16話 魂の底から
「主!」
詩音の叫び声が聞こえて、振り向いた僕は、不思議なことを見た。
見たことがない法陣が、レンカと詩音の足元から広がって、二人の体を覆っている。
「おい!何を?!」
話がまだ口から出していないところ、急に全身の力がなくなって、話す力まで失った。
全身の力が抜かれて、動けなくなった。
滅裂の剣がバラバラと、無数の欠片になって、手から地面に落ちていく。
くそ!やられたのか!
まさかこんなところで… 悔しい…
まさか刻印の力がそんな小娘に制限されているとは思わなかった。
でも、侵食されている意識がだんだん戻ってきた。
赤くなったはずの視界が、清明に戻った。
目玉だけが動けて、おかげで目の前の光景がすべて目に映った。
その法陣の形は見たことがない。
普通の芒星の陣ではなさそうだ。
法陣は一般的には、芒星の図案で描かれたものが多い。
例えば、五芒星陣や六芒星陣などの法陣。
そして、図案が同じの法陣は、その効果もほぼ同じ。
これらの法陣は通常は個体にしか効果がなくて、八門の陣のような地域を変える陣法とは違うものだ。
いま、その法陣の図案は、太極。
どうやら僕も同じ法陣に閉じ込められたようだ。
詩音は霊体の状態だが、僕と同じように動けなくなって、このまま凍結されているっていうより、その身の周りの時間そのものが止められたようだ。
レンカも同じ状況だが、幸い、レンカの魂もあいつの法陣の影響で、これ以上レンカの体から離れることはなくなった。
とはいえ、今は喜ぶべき場合ではない。
この狐面の少女は一体何をするつもり!?
「さき言ったじゃないか。刻印の持ち主よ。同行者のお二人を転移させるよ」
そう言いながら、彼女は印を結び始めた。
…
急にレンカたちのいたところから、強くて眩しい光が目に映ってきた。
思わず目を瞑って、その光が一線に見えるようになった。
…
「兄さん!」
と、レンカの声が聞こえた。
っ!
それは… レンカからの声ではない!
その片言は、頭の中に響いた声だった。
今度こそ確信した。
あの時と同じ!
妖精の村の審判の間に閉じ込められたあの時と同じ。
あの時、僕が聞こえたレンカの声、導いてくれたあの声は…
今度こそ、僕の魂のそこから、伝わってきた!
…
一瞬、光が消えて、僕の体も動けるようになった。
そして、目が開くと、レンカと詩音の姿がなくなった。




