Act.9-148 ヴァルムト宮中伯領の危機 scene.3
<一人称視点・アネモネ・ドゥンケルヴァルト・ライヘンバッハ・ザール・ウォルザッハ・インヴェルザード・ジードラバイル・ヒューレイツ・グラリオーサ・ビオラ=マラキア・クレセントムーン>
「さて、ここまで独擅場で暴れまくったけど、これってどう決着をつければいいんだ? ローザ?」
霸気撒き散らしから一転、困惑した顔でボクの方に視線を向けるラインヴェルド。
そして、アルベルト以外のメンバー(レイリアを除く)は、「ローザって言った? 王女宮筆頭侍女の? どういうことなんだろう?」と困惑した顔になった。
「ということで、多種族同盟加盟国ビオラ=マラキア商主国とクレセントムーン聖皇国の君主にして、ビオラ商会合同会社の会長のアネモネの正体はラピスラズリ公爵令嬢のローザでした。……ってか、すんなりカミングアウトし過ぎだよ。処理し切れてないじゃん」
「なんで俺がこいつらに気を遣わないといけないんだ?」
「鬼畜かッ! ってか、鬼畜だったわ! ということで、ボクはそこの全ての元凶と言えるレイリアから『ヴァルムト宮中伯家のためにご尽力くださりありがとうございます。どうぞこれからもヴァルムト宮中伯の礎となるために頑張ってください』と思われていた王女宮筆頭侍女だった訳だけど……もしかして、クソ陛下の火に油注いじゃった?」
「……圓殿、この状況で火に油を注ぐのはやり過ぎですよ。というか、この女、圓殿に対してそんなこと思っていたのですか? もういっそこれバラバラ死体にするだけでヴァルムト宮中伯家のことは許して頂けないでしょうか? 最悪、魔物の餌でも良いですので」
「酷くない? 一応、君の母親でしょ? 産んだだけだけど」
「そうでしたっけ? 私の母はヴァルムト宮中伯夫人だけです。所詮は産んだだけの赤の他人ですよ」
アルベルトは気づいていないけど、もう条件はクリアしちゃったんだよねぇ。……そう、その答えが聞きたかったんだよ。
和解といったけど、無理に和解しなくてもいい。自分の出自と自分を産みの親であるレイリアと本当の意味で向き合って答えを出せればそれでいい。
アルベルトは自分の母親がサフランだと言った。それが君の出した答えだ。良かったねぇ、これでアルベルト、君は前に進めるよ。もう過去の柵に囚われて心に大きな影を落とすこともない。
「……アルベルト。その通りだわ。貴方の母親は私よ」
そして、アルベルトの言葉に感極まって涙を流しながらアルベルトを抱擁するサフラン。
状況に全くついて行けてないクラインリヒとルークディーンとレイリア。
「アネモネ閣下が……ローザ様、だったのか?」
「まあ、アルベルトさんには園遊会の頃に明かしていたんだけどねぇ。でも、これまでローザとして言ってきた言葉に嘘はないよ。ボクはプリムラ様とルークディーンさんがお似合いだと思っているし、婚約まで漕ぎ着けたなら祝福するつもりだった。ただ、申し訳ないけどアルベルトさんとの婚約を結ぶ条件はようやく一つ満たされたという状況でねぇ、後は頑張って親愛度を上げよっか? まあ、そこのクソ陛下が言っていた通り、プリムラ姫殿下の方が周囲からの反対はあっても断然有利の位置に行けたと思うけどねぇ。そもそも、前提条件的に無理なんだけど。ボクはプリムラ姫殿下に相応しくない、姫殿下の悲しい出自、その切っ掛けはある意味でボクが作ったようなものだからねぇ」
「その件でお前を責めている奴はいねぇけどなぁ。……結局のところ、メリエーナを守れなかった俺が悪いってことだろ?」
「まあ、そうだけど」
「……否定しろよ」
「大切な人は命かけても、是が非でも守れ。ボクなら絶対、月紫さんを殺させない」
「……まあ、そうだけどさぁ。大切な姉を奪われたカルロスに加担して手に入れた情報を流してメリエーナ暗殺を仕掛けた正妃シャルロッテを生家のラウムサルト公爵家共々滅ぼさせるように仕向けたのは良かったと思うぜ。俺もルクシアも立場上、できなかったことだから胸が空いた。そのカルロスも事故に見せかけて死亡したことにして【血塗れ公爵】を出し抜き、秘密裏に救ったことも冴えた一手だった。お前の趣味全開女性に姿を変えさせ、シェルロッタという名前を与えたまでは良い。自分の名誉が傷つくことを承知した上で王女宮の侍女にしてくれた時には例え、プリムラが気づかなかったとしても、カルロスに姉の忘れ形見と接する機会を与え、彼に生きる希望を与えてくれたことを本当に嬉しく思った。ようやく、アイツも別の形だったとしても幸せを手に入れることができるんだって。それなのに、お前はその王女宮筆頭侍女の立ち位置をシェルロッタに与え、自分はプリムラの周りからフェイドアウトしようと目論んだ。プリムラへの忠誠心や愛情を押し殺し、シェルロッタとプリムラの二人を幸せにするために。……そんなこと、シェルロッタも望んでいないし、プリムラだって願っていない。だから、お前を繋ぎ止める方法が必要だった。あの時、俺は焦っていたから最適解を選べなかった。なんであの時の俺はアルベルトがローザへの恋心を持つように仕向け、ルークディーンとプリムラを結婚させることでプリムラとローザの関係を強固なものにしよう、なんて遠回りでまどろっこしい方法を考えたんだろうか? プリムラとローザを婚約させれば解決したのに……本当にぶん殴りたい」
「ボク個人としてはシェルロッタとアルベルトさんに恋仲になってもらって、プリムラ姫殿下とシェルロッタを姉妹にするのがベストだったんだけどねぇ。ただ、あのシェルロッタがアルベルトさんに恋心を持つ可能性が皆無なのは最初のお茶会のタイミングで分かっていたし。……そもそも、ルークディーンさんとプリムラ姫殿下が全く釣り合いが取れていないって評価していたくらいだしねぇ。あっ、実際、ルークディーンさんはよく頑張っている方だと思うよ。……ただ、叔父としては姉の忘れ形見を嫁がせる相手は吟味したいという思いも理解してあげて欲しい。まあ、当のシェルロッタは自分にはプリムラ姫殿下とルークディーンさんの婚約に関して何か言える立場ではないとあの場でも口を挟まずにプリムラ姫殿下が幸せになれることを祈っていたようだけど」
「……シェルロッタ殿が、姫殿下の、叔父様……」
もし、ルークディーンがプリムラを幸せにできなかったら一番にブチ切れるのはシェルロッタな気がする。自分は関係ないと言いつつ、何十年も姉への愛を捨てられなかったシスコンを甘く見ちゃいけないよ。
……で、そろそろ本筋に戻さないといけないねぇ。結局、ヴァルムト宮中伯家にどのような処分を下すのか決めないといけない。
「ラインヴェルド陛下の貴族に対する積年の恨みとか、その辺りを勘案すればヴァルムト宮中伯家を事故に見せかけて処分するってのも存外悪い手ではないんじゃないかと思う。アルベルトさん達には申し訳ないけどねぇ。ただ、やるとしたらタイミングがあまりにも遅過ぎる。既にプリムラ姫殿下とルークディーンさんの恋は進展し、プリムラ姫殿下にとってルークディーンさんは大切な存在となっているんだ。例え事故でも失ったら大きな心の傷になるだろうし、そこからラインヴェルド陛下の考えるボクとの婚約……までもっていくのも現実的ではないんじゃないかな? それよりも、現実的な話をすべきだと思うよ。例え、陛下の忠臣で無かったとしてもブライトネス王国に長年仕えてきた忠臣だ。……といいつつ、そこの御当主様は色々な意味でアウトだと思うけど。クラインリヒ=ヴァルムト、君は自分一人で抱えて全ての責任を取れば解決するなんて甘い考えを抱いていたようだねぇ。でも、結果として何も抑え切れていなかった。アルベルトさんを守るために泥を被るとしてももう少し別の方法があったんじゃないかと思うよ。――これはボクからの善意の警告だ。今回は地雷がどこに埋まっていたかを知らなかった、ということでラインヴェルド陛下はヴァルムト宮中伯家の使用人の無礼を不問にする」
「おいおい、勝手に決めんなよ。まあ、それで良いけどさぁ」
「だけど次はない。手に負えないならその手で処分することも視野に入れるべきだとボクは割と思っているよ。そのヴァルムト宮中伯家が抱える爆弾を御する自信があるなら好きにすれば良いけど、最低でもしっかりと首輪を嵌めておいた方がいいと思うよ? じゃないと、ヴァルムト宮中伯家の狂信者が結果としてヴァルムト宮中伯家を破滅に追い込んでしまうかもしれないからねぇ。分かったかな? 宮中伯殿?」
漆黒に染まった瞳を向ければ、クラインリヒはブルブル震えながら小さく首肯した。
「……レイリア、謹慎を命じる。今後、一切アルベルトとは関わりを持たないように。次はないからな」
「だ、旦那様……レイリアは、レイリアは」
クラインリヒが呼び寄せた執事がレイリアを連れて行く。執事ができる限りレイリアの声を抑えようとして、それでもイライラを抑え切れずにボクの方を睨め付けて、そのまま泡を吹いて気絶した。
「ラインヴェルド陛下、流石に二人の分の覇王の霸気を浴びたら常人なら耐え切れないのでは? ボクに向けられた殺意なんだし、ボクが責任を持ってそれを上回る殺意を向ければ十分でしょう?」
「そういうもんか? まあ、五月蠅い奴は消えたしいいじゃないか? それよりクラインリヒ、具体的な話に移ろうぜ。この宮中伯領に出現した高難易度大迷宮をどうにかするんだろ?」
「その前に、そもそもなんでいるの? 約束守れない子供なの? ちゃんとお仕事するって約束したよねぇ?」
「【再解釈】して選択したナイフの周囲の映像と音を見ることができるようになる《光識》を獲得したんだ。アルベルトに持たせておいた俺のナイフを起点に一連の流れを見て、俺がカッコよく登場できるタイミングを探っていたんだぜ? あっ、午後からの謁見の仕事はサボった。まあ、大した相手じゃなかったしな!」
……もうやだ、このクソ陛下。今頃、アーネストがストレスで腹痛になっている姿が手に取るように分かるよ。
まあ、終わったら元の時間軸に強制送還すればいいか。
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