3話 旧都へ
「え、兄さん、もう行くの?」
翌日の朝。
寝ぼけて目がぼんやりしているレンカは、霊力の回復で疲れすぎただろう。
「そう、葵姉さんを訪ねに旧都へ行くぞ」
レンカを心配させないように、葵姉さんを助けに行くということは教えていない。
「兄さん、その白い布は…」
「これ?」
輪廻の刻印を抑えるために、抑えの布で包み込まれている右手。
輪廻の糸と融合して黒赤色になった刻印を目立たないためにも、こうしたほうがいい。
もちろん、指は包み込まれていないから、ちゃんと動ける。
「刻印の力を抑えるための布だぞ」
「ええー、かっこいい」
「まぁ、これはやむを得ないことさ」
…
都から旧都へは、高速列車に乗る必要がある。
電車を乗り換えして、高速列車の駅に着いた。
詩音は幽霊だから、切符を買う必要はない。
そもそも彼女は今僕の体中に宿って眠っている。
せっかくだから、指定席券を買おうか。
っ!
視線を感じる。
誰かに見られているようだ。
教会の連中に監視されて、ここまで尾行されているのか。
それとも…
…
高速列車の車内。
車窓から景色を眺めているレンカは、何も言わずにただ座っている。
雨の雫が窓ガラスを濡らして、窓の外を流れている景色がぼんやりしている。
窓側の席に座っているレンカに話しかけた。
「レンカ、どうした?なんか落ち込んでいるけど」
「ううん、何でもない…」
…
「兄さん、見て」
車窓から眺めると、雨上がりの町の景色が目に映った。
ここが、旧都?
昔をしのばせる建物を見て、まさに隔世の感がある。
旧都は、何千年の歴史がある町で、百年前までは首都だった。
その故、古代ならではの街並みが伝承されてきた。
一見、木造建築が多く、ほとんど低い建物だ。
雨上がりの街並みはすがすがしい感じ。
「きれいな街なの~」
駅を出たら、レンカは心が明るくなりそうだ。
ここの街は思ったより賑やかだ。
旧都には来たことはないが、事前に調べた。
ほかの都市とは違い、旧都には昔から神社仏閣が多く存在する。
その故、ここでは教会の勢力は弱いということ。
旧都に来てよかった!これで一時的に教会の監視から逃げ出せるかもしれない。
「兄さん、私とこの町を散策して」
「ごめん、それは後にしてもいいかな。今は葵姉さんを会いに行くぞ」




