Act.9-156 スターチス親子の登城 scene.3
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「そういや、ヘンリーと言えばあいつの専属侍女のレナーテ=ヴェルファスト子爵令嬢、雰囲気変わったって噂があるなぁ」
「あのパトリアと二人揃ってボクのことを目の敵にしていた第三王子至上主義者というか、第三王子が王となれば甘い汁が吸えると期待していた小判鮫さんなら、もうこの世にはいないよ。園遊会のゴタゴタに乗じて侵入者に身体を乗っ取られたみたいだからねぇ」
「……あの、圓殿。それってかなり拙い状況なのではありませんか?」
「そっかな? 正直、ボクが積極的に守らないといけないって思うタイプだった訳じゃないし、今のところは好きにやらせておけばいいんじゃないかな? 一応、王子宮に派遣した諜報員達には最優先で秘密裏に監視するように伝えてあるし、今は泳がせておいた方がいいと思うよ。ヘンリー殿下と険悪な関係になるように仕込んだのと同じ、相手を油断させる要因を増やしておけば、それだけ相手の油断を誘えるからねぇ。『実は馬鹿なんじゃないの? 警備がザルじゃない!』って思わせていた方が警戒心マックスの相手よりも倒しやすいからねぇ。ちゃんと考えて泳がせているからご安心を」
「……まあ、親友がそういうなら問題にはしないけどなぁ。レナーテの変化も割と肯定的なものだし、実害もないしなぁ」
「ラインヴェルド陛下にはレナーテが乗っ取られていることは報告しているし大丈夫だよ。『レナーテって誰だっけ?』って言ってて心配になったから、ノクト先輩にも報告しておいたけどねぇ。……ってか、主要な使用人の名前くらい覚えておけよ、あのクソ陛下」
「まあ、兄上ってクソ面白いこと以外はどうでもいいってタイプだからなぁ。……あんまり言ってやるなって」
「……人数多いのは分かるけど、せめて次席侍女と専属侍女の名前くらいは把握しておいて欲しいっていうのは求め過ぎなのかな? まあ、その分、ボクとかラピスラズリ公爵家とかノクト先輩とかが気にしておけばいいのかもしれないけど」
「ノクトはともかく、お前とラピスラズリ公爵家に目をつけられるってのは実質詰みだよなぁ。レナーテに憑依した奴に少しだけ同情するぜ」
「まあ、ヘンリーの奴に何かしら吹き込んでいるような奴なんだから同情の余地はねぇんだけどなぁ」と続けたバルトロメオだけど、同情するのか同情しないのかはっきりした方がいいんじゃないのかな?
◆
こっちから接触する気は更々ないので内宮を出たところでアルベルトとバルトロメオと別れ、王女宮に戻った。
「あれ? ローザ様、お戻りですか? 早かったですね! どんな感じでした? 英雄親子って?」
王女宮に戻ったタイミングで声を掛けてきたのはメイナだった。その隣にはヴィオリューテの姿もある。二人とも随分と仲良くなったねぇ。
「ご挨拶は別の日にした方がいいと思えるくらい人が沢山居たわ。父親の方はどこにでも居そうな冒険者だったわ。見気で少し見てみたけど、実力的にはアネモネ閣下にスカウトされる前のヴァケラーさんよりちょっと上くらいかしら? 鍵を握っているのは、娘の方ねぇ。ジョナサン神父が目をつけているほどの高い光属性の魔力を持っている……回復魔法にサポート、攻撃魔法、近接戦闘は得意としていないでしょうけど、それ以外はどれも高い水準だと思うわ。後、かなりの美少女ね。まあ、プリムラ様には遠く及ばないけど」
「英雄父娘の登場から随分お気になされておいでですが、ワタクシ達の王女殿下にあのような鄙女が何かできるとお思いですか? 杞憂も大概になさいませ!」
「うーん、実は大して気にしていないのだけどねぇ。まあ、気持ちは有り難く受け取っておくよ。心配してくれてありがとう、ヴィオリューテ」
「べ、別に心配などしていないわ!」
「ツンデレさんだなぁ。……うーん、もうちょっとデレ多めで行けば簡単に落とせると思うんだけど、あの程度の男」
ボクの中では既にかなりチョロい扱いになっているアルベルトの同室のリジェル。彼の好みのタイプからヴィオリューテはかなり外れているけど、もう少し戦略的にツンデレすれば案外簡単に落とせるんじゃないかと思っているんだけどねぇ。まあ、そんな器用なことできるならそもそもこんなことにはなっていないんだけどねぇ。
「おかえりなさいませ、ローザ様。収穫はどうでしたか?」
「ソフィスさんもお出迎えありがとうございます。収穫は上場ですよ。予想通りでした」
「それで、これからどうしますか?」
「こちらからの接触は少なめにするつもりです。必要であれば動きますが、物事には必ず適した舞台があります。その舞台が整うまでは迂闊な行動は控えたいですねぇ」
メイナとヴィオリューテはボクとソフィスの会話の意味を理解し兼ねて困惑している。
まあ、そりゃこれだけの会話で「マリエッタにローザが干渉しているけど、このタイミングで仕掛けても大捕物にはならないし、いつも通り向こうが仕掛けてきたくなるような舞台――今回の場合は魔法学園の断罪の場まで楽しみは取っておこうよ」という意図を理解できるのはごくごく限られた一部の人だけだからねぇ。ヴィオリューテならまだ分かる可能性はあるけど、あんまり事情を明かしていないメイナが理解できたらびっくりだよ。
◆
前回、スターチス親子の姿を見に行ってから数日が経った。ほんの少しだけニコラオス聖祭と聖夜祭に向けて準備を進めている黒百合聖女神聖法神聖教会を手伝い、家族達へのニコラオス聖祭当夜に配るプレゼントの準備をしながら、王女宮筆頭侍女として新年祭に向けた準備を進めている。
あれから阿呆共もあんまり姿を見せないし、随分と静かな時間が王女宮に流れている。ああ、変わったことと言えば、エルヴィーラが訪ねてきたことくらいかな?
エルヴィーラからの報告はマリエッタと挨拶を交わしたというものだった。
とはいえ、マリエッタは近いうちに男爵令嬢になることが約束されている身分、片や一侍女に過ぎないエルヴィーラ。まあ、今後身分差により線引きが必要になる筈なんだけどねぇ。
マリエッタはエルヴィーラに親し気に話しかけてきたそうだけど、エルヴィーラはその点を外宮筆頭に厳しく言われていたらしく侍女らしい対応をしたところ不満そうにされたんだとか。
転生者だから実感なくとも身分差が存在することは分かっているだろうし、意図的に天真爛漫なヒロインを演じているのかもしれないねぇ。……まあ、冒険者の娘として生きてきたのだから、それを体感するのはこれが初めてってことになるんだと思うけど。
貴族とそうでない者との隔たりは『普通』は考えているよりも大きい。……ボクらの周りが出自や地位などお構いなしに、とにかく実力主義で勧誘したか、偶然の巡り合わせで繋がりを持ったか、そういうのが圧倒的に多いからねぇ。あんまり参考にはならないと思うけど。
「ローザ様、そろそろ休憩時間でしょう。そろそろ休まれたらいかがですかな?」
「ありがとうございます、オルゲルト執事長。そうですねぇ、ちょっと休ませて頂きます」
「……ところで、統括侍女様から伺ったのですが、全く有給を使っていないようですね。毎日働いていますし、少しは休むべきだと思いますが」
「休んでいますよ、トータルで四日に一回ぐらい」
「『三千世界の烏を殺して』を使って休んでいるのは休みといえないと思いますよ。……他の使用人たちにも悪影響がありますから、しっかりと有給使って休んでもらいたいものですな」
「……プリムラ姫殿下に仕えていられるのが癒しなのですが、それをやめろと仰るのですか?」
「本当にそれでよくシェルロッタ嬢に王女宮筆頭侍女の座を明け渡すと仰いますね。絶対に姫殿下離れできないと思いますぞ」
全く、何を言っているんだか。ちゃんと必要なタイミングになったらシェルロッタに席を譲渡するつもりだよ。そのためにわざわざシェルロッタを連れてきたんだからねぇ。
「ボクはボクのスタイルで働かせてもらえば十分、休みは四日に一度ペースでちゃんともらっている」と休憩の時間に王宮に赴き、ノクトに伝えた。ボクの意見は「本当に頑固な方ですね」と呆れられつつも受け取ってもらえたけど、有給は今後も蓄積されていくことになるらしい……使う機会がないと思うから無しでいいのだけど、と思ったけど、他に示しがつかないから有給の消滅は認めてもらえないようだ。
王宮に少し寄り道をすることになったけど、この後の予定は実は前々から決まっていたりする。
実はアルベルトからデートのお誘いを受けたんだ。婚約者候補選定レースで大幅に遅れ、第一関門は突破したもののまだまだ恋愛的な好感度は底辺スレスレなアルベルト。そんな状況を解消するためにとにかくデートの回数を増やしてボクの気持ちを変えようという魂胆らしい。当然、ソフィスにとっては面白くない話なので、王女宮にデートの誘いをしに来た時にソフィスとバチバチ火花を散らせてメイナとヴィオリューテを怯えさせていた。
デートの場所は王宮内に存在する庭園の一つ。
「アルベルト様、お待たせして申し訳ございません。ノクト先輩に『今年の有給ほとんど手付かずですが、特に使う予定も無いので有給使った扱いにして処理してください。後、来年以降も使わないと思うので有給無しにしてください』とお願いしに行っていたので少し遅れました」
「第一声がそれって……それで、統括侍女様は何と仰られていましたか?」
「ダメですって。有給は蓄積、部下の侍女達が有給を使い易いような職場環境にするために上司である貴女が積極的に使うようにと言われました。なので、今後は有給をしっかり使うように積極的に声を掛けつつ、スタンス自体はこれまで通りで行こうと思います」
「……ツッコミどころ満載ですね。それじゃあ、全く何も変わっていないじゃありませんか。しっかり有給は使うべきだと思いますよ」
「アルベルト様、ご存知ですか? 個人事業主って休まずに働き続けても労働基準法に引っ掛からないんですよ。最高ですよねぇ」
「……今のローザ様は雇われている側なので労働基準法に抵触しますよ」
「じゃあ、半分は趣味でやっているということで。それなら半休扱いにできますよねぇ。というか、ちゃんと休んでいるんですよ。感覚的には四日に一回程度。まあ、実際は同じ一日を四日繰り返して一回休み、その繰り返しなんですけどねぇ。普通の時間感覚で見ると休んでいないように見えるだけで、ちゃんと丸一日くらい睡眠を取って身体を休めているんだけどなぁ」
「ああ、これ以上言っても無駄だな」という心の声が聞こえ、アルベルトが「大分寒くなってきましたけど、庭園で過ごすのは辛くないですか?」と強引に話を変えてきた。
呆れるくらいなら無理矢理付き合おうとか思わなくてもいいと思うんだけどなぁ。
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