善哉プロローグ
俺は善哉薫。今年で42歳になる。
体はそこそこ鍛えているので結構引き締まっている。メガネのフツメン、ナイスガイだ。
今は鳥居開発という企業で規律管理室室長をやっている。
一応、鳥居開発は一部上場の大企業だ。
これでも俺、エリート枠。
出世頭とは言わないまでも出世街道をとことこ歩いていると思う。
<結婚は?>って?・・まだしてない。
正直、35歳ぐらいまでは焦っていた。
でも、今となっては結婚することのメリットってなに?ぐらいの考えに落ち着いた。
そんな俺の今日は最悪だ。
こちとら、毎日毎日三時間しか寝ないで仕事してるっつうのに・・・。
ってそうだ、先に俺の仕事を説明しておこう。規律管理室っつうのはお偉方の小間使いだ。
会社での専務の不倫を揉み消したり、社長の脱税をごまかしたり、常務の献金を合法化したり、書類改竄したり、脅迫したり、港にコンクリ詰めにして沈めたり、これが俺たち規律管理室の仕事だ。だったはずなんだ。
これが幹部への登竜門のはずなんだ。
なのに今日は、人事部長の引きこもり息子を部屋から連れ出す仕事だと。
マジ、ふざけんなよ。
とりあえず、家までは来てみたものはいいが、俺は生活支援員じゃねぇんだよクソが。
やるよ、やりますけどよ。はぁ~
「すみませ~ん。」
「は~い、どちらさまでしょうか。」
こいつはマジか。チャイムを押して出てきたのは超美人。
これがあの豚部長の嫁かよ、マジか。
なんか結婚できてない自分が情けなくなってきたわ。
「規律管理室から来た善哉です。息子さんの件で。」
「あっ、どうもありがとうございます。どうぞあがってください。」
このあとは予定調和で物事は進んでいったが、ドアをいくら叩いてもどら息子は出てこない。
というか、反応がない。それどころか気配がない。
俺は最悪の事態を想像したよ、まじか~これ死んでるやつか~。
第一発見者はいやだめんどくさい。こんなクソ高校生のために俺の時間がこれ以上割かれるだけでも屈辱的なのに。事情聴取とか最悪だ。
でも、これじゃニッチもサッチもいかない。
うん。ドア、ブチ破ろう。
まったくもって紳士的でも文明的でもないが致し方あるまい。
は~なんでこんなときに限って部下は出払って俺一人なんだ。
まぁ、兎にも角にもこれしか方法はないんだ。
そう考えた俺はしっかりとブチ破った。
なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、・・・・
あのクソ息子部屋に居やがらねぇ
「くっ、布団はもう冷たい。結構前には家を出たのか。」
「もしもし、俺だ。善哉だ。部長のガキがいねぇ。これはどういうことだ大西。」
「いやぁ、ちょっとわかんないっすね。」
「なるほど、そんなに明日からポロニウムと背後の気配にビクビクする生活をお望みだとは。」
「ちょっ、室長。撤回します。やり直させてください。調べます。調べますから。考え直してくださいよ~。まだ死にたくないんっすよ~」
「ああ、わかった。今から5分やる5分以内に探し出せ以上だ。」
「あっちょっ・・・」
電話を切った俺は思わずにはいられない。
クソ、これだから使えない部下は。と
「あっ、奥さん。息子さんの忠臣くんでしたっけ。いないようなんですけど。」
「えっ、そんな。」
「奥さん。今日はずっと家に?」
「はい。起きてからはずっと。」
「息子さん。昨日はいましたか?」
「たぶん、居たと思います。ドアの前に置いておいた晩御飯がなくなっていたので・・」
「そうですか。ありがとうござます。では失礼させていただきます。息子さんを見つけ次第すぐ連絡を致しますので。」
「よろしくお願いします。」
なるほど、昨日の夜はいて、今日の朝にはいなかった。ヒキニート野郎が外に出るそれも夜中か早朝ということは。そうか、ゲームか何かの発売か。
電話が震えた。んっなんだ?あぁ、大西からか。
「もしもし。善哉だが、何か分かったか?」
「はい。忠臣君は今、ゲームショップにいます。鳥居総合病院前っすね。」
「ああ、そうか。それじゃあな。」
「あっ、」
クソガキはあそこか。
俺は愛車を走らせ、人ごみの中を掻き分けやっと小太りでジャージ姿で猫背で低身長で、メガネで無精ひげが生えてる。ぼんくら息子忠臣の特徴と完全に一致する男を見つけ出した。
「ちょ、君、忠臣君かい?東出忠臣君かい?」
軽い人ごみの中で俺はその忠臣らしき小太りに話しかけた。
「はい、そうですが・・なんですか貴方?」
よっしゃ、忠臣だあの放蕩息子だ。ミッションコンプリート。俺は歓喜に震えた。
「やっぱり、君のお父さんから依頼を受けてね、わたしは・・・」
俺が丁寧に自己紹介をしようとしたその瞬間
「あなた生活支援員か何かでしょ、嫌だ~、僕は就職なんか絶対しないぞ~」
と、そんなとんでもない見当違い、彼の中ではおそらくホームラン俺の中では特大ファウルを放った小太りはその短い四肢を必死にばたつかせて逃げようとしやがる。
そんなやつの腕を捕まえたその瞬間、俺の足元が輝きだし、光は俺と忠臣を包んだ。