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ふたりの演劇

作者: 汗本柿麻呂

商業演劇とは違う可能性を高校演劇に見出し、夢と希望を持っていた先輩は、僕に声をかけてきた。2人だけで演劇なんかできるの?

「ねぇ、私と一緒に舞台に立たない?」


高校2年とき正門で先輩に声をかけられた。

胸のリボンが赤色の3年の先輩だ。しかも有名人。


演劇部部長で才色兼備の超お嬢様だ。

何で公立高校にいるのか謎だ。

「ごきげんよう」と挨拶する名門女子高の方が似合う。


「あの…演劇部の人たちは?」

と僕は尋ねた。


「残念ながら無理。私は退部したから」


そんな馬鹿な!

先輩の演技は素人でも分かるくらいに迫力、イヤ魔力があった。


去年の文化祭のとき体育館で演劇を観て僕は思わず息を呑んだ。

「この人は凄い」と直感的に思った。


「今から付き合ってくれない?」

と誘われたとき「付き合う」という言葉に僕はドキドキしてしまった。


そして僕と先輩は話をしながら駅の方に向かった。


先輩は部内の争いに負け「受験を優先する」という名目で退部させられたという。


「演劇を選民思想でやる連中に負けたくないの。演じる気持ちがあれば誰でもできるような開かれた演劇を目指したいの。商業的には難しいでしょうけれど、高校演劇にはそれを許すくらいの寛容さが欲しいと思う」


「はあ…でも僕はどうすればいいんですか?」


「君は私のセリフに合わせて無言で動いてくれればいいの。それもできるだけ真剣にね。演者は私と君のふたりだけ」


「なんで僕なんですか?」


「他の人がやらない掃除を真面目にやっていたから」


「え?」



そして僕と先輩の2人だけの「演劇」が始まった。


教室の床に無造作に紙くず、空き缶、ゴミが散らしてあった。


「神は宇宙の掃除をしようと思われた!」


僕は先輩のよく通る綺麗な声に従ってゴミを拾って袋に放り込んだ。


教室は片付いてゆく。


あらかた片付いたところで、先輩の声が響き渡る。


「神は散らばる星々を片付けようと思われて扉を開け放って出て行かれた」



「君のおかげでちょっと趣向を変えた演劇…と呼べるかはわからないけれど…やりたいことができて本当に良かった。ありがとうね」


「い、いえ…とんでもないです。素人でよく分かりませんでしたけれど…」


「私だって『プロ』じゃないよ?」

と言って先輩は笑った。それは可愛いとも美しいとも言える表情だった。


先輩のセリフに合わせて動いただけだったけれど、僕は不思議と心地よさを感じた。

先輩の美しい唇から紡ぎ出される綺麗な言葉に心が躍ったのは確かだ。


内容は難しかったけれど演じきった僕も、観ていた数人の観客も共通して「満足」を感じていた。




今でも妻は魔女かもしれないと思う。

私の母校は文化祭で、3年生は全クラス演劇の出し物をする、という伝統があります。過日、平成最後となる第71回目の文化祭に足を運び、2公演観劇してきました。演技論など難しいことは私も素人なので分かりません。しかし、今回の観劇も、在学当時も同様に感じたのは「商業演劇とは違った良さがあるなぁ」でした。映画やテレビドラマとは違ったライブ感が演劇にはあります。同じ話でも、観劇するたびに違った様子が見えるところがまるで、生物の「動的平衡」のように思えてなりません。ちなみに母校をモデルにした商業演劇の『ナイゲン』は在学当時の雰囲気があって、また上演されるとしたら観に行きたいと思っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「今でも妻は魔女かもしれないと思う」 すごくいいラストだと思いました! [一言] 本当に千文字なんですね! コレは才能だ!!
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