Act.9-168 王女宮とラピスラズリ公爵邸のニコラオス聖祭。 scene.2
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「プリムラ様、ローザです。お待たせ致しました。お呼びと聞きましたが……」
「あっ、ローザ! うん、ごめんね。忙しかった?」
「いいえ、問題ございません」
いつもの行動パターンを思い出してくれれば分かると思うけど、ビオラの職務よりも王女宮の職務……つまり、プリムラのことを最優先にしているからねぇ。プリムラが呼んでいるって聞けば飛んで駆けつけるよ。
にこにこしてるから何か問題があったって訳じゃなさそうだねぇ。良かった良かった。
「実はね、新年祭を前にルークディーン=ヴァルムト様をお招きしても良い日をお父様がご連絡くださったの。今回はね、王女宮にお招きってことで日付の調整があったんですって……それでね、その準備をローザにお願いしたいと思って」
「勿論喜んで準備いたします」
「ありがとう、嬉しいわ!」
ぱあっと笑顔を更に笑顔になったプリムラ、ああああああ可愛いなあ!!
ルークディーンとゆっくりお話する機会なんてそうそうないからねぇ。いい機会なんじゃないかな? 前回の園遊会だってお話はできただろうけど、周囲に人が沢山いた上に後半戦争だったからなぁ。……新年祭のパーティで踊ったりもできるだろうけど、ゆっくりは……まあ、無理だろうねぇ。
しかし、プリムラのプライベート空間である王女宮にお招きするってことはもう、本格的にルークディーンが婚約者内定ってことだねぇ。
もうちょっと後になるかと思ったけど、ヴァルムト宮中伯家の騒動でルークディーンとプリムラの恋を後押しする以外の選択肢は潰されたから、ラインヴェルドも本格的に婚約の話を進めざるを得なくなったんだろうねぇ。
どうやら、プリムラに「婚約者ってルークディーンでいいのか?」っていう最終確認もあったみたいだし、それを受けてってところもあるんだろう。重い腰を上げてくれたし、プリムラとルークディーンの婚約話はこれで一気に進むことになりそうだねぇ。
正式な発表は少なくともルークディーンが社交界デビューしてバウム家の跡取りお披露目というのと同時になるんじゃないかな?
「ご希望の茶菓子などございますか?」
「そうねえ、前に話していたガレット・デ・ロワというパイがあるのよね? その日に用意してもらうことってできるかしら?」
「時期的にも良いですし、丁度用意させて頂きたいと思っていたところですから、そうですね。その日にご用意致しましょう」
少し前に王女宮の侍女達とガレット・デ・ロワの話をしたら盛り上がって、食べてみたいという注文が殺到したんだよねぇ。メルトランも是非食べてみたいということで、希望者にいくつか用意しようと思っている。それとはブライトネス王国の中枢だけでもラインヴェルド、カルナ、ビアンカ、ヴェモンハルト、ルクシア、ヴァン、アクア、ディラン、アクアマリン伯爵夫妻からも注文が入り、ブライトネス王国内、フォルトナ=フィートランド連合王国などの多種族同盟加盟国を含めるとかなりの数の注文が舞い込んでいる。
販売の方は流石に厳しいからボクの手で作ったものについては販売しない予定で、『Rinnaroze』を含め、いくつかのビオラ系列の料理店、洋菓子工房、パン屋などから販売されることが決まっている。
アクアマリン夫妻、メルトラン、ラインヴェルドからはビオラ系列のガレット・デ・ロワも食べ比べたいと注文が入っているねぇ。試食(勿論、支払いはしたよ?)させてもらったけど、それぞれの店でしっかりと個性が出ているから食べ比べしても楽しめると思うよ。……ああ、そういうプランで広告を出しても良かったなぁ。後でモレッティ達に相談してみよう。今年は無理でも来年以降に活かせるかもしれないからねぇ。
「きっと外は寒いから部屋の中になっちゃうわね、きっとルークディーン=ヴァルムト様も寒い思いをしてこちらに来られると思うから、温かい飲み物とそれに合った軽いお菓子とかどうかしら。何かお勧めあるかしら?」
「では、他に林檎チップスと、アップルジンジャーティーなどはいかがでしょうか? 加熱した生姜には体を芯から温める作用があるショウガオールという成分が含まれておりますので、寒い冬には理に適った飲み物となっております」
「そうなのね。飲んだことがないから、ルークディーン=ヴァルムト様にお出しする前に飲ませてもらってもいいかな? ローザのことを信じてないという訳じゃないのよ」
「勿論、存じておりますよ。畏まりました」
「そういえば、ローザってあまり紅茶に手を加えたりしないわよね。ジャムや蜂蜜を入れることもあまりないようだし」
「ローザお嬢様はハーブティーもあまり嗜みません。紅茶では砂糖を入れないストレートがほとんど、コーヒーも砂糖とミルクを入れてカフェオレやカフェラテを作ることもありますが、特に豆が美味しい場合だと何も入れずにお飲みになることがほとんどです。この方の味覚はちょっと特殊かつ繊細なので、色々と拘りがあるのですよ」
「叔父様、教えてくれてありがとう。ローザ、コーヒーをそのまま飲めるのね。凄いわ」
正体が判明してからボクとシェルロッタの二人しかいない場合はプリムラがシェルロッタのことを叔父様と呼ぶことが増えている。少しずつ受け入れて、叔父のシェルロッタに甘えることも増えているみたいだし、本当に連れてきて良かったと思うよ。
「コーヒーをブラックで飲めることが良いことという訳ではありません。重要なのは自分が美味しいと思える飲み方をすることだと思います。……ただ、傾向として私は割とシンプルに近いものばかりをお薦めしているかもしれません。もし、ご希望に沿わないのでしたら、アップルティー、レモンティー、オレンジティー、ロイヤルミルクティー、ハーブティー、チャイなどご希望に合わせたものをご用意させて頂きますが」
「そうね……でも、ローザってそのタイミングで一番良いと思う品を選んでくれていると思うの。……でも、そのタイミングでもし飲みたいものがあったらリクエストしてもいいかしら?」
「えぇ、勿論です。では、アップルジンジャーティーは試飲して頂くとして、林檎チップスとガレット・デ・ロワをご用意させて頂きます。それから、アップルジンジャーティーに決まりましたらルークディーン様に確認を取らなければなりませんね。もし、飲めないということでしたら違うものをご用意することになりますし」
「うん、お願い!」
まあ、プリムラにオススメされたらルークディーン、すぐに好きになってくれそうですけど。……というか、全力で好きになろうと努力しそうな気がするなぁ。
「それと、例の男爵令嬢と今度会うんですってね。何かあったの?」
「はい、そうですが……どこでその話を?」
「ミランダ先生よ。心配なさっておいでだったわ!」
心配というか、予定外のタイミングで面倒な奴に絡まれて大変そうだな……っていう反応じゃないかな? まあ、舞台裏をまだ教える訳にはいかないプリムラに言っても仕方ないし。
「さようですか、大したことではございません。プリムラ様がお気になさるようなことではありませんのでご安心ください」
「そう? 何かあったら、言ってね」
「はい、ありがとうございます」
本当に良い子だよねぇ、プリムラ。気遣いも完璧で、本当によくここまで育ってくれたよ。本当に前任のペチュニアには感謝しかない。
勿論、プリムラ本人の資質ってのが大きいんだろうけど真っ直ぐ育ってくれたのは環境の影響も大きい気がするんだよねぇ。ペチュニアの苦労が偲ばれるよ。
「何かありましたら必ずご相談させていただきますから。あまりご心配なさらず、ルークディーン様のことをお考えになられてくださいね」
「もう! ローザったら」
少女らしい恥じらいの表情。
出会いはお見合いで、遡れば向こうの一方的な一目惚れだったけど順調に育まれてるその関係は見ていると沢山の幸せをもたらしてくれる。
一つだけ悔しいことがあるとすれば、その成長をメリエーナに見せられないことか。……自分で制限強いちゃったボクが言うのも何だけど、やっぱり悔しいんだ。理を外れたことに手を出すつもりは今だってない。……それでも、メリエーナとカルロス、プリムラ、三人が笑っている、そんな当たり前の家族の風景を見ていたい……叶わぬ願いと分かっていても、やっぱり願ってしまうよねぇ。本当はそんな方法なんてないってボクが一番理解しているというのに。
「ちなみにルークディーン様はどの時間帯にお越しになられるご予定かもうお決まりでしょうか?」
「いいえ。できたらお昼前から来ていただいて、一緒にランチをとって、ティータイムも楽しんみたいなあって思ってるの。お父様はその辺りのことは自由にしていいって仰ってくださったのだけれど、ルークディーン=ヴァルムト様のご都合はどうかしらね。わたし我儘って思われちゃうかなあ」
「でしたらプリムラ様、お手紙でお伺いなされてはいかがですか? いつからいつまで、と時間を書いてしまいますとあちらも断るのが難しいかもしれませんが、いつ頃からならば都合が良いのか確認したいという内容でしたらきちんとお答えくださるのではないかと思います」
「そうね! そうする!!」
「すぐにお書きになられますか?」
「うん。今すぐ書くわ」
「では、便箋セットをご用意させて頂きます」
『統合アイテムストレージ』から便箋セットを取り出す。少し前までは驚かれたけど、そういうことも日を追うごとに減ってきた。馴染んできたのか、驚くだけ無駄扱いされているのかは分からない。……正体知っている面々に半眼を向けられる機会は増えたけどねぇ。
いくら婚約者とはいえ、力関係はプリムラの方が絶対的に上。あのルークディーンがプリムラのお誘いを断るとは全くもって思えないけど、そういう気遣いができる女の子ってことでより好感度を上げてよそ見をする余裕を無くしていけば……まあ、誰かに取られるってこともないんだけどねぇ。面倒そうなヒロインさんはヴァルムト宮中伯令息はヴァルムト宮中伯令息でもアルベルトの方にメロメロみたいだし。
一生懸命言葉を選んでルークディーンに向けてのお手紙を書くプリムラの姿は、ひたむきな年頃の少女そのもので。
ボクとシェルロッタはその姿に二人で内心ほっこりした。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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