Act.9-166 スターチス親子の登城のその後と、年の瀬最後(?)の大騒動。 scene.5
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
黒百合聖女神聖法神聖教会のブライトネス統括教会に到着すると、アスカリッドの連絡通り既に戦争が勃発していた。
「我の娘を貴様のような教会の聖騎士に渡してなるものかッ! 大体、女同士では結婚できないではないか!」
「父上の考え方は全体的に古いのだッ! 我はエリーザベトと結婚する! 例え相手が父上だとしても邪魔はさせんッ!」
「嬉しいわぁ〜、アスカリッドさんがそんな風に言ってくれるなんて〜! 私もアスカリッドさんのことを愛していますわ〜! ということで、娘さんを私にください〜!」
「ならん! 絶対に許さぬぞ! 大体、我は突然娘がいなくなって心配していたのだ! それなのに、それなのに!! 貴様、貴様だけはァ! 絶対に殺すッ! 殺してやるッ! エリーザベト=グロリアカンザスゥ!!」
なんか、尊い百合と百合に挟まるお父さん……っていう構図になっていた。……うん、完全に「娘さんを私にください」っていう定番のやり取りだ。
こういうのってあんまり実は遭遇したことがないんだよねぇ……ってか、皆無なんだよねぇ。これって最終的にどう決着つけるんだろう? 最早この感じだとエリーザベトと魔王、どちらかが果てるか折れるまで戦争が続きそうだけど。
「おう、アンタがノイシュタイン卿が言っていた百合薗圓さんか。俺は魔王軍幹部の一人で竜人族族長のエドヴァルト=オークァスだ。……いやぁ、なんか済まねぇな。最初は魔王姫様の家出の件で心配したことをグダグダ言いつつ、二度とこんなことはするんじゃないぞ! みたいなことを言っていたんだが、あのエリーザベトさんっていう聖騎士様が姫様をくださいって言ってから風向きが変わってなぁ」
「ノイシュタインさんから話は聞いているよ。しかし、あの人も良かれと思ってやったんだろうけど、面倒なことをしてくれたねぇ。いずれアスカリッドさんはオルゴーゥン魔族王国に戻るつもりでいた。一人前の魔王を継げる存在となってから命の恩人であり、想い人であるエリーザベトさんとの婚約の許し……というか、結婚の報告の方が正しいか、結婚の報告をする筈だった。……いずれ挑むべきものだったとはいえ随分予定が早まってしまったものだねぇ。しかも、よりにもよってこの師走の忙しい時に、面倒なことをしてくれたもんだよ」
「……というか、そもそも同性同士じゃ結婚しても子を残せないだろう?」
「結婚は子供を産むためだけの営みじゃない。もし、生殖だけを目的とするなら結婚なんて面倒な手順を踏まなくてもただ我武者羅に交尾をすればいいだけのこと。……ボクはねぇ、重きを置くべきなのはもっと別のことだと思うよ。残りの人生を共に連れ添いたいと願うパートナーを見つけることの方が重要なんじゃないかな? それに、子供に関してももうしばらくしたら生殖細胞の性別――つまり、精子と卵子を書き換えることで同性同士の結婚を可能とする技術を開発する予定でいる。魔族じゃないけど、エルフ族には婚約をしているカップルもいるくらいだからねぇ」
「……まあ、お前らの国ではよくあることなのか? しかし、凄い話だなぁ。同性同士で子作りか……全く想像もつかないぜ。しかし、仮にそう言った説明を魔王様にしても聞き入れてくれないだろうなぁ。父親としては娘にデレデレな親バカだ。愛する娘が家出したって聞いた時にもロクに仕事ができないくらい動揺していたのに、その娘に知らないうちに婚約者が、しかも、不倶戴天の天上光聖女教の女聖騎士って知ったらそりゃブチ切れても仕方ない」
「いくつか訂正しておきたいけど、まずこの教会は天上光聖女教の総本山じゃなくて、黒百合聖女神聖法神聖教会のブライトネス統括教会。旧天上光聖女教はとある吸血姫とブライトネス王国の国王の二人に襲撃されて壊滅、その時の襲撃を仕掛けてきた吸血姫を信仰するようになり、その後、複数の同じ神の別の姿を信仰する宗教団体を融合する形で統合、この教会は天上光聖女教が基礎となっている黒百合聖女神聖法神聖教会の天上の薔薇吸血聖女神派の教会になっている」
「俺達が知らないうちに随分と変わったんだなぁ……ってか、複数の同じ神の別の姿を信仰する宗教団体?」
「神祖の吸血姫のリーリエ、神祖のエルフのマリーゴールド、神祖の兎人族のネメシア、神祖の龍人のラナンキュラス……その様子だと知らないようだねぇ。その正体がボクであることも」
「おいおいちょっと待てッ!! つまり、俺達が襲撃を仕掛けたのって?」
「一応、白夜を通じて間接統治をしているとはいえ、勝手にボクを崇める宗教宗派の教会へようこそ。んでもって、ついでに言うとボクってアスカリッドさんとエリーザベトさんの恋を応援しているんだ。最初、人間で聖騎士だって知った時にはエリーザベトさんを信じられなかった。それでも、凍死し掛けた山の中で救いの手を差し伸べ、温かい料理を用意してくれたエリーザベトさんの献身は本物で、アスカリッドさんも次第に心を開くようになった。魔族と聖騎士、かつては敵だったかもしれない。でも、二人は同じ時を過ごしながら愛情を深め合っていった。……ぎこちないながらもエリーザベトさんに告白したアスカリッドさんの初々しさ、可愛かったなぁ。……エドヴァルトさん、覚えておくといいよ。『百合に挟まる男は土に還って死んじまえ』……こういう諺があったり無かったりするんだよ。ってことで、アスカリッドさん、エリーザベトさん! 加勢するぜ!」
「いやいや、ちょっと待つのだ! 来てくれるのはありがたいし、加勢してくれる気持ちも嬉しいが、流石に父上が死んでしまう!」
「やっちまえ〜! ですわぁ〜!!」
「なんなんだ貴様! 貴様が娘にくだらぬことを吹き込んだのかッ! 女同士で結婚などという生産性のないことは認めんッ! それに、人間との結婚もだァ!!」
「認めんとか、そういう問題じゃねぇよ! 娘が自ら選んだ道を否定する親がいるか! いい加減子離れしやがれッ! いい歳した大人がッ! いいかッ! 百合に挟まる男が例え父親だったとしても関係ないッ! 百合に挟まる男は切り刻まれて塵となれッ!」
「さっきと文言変わっているってか、おいおいおいおいこれって俺が加勢するべきところなのか?」
「へぇ、あれに加勢するの? やめておいたら? その程度じゃ圓さんには絶対に勝てないよ。それより、僕と遊ばない? 勿論、拒否権はないんだけどね」
オルレオスの加勢に入ろうとしたエドヴァルトだけど、ジョナサンに捕まって加勢できず。……うん、その神父さん怖い人だからねぇ、「仕方ない! この神父を倒して一刻も早く魔王様の助力を――」とか、無理だと思うよ。
アカウントをリーリエに切り替え、裏武装闘気で剣を二振り作り出す。『漆黒魔剣ブラッドリリー』と『白光聖剣ベラドンナリリー』は抜くまでなさそうだねぇ。
吸血姫の翼で飛翔し、オルレオスに迫る。オルレオスは魔剣を構え、闇の魔力を纏わせた魔法剣で飛ぶ斬撃を放つ「魔王技・闇魔飛斬」を放ってくるけど、遅い遅い、斬撃が止まって見えるよ。
「遅いよ、圓式比翼!」
武装闘気と覇王の霸気を纏わせて斬撃を放つ。恐らく斬撃が見えていないんだろうけど、流石は魔王――絶妙なタイミングで魔剣を盾にして攻撃を防いでみせた。
だけど、その代償は大きく……要するに魔王の象徴たる魔剣が粉々に砕け散った。
「我の、魔剣が……」
「まだやる? 悪いけど、これ以上戦うならボクも手加減抜きでいく。死ぬ覚悟ができたなら相手になってあげるよ」
魔剣を失って得物が無くなったからなのか、ボクの剣の腕を見て勝てないと判断したのか、或いはその両方なのかは分からないけど、オルレオスは辛うじて残った刀身の僅かな部分を鞘に収めて降伏の宣言をする。
それと同刻にジョナサンに散々嬲られたエドヴァルトも両手を上げて降伏のポーズを示した。
◆
「……くっ、魔王軍総出で全面戦争すれば勝てただろうに」
「父上、仮に魔族総出でも圓殿どころかブライトネス王国の国王陛下を一人相手でも全滅するぞ」
「ラインヴェルド陛下が出るまでないでしょう? アスカリッドさんの父親だから手心を加えていただけで、エリーザベトさんだけでも勝てただろうし。それに、アスカリッドさんも初めて会った頃から見違えるくらい強くなっているから一人で余裕で勝てたんじゃないかな?」
「国を出る前までは強くて大きいと思っていた背中がこれほど小さいものだとは思わなかった」
アスカリッドさん、それオーバーキルです。意気消沈して可哀想な感じになっているよ。……と言いつつ、自業自得だとしか思えないんだけど。
「というか、いい加減子離れして娘の結婚を認めようよ。別に魔王継がないって言ってないし、良い為政者となれるように勉強している頑張り屋さんだしさぁ、次期の魔王妃が聖騎士さんになるっていうだけじゃん。……というか、アスカリッドさんは聖人に至って聖魔族になっているから、ある意味では魔族でありながら聖女にもなっている訳だし」
「アスカリッドが……忌むべき、浄化の光を……ウギャアアァ!」
変な断末魔と共にオルレオスは意識を失った。……まあ、魔族にとって聖女や聖騎士は天敵みたいなものだし、知らない間にそんなものになっていたら気絶するのも仕方ない……のかな?
「とりあえず、エドヴァルトさん。このクソ忙しい時期に面倒ごとを持ち込んだ責任を取って、この阿呆は持ち帰ってください。折れた魔剣も修復しておきました」
「おっ、おお……いつの間に修復されていたんだ!? というか、魔剣って修復できるものなのか?」
「それと、この阿呆の説得は責任を持ってエドヴァルトさんがすること。ボクはアスカリッドさんとエリーザベトさんの味方です。次にまた二人の仲を引き裂こうとするならアスカリッドさんの父親であっても抹殺します」
「おいおい、そりゃねぇぜ! 無理難題過ぎだろ! 娘大好き魔王の説得とか!!」
「それと、我々多種族同盟にはオルゴーゥン魔族王国を同盟に迎える準備があります。仮に加盟する場合、事務手続きは最速で年明けになりますのでよろしくお願いします。……年の瀬は忙しいので。こちら、多種族同盟に関する情報を纏めた資料なのでお持ちください」
「おっ、おお……とりあえず預かっておく。起きた魔王陛下や他の幹部達とも相談の上だが、結果が出次第連絡させてもらうぜ」
エドヴァルトが気絶したオルレオスを連れてオルゴーゥン魔族王国に戻り、これで一件落着……と思ったんだけど。
「待ちなよ、なんで逃げるのかな? 僕とちょっと遊んでよ。――圓さん」
「遊びどころか天が割れる戦争になるよ! ……まあ、フォルトナ勢とその転生者は基本暴れないと納得しないし、少しだけだよ。掛かってきな!」
結局、不完全燃焼のジョナサンと剣を交えることになってしまった。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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