Act.9-154 スターチス親子の登城 scene.1
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
ラインヴェルドが放置していた大きな仕事が実は一つ残っている。
それは、ブラックソニア辺境伯領で魔物のスタンピードの討伐に尽力した英雄親子に一代限りの準男爵位を与えるという話だ。
園遊会でのゴタゴタ以降、メアレイズのロッツヴェルデ王国遠征、魔法の国への侵攻と色々とあってブライトネス王国の中枢がかなり騒がしかったからねぇ。
そのゴタゴタも片付き、今年のブライトネス王国の中枢の仕事は新年祭の準備のみ。大きな行事ごとも王国中枢が関わるものに関してはないため(宗教関連だとクリスマスの日に行われるニコラオス聖祭と元の世界の大晦日の日に行われる聖夜祭があるけど、あれは黒百合聖女神聖法神聖教会が主導するものだから国は関係ない。昨年まではどちらもボクが助力していたんだけど、今年は白夜が『圓様にご迷惑をおかけする訳には参りませんわ』と言ってくれたから宗教関連の行事には昨年ほど関わらないつもりでいる。ラピスラズリ公爵家で夜にアクアと女装させたネストと三人でミニスカサンタのコスプレしてプレゼントを配る恒例行事は今年もやるんだけどねぇ)、今年の面倒ごとは今年のうちに解決しようという大掃除的感覚で叙爵式が行われることになった。……そんな身勝手な理由で突然呼び出された英雄親子には同情を禁じ得ないねぇ。
まあ、叙爵式は明日なんだけど。今日はそれに向けた爵位以外の褒賞の説明、及び新年祭のパーティで必要な礼服の採寸や教育係との面通し、それらが済んだら実際に与えられる家屋の内見とか……他にも色々とやることが目白押しだ。うん、突然の思いつきでやることじゃないんだよ。
幸い、前々からやる予定だったものだから既に必要なものに関してはアーネスト宰相閣下が手配済み。教育係の予定を空けさせたり、針子達を招集したりと関係各所に多少の無理はさせているけど、どちらも悪い顔をせずに引き受けてくれている。
そして、現在。全ての元凶ラインヴェルドことクソ陛下が「将来、お前と敵対するかもしれない。ってか、ほぼほぼ敵対するマリエッタの奴が王城に来ているぜ! アルベルトとバルトロメオと三人で見て来やがれ!」と言いながらアルベルトをお姫様抱っこで拘束し、バルトロメオを連れて絶賛書類仕事中の王女宮筆頭侍女の執務室に突撃され、あまりにも腹が立ったのでバルトロメオとアルベルトが揃って「うわっ」てなるほどの膨大な霸気を込めた拳を鳩尾に押し込み、ささっと短冊に「返品」と書いて気絶したラインヴェルドに貼り付け、アーネスト閣下の執務室に転移させた。
「……本当にアグレッシブ過ぎて困り物だよ、全く。しっかりと息抜きはさせたつもりなんだけどねぇ。戦える機会も用意したし……王様になりたくないのにならざるを得なかったのは分かっているけどさぁ。せめて、大恩人のアーネスト閣下に迷惑を掛けるのはやめて欲しいよねぇ。ミスルトウさんとメアレイズ閣下の愚痴も最近は完全に罵詈雑言と成り果てているし」
「まあ、最近の兄上は少し羽目を外し過ぎだけどなぁ。……だからって霸気込めた拳で殴るのはやり過ぎじゃないのか?」
「これくらいやらないと余裕で防御されるからねぇ。流石に本気の霸気は込めてないよ。最近、霸気のレベルが上がって無駄に頑丈なモネとかヴァーナムとかの防御を打ち砕いて、シューベルトを一発KOできるレベルになっているから霸気コントロールと手加減に主軸を置いて修行し直しているからねぇ。一応、ボクも陛下のことは悪友だと思っているから、力加減ミスって殺しちゃうようなことは絶対に避けたいし」
「なんか色々とスケールがおかしくなってねぇか? お前」
「そういうバルトロメオ殿下は最近、『王の資質』を鍛えている? バトル・アイランドでしっかりとポイント貯めてアルマ先輩に『クラブ・アスセーナ』での食事をプレゼントするくらいの気概を見せなよ。結婚まで一年切っているしさぁ、漢魅せなよ、ヒゲ殿下」
「お前って求めているレベルが高過ぎると思うんだけどなぁ。まあ、それが期待の裏返しだってことも分かっているが。……そろそろ本題に入っていいか? まあ、アイツの本音がサボりたいってところにあることは置いといて、一度『主人公』を見ておくべきだという意見にはお前も同意しているんじゃねぇか? それに、エルヴィーラからもたらされた情報を踏まえたらマリエッタの狙いはアルベルトだ。無関係にって訳にはいかねぇだろ。まずはどんな奴かだけでも見ておいた方がいいんじゃねぇか?」
「その意見には同意しているよ。幸い、プリムラ様は午前中、礼儀作法の教師を請け負ってくれているミランダ伯爵夫人とお茶会をしながら勉強中。実はお誘いを受けていたけど、書類仕事が溜まっていたからお断りさせてもらって、もうすぐニコラオス聖祭だけど、家族への贈り物を何にしようかな? って考えながら仕事をしていたところにあのクソ陛下が突撃して来たんだ。見ての通り、もうすぐ仕事が終わるし、プリムラ様もまだまだ戻ってこないから偵察に行く時間はあると思うよ」
「……ニコラオス聖祭の贈り物ですか?」
「そう。あれってボクが元凶みたいなところがあるお祭りでねぇ。ラピスラズリ公爵家だけの年中行事なんだけど、アクアと二人でミニスカサンタのコスプレをして毎年家族や使用人達の枕元に夜な夜なみんなが寝静まった頃、プレゼントを置いて回るってことをやっているんだ。まあ、メイドさん達は毎年起きててボクとアクアがもふもふされることも恒例行事になっているんだけど。最近はネストにもバレちゃったから女装させて仲間に加えて三人でミニスカサンタやっているよ」
「ネストに女装を強要させて……アイツ絶対嫌がるだろうなぁ。まあ、中性的な美形だから残念な感じになるどころか淑女達が嫉妬するような美少女になるとは思うけど。……ってか、写真ある? 見たいんだけど!!」
「バルトロメオ殿下、目的忘れてない?」
スマートフォンを開いて写真のアプリを立ち上げる。ちなみに、指紋認証で解除しているので暗証番号を見られるといった心配はないよ。
「ってか、お前のスマホのロック画面ってお前の前世の子供の頃の写真なのか? こんな感じだったんだなぁ、前世のお前って」
「思わぬところで良いものが見れましたね」
「別に君達にとっては良いものでもなんでもないと思うけどねぇ。ちなみに、他に写っている二人の女の子が常夜月紫さんと陽夏樹燈さんだよ。丁度、陽夏樹さんが仲間に加わった頃の写真だねぇ」
「……この方が、圓殿の想い人」
アルベルトにとっては後々にライバルになるかもしれない相手……そう思って見ていると思うけど、ライバル視なんて烏滸がましいと思うけどなぁ。
その後、アクアとボクとミニスカ女装ネストの写真を見て「その写真、圓様が映っているものだけでいいので譲ってくれませんか?」というアルベルトに絶対零度の視線を向けてから、三人で王女宮を出発し、内宮の応接室へと向かう。流石にまだ平民だから来賓室へ……ってことにはならなかったんじゃないかな? 妥当な判断だと思うよ。
「そういえば、圓殿の方ではどの程度情報を得ているのですか?」
「マリエッタに接触したドS神父……っていっても分からないか。ジョナサン神父とフォルトナ=フィートランド連合王国のカルコスさん、冒険者ギルド本部長ヴァーナムさんの記憶を読ませてもらって断片的には。ただ、直接視ることで得られる情報もあるからねぇ。こっちからの接触はできれば学園入学まで避けておきたいって思っていたけど、一方的に視ることができる機会があるなら是非有効活用させてもらいたいと思っていたところだよ。このタイミングでのお誘いは渡りに船だったねぇ」
極めた見気を使えば、マリエッタにローザ=ラピスラズリが干渉しているかを確認できるかもしれないからねぇ。流石に証拠を残さずに干渉は難しいだろうし、何かしらの情報が得られれば今後の作戦が立てやすくなる。
「そういうアルベルトさんの方は情報は得ているのかな? 確か同室のリジェルさんはマリエッタに助けられたんだよね?」
「そうですね……うんざりするほど聞かされました。リジェル渾身の愛の歌という詩の朗読まで聞かされまして……」
「うわぁ」
「そんなにうわぁっていうことかな? ボクならオールナイトどころかエンドレスで月紫さんとの惚気話とか月紫さんの可愛らしいところとか話すことができるけどねぇ」
「……フォルトナ王国の連中と圓って似ているところ多いなって思っていたんだけど、ファンマンに似ているところってないなって思っていたんだが……まさか、あの惚気話が親譲だったとは」
「フォルトナ王国だけじゃなくて、ラピスラズリ公爵家とか陛下とか思い当たる人ってかなりいるよ。……でも、心外だねぇ、ファンマンと違ってボクは仕事の手を休めずに惚気られるから」
「そっちの方が怖ぇよ!」
……しかし、そういう共通点があったか。気づかなかったなぁ。
まあ、ボクの月紫さんへの愛は誰にも負けないんだけどねぇ。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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