10話 霊の糸
前の車両しか残らない列車は、獣の霊に引かれて、より速く進んでいく。
連結部の大きな穴から後ろへ見たら、分離された後ろの車両はだんだん遠ざかっていく。
僕は支配しなくても、紙人形はある程度の本能で戦えるのだろう。
列車はどんどん進んでいく。
…いや、違う。
確かこの先は終点のはずだが…
なのに、列車は全然減速していない。
問題が起こったのは動力としての獣の霊か?
僕の目では見破ることはほぼ不可能だと思う。
「レンカちゃん、その二匹の獣の霊を確認してみ」
「え?どうして?」
「いいから、速く!」
「分かったのー。まったく、兄さんひどいの」
レンカちゃんは真面目げに観察しているようだ。
「…それらの霊はちょっと歪んでるみたい」
「歪んでるって、どういうことか」
「…獣の霊にみえないくらい、形は完全に変わったの」
「こりゃまずい!」
「兄さん、どうしたの?」
「どうやら先の爆発で獣の霊に衝撃を与えて、獣の霊が不安定な状態になっちゃった。そのせいで、列車は止まらなくなるかも」
「え?でも爆発はこんなに遠いのに… しかも、私たちは平気なのに?」
「これはありえないわけじゃない。その二匹の獣の霊は合成ってやつだから」
「…ごう、せい?」
「そう、合成なので霊体は不安定。先の技は霊能術とも言えるから、その二匹の霊体に強くダメージを与えただろう」
「じゃ、列車から飛び出そう。兄さん」
「無理だろ」
列車を止める方法は、その二匹の獣の霊を止めるしかないのか?
だが、僕の力だけでは…
…
ガタンゴトン…
ガタンゴトン…
…
急にレンカちゃんが僕の手を握った。
「レンカちゃん!何を?」
「今度、私が兄さんを助けてあげるよ」
その時、僕の右手の甲に刻んである逆五芒星の刻印が光ってきた。
これは一体…
僕の右手へは少し霊力を注入されてきた。
「レンカちゃん、なぜ霊力を?」
「わからない。ただ少しだけでいい。兄さんの役に立てれば…」
「ありがとう、レンカちゃん。助かったよ」
「えへへ、良かったね」
今、レンカちゃんのおかげで、僕の右手には僅かな霊力が存在するようになった。
だが、これだけの霊力では、その二匹の獣の霊を止めるには、やはりまだ足りない。
何か他の方法があるのか。
…
霊の糸…
そうだ。獣の霊と列車に繋がっている霊の糸を切ればいい。
列車の先端部分に着いた僕は、その列車先端の扉を開いた瞬間、強い風に吹かれながら、右手のわずかな霊力で霊の糸へ攻めていく。
あっという間に、その二つの霊の糸は切られた。
すると、列車は獣の霊と分離されて、スピードがだんだん遅くなった。
そして、前へ進み続ける獣の霊は、姿が視界から消えていってしまった。




