8話 まぼろし
…
「朔夜!」
「父?!」
僕の目の前にいたのは、父だった。
「お前は霊力がないので、ここで生きていくのは難しい。今霊力を感知する技能を教えてやる。こうして自分を守れるようになる。だけど、この技能は体への負担が非常に大きくて、よくよくのことでなければ使えるな」
父にそう言いつけられた。
「…はい、分かった…。でも、僕はもうこんな運命を受け入れた」
とっくに定められた運命…
…
しばらくして、全身冷や汗をかいた。
「もういい。朔夜、お前はれんかに付き添いに行ってくれ」
「…れんか?」
なぜその名前が出たのか?
せめて、あの子を守らなければいけない。
…
「兄さん、こっちに来て~」
れんかの声に引かれて、目を開けた。
坂をのぼりきったところにちょっとした平地がある芝生。僕は、このようなところに着いたようだ。
れんかはすぐそばにある坂道で僕に手を振っている。
「れんか、どうした?」
僕は慌ててそこへ歩いて行く。
「きれいな石だね。兄さん、見て」
れんかはここの石を見つめている。
それは、不思議な光を反射している石だった。
見る角度によって、異なる色の光が見える。
「好きなら、拾えばいいんじゃないかな」
「でも、やっぱり拾わないほうがいいよ。石は旅に出て、自然を楽しんでるから。もし拾われたら、囚われることになっちゃったっぽい…」
「…そうか。じゃ、れんかの大好きな石を拾って。そして僕たちはその石を持ってあちこち旅に出よう。どうかな?」
「旅に出るの?」
「そう、せめてれんかが囚われないように、鳥が自由に空を飛ぶように生きていく。その自由は僕が守るから!」
…
突然、彼女の姿はだんだん遠くなっていく。
遠くて遠くて、手を伸ばしても、届きそうで届かない。
れんかは目を閉じたまま、抱えた膝に顔を寄せる。
周りの光景もあいまいになっている。
全力を尽くして追いかけようとしても、追いつけない。
僕は見ているだけでどうすることもできない。
「…れんか!」
僕は声の限りに叫んだら、今自分の声がかすれていることに気付いた。
しかし、僕は諦めずに、叫び続けている。
やっとれんかは頭を上げ、目が覚めて僕を見始めた。
その目から、無力と絶望が見える…
その顔から、痛みや苦しみが見える…
この時、れんかも僕に手を差し伸べた。
あの子の姿がぼやけていき、だんだん僕の前に消え、見えなくなった。
突き刺されるような悲しみを感じ、胸が張り裂けそう。
はかなさを抱いて迷い込んで。
「あーーーーーー」
目が覚めたら、僕は横になっていることに気付いた。
その時、僕はもう目に涙をいっぱいためていた…