【季節短編 2019年クリスマスSS】『Eternal Fairytale On-line』クリスマスイブのリアルイベント
この季節短編は『乙女ゲームの廃スペック悪役令嬢は百合を愛でて暮らしたいだけ』三章時点で読むことを前提にしていますが、一章読了以前でも十分にお楽しみ頂くことが十分可能な内容になっております。
これは圓達が異世界に召喚されるよりずっと前の話。
咲苗と巴が中学二年生だった頃の物語である。
◆
<三人称全知視点>
夜の街はイルミネーションで彩られ、街の各所ではサンタクロースのコスプレをした店員が客引きを行っている。
「わぁ、凄いよ。これが都会なんだね!!」
「ちょっと、咲苗……それじゃあ、私達がお上りさんみたいじゃない」
街を行き交う人々は天真爛漫に笑う天使のような美貌を持つ女子中学生と、それを窘める凛々しい美少女に釘付けになった……が、当人達はその事実に気づいてはいない。
「……これが魔性というものなのかしら? しかも、当人達が気づいていないのだから尚更厄介よね……」
「あの……どうされましたか? 美空さん」
少女達の付き添いをしている美空華菜(源氏名:胡蝶)が溜息をついているのを見て、巴が不思議そうな顔をした。
美空は巴に「何でもないわよ」と返して、二人を目的地であるホテルへと案内する。
事は、イベントが正式に告知された十一月に遡る。「十二月二十四日特別リアル連携イベント、クリスマスイブに『Eternal Fairytale On-line』の仲間達と過ごしませんか?」というホテルとのタイアップ企画が告知された。
当初は「この限定アイテムには興味があるけど、女子中学生二人でホテルに泊まるのは無理よね」と諦めていた二人だったが、咲苗と巴が所属しているギルド『四つ葉のクローバー』のギルドマスターが「オフ会でリアルイベントのチケットを三枚勝ち取ってきたわ! 誰か一緒に行かないかしら?」と謎のオフ会からチケット三枚をギルドに持ち帰ったところから急に流れが変わり、ギルドのメンバーのほとんどがその日用事があったり、既にホテルを押さえていたりした……ということで、最終的に巴と咲苗に話が回ってきたのである。
当初は「夜に友達と一緒に外出するのはやめておけ。一緒に行くのも女子中学生で、相手は知らない人なのだろう?」と渋ってきた咲苗の両親だったが、咲苗の必死の説得と、事前に咲苗が家族を『Eternal Fairytale On-line』の沼に落としていたことが功を奏し、結局「危ないことがあったらすぐに連絡するんだぞ!」という外出の許しを得た。
ちなみに、同じ女子中学生の巴の方は最近両親が留守にしていることが多いということでお咎めを受けることすらなかった。
無人の静まり返った道場を抜け、巴は咲苗の家に寄ると、咲苗と共に待ち合わせの場所に向かった。
そして、待ち合わせの駅にいたのが大人の色気を感じさせる美しい女性――『四つ葉のクローバー』のギルドマスター、ポインセチアのリアルこと美空だったのである。
「それじゃあ、そろそろイベント会場に向かおうかしら? 今回はチケット以外は私の奢りだからお金のことは気にしなくていいわ」
「……あの、本当にいいのですか?」
「こういうことはお姉さんに任せなさい! それに、子供がお金のことなんて気にしなくていいのよ!!」
申し訳なさそうにする巴と咲苗に、美空は快活そうに笑って返す。
美空は金銭の損得など、目の前にいるギルドメンバーの二人が楽しくイベントを満喫したという結果の前では些細な話だと考えていた。
それに、美空にとっては可愛い女の子達が笑う姿がなによりも癒しになる。その癒しがあるからこそ、美空は興味もないおっさん達に愛想を振りまいてお金を巻き上げるというただひたすら心が荒むような仕事を続けることができているのだ。
ホテルに到着早々、チェックインをしようとしていた三人だが、カウンターには既に男女が並んでいた。
小汚い男とセーラー服の少女という組み合わせは何やら怪しさを感じさせる。
「あれ? 影澤さんじゃありませんか? ……でも、確かオフ会の大抽選会でチケット取れませんでしたよね?」
「相変わらず嫌味な女やな……これくらいのホテルのスイートならチケット貰わんとも普通に取れるわ」
美空の嫌味に影澤という男はジト目を返す。
「ボス、この人誰ですか?」
「あっ? この人は首都のナイトクラブのホステスをしとる戦闘系八十七位の『四つ葉のクローバー』のギルドマスターやで。大の百合好きの癖しておっさん相手に商売しとるせいでとことんやさぐれとるの」
「あっ、あの百合廚の、あろうことか姫さんを引き抜こうとした身の程知らずのギルドマスターですか……となると、後ろの二人はそこのメンバー? まあ、つくづく女固めて花園やっている仲良しクラブですね……まあ、ウチは爪の先ほども興味がないですが」
「……相変わらず辛辣やな」
と、一緒にいるセーラー服の少女にジト目を向けながら、少女と二人揃って毒を吐く影澤。
「それで、影澤さんとその娘の関係は? まさか、恋人がいないからって遂に女子中学生に手を……」
「えっ、ボスと結婚ですか!? もし、結婚すればボスの遺産はウチのものに!? ボス、今からでも遅くありませんから結婚式場に向かいましょう!!」
「……相変わらずがめつい女やな……こいつは勝手について来とるだけや。こいつは、うちの見習い従業員の木天蓼猫美、家出してウチの弟子になりたいって押しかけてきた迷惑な小娘や……そうや、こいつ引き取ってくれへん?」
どうやら、混み入った事情があるようだ。玉の輿を狙っているちゃっかりとした娘のようなので、早々自分の身を危険に晒すことはないのではと推測し、安心する二人。
「というか、その百合廚と一緒にいる方が寧ろ危険な気がするにゃ……おっと」
「素が出とるぞ、chaton」
「というか、素の口調に戻してもいいですかにゃ? ……こっちの方が胡散臭くていいと思うのですがにゃ、社長」
「なんか心の篭ってへん感じでシャチョサンってとりあえず言われとるみたいで、嫌なんやけど……そもそも、ウチ社長やないし。住所不定無職の投資家やし」
「ウチはそんな働かずに稼ぐっていう影澤さんに憧れて楽して稼ぎたいから弟子になったんですにゃ! 身体を売るとか絶対に嫌ですし、影澤さんみたいにネカフェから一歩も動かずに万単位のお金を動かしたいんですにゃ」
とことんダメ人間(下手な社長よりは稼いでいる)とそんなダメ人間に憧れる非行少女(別の意味で)にジト目を向ける三人……果たして悪いのは憧れられる方か、憧れる方か、どちらなのだろう……どっちもどっちだな、これ。
「ほんなら、ウチらは行きますね。先にホテルのイベントをこなしておきたいやし」
そう言い残して、影澤とどこからともなく猫耳を取り出してあざとく笑った猫美は宿泊台帳をフロントの受付に手渡すと螺旋階段を上がって二階へと上がっていった。
「あの……あの影澤という方は?」
怖ず怖ずと質問する巴に美空は溜息を吐きながら答えた。
「……五大戦闘系ギルドの一つ『変人達の巣窟』のギルドマスター、『神出鬼没』のウンブラさんよ」
◆
思わぬ大物との邂逅を経て、ようやくチェックインを終えてまずはホテル内のコラボイベントをこなすべく、ホテルの二階へと向かった。
その手には『Eternal Fairytale On-line』のマスコットの一体、ふわぽわを模したトークンが握られている。
IDと時間で変わるパスワードにより、ホテルに泊まった人にしか遊べないようにするという意図なのだろう。
ちなみに、『Eternal Fairytale On-line』のマスコットといえば、ふわふわした雲型の小さなモンスターのふわぽわ、桃色の滴型で変身能力を持つメタモルスライム、みんなのトラウマのブリザードペングインの三体のことを指す。ヨグ=ソトホートとか、九尾狐とかは入らない。
「てっきり、ポイントが貯まった分だけゲームし放題みたいなことにするかも……とは思っていたけど、やっぱりあの娘が私たちの期待を裏切る訳がないわよね」
「……えっ、あの子って運営の人と知り合いなのですか?」
美空の何気ない呟きに具に反応した咲苗が探りを入れる。
もしかしたら謎のゲームクリエイター、フルール・ドリスの正体が……と期待した咲苗だったが。
「実は今回のチケットもオフ会でその娘がくれたものなのよ。まあ、会場のビンゴ大会で当たってもらったものなんだけどね。見た目は可愛い女の子だけど、自分の作るゲームにかける情熱は桁違いだから、今回も絶対に妥協をしないとは思っていたんだけど。……そういえば、二人はリアルで会ったことがなかったわね。でも、ゲーム内の姿なら知らないということはない有名人よ」
その時は誰かな、と想像していた咲苗だったが、その正体がリーリエ=百合薗圓と知るのはそれから数年後の、しかも異世界でのことである。
「えっと……このホテルには各部屋にホテル内でのマイパソコンと、チェックポイントごとにシンボルパソコンが置いてあるそうよ。まず、二階にあるパソコンからゲーム内のホテルでチェックインをして、そこからは自由。ホテル内を回ってスタンプラリーを進めるもよし、マイパソコンで『クリスマスイベント:クネヒト・ループレヒトの襲来』を進めるもよし。チェックインの時点で限定アイテムの『聖夜の魔杖』は貰えるからマイパソコンで遊び続けるというのも手みたいよ」
フロントで渡されたパンフレットを見ながら美空が巴と咲苗に説明する。
「チェックポイントで一定数のスタンプを集めると限定アイテムをもらえるようね。それから、スタンプを押したり、ホテル内で飲食をしたり……サービスを利用することでポイントが溜まり、そっちもポイントとアイテムを交換できるそうよ。何個かこのポイント交換の方にも限定アイテムがあるわね。限定メニューにはポイントの他にステータスを一時的にアップさせる消費アイテムなども付いているそうだけど……詳しくはメニューを見るしかないわね。……えっと、最後に何か書いているわね。『オープンスペースでのアカウント入力って結構危険なんだよねぇ。垢ハックとかの温床になりかねないし。そういうイベントを台無しにする輩が『Eternal Fairytale On-line』のユーザーに居ないことを祈りたいけど……もし、無茶苦茶にするような真似をしたら……まあ、どうなっても運営側は一切の責任を負いませんのであしらかず。それではコラボイベント楽しんでねぇ、お客様』……あの娘らしいわね」
最後の運営コメントの狂気が凄まじかった。
ちなみに、このイベントから二日後の早朝に自称自営業のクラッカー(三十二歳)が死体で発見され、死因がVXガス中毒というニュースが全国放送で流れたが、果たして関係はあるのだろうか? なお、その事件は内容が報道されたのみで犯人不明のまま捜査が打ち切られたらしい。
◆
<三人称全知視点>
二階のパソコンでチェックインを済ませると、後は各々自由行動ということになった……が、全員が「とりあえず貰えるものはもらいましょう!」ということで部屋に荷物を置いてからスタンプラリーを続行することになり……。
「おっ、美空さんじゃねえか! って、後ろに美人さんが二人も!? 三人とも俺にお持ち帰りされない?」
ホテルのいかにも高そうなレストランで隣の席に座っていた初対面の男から唐突にそう声を掛けられた。
まあ、美空からすれば初対面でもなんでもないのだろうが。
他に座っている五人も男でむさ苦しい空間が形成されている。
「お断りです!」
「そんな、あっさり……」
「またフラれましたね、輪島さん。いい加減諦めたらどうです?」
「いや、まだだ後ろの二人にワンチャン!」
「「「「「「そもそも女子中学生に手を出す時点でアウトだろ!!」」」」」」
その後、美空と連れの五人に徹底的に説教された輪島。
ナンパな三枚目でモテない女好きを絵に描いたような男だが、五人の仲間にも慕われているようなので人望は確かにあるのだろう。
「それじゃあ、仕切り直すとすっか。改めて、『満天空賊団』のギルドマスターのモェビウスだ」
五大戦闘系ギルドの一角で、男性プレイヤー九割、女性プレイヤー一割という男所帯のギルドのトップ。
MMORPG『Eternal Fairytale On-line』をサービス開始からプレイしている最古参の一人であり、以前からのネトゲ仲間にしてリアルの知り合いを核にしてギルドを発足、その後五大戦闘ギルドへと大きく飛躍を遂げたというギルドで、大体の女性プレイヤーは男性プレイヤーのノリや下ネタについて行けずに抜けるため、その中でも残っている女性プレイヤーには猛者が多く、度量の広い人物だけになっているらしい。
美空曰く「悪い人ではないのだけどね」とのこと。お祭り好きでノリもいいが、癖が強すぎるのが玉に瑕というべきか。
ちなみに、戦闘系ギルドのトップクラスとなるとギルドそのものが癖が強くなる傾向があるようで、参加申請可能なギルドも、変人しか集まらない『変人達の巣窟』、男女問わず✧Étoile✧信者の実質ファンクラブな『MilkyWay』、大規模戦闘用のコミュニティマッチングを基盤に成立した『白嶺騎士団』とそれぞれの色というものを持っている。
その後、互いに自己紹介を終えたところでメニューを開いた。
「……えっ、万単位……」
「当然でしょう? 金額なんて気にせず好きなものを食べるといいわ。……私は……そうね、Cコースを頂こうかしら?」
「よし! 美空さん達の分も俺が出すぜ! 今日は俺の奢りだ!!」
「えっ、いいのかしら? それじゃあ、御相伴に預かろうかしら」
そこで「私が払う」と断固として押し通すという悪手は打たない。
こういう時は男に払わせていい思いをさせた方がいいと、ホステスとして培った営業スマイルを浮かべる美空。しかし、その塩梅は心得ているので勘違いをさせつつ上手くはぐらかせる位置をキープしている。
「それじゃあ、ウチも御相伴に預かりたいですにゃ」
そして、突如湧いてくるchaton……じゃなかった、猫美。金の匂いに敏感な商人の鏡である。
「あれ? 飼い主さんは?」
「……誰が飼い主やで」
隣の仕切りの向こう側から影澤の声がした。どうやら、近いところに影澤達も居たらしい。
胸元に「清潔な香りの全愉快フェーズ」と意味不明なコピーが入ったTシャツがしわくちゃになってところどころ黄ばんでいる。
「相変わらず小汚ねえTシャツ着てんな、このホテルにそれは流石にねえだろう」
「このTシャツは三百万円やで……ええやろう?」
「「「「「「「「「…………はっ??」」」」」」」」」
「こんなものに三百万円も出すの? 阿保なの?」と心の中でツッコミを入れる咲苗達。
「それで、ボス。輪島さんが奢ってくれるそうなので御相伴に預かろうと思いますにゃ!」
「――おい!! 誰もお前に奢るなんて一言も言ってねえ!!」
「一応ウチも花の女子中学生ですにゃ。……まあ、入学してからずっと不登校ですが」
「さよか、良かったな。明日からまた忙しくなるから今日のうちにようさん食べとけよ」
輪島が「猫さんにまで奢ることになったんだけど、なんで!?」と叫び、「女子中学生も対象にするのに、なんでchatonはあかんの?」と影澤は首をこてんと傾げ、「こいつと結婚したら間違いなく搾り取られるんだよ! 財産の方を!!」と下ネタギリギリの返しをした。
「それで、明日の仕事って具体的になんでしたっけ? というか、そんなのありました?」
一番高いコースを注文しながら猫美が本当に知らないようで首を傾げている。
「あっ、そういや話してなんだっけ。また、オカルト雑誌の編集会社に勤める同級生から協力依頼が来よった……んやけど、今回は姫さんからも同じ依頼を受けたねんな」
「えっ? 影澤さんって投資以外に仕事をしているんですか?」
住所不定無職の怪しい男という代名詞を持つ男がまさか働いているとは、と驚愕する美空と輪島達。
「まあな……今回は『「塔」っていう正体不明の暗殺者を追いなさい、スクープを取らないとクビにするわよ』って女編集長に脅されたみたいでな。同時並行で神聖三百人委員会も追わされとるし、そのみなが大倭政府や裏の世界政府みたいなヤバい奴なんやから、ほんまに同情するよ」
「……予想通り胡散臭かったわね」
神聖三百人委員会……影の世界政府の最高上層部とされる三百人委員会を解体して、再構築されたという陰謀論だ。マイナーなオカルト雑誌『urban légend』が特集号を発売していたが、それ以外の雑誌では取り上げられることすらなく、ネットの海では『urban légend』がでっち上げたものだと認識されている。
「……まあ、そうやって表側で何も知らんと生きとった方が幸せやろうけど、ウチはいつかそういう裏側に巻き込まれることになると思う。どっちがええかは分からねえな、何も知らんと巻き込まれるか、知った上で巻き込まれて、その中で選択するかは……」
当時は影澤の言葉の意味が分からなかった。だが、異世界に転移して百合薗圓とその近辺――裏側という世界の片鱗を知った咲苗と巴にはその意味がなんとなくだが分かるようになっていた。
これから、世界は動乱の時期を迎えるのだと。そして、その動乱の中心は間違いなく百合薗圓の仲間達――裏の世界で生きる者達がいる。
◆
コース料理を食べ終え、ホテル内のチェックポイントも全て回り終えた。
ということで、部屋に戻りマイパソコンを起動した。
「さあ、行くわよ!! 二人とも!!」
画面上の巨大な樅の木が眩く輝き、しんしんと雪が降る中、頭上から一体のレイドボスが出現する。
◆クネヒト・ループレヒト
黒い雪の中で散れ! 冒険者達よ!!
クネヒト・ループレヒトが右手に巨大な槌を振りかざし、漆黒の雪が雪崩のようにポインセチア、スノウホワイト、凩雅奈恵に襲い掛かった。
クネヒト・ループレヒトの特技、「ブラックスノウ・クラッシュ」だ。
◆スノウホワイト
回復コンボ行きます! 治癒、上治癒、治癒、治癒、上治癒、治癒円域!
スノウホワイト――咲苗が回復コンボを積みながら「ブラックスノウ・クラッシュ」のダメージを癒し、
◆凩雅奈恵
中伝・辻斬り!!
凩雅奈恵が侍系二次元職の武者の特技を使い、すれ違い様にクネヒト・ループレヒトに斬撃を放つ。
が、HPバーがほんの少し削られただけで、まだまだ先は長そうである。
◆クネヒト・ループレヒト
そんなにもホワイトクリスマスが好きか!!
無数の黒い雪弾が上空から降り注いだ。ちなみに、この「ブラック・スノウハンマー」には特殊なギミックが存在し、結婚システムによってカップルになっている男女のプレイヤーがいる場合に低確率で即死の効果が発動する高威力バージョン「ブラック・スノウハンマー。リア充死に晒せ」に切り替わる。
◆ポインセチア
火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、追尾する溶岩塊弾!!
魔法系一次元職の魔導師の火球を作り出す魔法と魔法系一次元職の魔導師の炎槍を繰り出す魔法でコンボを貯め、魔法系三次元職の魔導帝が覚える自在に飛び回る握り拳大の溶岩塊を杖から放つ魔法の威力を上昇させた。
流石はレイド経験のあるギルドマスター、スノウホワイトや凩雅奈恵とは火力が段違いに違う。
あっという間にHPが半分まで削られ、表示が緑から黄色へと変わる。
「この調子なら……」
「まだよ! 黄色になってからテンポが上がるわ! 二人とも、油断しないで!!」
◆クネヒト・ループレヒト
そんなにもホワイトクリスマスが好きか!!
◆クネヒト・ループレヒト
黒い雪の中で散れ! 冒険者達よ!!
「――ッ! 来るわよ!!」
◆クネヒト・ループレヒト
メリー……
◆スノウホワイト
治癒、上治癒!
◆クネヒト・ループレヒト
……クリスマス……
◆スノウホワイト
治癒、上治癒、治癒!
◆クネヒト・ループレヒト
……オブ・ジ……
◆スノウホワイト
治癒、上治癒、治癒!
◆クネヒト・ループレヒト
……エンドォッ!!
◆スノウホワイト
治癒円域!!
メリー・クリスマス・オブ・ジ・エンド、はクネヒト・ループレヒトが繰り出してくる漆黒の雪の波動である。
全て割合ダメージであり、「メリー」で最大HPの三割、「クリスマス」で最大HPの五割、「オブ・ジ」で最大HPの七割、「エンド」で最大HPの九割……という強力無比な攻撃だが、スノウホワイトの回復でなんとか持ち堪えた。
◆ポインセチア
火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、炎槍、火球、火球、火球、追尾する溶岩塊弾!!
このまま二周目に持ち込ませまいと、ポインセチアが更にコンボ数を増やして追尾する溶岩塊弾を放った。
クネヒト・ループレヒトのHPが綺麗に削り取られ、ドロップアイテムの山を残して消滅した。
「本当はこれを周回するのだけど……二人はどうする?」
「……ちょっと休みたいですね」
「……ごめんなさい、休憩させてください」
「これを当たり前のように周回するのははっきり言って廃人の領域だわ。気にしなくていいわよ」
と、今日咲苗と巴が知り合った輪島と影澤が聞けはキレそうな表現で肯定しつつ、余力のある美空も一旦休憩を取ることにした。
◆
「おい……あれ、人気アイドルの皐月凛花じゃないか?」
黒塗りの車がホテルの目の前に止まり、その車から降りた少女は、清楚で可憐な清純派女優として老若男女問わず世間から絶大な支持を集め、好きな女性芸能人ランキングでは堂々の一位に輝き、国内トップスターの道を歩んでいる凛花だった。
それに気づいた者達が凛花に声を掛け、あわよくばお近づきになろう……という魂胆で一斉に殺到しよう……としたが、凛花は周囲の雰囲気を徹頭徹尾無視して、フロントに置かれたソファーで冴えない記者のような青年と話す胸元に「清潔な香りの全愉快フェーズ」と意味不明なコピーが入ったTシャツの小汚い男と、黒いセーラー服の少女に声をかけた。
「遅くなりました。お久しぶりです、影澤さん、猫さん!!」
「そりゃ遅くなるやろ……っちゅうか、朝ドラと全国ツアーを兼ねながら、こっちにも顔を出してログインも欠かさへんとか、化け物ちゃう?」
影澤は「こいつもこいつで化け物やんな……上には上がおるけど」という視線を向け、猫美は興味なしと我関せず。記者の男は「はっ、なんでこんなところに皐月凛花が? というか、なんで先輩と知り合いなの? 交友関係可笑しすぎだろ!」と心の中で叫んでいる。
「は、はじめまして。影澤先輩の後輩で、『urban légend』の記者をしています、陣内ヒロトと申します!!」
思い掛けないところで、手の届かないような存在と対面して陣内は震えていた。
「それで? 今回は五大ギルドのマスターが全員揃っているんですか?」
「いや、『狂人騎士』は大学受験があるし、そもそも未成年やから家族同伴無しにホテルのイベント参加とか無理やろ。『風林火山』とはさっき会うてん。で、『蒼穹白姫』はとっくの昔にホテル内イベント終えて、今はVIPルームで周回進めとるんちゃうん? メッセージでそう来てたし。後でウチも挨拶に行くつもりやで。それと、ウチはもうクネヒト・ループレヒトをchatonと二人で六百周したし、取りこぼしもないから希望者募ってレイドボスにでも挑もうか、と思っとったとこ。まあ、今からホテル回って周回と無理せやね。ご愁傷様、それじゃあウチは陣内と打ち合わせがあるさけ。あんじょうよろしゅう」
そう言って名残惜しそうな陣内を引っ張って猫美と共にエレベーターに乗った影澤。
影澤としては、正直どうでもいいアイドルと関わりを持っていらない迷惑を被りたくないのだろう。ただでさえ、百合薗圓と同じように謎が多い人物だ。そして、何より他人の感情を読むのに長けていると自負する凛花に全く思考が読み取れないのだから、恐ろしい相手である。
「確認致しました、皐月凛花様ですね。こちらが本イベントのセットと部屋のキーカードになります」
「あの、こちらに百合薗圓さんという方がいらっしゃると思うのですが」
「大変申し訳ございません。顧客の情報を開示することはできない決まりになっておりますので」
いくら人気アイドルの頼みでもルールはルールだ。それを理解している凛花はダメもので尋ねてみたが、結果は予想通り……挨拶ぐらいしたかったな、と笑顔に影が差す。
「……と、本来なら答えるべきところでしょうが、本日は圓様たっての希望で圓様の本名をお出しした希望者の方をお通しするようにとお言葉を頂戴しております。案内を担当される方にご連絡の方を入れますので、少々お待ちください」
そして、フロント担当者が電話を掛けてから三分後、一人の女性がロビーに姿を現した。
メイド服を着た育ちの良さそうな女性という印象だ。……としか表現できないのは、凛花がその女性のことを全く知らないからである。
圓には常に月紫というメイドが侍っていたが、その女性とは全く纏うオーラが違う。月紫は抜身の刃のようだったのに対し、こちらは静かな水面のようだ。
「初めまして、圓様のメイドをしております陽夏木燈と申します。本日は圓様の元にご案内する役目を承っております。それでは、参りましょうか、皐月凛花様」
◆
「……ということで、化野さん。今回のイベントに傷をつけてくれたクラッカー君の処分、お願いねぇ」
「――畏まりました」
化野は最近実験ができないから、とフラストレーションが溜まっていた。まあ、今回は弁護するに値しないし、処分しちゃって良くない? ということで化野にサクッと(暗殺)命令を下すと、もうその件は終わったと呆気なく切り替え、操作する五台のパソコンに意識を向け直した。
「さて、次で五千四百三十二周目……」
「圓さん、お久しぶりです! 会いに来ちゃいました!!」
もし、ファンが見れば嫉妬のあまり殺意を向け、月紫辺りに返り討ちに遭いそうなフレンドリーな挨拶をしながら部屋に入ってきた人気アイドル兼女優に、圓は「休めばいいのに、君もつくづく廃人だよねぇ。まあ、運営冥利には尽きるけどさ」と、屈折した返事をしながらも嬉しそうな表情を見せる。
凛花にとって、自分を女優やアイドルとしてではなく一人の女の子として接してくれる存在は貴重だ。
MMORPG『Eternal Fairytale On-line』で出会ったギルドマスター達のほとんどは、そんな凛花と対等に接してくれる。
まあ、目の前にいる少女の如き少年に関しては、凛花以上に雲上人なのだろうことは大凡察しがついているが。
「まあ、ゆっくりしていきなよ。丁度ボクが試作したケーキもあるし、ルームサービスか柳さんに飲み物もお願いすることもできるからねぇ。大体二時間もあればチェックポイント自体は回れるし、ここで少し寛いでいくといいよ」
「えっ、圓さんのケーキ、食べていいんですか!?」
多芸多才で、器用万能だと月紫が自慢する圓の作ったケーキと聞いて、興味を示した凛花。
ライブを終えてから猛スピードでホテルに駆け込み、真剣にイベントを楽しもうとしてくれているそんな友人の笑顔を見て、圓も柔らかな微笑みを浮かべながら、柳を呼んだ。
◆
こうしてクリスマスイブの夜は過ぎ、リアル連携イベントは大盛況で幕を閉じた。
お読みくださり、ありがとうございます。
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
※本作はコラボ企画対象のテクストとなります。もし、コラボしたい! という方がいらっしゃいましたら、メッセージか感想欄でお声掛けください。