Act.3-3 国王陛下御前の模擬戦-ローザvs戦闘使用人- scene.3
<一人称視点・マリーゴールド>
ジーノ、ヘイズ、ヘレナ、カレン、ジェイコブ、ナディア、ニーナ、アクア――残るは八人。……まだまだ多いねぇ。
「これならどうですかッ! お嬢様!!」
メスに似た鋭利な刃物を複数投げてきたのは、ヘイズ……ということは、刃物には十中八九猛毒が塗られているんだろうねぇ。
「追尾する溶岩塊弾」
『沙羅双樹の魔杖』を掲げて魔法系三次元職の魔導帝が覚える魔法の一つを発動する。
自在に飛び回る握り拳大の溶岩塊を杖から放ち、的確にメスに似た武器だけを飲み込み熔かした。
「……やっぱり、尋常じゃありませんね、お嬢様は。今の魔法をそのまま私の方にぶつけていたらかなりの被害を受けていました。勿論、回避には徹しますが、それでもその軌道からして追いかけてくるのですよね?」
「流石はヘイズさんだねぇ。この溶岩塊は対象を追尾する特殊なものだからねぇ……でも、これは模擬戦だから殺すような攻撃は決してしないよ? 君達と同様にねぇ」
「……こちらは殺傷性の高い毒物を使っているのに、お嬢様の方は最大限殺さないように気を使う……分かってはいましたが、埋められ難い実力の溝があるのですね」
まあ、ボクには元の世界での蓄積と、それを最高の状態で発揮させてしまう『Eternal Fairytale On-line』のアカウントの身体と各種こちら側の世界の技能という手札がある。その数は【ブライトネス王家の裏の剣】よりも遥かに多いんだよねぇ。
それに、【ブライトネス王家の裏の剣】は相当な場数を踏んだ暗殺のプロなんだろうけど、ボクだって平和な世界で生きてきた訳じゃない。【ブライトネス王家の裏の剣】に引けを取らないほど多くの戦いを経験し、そして多くの命を奪ってきた。沢山の命を奪ってきた【ブライトネス王家の裏の剣】を糾弾できないほど、本当に沢山の命をねぇ。
だから、手札が勝るボクの方が有利なのは当然のことなんだけど……【ブライトネス王家の裏の剣】にも色々と手札を開示しちゃっているし、もしかしたらボクの攻略法を見つけられる日もそう遠くないのかもしれないねぇ。
――まあ、だからって【ブライトネス王家の裏の剣】に殺されてあげるほど、ボクもお行儀は良くないんだけど。
「【錬成・鉱拘束】」
鉱物を含んだ大地に干渉して隆起させた土で敵を捕らえる【錬金術】の技でヘイズの足の拘束を狙う。
【錬成・谷地眼】は鉱物を含んだ土を底無し沼……乗っているだけで沈むに変えるから流砂のイメージは当てはまらないんだけど、対する【錬成・鉱拘束】には局所的に硬い鉱物で覆って抜けなくするというイメージがあるんだよねぇ。
覆う部分を金属に変化させているから、簡単には抜け出せないと思うよ。まあ、【錬成・谷地眼】も抜け出すのは至難の技なんだけどねぇ。
「風を纏え」
魔法系二次元職の大魔導師が覚える、自分の武器に風魔法をかけ、風を纏わせた武器で直接攻撃する魔法と武器攻撃の合わせ技を発動し、「五十嵐流体術三ノ型・嵐走」と「千羽鬼殺流・貪狼」を掛け合わせて猛加速して、『沙羅双樹の魔杖』をバットを振るように腹に当てる。
「 撲 殺 !!」
あっ……別にそんな技名はないんだよ。なんとなくノリで…………黒歴史です忘れてください。
本当はただ腹に向かって横から杖をぶつけただけなんだけどねぇ。あっ、今の衝撃でヘイズが後ろに飛んでいく筈だったんだけど、足を拘束されているから飛ばされるに飛ばされず、変な格好になっている……蝦反り? あっ、はいはい、今、拘束を解いてあげますから。
「【錬成】……はい、これで大丈夫だよ」
「腹に一撃は喰らうし、足は抜けそうだったし、体勢はキツかったし、本当に散々な目に遭いました」
「…………【錬成・鉱拘束】に引っかからなければこんなことにはならなかったよねぇ」
「……申し訳ありません」
いや、こんなしょうもない攻撃に引っかかって、奇襲とかに耐えられるの? もしかして、自分達が常に奇襲を掛ける側に回っているから奇襲を受けた時の対策とか、そもそも奇襲を受けないように警戒するとか、そっち方面の訓練はしていなかったとか? もしくは、ただの油断とか?? 自分の実力への絶対の自信から相手を警戒することを忘れていたとか? そんなまさか。
「……最近のお嬢様の【錬成】は早過ぎる上に初期動作もないので本当に読むのが難しいんですよ」
まあ、最近獲得した【遠隔錬成】のおかげで直接触れなくても鉱脈や土壌に干渉して【錬成】を発動できるようになったから前よりも奇襲性が増したんだよねぇ。
具体的には視線で発動できるようにはなっただけなんだけど。まだ視線から【錬成】位置を予測するってところまでは進めていないみたいだねぇ。
「ボクの【錬成】は視線である程度位置を特定できる筈なんだけど……【ブライトネス王家の裏の剣】なら、視線から敵の狙いを予測するくらいお茶の子再々じゃないの?」
「…………面目次第もありません。必ず、ご期待に応えられるよう、鍛え直します」
おいおい、なんで他の戦闘使用人も可哀想にみたいな顔をしているのかねぇ? もしかして、ボクが求め過ぎだって言っているのか? ボクが作ったゲームの中には敵の初動からどんな攻撃かを見分ける力も求められるものもあったし、そう言った敵にも君達には勝って貰わないといけないから、それくらいのことはやれて当然ってなってもらいたいんだけど。
ボクが追放された場合に備えてねぇ。
……まあ、実際に律儀に詠唱をしてくれたり、何らかの予備動作を見せてくれる敵なんて優しいものだし、そういった奴らでも見てからでは回避不能な攻撃を放ってくることが多い。
かのヨグ=ソトホートに至っては全くの無挙動で次元を引き裂いて攻撃する「次元断層斬」や、敵対象を巻き込んで時空連続体を爆破する「時空連続体爆破」などの必殺技を中心に、各種ビーム攻撃、時空間歪曲、時空間転移、多次元結界、時間操作……無茶苦茶な攻撃を使って来るんだよねぇ。あれに勝利するには最低でも時空間干渉能力が必要だけど、そもそもの話、無挙動の攻撃に対応できないのならOHANASIにすらならない。
また二人倒したのでアカウントをマリーゴールドからネメシアに切り替える。
「三人目は無手……ってことは、接近型だな。これなら、勝機がありそうだ」
とは、橙色の髪を刈り上げた屈強な身体を持つ料理人――ジェイコブの言葉。さあ、果たしてどうだろうねぇ。
「幻惑の森」
再び水属性を応用した幻惑魔法で虚像を作り出してきたカレン……でも、それって一度見破られているよねぇ?
「幻惑爆散」
……ほう。パターンを変えてきたか。
水を利用した幻惑の虚像を、四散させて小さな礫に変える。その礫状のものの分子活動を強制的に停滞させて凍らせ、指向性を持たせて敵に放つ。
まあ、そこまで科学知識を持っていない筈だけど、朧げなイメージだけでここまでやるなら称賛するよ。
「聖究極治癒術式」
礫を受けてできた擦り傷を神官系四次元職の施療帝と聖女が習得可能な最高ランクの回復魔法で大袈裟に回復し、一瞬にして傷を完全治癒する。
「マジかよ……そんなのありか!? だが、回復の暇さえ与えず爆破魔法を使えば!!」
迷うことなく致死レベルの魔法をぶっ放してくるみたいだねぇ。まあ、その程度で死ぬ僕じゃないけど。
「兎人族固有技能・兎足の神速加護」
だけど、そんな簡単に喰らってあげるほどボクも優しくはないんでねぇ。
兎人族の固有技能で敏捷を大幅に上昇させ、「五十嵐流体術三ノ型・嵐走」と「千羽鬼殺流・貪狼」を組み合わせて爆発的な速度でジェイコブに迫り――。
「巨神の七連拳撃」
ペテルギウス、リゲル、ベラトリックス、ミンタカ、アルニラム、アルニタク、サイフ――オリオン座を構成する七つの星を、オリオン座をなぞるように拳で打ち、星座が完成すると打ち込まれた衝撃が共鳴し合って時間差で大打撃を与えるという武闘家系一次元職の武闘家の奥義でフィニッシュ技。
コンボの最後に組み込むことでコンボカウントをゼロに戻す代わりに通常よりも遥かにダメージを与えられる技で、前衛で防衛しつつ敵を自分に引きつける、卓越した身体能力による回避性能を活かして敵の攻撃を躱す、コンボを繋げて大技を放つという三つの武闘家を象徴する技の一つと言えるんだよねぇ。
武闘家系は、それぞれの段階で必ず一つフィニッシュを獲得する。その一つが「巨神の七連拳撃」なんだけど、今回はフィニッシュ技として打つこともなく、更に七撃のうちの一撃しか放っていない。それでもジェイコブを吹き飛ばして重傷を負わせて気絶させるんだから、とんでもないよねぇ……。
気絶したジェイコブの口の中に神水を流し込んで体力を回復させる。
「……度々待たせてすまないねぇ。別に背後から仕掛けてきても対処していたんだけど」
「……流石にがたいのいい料理長を一発KOさせたのを見せられて奇襲を仕掛けようなんて考える人はいませんわ。……個人的には是非とも執事長にお願いしたいのですが」
「私はリーリエさんと戦ってみたいですし、暫くは静観させてもらおうと思いますよ。カレンさんに大将戦は務まりませんよね?」
……正直、戦場を俯瞰で確認して敵を分析する役目はジーノが適任だよねぇ。なるほど、道理でここまで仕掛けてこなかった訳だ。
「それでは、ここは私が仕掛けますわ」
さて、次はニーナが仕掛けてくるのか……刺付き鉄球相手にどう対抗しようかねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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