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1話  お姉ちゃん

実際に出てくる地名はこの物語とは一切合切関係ありません。


それをご理解いただけたうえで読んでいただけると嬉しいです。



神奈川県、横浜市。日本の第二の都市と呼ばれる主要都市である。主要都市なだけあって、通勤通学ラッシュは完全に体を殺しに来ている。俺らの学校じゃ、横浜駅からの乗車率が高いため、通勤ラッシュならぬ痛勤ラッシュとも呼ばれている。猛暑日が続く中、本当に痛勤ラッシュは勘弁して欲しいものだ。


「ふギュッ………」


四方八方から俺を圧縮する。息もまともにできない。俺の制服はもうビショビショで、おじさん臭くなってしまっていた。神奈川県川崎市にある、川崎駅でおりた俺は駅のホームで膝が折れそうになる。


「だ、だるい……」


朝っぱらから本当に勘弁して欲しい。汗が滝のように流れ、視界が歪んでいく。


「よ、叶斗(かなと)。またとんでもない顔してんな」

「い、池宮か……もう体が動かねぇんだよ……」


俺の肩をポンと叩いたのは友人の池宮 隼人(いけみや はやと)。中学高校と同じ部活動で、俺の中でも信用のおける友人だ。


「しっかし、お前はなんで市を一つ挟んだ学校に来たんだ?」

「お前も同じだろ。池宮」


俺と池宮の在住している地域は横浜市。しかし俺らのかよう私立墨傘(すみがさ)高校は隣の川崎市にある。電車で行くとほんの数分なので別に遠い訳では無い。しかし横浜市から川崎市は上り方面のため、さっきの通り、通勤はとんでもない人だ。

高校一年生の夏、俺はここの学校に来たことを少し悔やんでいる。部活のスポーツ推薦がここで、見事に合格して、晴れて全国レベルのサッカー部に来たわけだが、とてつもなく厳しく、辛い。池宮も同じようにサッカーのスポーツ科で入学したのだ。


「さ、行こうぜ。今日は久しぶりに朝練がないんだし、学校に行ってゆっくりしようぜ?」

「………だな…」







教室のドアを開け、いつもと変わらないテンションで自分の席に座る。

一番角の後ろ。テンプレの席だが、思ったよりも心地がいい席だ。青空が良く見えるし、外の景色も一望出来る。悪くない。

ホームルームが始まって、先生が伝達事項を伝える。それを聞き、俺は次の授業があることに大きなため息をつく。


「(あ〜あ、可愛い転校生とか来ないかな)」


…………………来ねえか…

毎日のように転校生が来ることを願っているのだが、それこそテンプレ中のテンプレだ。この日、気温のせいで授業に集中出来ず、あっという間に部活の時間になった。

呉原監督、サッカー部の顧問の名だ。一度は日本代表にもなった選手であり、とんでもない実績の持ち主で、厳しいがとても優しく、頼りになる。


「あ、志波。ちょっと話があるんだが……いいか?」

「?……はい」


呉原監督に呼び出された俺はわけも分からず部室棟まで連れてこられる。すると呉原監督は開口一番、予想の斜め上を行く回答をした。


「お前にレギュラーをとって欲しい」

「………え?」


今までこのチームで頭角すら出さなかった俺が、唐突に監督からそう言われ、素っ頓狂な声が上がる。


「ち、ちょっと待ってください。俺…まだ一年ですよ?それに……目立ってもいなかったじゃないですか」

「ああ、そうだな。だが、試合に先輩後輩はない。お前は必ず開花する」

「は、はぁ……」

「すぐにとは言わん。検討しといてくれ」


今日は監督にそう言われてから、ずっと監督の言葉が反芻させられていた。一年からレギュラーを取れたら……プロも夢じゃない。一人端っこでニヤニヤしている俺を見ながら、池宮が引きつった顔で語りかける。


「ど、どうしたんだお前?」


電車に揺られながら池宮がそう答える。まだ相談はしなくてもいいだろうか。決まったわけでもないので、まだ保留にしておこう。


「悪いな。何でもないよ」

「?………そうか」






「ーーーーただいまぁ……」


重いカバンを玄関に置き、靴紐を引っ張る。すると後ろからトタトタと可愛らしい足音が聞こえてくる。


「おかえり、叶斗。晩御飯出来てるわよ」

「ん、ありがと姉ちゃん」


そこに居たのはエプロンをきた金髪のストレートロングの女性、俺よりも二つ上の姉。志波 華恋(かれん)。墨傘高校の三年生だ。俺と同じ高校で、会うことは滅多にないが………

普段はとても優しい姉で、困った時はいつも助けてくれる。理想の姉。とでも言おうか、本当にいい姉を持った。

ーーーーただ一つを除けば……


「叶斗ー?どうかしたの?」

「あ、いや、何でもないよ」




風呂上がり、俺はタオルで自分の髪を拭きながら、自室のドアを開ける。普通、自室に人がいると騒いでしまうが、俺はもう慣れてしまっていた。


「すぅぅぅぅぅ………………はぁぁぁぁぁ…………叶斗ぉ………」

「………」


俺のカバンの中に入っていた練習着を顔面につけて、匂いを吸う人物、俺の姉がいた。顔を真っ赤にして、何度も俺の服の匂いを嗅いでいる。察しが悪くても、姉がどんな人か分かるだろう。

そう、「ブラコン」、ブラザーコンプレックスだ。姉の華恋は弟の俺にかなり依存している。その上、俺も姉が好きだ。シスコンという訳では無いが、そんなふうに愛してくれる姉が好きだ。


「ね、姉ちゃん………」

「あら叶斗ぉ……、やっぱり好きぃ……」


酒でも飲んだのかと言わんばかりにさっきとは対応が違う姉、顔を紅潮させてこちらに近づいてくる華恋。その顔はもうすでに蕩けており、吐息を荒くなっている。


「やっぱり本人の匂いを嗅ぎたぁい……」

「キモい!やめろ姉ちゃん!」


足を掴んでそのまま姉の手が俺の全身を這う。慣れたような手つきでサワサワと全身を触る。俺はそれに少しだけ体が反応してしまう。


「んふふ………可愛い」

「だ、だからやめろって……」


俺は姉ちゃんの肩を掴んで引っペがす。姉ちゃんは名残惜しそうに指を自分の唇につけて誘惑を試みたが、何とか弟ということを思い出す事が出来て、踏みとどまることが出来た。


「はぁ………姉ちゃんともし血が繋がってなかったら、どうなってた事やら……」

「あら、それは私が好きってこと?両思いじゃない、嬉しいわぁ?」

「うっさい!早く寝たいから出てってくれ」

「はいはぁーい」


こんなブラコンで俺のこと大好きな姉ちゃんだが、場をしっかりと弁えることも出来るし、姉ちゃんが俺のことを好いてくれるのは本当に嬉しい。限度があるけどな………

学校ではもちろん秘密だし、姉ちゃんは言わば美人の類だろう。ブラコンという特殊性癖がバレたら、学校生活が危うい。それは分かっているのだという……


「まぁ……嫌じゃないからな…」


緩くなる口を締めながら、俺は布団を被り、瞼を閉じた。その後、聞き覚えのある微笑みの声が聞こえたのは気にも留めなかった。


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