31話 黒赤色の刻印
黒赤色の刻印。
右手の逆五芒星の刻印が黒赤色になった。
僕の赤い視界でも、色の判別ぐらいはできる。
「それは逆五芒星の刻印が輪廻の糸と融合した形ですか…」
リリヌが驚いた顔をした。
分からない。
何のこと、言っていたのか。
興味もない。
今はただ、復讐したい。
一族のやつらに仕返ししたいだけだ。
それ以外は、僕には何の関係もないから。
憤怒!
憎んでいる!
殺したい!邪魔するやつを!
失ったものを全部取り戻したい。
黒赤の刻印にはそういう力があるのか?
…
レンカからおなじみの感じがした。
実は、この子を出会ったのは、僕たちの運命かもしれない。
だって、この子は僕と同じ「人形」のような存在だったから。
僕の失ったものは、この子にもあるのか?
とりあえず、いま、やらなければならないことが一つある。
「レンカ、霊力を、よこせ!」
「兄さん… 分かったの!兄さんがそう望むなら」
…
右手を伸ばして、前へ、レンカのところへ。
レンカもその手を伸ばしてくる。
レンカの指先から青い光が見える。
その細くて綺麗な指から、青い光の束が水のように流れてくる。
同時に、僕の指からも光が前へ流れていく。
黒赤色の光の束が、レンカの指へ向かって流れていく。
やがて、二つの光束が重なり合うようになった。
レンカの青い光束と僕の黒赤の光束が、絡み合った。
絡みついて、リンクした。
「兄さん、手をつないで」
「レンカ…」
手と手の重なり合い。
レンカの左手が僕の右手と重なり合った。
二人の指を織り込むように交差させている。
二つの光が織り混ざっている。
だが、一つにはならない。
融合していないが、霊力を確実に吸収している。
吸い取っている。
レンカの霊力がゆっくりと流れてくる。
黒赤になった逆五芒星の刻印が、レンカの霊力を吸い取っている。
いや、僕は刻印を通してレンカの霊力を吸い取っている。
なんかそれらの霊力は元々僕の持ち物のように感じた。
まだ霊力を吸収し続ける。
このままではだめだと分かっていても、止まらない。
レンカちゃんの白髪が舞っている。
白髪の下に、その額が見える。
レンカちゃんのその小さくて柔らかな手が、僕の手を握っている。
しっかりと、強く握りしめている。
この子が、自らの霊力を渡してくれた。
レンカが悲しそうな顔をしている。
どうして、そんな顔をするのか?
そんな顔をしないでくれ!
このように大声で叫びたいが、口に出せない。
レンカが意識を失って、僕の懐に倒れた。
それでも、意識を失ったまま、レンカが僕の手を強く握っている。
「ごめん… レンカ…」
…
「主!しっかりしてください!」
詩音の声が聞こえる。




