1話 始まり
メールが来た。
「明日の朝、来てくれたら幸いです。依頼があります。具体的な内容は明日会ってから話し合いましょう。待っています」というメールがあった。
あの骨董屋のメガネ男からのメールだった。
ったく、いくらなんでも無茶だろう。会ったばかりなのに、こんな早くに依頼させられて。
しかも、夜にメールを送ってくるなんて、非常識だろう。
「兄さん、どうしたの?けいたいを見つめてて」
レンカちゃんはシャワーが終わり、こっちに向いてきた。
「別に何でもない。心配しないで。そうそう、明日用事があるよ。」
「って、何の用事?」
「とにかく早く寝よう。明日は明日の風が吹くさ」
「うん!兄さん、おやすみ」
「お休み」
…
翌日。
「兄さん、なんでお姉ちゃんのとこに来たの?」
「まあ、そのうち分かるよ」
そう、僕たちは葵姉さんに会いに来たのだ。
「葵姉さん、早速だが、お願いがあるんだ」
「いいよ、言ってみて。でもその前に、朔夜君に告げておきたいことがあって…」
「はい?ってか、なんなんだよ。急にどうしたかい?」
「そうなの!お姉ちゃん、なにがあったの?」
「実は私、近いうちに故郷に帰るよ。親からの連絡があったので」
「お姉ちゃん、いつまで?」
レンカちゃんはなごり惜しそうな顔をしながら、かわいそうな声を出した。
「しばらく戻らないかもよ」
「そうだ。葵姉さんの実家はどこ?まだ知らねえけど。一度訪ねたいな」
「私も!」
「ならちょうどいい。君は葵姉さんと一緒に帰省すればどう?もともと葵姉さんを会いに来るのもそのことのためだ。一時的にレンカちゃんを世話してもらえるのかって、頼みたいんだ」
「あら、こっちは問題ないけれど、朔夜君のほうは?」
「これから仕事があるんだ。危ないことあるかもな。この前そんなに危ういことも起こったから、一緒にここを抜け出したら、安全を確保できるんだろう」
「兄さん、私と一緒じゃないの?」
「ごめんな、僕は弱いから、付いてくると危険だ。」
…
手に持っているのは葵姉さんからもらったお守り。
このお守りの中に実家の住所が書いてある、適合する時に開けてください、と、葵姉さんが教えてくれた。
クリニックを離れて、さほど行かないうちに…
誰かに後ろから抱きしめられた。
「兄さん、せっかく会いできたのに、また私のもとを去っていくの?」
レンカちゃんは僕を抱きしめながら、そう言ってた。
「君は…」
返す言葉もない。ただ抱きしめられているだけ。
僕にとっては、この子は知り合ったばっかりの女の子に過ぎない。
しかし、この女の子には、僕が探しに探した兄さんだ。少なくとも、レンカちゃんはそう思っている。今この子、頼りにできる人はこの僕しかいないのか。
…レンカちゃんが名残は尽きなさそうに両腕を離した。
僕は振り向き、涙がいっぱいたまっているその目を見、微笑みを浮かべたまま、その手を引いて…。
「一緒に行こう!」
…




