5話 霊能者による犯罪
人の間を通り抜けて…、現場に着いた。
やじうまから聞いたところによると、飛び降り事故だそうだ。
いや、事故か自殺か、それとも他殺か。今はまだ分からない。
ただ、一人の女の人はもう死んでいる。これは否めない事実だ。
もしいつもの僕一人だけだったら、きっと現場に近づいて、もっと事件のことを詳しく知りたいだろう。
だが、今はレンカちゃんと一緒にいれば、この子に事件現場を見させないほうがいい。
そもそも僕には関係がない他人事だから。
「レンカちゃん、帰ろう!」
レンカちゃんを連れて離れようとする時…
「兄さん、あの死んだ人の体に霊の痕跡があるよ。それに強引に憑依されたことあるみたい」
レンカちゃんの話に驚いた。驚いたのは、死体の中に霊があるということではなく、この子は霊が見えることだ。
もしかして、レンカちゃん、霊力がある?!
それだけじゃない、確か、年配者以外の人は、髪は白ければ白いほど、霊力が強い――父はそう教えてくれたことがある。つまり、髪の毛が真っ白なレンカちゃんは霊力がかなり強いということか。
まさか、レンカちゃんも一族の人なのか……。そもそもなぜ僕のことを兄さんと呼んでいるのか。それと、ゆうべ初めてこの子に会ったとき、脳裏に浮かんできた光景は一体…
いかんいかん…とりあえず、今は目の前のことに集中にしないと。
って、死体の中に霊があるって、どういうこと?
まさか、あの女性の死は霊能者と何か関係があるのか。あるいは、霊に噛みつかれたのか――霊に憑依されたことからこれぐらいしか分からない。
「レンカちゃん、その霊の強さは?」
「うーん、あまり強くなさそうだけど…」
「ってことは、ザコっていうわけか…」
霊能者、つまり霊的な力が使える者は、力の強さがそれぞれ。霊を操る術はもちろん、霊力の強さによっては口寄せという術を使うことも可能だ。
実は霊能者は一族の人とは限らない。ほかにもたくさんいる。ただ、一族は勢力が一番強い。それに比べ、ほかの霊能者は大したことにはならないのだ。
一般人に手を出すことは法律により禁止されているのだが、近年、霊能者たちは勢力を伸ばし、ある程度で政府機関にも及ぶことになった。そのせいか、やつらの悪行を見て見ぬふりをすることもある。
都の一部はもうやつらの勢力範囲になってしまったので、圧迫を受けている一部の人々はスラムで目先の安逸をむさぼるしかない。
僕がここに住んでいる理由もたぶん同じだろうーーー
…
もしかして、やつらの闘争はすでにここまで及んだのか、それともまた、ただの偶然のでき事なのか…
なにがなんでも、油断はできない。ここも安全じゃないから。数日前あの仮面つけていた怪しいやつもいたし…
とりあえず戻ろうか。霊能者と関わる事件とはいえ、警察にとってもそれなりの対策があるから。これ以上巻き込まれたくはない。
また何か危ないことが起こるかもしれないような気がする。
もうすぐ花屋に着くとき、店長のおっさんがこっちを向いているのを見た。
「…今日は先に帰ってくれ」
そう言って、おっさんが事件現場を見つめて、何かを考えているようだ。
なんとなくおかしく感じられる…
まさかおっさんは何か知っているのかな。
「兄さん、あの霊、消えた…」
僕の袖を引っ張られている。
「ほら、そうでしょう」
「そう言われても、僕は見えないんだな…」
霊力のない僕は霊が見えない。それは当然だ。
でも、こんな短時間で霊が消えたなんて、やっぱり誰かに操られていただろうか。おそらく、消えたことじゃなく、呼び戻された。
念のために、一旦家に帰ろうか。
僕はともかく、レンカちゃんには今日大変だったかもしれない。
いくら霊力持ちとはいえ、一人の女の子には。
レンカちゃんの身分がまだ分からないが、この子を放っておいてはいけない。
もともと、この子を警察に任せるつもりなんだが、もしこの子も霊能者だったら、そう簡単に警察に任せるわけにはいかない。
なぜなら、若くて霊力の強い人は、狙われる可能性が高い。
だって、若い霊能者は、そう上手に霊能術を使えないから。
それに加えて、その霊力が強ければ、うまく霊力を操ることが難しいので、より一層術を使いにくい。
不気味な話なんだが、そういう人は利用できる価値が高い。
…
ちょうどその時、レンカちゃんを連れて帰ろうとする僕は、悪意のある視線を感じた…