Act.9-162 スターチス親子の登城のその後と、年の瀬最後(?)の大騒動。 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
学院都市セントピュセルへの留学の準備も整い、来年に向けた準備も順調に進んでいる。
来年といえば、年越し早々にある新年祭の準備もバッチリだ。プリムラのドレスの準備(採寸作業)から儀式に必要なものの用意、フォルトナ=フィートランド連合王国側の新年祭に参加するためのドレスの用意、当日のタイムスケジュールの確認(三千世界の烏を殺してを使ってフォルトナ王国の新年祭に出席しつつ、スティーリア、ソフィス、ネスト、ルーネス、サレム、アインス、アルベルトと午後からブライトネス王国王都でデートも行う予定もあるし、ブライトネス王国の方もオルゲルトに引き継ぐまでのプリムラのお世話と、午前の儀式終了後のドレスアップの仕事がある。
実質、休みは半休だからねぇ……パーティ後にはプリムラのお世話に戻ることになるし。いや、幸せな職場だから不満は一切ないんだよ。そうじゃなくてねぇ……時空魔法があるから時間が足りないってことには絶対にならないけど、じゃあ、どういう流れでフォルトナ=フィートランド連合王国の新年祭、ブライトネス王国での筆頭侍女としての仕事、デートを組み合わせるのかをある程度は決めておきたいなぁ、って話。
デートの場所も被らせたくないし、どこで待ち合わせするとか決めておきたいからねぇ。鉢合わせは勿論、全力で回避するよ。
まあ、そんなことを考えながら書類仕事を高速で進めている。仕事の方は順調に消えていってくれているから、来年まで今年の書類を持ち越すってことは無さそうだねぇ。そうなりそうだったら時空魔法を使っての残業も検討してはいたんだけど。
比較的穏やかで平和な時間が王女宮には流れている。あのマリエッタとの遭遇騒動が悪い夢だったんじゃないかってくらい静かだ。……まあ、それよりもラインヴェルド、バルトロメオ、ディランが騒ぎを起こしていないっていうのが奇跡過ぎて、逆に何か悪いことの予兆なんじゃないかとビクビクしていたりするんだけど。
王女宮では採寸も済み、修正の必要はないことを確認。その情報をボクがアネモネに伝えた……という体を装い、アネモネとして登城。
デザインの相談してドレス製作という段階に入っている。ボクとアネモネが同一人物であることを知っているスカーレット、メアリー、ヴィオリューテにジト目を向けられながらっていうのがちょっと辛かったけどねぇ。ってか、君達、ローザとアネモネが同一人物であることは一部の人にしか知らせていない秘密だってこと、忘れていない。
えっ、ソフィス? あの子がジト目なんて向けてくる筈ないじゃん。ちゃんとポーカーフェイスを貫いていたよ。
しかし、成長期だから体型変わっているんじゃないかって地味に戦々恐々していたんだけど、杞憂に終わって良かったねぇ。まあ、成長期で体型が変わっていたら変わっていたでドレス全部新調すればいいだけの話なんだけど。
贅沢な話に聞こえるかもしれないけど、王族や貴族っていうのは経済を回すためにも多少の浪費はしないといけないものだからねぇ。
マリエッタの方はあれから王城内に来ていないらしい。今頃は貴族教育を叩き込まれていて大変なんじゃないかな?
アルベルトが、リジェルが「会えなくて寂しい」と嘆いて五月蠅いと愚痴っていたし。
ヴィオリューテの方はというと、彼女の話題が聞こえる度に眦を吊り上げるというくらい余裕がないようだ。
城内ではどうしても『英雄』の叙勲が話題だからねぇ……それに伴って『英雄の娘』が注目を集めるのは至極当然のこと。
何しろ、容姿端麗の美少女だからねぇ。華やかさもあるし、話題になるのは当然。その上、父親と共に巨獣と大襲来を屠った英雄の片割れでもある訳だし。
「まあ、実際はジョナサン神父に、カルコスさん率いるフォルトナの精鋭部隊、ヴァーナムさん達冒険者の上位陣、彼らのお膳立てがあったから容易く勝利できたという話なんだけどねぇ。あの程度の魔物に遅れを取らないとしても、第一線で活躍できるレベルじゃないのは確かだねぇ。うちの国の上位陣も全体的にインフレ激しいから並大抵の猛者じゃ二軍、三軍に甘んじることになるだろうし」
時空騎士の内部でもインフレが激しく起きている。相乗効果で全体的にレベルが上がっているにも拘らず、ラインヴェルド達の成長が著しく大きくその差が突き放されている感じだ。
それぞれがそれぞれの方法で強くなろうと努力をしている。それぞれの最良を選んだ上でのインフレだから誰にも非がないとはいえ、こうやって上位戦力のレベルが上がってくると、当然、時空騎士にすら選ばれていない戦力との差は増す一方。
乙女ゲームの世界なら『英雄』かもしれないけど、この世界じゃ光属性というそこそこ貴重な属性を持つだけのちょっと強い一般人でしかない。……マリエッタもまさか自分達がブライトネス王国の多大な援護によって英雄親子になれたとは思っていないんじゃないかな?
◆
「ローザ様、手紙が届いておりましたわ」
「ありがとうねぇ、ヴィオリューテ」
ヴィオリューテから手紙を受け取る。かなり付き合いが深いとメールで飛んでくるか直接出向かれるけど、そこそこのレベルの関係だとこうして手紙が届くこともある。後は元の世界で言うところのダイレクトメールが多いねぇ。
「ミッテラン製菓の新作に、マルゲッタ商会とル・シアン商会のセールのお知らせ。……ミッテラン製菓はともかく、後の二つはボクの正体知っているでしょ? まあ、目ぼしい商品もあるから後で買いに行こうかな? ……後は、リジェルさんからの手紙が一通」
「り、リジェルからの手紙! 何故、リジェルがローザ様に手紙を……まさか?」
「んな訳ないでしょ。睨みつけないでよ、全く。アルベルトさんすらボクの好みから外れているのに、あのチャラ男とボクがいい関係になる訳ないでしょう。……少し前に初対面したけど、いやぁ、コンクリートで固めて大海に沈めたくなるような奴だったねぇ。……沈めていい?」
「ダメに決まっているでしょ!!」
なんだかんだで、この子、リジェルのことを一途に好きなんだよねぇ。愛情表現の方向性が多いに間違っている、というか捻じ曲がっているだけ……だけ、っていうか、そこが一番の問題か。
「ボクとアルベルトさんがデート擬きをしていた時にボク達にマリエッタさんを紹介してきたのがリジェルさんとの初対面だったんだけど、その時に『実はリジェル様のことをお慕いしている方を存じているのですが、この様子だと可能性は薄そうですし、まあ、恋愛だけが全てではないですから、独り身でもきっと良い余生を送れると思いますよ。趣味を持ったり、動物を育ててみるのもいいかもしれませんね』とアドバイスをしてねぇ。ヴィオリューテさんがボク達を見つけるほんの少し前かな?」
「随分な言種ね……いえ、言い方ですわね。それって、要するにリジェルが一生このまま独り身で余生を過ごすことになると言っているも同然ではありませんか」
「言っているも同然ってか、口に出してそう言っているんだけどねぇ。あの時の『実はリジェル様のことをお慕いしている方を存じているのですが』って言葉に食いついていたから、それが誰かを聞きたくて手紙を書いたんじゃないかな? 試しに手紙を開けて確認してもらってもいいよ」
「本当にその通りですわ。……しかし、あのリジェルのことをお慕いしている人ね。ワタクシも誰だか気になるわ」
机の引き出しから手鏡を取り出してヴィオリューテに見せる。
「誰って、鏡見たら分かるんじゃないかな?」
「ま、まさか、ワタクシだというのですの!?」
「いや、違うの? リジェルさんを見返した上でこっ酷く振ってやりたいだっけ? 気持ちは分かるけどさぁ、ちょっと生産性が悪くないかな? ヴィオリューテさんはちょっとキツめな感じだけど美人だし、恋人の一人や二人、作ろうと思えば作れると思う。無難な方法はツンデレのギャップ萌えかな? ちゃんと可愛いところいっぱいあるんだからそれを見せていかないとねぇ。暴力系で束縛系じゃ、やっぱり恋人はできないと思う。相手を慮る気持ちは大切だよ。勿論、慮ってばかりでもいけないけどねぇ。尊重するところはして、主張するところはして、そういう距離感を掴んでいくことは必要だと思う。……リジェルさんに対する執着を捨てればきっと心は軽くなると思うよ。でも、それを捨てられないのは、こっ酷く振ってやりたいって思うのはリジェルさんに対する執着が捨てきれないからじゃない? 未練タラタラでワタクシのことを認識して欲しい、後悔して欲しい……そういう承認欲求があるからだと思うんだよ。突き詰めていけば、君はリジェルさんに恋をしている。……二択だよ、リジェルさんと恋人になりたいのか、そうじゃないのか。ボクもヴィオリューテさんの恋を応援したいっていう気持ちはあるんだよ。ただ、アドバイスをするにも方向性があるからねぇ」
ヴィオリューテは典型的な貴族のイメージ通りプライドが高い。
気持ちは分かるけど、そのプライドに邪魔されて相手が告白するのを待つ……ってのは悪手だと思うんだよねぇ。
相思相愛であっても、互いの告白を待っていたら告白されないまま時間が過ぎていく。そう、相思相愛ですらそれ違いで大変なことになるんだよ? 相手に意識すらされていないんじゃ、積極的にアピールしていくしかないよねぇ。
「わ、ワタクシはリジェルのことなんか!」
「いや、別に嫌いなら嫌いでいいんだよ? でも、それ、本当に本心なのかな?」
「……好きよ。……好きよッ! 悪いの! えぇ、そうよ! 味方のいない王城で幼馴染と再会できて、本当は心が折れそうだったわ! そんなワタクシの唯一の支えが同郷のリジェルだった。……それに気づけたのは他の女の褒め言葉を聞かされて嫌な気持ちになったからなのだけど。……って、なんでニヤついているのよ!」
「いやぁ、可愛いなぁって思って。そういう可愛いところを、弱いところをもっと全面に出していけばいいのにねぇ。リジェルさんとか、女の涙に弱そうじゃない? まあ、ヴィオリューテさんがそういうの苦手なのは知っているけどさぁ。ヴィオリューテさんは少し気が短か過ぎるし、売り言葉に買い言葉で喧嘩をしてしまって本心からズレていってしまう。少し素直になってみた方がいいよ。……ただ、すぐに変えていくのはヴィオリューテさん自身が望んでもなかなか難しいだろうし、リジェルさんにも警戒されてしまう。ゆっくりと時間をかけて、少しずつ正直になっていけばいい。デートとか、恋愛関連で相談に乗ることもできるし、協力しようとは思っている。勿論、最後はヴィオリューテさんのやる気時代だけどねぇ」
「えぇ、こうなったら絶対リジェルのことを振り向かせますわ! ローザ様、ワタクシに協力してくださいませ!」
マリエッタの登場で少しだけ落ち込んでいたけど、どうやら元気が出たみたいだねぇ。
ヴィオリューテとリジェル、正直、ボクは二人がお似合いだと思うし……ボクもこの不器用な侯爵令嬢さんに親しみを持ってきたから、幸せになって欲しいなぁ。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




