33話 暗示の楔
ゴオォォー!
斬!
「死ね!!」
あっという間に百剣を斬り出して、青龍の霊の霊体が僕の剣に切り裂かれた。
数え切れないほど、切り裂かれた。
頭、首、胸、腹、爪、尻尾。
バラバラになった。
ゴオォォー!
青龍の霊が苦しそうに叫んだ。
先まで山ようで巨大な霊体は、あっという間にバラバラに斬り裂かれた。
僕の剣が青龍の霊を斬る度に、その霊体の斬られた部分を吸収する。
「ああああああああああああ!!邪魔するやつ、殺す!」
青龍の霊の霊体が薄くなって、すぐに消えてしまいそうだ。
僕に抱かれているレンカが静かに眠っている。
もうすぐ終わらせるよ、レンカ。
その時、その長老は何かの呪文を念じているようだ。
「主!危ない!」
「そなた!後ろじゃ!」
後ろ!?
その声を聞いたとしても、もう間に合わない。
その長老に集められた青龍の霊の残魂が後ろからわずかな距離だけだ。
バンッ!
銃声!?
その銃声と伴い、青龍の霊が徹底的に消えてしまった。
力を抜いた僕は、空から落ちた。
…
目が覚めたら、見知らぬ部屋のベッドに寝ていた。
「兄さん!やっと目が覚めたの?」
レンカが泣いている。
「心配かけて…ごめん…」
「兄さんのバカ!」
「レンカこそ、大丈夫かい?」
「私は大丈夫なの。兄さん」
「そう、良かった。あの、ここは?」
「ここは私の部屋ですよ」
リリヌの、部屋?
「僕、どうしてここに?」
「忘れましたか?主は青龍の霊を倒しましたよ」
「詩音。僕が、あの霊を、倒した?」
右手の刻印は確実に黒赤色になったが…
「そうですよ。主」
「人間!君はすごかったですよ。まあ、司祭様とは比べ物にならないですけどな」
「セシリアは?」
部屋を見回して、セシリアの姿はない。
「司祭様は侵入者を追いついていきました」
「あいつは強い。セシリアは大丈夫かな」
「司祭様は村のエルフたちと一緒に行きましたから、きっと大丈夫です」
「小娘の言った通り、セシリアは只者ではありませんよ。まあ、妾には勝てないですけどね。それに、守護霊である青龍の霊が殺された以上、あいつ自身も大きなダメージを受けたでしょう」
「そっか」
「あのさ、主。自分のことを考えてくださいよ。無茶しすぎますっ!」
「そうそう、兄さん、自分を大切にしてください!」
「えっ、お二人はもう仲良くなった?」
「全然よくない!兄さん、よくも私に隠したね!幽霊の彼女がいるんだってことを。怒るよ」
「違うっ。詩音は彼女じゃねえ!詩音!君はレンカに何か言った!?」
「別に何でもないですよ。妾は昔から主の所有物ですから、素直に言っただけです」
「何なんだよ、それ!そうじゃねぇ!」
パッ!
指パッチンの音だった。
頭の中には、何かが消えた。
僕は、一体どうしてここに来たのか?
一体どうしてこの竹林にあるアルフヘイムに来たのか?
頭が痛い。
「何で、頭が…」
「お前に打ち込んだ楔を消したから」
「君は、骨董屋さん!?なぜ?」
あの骨董屋さんのメガネ男だ。が、変な格好している。
教会の法衣みたいなやつ?
「改めまして自己紹介させてもらおう。自分は教会の見習い神官だ」
…
メガネ神官は今までの出来事の経緯について説明した。
何千年も存在した妖精の村――アルフヘイムは、百年前、霊能者の目覚め事件ーー「転移事件」と伴い、この竹林に転移させられた。
アルフヘイムには、輪廻の糸という魔物が封印されている。
それは輪廻の刻印から生まれた糸で、人の霊力や霊の霊体にはリンクできる。
教会の情報員として、見習い神官は商店街で骨董屋さんとして活動している。
あの日、僕の右手の刻印を見た神官は、これが輪廻の刻印だと判断し、教会の枢機卿に報告した。
しばらくして、神官は枢機卿の指示に従い、僕を骨董屋に誘った。
僕に暗示の楔を打ち込み、アルフヘイムに行かせた。
そして、輪廻の刻印と輪廻の糸の共鳴を利用し、輪廻の糸の居場所を見つけ出す。
最後は、輪廻の糸を回収する。
ただ、彼らにとって予想外のことがあった。
まずはレンカと詩音、二人の存在。
そして一族の長老だったあの人がアルフヘイムへの侵入。
もう一つは、僕の刻印と輪廻の糸が融合したこと。




