9話 闇クリニックのお姉さん
…
さっき見たのは、夢だったのか?
まさかこんな不思議なことが見えたとは思わなかった。
ぼんやりした夢だったが、夢の中には、やはり明らかに非常識なことを見た。
理解できないことだらけだった。
「兄さん!えーんえーん…。やっと、目が覚めた、よかった…」
レンカちゃんがベッドサイドの椅子に座っており、しくしくと泣いている。
「心配してくれてごめん…」
そういえば、ここは――
「朔夜君、また会ったね」
「葵姉さん?!」
このスラムに来てから知り合いになった頼もしいお姉さん――小御門 葵。
僕より少し年上で、どんぐりまなこに通った鼻筋をしている正真正銘の美人だ。
ここは葵姉さんの闇クリニック、僕は何度もここに来たことがある。
いつもお世話になるところなのだ。
しかし実は、クリニックとはいえ、葵姉さんが一人で経営しているのだ。
なので、もうすでに潰されそうだ。
「何でそんなに驚いて?朔夜君が初めてここに来たとき、その傷は今よりずっとひどいではないか」
「それはそうだけど、昏迷に陥ってたから仕方ないよ」
「よく言うわね。2日間昏睡してたよ、朔夜君。ところで、この子は本当に朔夜君の妹さんなの?今まで妹さんの事を聞いたことがなかったけど」
「はい、妹です~」
レンカちゃんは先回りして答える。
「……まあ、一応」
僕はベッドから起き、椅子に座った。
…経緯をざっと説明した。
「事情が分かったわ。朔夜君、これからどうするつもり?」
「一つお願いあるけど、いいかな?」
「いいよ。言ってみて」
「家の近くは危ないので、僕の体が回復するまで、せめてこの子、レンカちゃんは葵姉のところに身を寄せて…」
あの霊能者はまたやっつけにくるかもしれないから。
「嫌だ、兄さんと一緒にいたいー」
レンカちゃんはダダをこねる。
「これは君の安全のためだから…」
「こっちの都合はいいけど、本当にこれで良いのか?」
葵姉さんは問いかける。
「迷惑をかけてごめん。その代わり、何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってください」
「そんなに遠慮しないで。でも、ちょうどお願いしたいことがあるよ」
葵姉さんはただならぬ顔つきをする。
「言ってください。できるだけのことをするから」
「大丈夫、朔夜君の体が回復してから…朔夜君もここに何日泊まってもいいよ」
「け、結構だ。僕一人でいい。もう慣れているから」
「いいから、私の言う通りにして」
「まあ、いいだろう。ありがとう。葵姉さん。これからもよろしく」
「では、お二人はここに何日間泊まって…。朔夜君も体を大切にしてね」
「ああ、わかった、わかったよ」
…