Act.9-159 新年祭に向けた準備と、来訪するヅラ師団長。 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
王女宮に戻ると廊下でポラリスがソフィスにコンコンと説教をして、それにソフィスが満面の笑みで口撃し返している場面に遭遇した。……まだやっていたんだねぇ。
「遅いぞ、貴様ッ!」
「遅いっていうか、アポ無しでヅラ師団長が王女宮に来ているって聞いたから急いで帰ってきたところなんだけど。っていうか、ボクって一応休み時間だからねぇ……面倒ごとに絡まれて戻ってくるのギリギリになったけど」
「それはすまなかった。しかし、貴様ッ! 全く有給に手をつけずに勤続しているというのはどういうことだ!」
「それ絶対長くなる奴だよねぇ? ってか、目的はそれじゃないでしょう? そもそも、他国のヅラ師団長殿に説教されるようなことでもないし」
「そもそも、私はヅラ師団長ではない! ポラリス=ナヴィガトリアであるッ!!」
「五月蠅いなぁ、他の使用人さん達にも迷惑だし大声やめてくれないかな? それで、用事は何なの? ボクの執務室で聞かせてもらうよ」
「貴様には色々と言いたいことがあるが、それよりも先に国王陛下より預かった用事を済ませてしまうべきだな。ソフィス=アクアマリン、貴様にも関係する話だ」
「私にも関係する話ですか? ……それって」
「オルレアン教国に関わる話だ」
スカーレットにボクが戻ったことと来客対応をすることをオルゲルトに伝えるように頼んでから三人で王女宮筆頭侍女の執務室に入る。
「本日の要件は二件だ。まず、これは圓、貴様のみに関係している話だが、フォルトナ王国の新年祭への招待状を届けに来た。ブライトネス王国と同日に行うが、フォルトナ王国の王族と一部貴族は時空魔法を使ってこちらの式典にも参加させてもらうことになる。貴様もフォルトナ王国で爵位を得た身だ。参加しないとは言わせんぞ!」
「その爵位ってほとんど押し付けられたものだけどねぇ。まあ、招待が来ない方がおかしいし、アネモネとして式典には参加させてもらうよ」
ちなみに、ブライトネス王国の新年祭はアネモネとしての参加は私用を優先するという理由で無しにしてもらっている。
代わりにジェーオ、アンクワール、モレッティにビオラ商会合同会社とビオラ=マラキア商主国を代表して、白夜にクレセントムーン聖皇国と黒百合聖女神聖法神聖教会を代表して出席してもらうことになっているから、外交イメージ的には問題はない……と思う。
しかし、同じ新年祭でもブライトネス王国とフォルトナ王国ってかなり違うものになるんだよねぇ。
ブライトネス王国の場合は来賓を招いた大きな祭りとなる。多種族同盟加盟国は一通り招待されていて、他にもいくつかの国の王族や有力貴族が招かれている。
今回、多種族同盟加盟国関係者として初参加するのはムーランドーブ王国国王のダルフとグリーンウッド州州知事のフレッシオとヴァンヤール州州知事のリーティアナの三人。そして、多種族同盟加盟国である緑霊の森とマウントエルヴン村国が統合され、翠光エルフ連合王国が誕生後初となる公の場ということにもなっている。
このムーランドーブ王国とマウントエルヴン村国に大きく注目が集まるものに、今回の新年祭はなるのかもしれないねぇ。
一方のフォルトナ=フィートランド連合王国は来賓を招かず、毎年、自国のみで新年祭を行っている。
フォティゾ大教会が主導する儀式と午後からのダンスパーティで構成され、あちこちで出店が出る……とブライトネス王国と形自体はそこまで変わらない。この新年祭があることで、昨年までは同盟国でありながらブライトネス王国の新年祭にフォルトナ王国は参加できなかったけど、時空魔法を使うことで今年からブライトネス王国の新年祭にも参加することになる。
今年はフィートランド大公領の大公や貴族達も招き、更に規模が大きな祭りになることが予想される。ポラリス曰くアクアとディランも両方の新年祭に参加するそうだから、真面な新年祭にはならなさそうだよねぇ。途中でパーティーを抜け出して食べ歩きとか、武術大会に飛び入り参加とかしそうだ。
「それともう一つ。貴様らにとってはこちらの方が重要な話になるだろう。三日後、オルレアン教国より来客が予定されている。フィートランド大公領経由でフォルトナ王国に来る予定だ。使節団の主要人物は二名、オルレアン神教会の大祭司バーデルゲーゼ・ヴォル・オルレアン公爵とリズフィーナ・ジャンヌ・オルレアン公爵令嬢だ」
「……確か約束だとアフロディーテかミスシス経由で連絡を入れてくれることになっていた筈なんだけど……そもそも説得ができなかったのかな? いや、説得の芽がないなら直接フォルトナ王国に来る筈がないから、ボクらを見極めた上でって話になったのか。とりあえず、承知したよ。ソフィスさん、申し訳ないけど当日は同行を頼んでもいいかな?」
「承知致しましたわ。圓様」
「それと、他の参加者……フォルトナ王国で候補者が二名決まっていると思うけど、当日その二人を王城に集めておいて欲しい。後、謁見の予定時間をメールで知らせてもらってもいいかな?」
「では、その旨を陛下にお伝えしよう。それでは、私はこれで失礼する!」
……相変わらず騒がしい人だねぇ。しかし、年々ヅラが似合わなくなっていっているなぁ。
ポラリスが王宮を後にしてから数分後、プリムラが王女宮に戻ってきた。つまり、あの声がでかいヅラ師団長とは遭遇しなかったということになる。良かった良かった。
「ただいま、ローザ。例の人に会ったんですってね。ヴィオリューテから聞いたわ」
「はい。マリエッタ=スターチス嬢にお会いする機会に恵まれましたのでご挨拶をしておりました」
「そう……どんな感じの方だった?」
「そうですね。明るく元気の良い方とお見受けいたしました。少々貴族としては振る舞いが注意されることが多いかもしれませんね」
「そう。でも仕方がないわよね、だって冒険者だったんでしょう? メルトランだってなかなか口調とかは貴族に対してとか、気をつけていても難しいって言っていたものね」
「……彼は直そうとしていない面もありますけれど。メルトランはマルゲッタ商会の会頭殿の長兄です。幼い頃より商人となるべく英才教育を受けてきました。王家御用達の商会の会長となるべく育てられてきたのですから、王侯貴族に対して取るべき礼儀作法も会得している筈ですが、それを取るかどうかはまた別の問題ということなのでしょうね」
「メルトランって、マルゲッタ商会の会頭様の子供だったのね? 私、知らなかったわ」
「まあ、彼も素性をあまり明かしたく無かったようですから。現在はアネモネ閣下の尽力で関係が修復されていますが、元々、商人になりたくなかったメルトランが抵抗し、家から勘当同然で放り出され、冒険者になったようです。現在は、兄の考えに理解のあった次兄のファルツマン様がマルゲッタ商会の番頭を務め、いずれはマルゲッタ商会を継ぐと目されておりますわ。ちなみに、ファルツマン様は勘当された後もメルトランのことを心配して欠かさず手紙を書いて連絡を取り合っていたようです」
「そうなのね……本当に良かったわ」
「冒険者の話に戻りますが、冒険者が全体的に粗暴というよりは、その方の出自や性質によってかなり異なってきますので断言はできません。貴族出身の冒険者、訳あって冒険者となった元騎士もいらっしゃいますから。姫さまのお父様であらせられる陛下も王子時代に冒険者をやっておられましたし。ただ、傾向としては貴族と接する機会がなく、礼儀作法を知らない冒険者が大半ですわね」
超凄腕の冒険者とかだと貴族の依頼もあるけど、基本的に直接言葉を交わすことはない。冒険者ギルドが間を取り持つからねぇ。
冒険者で貴族と関わるとなると、時空騎士に任命された冒険者くらいかな?
ヴァケラー達を思い出しても、正直、そこまで礼儀作法が得意そうには見えない。……結局のところは、平民の生まれか貴族出身かで礼儀作法ができるかできないかの線引きがされるってことでいいんじゃないかな?
時空騎士になっても時空騎士に就任している貴族の面子を見れば礼儀を気にする人は少数派だし(ポラリスとミゲルくらいかな?)、礼儀作法を学ぶ必要性がないんだと思う。
「確かに粗暴なところが大なり小なりあることが多いですが、悪い人達という訳でもありませんわ。個人的にはあまり偏見を持って見ないようにして頂ければ、と思います」
「勿論よ、プリムラは絶対にそんなことしないわ!」
まあ、言わずともいい子に成長したプリムラが偏見塗れの視線を向けることなんてないと思っているんだけどねぇ、ボクは。
「そういえばプリムラ様、生誕祭のパーティではドレスは変更なしでよろしいですか」
「ええ! 本当は、あの儀式の白いドレスをルークディーン=ヴァルムト様にも見ていただきたかったなあ……」
「それは少々難しいかと。遠目にはご覧になられると思いますよ。……後は、あの陛下のことですから王立写真部に儀式の写真を撮らせると思われますので、現像された写真をお見せすることはできるかと」
カメラがこの世界で(ボクの手によって)再現されたのと同時期に王立写真部と呼ばれる組織がブライトネス王国で誕生している。宮廷画家も残っていて肖像画も描かれるんだけど、近年では写真も貴族を中心に定着しつつあるんだよねぇ。
色々と内部で変動があってトップは入れ替わりが激しかったのだけど、現在はタチアナという男装の麗人が王立写真部長に就任している。もしかしなくても、ビオラ商会合同会社警備部門警備企画課諜報工作局の諜報員だよ。
「そうよね、そうだといいなあ! パーティはお粧ししなくっちゃね! 写真はお父様にお願いしようかしら?」
「畏まりましたわ。陛下にお伝えしておきますわね」
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




