9話 僕の命なんて
紙人形は列車の床に立ちつつ、僕の目の前に僕とそっくりの姿に変わった。
顔も、格好も、何もかも全て。
僕の指示に従い、紙人形は戦いの準備を整えた。
そして、僕は紙人形の後ろに立っている。
奴らを阻止するために。
「へえ。そんな技もあるか」
僕の後ろからそういう話が聞こえてきた。
もともと僕の向かい側の席に座っていた男は、立ち上がってきた。
「だったら、この場は任せてやるぜ」
そういう話を残して、真っ黒な格好をしている男は列車の窓を破って、飛び出した。
やっぱりこの男は…
霊能者なのか。でないと、運行中の列車から飛び出したら、その場で死ぬ可能性が高い。
それとも、単純に身体能力が強いということか。
「てめぇ、ただの手品なんて、俺様は怖くねぇ。野郎ども、とっととこの二人を捕まえろ!」
「おお!」
そう言っても、誰一人でも近付いてこない。
紙人形が奴らへ接近すればするほど、奴らはゆっくりと後ろの車両へ下がっていく。
ようやく、奴らは全員後ろの車両に追い詰められた。
これ以上奴らと遊ぶひまがない。
今はこうするしかないか。
「レンカちゃん、僕の後ろに下がって」
「了解~」
僕は後ろの車両へ向かって、車両の連結部の前に足を止めた。
「くそ!やっちまうぜ」
強盗の頭目が刀を挙げて、紙人形へ斬ってくる。
しかし、その刀は紙人形の素手で食い止められた。
「何だ、と。ありえない!」
あいつの叫び声にかかわらず、僕は再びナイフで自分の中指に刺した。
そう、先刺されたところ。まだ傷痕が残っているが。
「痛いっ」
流石に二回目か。先よりずっと痛く感じる。
先のように、もう一枚の紙人形に血で呪文を描く。
これは僕が持っている最後の紙人形だが。
「どうしたの?兄さん。もしかして自虐趣味とか…」
「ちげぇよ。ちゃんと見てみな」
呪文を描いた紙人形を車両の連結部に置いたまま、僕は強く念じた。
「人形よ。爆発せよ!」
同時に、僕はレンカちゃんを守ろうとして、急いでこの子を抱きしめている。
ドッカーン!
僕の背中の後ろ、連結部で爆発が起こった。
…
「こ、怖いっ」
「もう大丈夫だ」
「あっ、兄さん。見て」
振り返ると、連結部は破壊された。
いえ、連結部はまるごと大きな穴が開けられた、というほうが適切だろう。
強すぎたなのか。
そのおかげで、僕たちのいる前の車両は後ろの車両と分離した。
これで一安心だ。
「兄さん、その紙人形は勝てるなの?」
「さぁ、少なくとも負けないんだろう」
「でも、紙人形は使い切ったよ。どうするの?」
「大丈夫、明日は明日の風が吹くさ」
…
もともとこのような紙人形の使い方は、紙人形に霊力を注入すること。
しかし、僕は霊力がない。レンカちゃんは霊力が使えない。
代わりに、中指の血で紙人形に呪文を描くのも可能だが、これで施術者の命にダメージを与えることになった。
そもそも僕の命なんて、大したものではないから…




