Act.9-150 ヴァルムト宮中伯領の危機 scene.5
<一人称視点・ローザ・ラピスラズリ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
ルークディーンは夏にミリアムの指導で『剣聖』の技の基本は習っている。ただ、闘気や八技といった技術には全く触れていないので、ルークディーンの体術の講義は闘気と八技を教えることにした。
勿論、ルークディーンの授業のメインは勉学の方だけどねぇ。
「E.DEVISE」で迷宮攻略の状況を確認しつつ、《八百万遍く照らす神軍》の派生――《太陽神》を使って二人に分裂。ルークディーンに闘気と八技の使い方を教えながらアルベルトに剣の修行をつける。
まさか同時に二人を指導できると思っていなかったクラインリヒとサフラン、ヴァルムト宮中伯家の使用人達は絶句。当の本人達は覚えることに一生懸命でそれどころじゃないらしい。
特に圓式を習得済みのアルベルトとはより実戦的な模擬戦を繰り広げることになる。霸気、聖属性魔法、圓式の斬撃、全てが使用可能――アルベルトが今持っている全ての手札を駆使した総力戦だから、当然、戦いは激しさを増す。
アルベルトより霸気の強いラインヴェルドは高難易度大迷宮の探索に同行してこの場にいない。今のアルベルトは全盛期のクラインリヒを超える強さを手に入れている訳だし、今のヴァルムト宮中伯家にアルベルトを超える猛者はいないんじゃないかな?
「アルベルトさん、どうです? 楽しめてますか?」
「楽しむ……ですか。流石に無理ですね。次の手を考えるだけで今は精一杯です」
「楽しめるくらいの心の余裕が出てきたら、次のステージに上がれそうですねぇ。さて、少しだけギアを上げていきます。見気の未来視を駆使して頑張って避けつつ反撃してくださいねぇ」
「ちょ、ちょって待って――」
現役の近衛騎士であるアルベルトが手も足も出ずに一方的に追い詰められていっている姿にルークディーンは驚きを隠せないらしい。……ボクがアネモネだっていうことすっかり忘れてない?
「余所見していても何も得られませんからねぇ。ルークディーンさんはまず闘気を習得してしまいましょう。サフラン様、よろしければどうでしょうか? 闘気に含まれている見気という技術は相手の心の動きや少し先の未来が見えて便利ですよ。王太后様や王妃殿下、アクアマリン伯爵夫人も習得済みです。煌びやかな世界の裏で腹の探り合いが行われている社交界では案外役に立つ能力です……まあ、この力に頼っているようでは二流、三流の淑女と言われても致し方ないのですが」
「面白い力ね。確かに便利そうだわ。ローザ様は見気をよく使ったりするのかしら?」
「目まぐるしく状況が変わる戦闘では派生の未来視を中心に使ったりしますが、後は隠し事している相手の秘密を暴く時くらいにしか使わないですねぇ。ただ、見気で相手の記憶を読もうとすると時間が掛かるので基本は別の手段で記憶を複製して飴玉として取り出すことが多いです。……ご安心ください、主にこういった技を使う相手はボク達の敵に限られます。最近だと『這い寄る混沌の蛇』という邪教徒が多いですね」
「フンケルン大公が関与していた宗教だったな」
「その宗教って考え方は微妙なんですよねぇ。邪神を崇める宗教っていうのも一つの側面に過ぎない……まあ、中心にいるのは邪神が乗っ取った人間なのですが、基本的には秩序を破壊する一種の思想だと思ってください。彼らは立場の弱い者、敗北者に近づき、言葉巧みに唆して仲間に加える。冥黎域の十三使徒と呼ばれる幹部達は例外中の例外、本来は秩序に対して長年醸成させた不満などを利用し、混沌を生み出す存在なのです。しかも、そういった混沌を望む存在だけではないことも連中が厄介なところです。身近なところで言うと、フンケルン大公の側近だったレイリアの遠縁のパーバスディーク侯爵、彼は『這い寄る混沌の蛇』を利用してブライトネス王家を滅ぼし、フンケルン大公を頂点とした新政権で要職につくことを目論んでいた積極的協力者だった。……本当に厄介な連中だと思いますよ。まあ、幹部級も補填されることが分かったのでイタチごっこになりますし、次の一手で一気に本丸を落としたいとは思っていますけどねぇ。……こっちも打たれたくない手を連続で打たれているので、ボクも流石に怒り心頭に発していますし」
「……斎羽朝陽さんと、火走狼さんですね」
「ペドレリーア大陸とラスパーツィ大陸の臨時班派遣の際には活躍を期待していますよ。……まあ、主にラスパーツィ大陸が行動拠点になると思うけど。……こっちは四季円華さんと協力関係になれているとはいえ、不安要素は多い。一応、『這い寄る混沌の蛇』のお膝元ですからねぇ。覚悟しておいた方がいいでしょう」
流石に『這い寄る混沌の蛇』といえど、総力を集結させてくるとは思うけど……決戦の地が学院都市セントピュセルであるという予想が外れる可能性もあるにはあるよねぇ。相手もシナリオを知っているなら、外そうと思えばシナリオから意図的に外すこともできる訳だし。
「兄上が時空騎士になったことは聞いていたが、そんな恐ろしい任務についているのか」
「近衛騎士の任務とは比較にならないほど危険なものだよ。それでも絶対に勝てると判断された戦場にしか派遣されないから悲しくなってくるんだけどね」
「流石に今のアルベルトさんじゃ激戦区には送り込めないよ。……上位勢のラインヴェルド陛下達であってもどうしても任せられない敵もいるし、まあ、適材適所だねぇ。ボク一人じゃ確実に時間が掛かるし、防衛戦なら守りきれない。ボクが安心して強敵と戦えるのは君達が他を引き受けてくれているからなんだよ」
特に真聖なる神々戦みたいな死力を尽くして初めて勝てるような相手はねぇ。
「……あっ、ラインヴェルド陛下からメールだ。現在、三百層を攻略中。美味しい料理を用意しておいてくれ……って、本当に身勝手だねぇ。クラインリヒ様、厨房を少しだけ借りてもいいでしょうか?」
「ああ、構わないが……圓殿は料理もできるのか?」
「料理ができるどころか、ブライトネス王国内、いえ、世界中を見渡しても最上位に君臨する料理人ですよ。……しかし、攻略スピードが予想以上に速いですね」
「雷を利用して電磁力を発生、その電磁力を使って鉄分を集めて武装闘気で強化――創り出した特製の電磁杭で迷宮の床をぶち壊したんだろうねぇ。この分だと、かなり早く予定の階層に到達するだろうし……ルークディーンさん、そろそろ勉強を始めましょうか?」
《太陽神》を使って二人から三人に分裂体を増やし、一人はアルベルトの修行相手に残して、一人はルークディーンと共に彼の自室へ、最後の一人はクラインリヒの案内で厨房へと向かった。
◆
<一人称視点・リーリエ>
最初は「公爵家の令嬢が本当に料理できるのかよ?」という視線を向けられていたけど、フルコースの準備を進めていたら次第にそういった視線も消えていった。
空は茜色に染まり夕刻に至った頃、プリンセス・エクレール達とラインヴェルドが九百九十九層に到達し、ボクもルークディーンの授業とアルベルトとの模擬戦を終了して《蒼穹の門》を使って【ゼータの深淵迷宮】に転移した。
ちなみにコース料理はしっかりと完成させてから移動したよ。流石に後は頼むって任せられる仕事じゃないからねぇ。
「少し手間取ってしまい、申し訳ございませんでしたわ」
「いやいや、ここまで全ての魔物を駆逐した上での九百九十九層到達だからねぇ。さて、美味しいところを全てもらっていくようで申し訳ないけど、ここから先はボクが引き受けるよ」
千層へと続く階段を降りてボスの間へと続く扉を開ける。
ラインヴェルドとプリンセス・エクレールはボクとは反対に上層へと移動した。どうやら、迷宮探索中に「本気の戦いをしようぜ?」とラインヴェルドに提案を持ちかけられたらしい。
ヴァルムト宮中伯家では周りに被害が出ないように一応手加減していたみたいだしねぇ。
上層に移動したのは千層でのボクと迷宮統括者の戦いを邪魔しないためにという配慮だ。まあ、確かに上の階で暴れられたら一つ下の階なら諸に影響を受けるよねぇ、あのレベルの猛者になると。
待ち受けていたのは、古代エジプトの王妃を彷彿とさせる衣装を纏った艶やかな黒髪が印象的な薄褐色の肌の美女。
武器は金属製の扇の二刀流……戦闘スタイルは近接戦闘かな? この感じだと。
『まさか、こんなにも早く迷宮の最奥に到達するとは思っていませんでした。私はリステルカ・ζ・ラビュリント、この高難易度大迷宮の迷宮統括者です。私に勝利し、下の階層に到達した者にはこの迷宮の支配権が与えられます』
「これまでいくつか高難易度大迷宮を攻略してきたからねぇ、条件は知っているよ。エヴァンジェリンさん、リヒャルダさん、ベラトリックスさん、ドミティアさん、サトゥルニナさん、アピトハニーさん――君が彼女達よりも強敵なのかな? 楽しみだねぇ」
剣を鞘に戻して腕に武装闘気を纏わせて硬化させる。
「先攻はどうぞ」
『では、遠慮なく――参りますッ!』
鉄扇を使って攻撃をしてくるのか、と思いきや使用してきたのは地面から無数の鎖を創り出して敵を拘束するバインド系……真っ正面から戦う気ないな。まあ、戦いに真っ正面も何もないけどねぇ。
『鎖の舞-拘束-』
「武流爆撃」
まさか、鎖を一撃で破壊されるとは思っていなかったのだろう。困惑するリステルカに肉薄し、相手の身体に直接武装闘気を流し込むことで内部から敵の身体を破壊する武流爆撃を浴びせる。
ちなみに、鎖を破壊したのもこれの応用だよ。ボクを捕らえた鎖に内部破壊を仕掛けた。……壊れない可能性を考えていたけど、案外簡単に破壊できたねぇ。
『グッ……いくら、吸血鬼と言っても、これほどの力は……なかなか、厄介な力を持っているようですねッ! 私の力は、この程度じゃありませんッ! 敏の舞-蝶舞-! 攻の舞-剣舞-! 戦舞-華舞嵐旋-』
蝶の舞を彷彿とさせる踊りと、剣舞を彷彿とさせる踊りを相次いで使用して速度と攻撃力を高めてきたみたいだねぇ。
そこから繰り出されるのは怒涛の如き舞――二つの扇を広げ、踊る舞は自分を中心とした巨大な竜巻を発生させるほど。
舞によって作り出された巨大な竜巻からは無数の小さな竜巻が外部へと放たれる。遠距離への攻撃手段も備えた近距離戦闘と自身の防御を両立する攻防一体の技……ってところかな?
舞のエキスパートなだけあって、舞によって生じる竜巻も自由自在。射出させる竜巻は全てボクに向かって放たれている……まあ、大した攻撃力ではないんだけど。
『――ッ! まさか、戦舞-華舞嵐旋-も効かないということですか!? ならば、鎖の舞-暴鎖-』
地面から無数の鎖を創り出すところまでは「鎖の舞-拘束-」と同じだけど、その先が違う。
結局のところ、リステルカの武器は舞なんだと思う。巧みな身体の使い方で能力を上昇させる舞を舞ったり、竜巻を発生させたりする。
その力を創り出した鎖で応用するだけ。鎖の動きを完全に掌握し、一切無駄のない動きでより多くの打撃を行う。
鎖のラッシュ――それも、迷宮統括者の力で繰り出される技だから当然かなりのダメージが発生する。……武装闘気を纏っていなかったら苦戦する相手だったかもねぇ。まあ、武装闘気をしっかりと纏っていればゼロダメージで済むんだけど。
覇王の霸気を纏わせた拳を放って竜巻の演舞をリステルカ諸共粉砕する。
【万物創造】で作成したMOBの捕獲確率を上昇させる課金アイテムのポーション――ドミネートMOBポーションをがぶ飲みしてから、MOBの捕獲確率に影響を与えるっていう隠し効果がある『魔眼』を併用して捕獲率を上げる。
そして、弱ったリステルカに向かって生み出した捕獲用の専用課金アイテム、支配者の鎖網を投げる。
リステルカは為す術なく支配者の鎖網に囚われた。鎖がチカチカと緑色に点灯を続け、リステルカは必死に脱出しようと踠くも、鎖で作られた網はびくともしない。
八回、鎖が明滅すると緑の光が消え、パリィーンと音を立てて鎖が砕け散る。
リステルカ、無事に捕獲完了だ。
お読みくださり、ありがとうございます。
よろしければ少しスクロールして頂き、『ブックマーク』をポチッと押して、広告下側にある『ポイント評価』【☆☆☆☆☆】で自由に応援いただけると幸いです! それが執筆の大きな大きな支えとなります。【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれたら嬉しいなぁ……(チラッ)
もし何かお読みになる中でふと感じたことがありましたら遠慮なく感想欄で呟いてください。私はできる限り返信させて頂きます。また、感想欄は覗くだけでも新たな発見があるかもしれない場所ですので、創作の種を探している方も是非一度お立ち寄りくださいませ。……本当は感想投稿者同士の絡みがあると面白いのですが、難しいですよね。
それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。




