19話 疑惑
静かな庭に月の光。
レンカが其処で彷徨っている。
いえ、そういうわけではなく、僕のこころが彷徨っているのだ。
葵姉さんを助けにこの旧都に来たのだが、まだ合流していないのに、変なことに巻き込まれた。
先は危なかったのに、レンカは知らなかった。
忘れてしまったのか?あり得ないわけでもない。魂が身体から一時的に離れていた影響かもしれないから。
それはそれでいいことかもしれない。
そうだったら、痛みと苦しみを受けなくてもいいから。
僕一人でこの苦痛を受け止めていいから。
ほかの記憶を失わなければいい。
「兄さん、何考えてるの?重そうな顔をして」
「…何でもないよ。心配しないで」
「嘘。絶対何か隠すことある。兄さんは昔からそうなの。困ったこととか悩んだこととか、誰にも教えないまま自分で堪えるなんて」
「…僕、そんなに偉いじゃないよ」
「もう、兄さんのバカ!」
レンカは不満げに僕をおいたまま部屋に戻った。
…
疑惑。
あの八門の陣から逃げ出したことは、本当にあったのか。
そして、あの狐面の少女のこと。
あいつは一体何者なんだ?
その約束は、一応受けたが、どうなるかわからない。
そういえば詩音はどうなんだろう。
レンカと一緒にいるはずなのに。
詩音はまだ行方不明だ。
今夜は眠れない。
眠れるわけがないだろう。
詩音の実力を信頼しているが、やはり放っておけない。
レンカの寝顔を見守っている僕は、夜が明けたことに気づかなかった。
…
今日は、葵姉さんに会いに行く予定だが、詩音がいないので、葵姉さんの住所がわからない。
仕方がなく、ほかの人に聞いてみるか。
「ふふ、何か困ったことあります?」
廊下で、浴衣姿の少女が話かけてくれた。
一見、どこかで会ったことがあるような感じだが、見たことはない顔。
「君は?」
「この旅館の手伝いなんですが…」
「そっか。昨日は会ったことないけどな」
「ふふ、昨日あたし休みでしたよ」




