて。メイナ達とのお茶会も魅力的なお話だけど……流石にお腹いっぱいになってしまうわ。また機会があれば誘ってくれると嬉しいわ。ケーキくらいは用意させてもらうから」
「先約が……それは仕方がないですね。忙しい時期が過ぎたらローザ様をお誘いしたいですが、ケーキを催促しているみたいでなんだか申し訳なくなります」
「申し訳ないと思うことでもないと思いますよ、ケーキの一つや二つ。それでは、皆様、良い夜を過ごしくださいませ」
ガレット・デ・ロワを置いて風のように去っていくローザを見送ってからガレット・デ・ロワを抱えてメイナは部屋に戻った。
「お茶会に誘ったけどダメだった」
「折角の機会だったからあの時のケーキのお礼と感想、言いたかったわ」
「本当に忙しそうにしている方よね。もう随分と夜遅いけど、今からアクアマリン伯爵家まで行くって大丈夫なのかしら? 明日も仕事なのよね?」
「それを言うなら私達もだけど」
「ソフィスさんもそうだけど、お二人ってちょっと違う気がするのよね。何かって詳しく説明できないのだけど、スカーレットさんが模範的な令嬢のレベルだとしたら、明らかに頭二つ抜きん出ているというか。……仕事の速度も精度も、礼儀作法のレベルも桁違いなのよ。ソフィスさんから聞いたのだけど、二人は行儀見習い以前から交流があるそうだし……これはあくまで噂なのだけど、見た目を理由に差別され、引き篭もりになっていたソフィスさんを救ったのが幼い頃のローザ様だと聞いたこともあるのよね。……お二人とも年下だってことをついつい忘れがちになるけど、二人って十歳、十一歳くらいだし、幼い頃って一体いつ頃って思うんだけどね」
まさか、ローザとソフィス、三歳の夏の出来事だとは露ほども思いもしない四人である。まあ、三歳でそこまで成熟していると思わない方が自然なのだが……。
◆
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
アクアマリン伯爵家の夜茶会で得られた活力を武器に王女宮以外の通常業務を終え、その後、待ちに待ったミニスカサンタ祭り。
いやぁ、まさか本当に祭りになるとは思わなかったよねぇ。……女性使用人達が全員ミニスカサンタコスプレしてお出迎えって予想できる訳ないじゃん。
ボクとアクア、ネスト、三人ともモフモフされ、ネストのHPとか男の矜持がゴリゴリ削られていく音が聞こえた。
しかし、ナディアとニーナの下着みたいな……というか、ほぼほぼ女性下着にしか見えないエロいサンタコス衣装、一体どこに売っているのか、っていうか絶対に既製品じゃないよねぇ。まさか、そのためだけに作ったの!?
ちなみに、聖夜の被害者は毎度のことながら女心を分かっていないヒースと、巻き込まれたヘクトアール。二人ともボコボコにされて可哀想なことになっていたねぇ。あっ、勿論、アクア達にエロい目を向けていたヒースの顔面には容赦なく霸気を纏わせた蹴りをぶちこんでおいたよ。
比較的凶暴な仮面が外れやすいカレンが「うわぁ」ってなっていたし、顔に足の甲が減り込んでいたからかなりのダメージが入ったかもしれないねぇ。実際、面白いくらい吹き飛んでいったし。
まあ、プレゼントは一通り配れたし、アクアとネストから可愛い成分得られたし、更に今年はラピスラズリ公爵家の女性使用人達からも彼女達からしか得られない成分も得られたし、ボクは満足です。いや、良い癒しになった。
正直、これくらいの癒しがないと乗り越えられないものがある……っていうか、マリエッタからの謝罪を受けるという誰の得にもなっていない展開というか。正直、このタイミングでは色々と事情があってお関わりにはなりたくないんだけど、ボクの都合なんて無視か。まあ、当然だよねぇ、マリエッタは敵陣営な訳だし。はぁ……溜息も吐きたくなりますよ。
ということで、聖夜明けの今日、内宮の応接室の一つでノクトの立ち合いの元、謝罪が行われることになりました。……うん、正直、本当に謝罪だったのかは分からない。
丁寧な謝罪の言葉と淑女のお辞儀カーテシー、それから仲直りの握手……なんてイージーモードになるとは流石に思わなかったけどさぁ。
彼女の言葉を要約すると、「よく分からないままにパーティのエスコート役とかを彼氏さんに勝手に頼んじゃって嫌な思いしちゃったってことですよね? ごめんなさい!」を丁寧な言葉で告げられただけだった。うん、ただ状況整理をして軽い謝罪擬きを付け足しただけだよねぇ? しかも、「ごめんなさい」も謝罪の心一欠片も篭っていない形ばかりのものだったし。
いや、ボクは別にアルベルトをコンマ一ミリも愛していないから良いけどさぁ、これって要約すると「とりあえず、アルベルトに勝手なことをしてごめんね? 嫌だったよね?」っていうことだし、相手がアルベルトを本当に愛している恋人とかならただただ圧倒的なヘイトを与えるだけだと思うけどなぁ。
勿論、その発言の直後にノクトがボクの方が身分が上であることなどを含めてお説教を始め、それからずっとお説教に次ぐお説教。謝罪の時間よりトータルでお説教の方が長くなるという結果だった。
まあ、ボクに全く関係のないお説教だったから脳波で「E.DEVISE」を操作して小説の原稿を書いていたけどねぇ。えっ、関係ないとはいえお説教はちゃんと聞けって? 背筋伸ばしてちゃんと聞いていたよ? お説教をバックグラウンドミュージック代わりに聞きながら並列思考で原稿を書いていたんだって。……今回は完全にボクが被害者だし、ボクに非は一切ないから聞かなくても良かったんだけどねぇ。
その後、マリエッタは時間がそんなに取れないからと手紙を渡して去っていった。立場上、王城内に長時間留めて置く訳にはいかないと言われていて、今回の謝罪の時間もその中から捻出したものなのに半分以上を説教に費やしちゃったからねぇ。手紙を書いておくという行為だけは英断だったと思うよ。行為だけは。
まあ、嫌な予感しかしないけど、見ないで仕舞っておくことはできない。ノクトに催促されるまま、封を切って手紙を取り出す。
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王女宮筆頭侍女様へ
先日は、ご挨拶等で失礼なことをしたと知り、こうしてお詫びの手紙を書かせて頂きました。
まだ手紙の作法なども拙く、こちらでも失礼があるかもしれませんがお許しください。
本当は直接ゆっくりお話して謝罪するつもりでしたが、王城内にあたしは長く居てはいけないと教育係の人にも言われているので、こうしてお手紙を書くことにしました。
貴族社会って色々と面倒なものですね。
ところで、新年祭のパーティにはご参加なさらないんですか?
良かったら是非アルベルト=ヴァルムト様と筆頭侍女様も参加してパーティを一緒に楽しみませんか。まだ友達もいないので、良かったら色んな人に紹介してもらえたらなぁと思って。
この間はアルベルト=ヴァルムト様とはほとんどお話もできなかったので良い考えだと思いませんか?
父もヴァルムト伯爵様に憧れているとのことで、繋がりができたらいいなと娘の私も思っています。
勿論、あたし自身もアルベルト=ヴァルムト様や筆頭侍女様、そのほかの人とも仲良くなれたらいいなと思ってます。
お返事はお手紙でも直接でもかまいません。待ってます。
マリエッタ=スターチス
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「時候の挨拶とかは無し……随分とまあ、フランクな手紙だねぇ。でも、あからさま過ぎないかな? 天真爛漫を装った手紙ならもっと戦略的に書けると思うんだけど。露骨にアルベルトのことしか考えていないというか、結局アルベルトを新年祭のパーティーに呼んでアシストしろって言っているみたいな文面だよねぇ。というか、仲良く? ローザ=ラピスラズリの傀儡が、ボクのことなんて排除する敵として認識していないんじゃないの? いや、本当に読んでいて気分が悪い」
「……確かに、読んでいて気分が悪くなる内容でしょうね。私も読んでいて気分が悪くなりました」
「まあ、内容に関して別に何とも思わないんですけどねぇ。仮にマリエッタがアルベルトの心を射止めて揃って敵対しても纏めて処分すれば良いくらいにしか思っていませんし」
「……少しだけあの近衛騎士が可哀想になってきますね」
まあ、ゲーム通りならマリエッタに洗脳の力とかはないと思うし、強力な補正みたいなもので攻略対象を洗脳してみたいなことは彼女単体なら不可能、ローザが協力しても状態異常を無効化できるアイテムを味方には持たせているからアルベルトを洗脳することはどの道不可能なんだけど。ヒロイン補正に関しても既に一度邂逅していて、そこで反応無しどころか嫌悪感を抱いていたから無理だと思うけどなぁ。
別に殺しても今のところ良心は痛まない相手だし、アルベルトは敵に回っても何も問題ないんだけどねぇ。
……これ、口にしたら絶対アルベルト狙いの令嬢達にボコボコにされそうだよねぇ。だったら、独占するなって……いや、ボクはずっと拒否してきたからねぇ? 拒否したのに諦めないアルベルトが全面的にアウトなんだと思うよ。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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